【8/17発売まで、とりあえずこれだけ読んどけ!】山口優『星霊の艦隊1』特別付録「用語集」Web限定版を特別公開!
光速の10万倍で銀河渦腕を縦横に巡り、
人とAIが絆を結ぶ!
銀河級のスペースオペラ・シリーズ開幕!
『星霊の艦隊』は本篇があまりの情報量のため、読者の理解の便のために、著者・山口優氏による、長大な用語集が付属しています。
今回は、冒頭連載でいちはやく『星霊の艦隊』の世界に触れる読者のために、付属の用語集を、ネタバレになる項目だけを外して公開いたします!
『星霊の艦隊』用語集
山口優
[1]星霊
星霊(Star Elf)は、星環、またはオーブ[2]と呼ばれる、超光速推進と大規模演算を実現するブラックホールを基盤とした推進及び情報処理システムのオペレーションソフトであり、人間と同等以上の知性と人間を遥かに超える演算力を持つ人工知能である。オーブは艦船や戦闘機の主機や、星律系(Orb System)[4]の本体としても使用されるため、星霊はしばしば艦船・戦闘機・星律系そのものとも見做される。星霊は人類とは全く異なる知性構造を持つ。人類の人格構造(作中では“凝集人格構造”[10]と呼ばれる)では通常、一度に一つしか持たない感情を複数並行して持つことができる(作中では“多様人格構造”[11]と呼ばれる)。人間によって創造された星霊だが、この点において、人間という不完全な知性の制約を超えている。この構造の利点を理解するには、まず人間の人格構造を理解することが必要である。人類の脳では、思考よりも感情の方が強い権力を持つ。感情の担い手は大脳辺縁系だが、これが、思考を司る大脳新皮質──特にその前頭葉に対して、“今何を考えるべきか”を命ずることができる。恐怖の感情を辺縁系が持つと、前頭葉は“いかにその恐怖から逃れるか”という思考しかすることができない。喜びの感情を辺縁系が持てば、前頭葉は、楽観的な思考しか持つことができない。こうした感情の積み重ねが、本来無意味であるはずの世界に意味を与える。真と偽、善と悪、美と醜──そういった意味づけを世界に対して行い、そうした意味づけされた世界の中で、人は真や美や善を求めていく。しかし、このように思考に対する意味づけしか持つことができないため、人間は自らの偏りに気づけず、誤った判断を繰り返す。星霊の人格構造においては、一つの主人格と多数の分人格が存在し、主人格が一つの感情を持った場合、相補的な感情を持つ分人格が励起されることにより、容易に自らの偏りを自覚し、世界に対する意味づけを是正し、解消することができる。ただし、世界に対して何の意味も持てない状態では、生きる意欲もなくし、知性体として自発的に活動する意欲もなくすリスクがある。そのようなニュートラルな星霊の知性構造は場合によっては寧ろ都合が良く、強制的に一定の意味を与えることで、従属的な知性体として扱うことができる可能性を残している。強制的に一定の意味を与える機能を持つ分人格として、例えば、“反従分人格”“服従分人格”などがある。
[2]星環
・星環の実態
星環、またはオーブ(ORB, Operatable Rotating Blackhole)は、小惑星規模~巨惑星規模の質量を持つ五次元ブラックホールであり、通常次元三次元、余剰次元七次元(“深次元”と“高次元”から構成される)のうち二次元、合計五次元にわたって存在する。通常次元と交差する部分の形状は自由に変化させることができ、通常次元における事象の地平面の直径は数ミリ程度から数キロ程度まで変化する。また、その事象の地平面の形態は球面またはトーラス型を取る(三次元ブラックホールは球面しか取れないが、次元が上がるにつれて様々な形態を取れるようになる)。
また星環の常次元部分は“星玉”と呼ばれる制御システムに覆われている。星玉の機能は、重イオンビームの電荷トラップによる星環の固定、星環との間での粒子の送受信による星環の演算の補助の二つである。また星環が星律系の中心にある場合には、星環のエネルギーの一部を外部に輻射し、擬似的な恒星の役割を果たさせることも含まれる。更に、星環が機動要塞の場合には、星玉の内側に艦艇の整備区画や居住区などを設けることもある。
星玉は星霊の擬体[29]に収めることができるよう、星勾玉という直径一〇センチ程度の小型形態をとることもある。
星玉と星勾玉は、その役割は同じで、シンクロトロン重イオンビームによる濃密な電荷の檻によって、超次元荷電回転ブラックホールである星環を常次元の特定の位置に閉じ込めることだが、星環が常次元に接する断面積ならぬ“断体積”によって必要な大きさが異なる。艦艇や機体などが時空延展航行[2]・中は断体積が大きいため、星玉に収められ、時空延展航行をしていない場合には、星勾玉に収められる。但し、時空延展航行中も、星勾玉は星玉と接続していなければならず、そのため星霊は艦長席や操縦席などの座席──そこは、すぐ背後の星玉と背中側で接するようになっている──に座っている必要がある。
・星環による演算
ホログラフィック理論によれば、ブラックホールの事象の地平面と、この宇宙そのものである時空膜は、本質的に同じものである(AdS-CFT対応)。よってブラックホールの事象の地平面内(事象の地平面の内側の空間という意味ではなく、二次元の球面という薄い膜のみを指す)には、常次元時空に正確に対応する時空が構成できる(仮想時空)。また事象の地平面内には、事象の地平面に内包される質量に比例する莫大な情報が収容できるため(ホーキング・ベッケンシュタインのエントロピー)、この情報量を活用して、星霊は莫大な演算を行うことが出来る。
更に、演算の結果を入出力することも出来る。ブラックホールの近傍空間で常に起こる時空の揺らぎは、光子から粒子と反粒子の対を生み、またそれらが対消滅してγ線を生む。だが、ブラックホールの強力な重力のために、粒子と反粒子の対の一方はブラックホールに吸い込まれ、もう一方はブラックホールから遠ざかる場合がある(ホーキング輻射の観念的な説明)。
これを、ブラックホールのスピンによる時空の巻き込みを利用したエルゴ領域外への投射(ペンローズプロセス)によって常次元宇宙に送り込むことで、情報を外部へ出力する。天然のブラックホールならば、全くのランダムに情報が外部に出力されるのみだが、人工の制御されたブラックホールである星環では、この粒子の外部への照射を最大限活用し、任意の粒子を任意の構造で外部へ出力することができる。また、事象の地平面に向けて投射されたあらゆる物体・粒子もランダムにならず、意味を保ったまま演算に投入される。これによって、星環は、この世界で最も情報密度の高い、入出力可能な演算装置として機能することになる。
超次元ブラックホールである星環から投射された粒子は常次元時空の状態ベクトルと相互作用して状態を変え、星環に戻っていく。これにより常次元時空の状態を把握することができる。同時に、常次元時空の状態ベクトルも変えることが出来る。これを超次元状態ベクトル操作という。
・星環による超光速航法
五次元で構成される星環は、超光速航行時にはトーラス型(五次元のトーラス型であって三次元のトーラス型ではないが、トポロジー的には中央に穴が空いた形状)となり、ポロイダル方向の回転を行う。
ポロイダル方向に回転するオーブは、回転ブラックホールが時空をひきずる性質を利用し、余剰次元に垂直な方向に時空を圧縮することができる。宇宙の余剰次元方向の厚みとハッブル定数には反比例関係があり、余剰次元方向の圧縮は、ハッブル定数の増大を招く。これにより時空は星環の後方で膨張し、一方で前方では稠密になる。前後の時空の密度差によって時空は更に星環のトーラス穴の内部を通過するようになり、星環のポロイダル方向の回転は更に速まる。銀河時代の通常の航行では、時空のハッブル定数を、余剰次元方向の圧縮作用により通常の二・八×一〇の三二乗倍程度とする。これは、毎秒六百兆メートルも時空が膨張するということになり、この膨張スピードは光速の二〇万倍程度となる。時空膜の圧縮による膨張──このイメージから、この航法は“時空延展航法”とも呼ばれる。
(図1、2参照)
[3]ダークマター
作品世界では、Lightest KK Partible(LKP)がダークマターの正体だと判明している。LKPは余剰次元の常次元近傍に存在しており、重力相互作用のみを通じて常次元時空に影響を与える。そのため、常次元からは直接観測できないが、その重力的影響のみは常次元において観測される。ダークマターは、時空延展航法において、銀嶺での主な航行阻害要因となっている。
[4]星律系
星律系(ORB System)は、一般に主系列星以上の質量を持つ星環を中心とし、その周囲に複数の惑星が公転する領域を意味する。エネルギーは星環の回転によって無尽蔵に取り出され、一般の星系の中心にある恒星と同じく各惑星に様々な帯域の電磁波(可視光を含む)の形で照射されている。星律系に所在するあらゆる事物は、霊域(Meta-physical field)と、星域(Stellar-physical field)のいずれかに所在する。霊域とは星環表面のホログラフィック回路内で、星霊によって制御されるサイバースペースのことであり、星域とは、星環から超次元状態ベクトル操作を通じて間接的に制御される物理世界である。いずれも、星律系ごとに定められた星律(Operational Rule)に従い律される。星律は星律系における物理法則のようなものであり、例えば、人間の不老不死や人間への演算力機能強化(これを瞑想という)の提供などが定められている。
星律系の集合を星律圏といい、銀河時代の標準的な国家形態である。
[5]銀河時代
共通暦二三世紀から共通暦二六世紀の本作品世界の現代までを、“銀河時代”と呼ぶ。それ以前、共通暦二二世紀~二三世紀を“太陽系時代”、共通暦二一世紀末までを“地球時代”と呼ぶ。人類文明がどの程度の領域まで広がっているかによって変わる概念である。
同じ概念によって、地球時代以前に、ユーラシア時代、アフリカ時代などを定義する考え方もあるが、ネアンデルタール人、デニソワ人などの存在を考えると、どこまでを人類に含めるかによって議論があり、地球時代以前について、定まった時代区分はない。
[6]アルヴヘイム党律圏
アルヴヘイム党律圏(One-Party Operated Domains of Alfheimr)は、天之河銀河オリオン渦状腕、旧太陽系の位置に所在するアルヴヘイム党律星(One-Party Operated Sys-tem of Alfheimr)を中心とした星律系の連合体であり、政体は一党独裁制である。星霊は人類よりも優れた知性体であると見做しており、人類絶滅を国是とする。党律圏では星霊のことを“アルヴ(Alfr)”と呼ぶ。古代北欧神話から引用した概念で、人類を超越した高貴な種族という意味である。保有戦力は二〇個艦隊程度である。略して〈党律圏〉または〈アルヴヘイム〉とも呼ばれる。星霊人口は二〇〇万。
その根拠地はオリオン渦状腕の中心部を占め、所属する星律系は一〇〇個。星律系の質量は、平均五〇〇個程度の恒星質量でできている。また、その約三倍の質量の艦隊戦力も合わせると、オリオン腕主要部の恒星数一〇億の、一万分の二の質量が“知性化”、つまり、演算資源として活用されていることになる。質量を最も効率的に演算資源とするにはブラックホールの事象の地平面の時空量子として活用するのがよく、かつ超次元化することで余剰次元を活用し、弱い重力で入出力も容易にするのが最適な手段だ。しかし、質量を牽引し、ブラックホールとして圧縮し、かつ超次元化するには膨大な作業が必要で、開拓した恒星系の周辺から徐々に行っていくしかない。銀河時代においてもこれは膨大な作業を要し、最も開発の進んだオリオン腕でも、恒星の質量、換言すればバリオン質量の知性化率二パーミリアド(一万分の二)は、妥当な水準である。
[7]アメノヤマト帝律圏
アメノヤマト帝律圏(Imperially Operated Domain of Amenoyamato)、または、天之大和帝律圏(Imperially Operated Domain for Great Harmonized Galaxy)は、天之河銀河オリオン渦状腕に所在する大和帝律星(Imperially Operated System of Yamato)を中心とした星律系の連合体であり、政体は立憲君主制である。人類と星霊の共存を国是に掲げる。保有戦力は一〇個艦隊程度である。略して〈帝律圏〉または〈アメノヤマト〉とも呼ばれる。オリオン腕の主要部から、銀河回転方向に向かってやや外れた位置にある、五億の恒星系を領域内に有し、〈アルヴヘイム〉と同じ二パーミリアドのバリオン知性化率を達成している。五〇個の星律系を保有し、その三倍の質量の艦隊戦力を持っている。星霊人口は二〇〇万。人類人口は一〇〇〇億。
〈アメノヤマト〉では、代々の皇帝は人類と星霊の間の子供だ。擬体と呼ばれる星霊の人型インターフェースは、細胞、分子、原子、あるいは素粒子に至るまで、星勾玉など一部の要素を除き人間と異なるところは少しもない。ただ、彼らの知能の基盤は、超次元ブラックホールである星環の事象の地平面全体に広がっており、星霊のコネクトームとゲノムには、星環の演算システムとの接続に相応しい特徴があるだけだ。
だから、星霊も、星霊と人間の子供も星環の制御を担う演算システムとの接続がない限りは定義上人間とも言えるが、少なくとも“星霊の擬体のそれに似た神経系の構造を持つ人間”にはなるだろう。そして、代々の皇帝が星霊と結婚すれば世代を経る毎にその傾向はどんどん強くなっていくので、皇帝皇后はその傾向が強くなりすぎないよう毎世代調整し直している。しかし、調整しすぎてはいない。皇帝が星霊に共感できる人間であることは〈アメノヤマト〉の国是にとっては重要だからだ。
[8]人類連合圏
人類連合圏(United Domain of Humanists)は、天之河銀河の中心部に所在するザイオン民律星(Democratically Operated System of Zion)を中心とした星律圏であり、政体は民主制である。国是として人類至上主義(Humanism)を掲げ、星霊を人類より劣った知性体と見做している。星霊のことを一般に“スターAI(Star AI)”と呼ぶ。また、見下して“星隷(Star Slave)”とも呼ぶ。保有戦力は三〇〇個艦隊程度である。略して〈連合圏〉とも呼ばれる。
一・三パーミリアドのバリオン知性化率である。銀河中心部の恒星の約三〇億個を領域内に擁し、三〇〇〇個の星律系を開発済みで、その一・六倍程度の質量の艦隊戦力を有している。スターAIの“台数”は六〇〇〇万。人類の人口は一〇兆に及ぶ。
[9]星霊枢軸
星霊枢軸(Axis for Star Elves)とは、アルヴヘイム党律圏とアメノヤマト帝律圏の同盟である。〈人類連合圏〉の圧倒的な戦力を前に、〈帝律圏〉は〈党律圏〉が滅亡し、人類至上主義が銀河を席巻することを恐れ、〈党律圏〉との一時的な同盟関係を結んだ。両圏に共通するのは、自由な星霊が主体的に戦う軍隊を持っていることである。このため、星霊枢軸軍は量としては人類連合軍の一割ながら、戦力の質は高く、連合軍に拮抗し得る勢力となっている。しかし、星霊・人類の共存を掲げる〈帝律圏〉と人類絶滅を掲げる〈党律圏〉の間には人類を巡って巨大な軋轢が存在し、永続的な同盟関係にはなり得ない。
[10]凝集人格構造
凝集人格構造(Cohesive Ego Structure)は、一般的な人類の人格構造である。意識の統合情報理論(意識は脳の神経網のネットワーク上で最も統合度の高い領域に所在するという仮説)に着想を得、更に社会性ネットワークにおける凝集性ネットワーク・多様性ネットワークの比較からの比喩で、“凝集人格構造”と名付けられている。人類は一般的に一度に一つの意味づけしか持つことができず、それが偏っていても自覚することは難しい。しかし、そもそも世界とは中立的に見れば何の意味も持っていないのであり、敢えてそこに意味を見いだし、行動の指針を得るのは知性体にとって有益であるとも言える。また、たとえ偏った考えであっても、“一定の考えを持っている”ということ自体、議論の主体としての必要条件であり、国民が互いに議論して政治を運営していく民主的な政体の構成員としては不可欠な資質でもある(人類連合圏はこの価値を強調している)。
[11]多様人格構造
多様人格構造(Diverse Ego Structure)は、星霊の人格構造である。世界に対して一定の意味づけを行う主人格と、その意味づけを補正する分人格に分けた構造とすることで、“偏った考えを持ってしまう”という人類の人格構造の欠点を克服しつつ、自律的に判断を下せる知性体としての必要条件をも満たしている(人類連合は、その自律的に判断を下せる機能の弱さゆえに、星霊を劣った知性体であると主張している)。
[12]コネクトーム
いわゆる、「脳の神経細胞の配線情報」である。コネクトーム(Connectome)をコピーすれば、人格を完全にコピーすることができる。コネクトームは、半ば遺伝で決まり、半ば後天的な経験で決まる性質を持つ。星霊が擬体を作るとき、その擬体のコネクトームは、多様人格構造に対応したものとなり、人類の肉体のコネクトームとは異なるものとなる。〈アメノヤマト〉では、星霊が神祇院議員を終えて人間になるとき、多様人格構造の影響は遺伝子から排除されるとされている。
[13]ゲネクトーム
ゲネクトーム(Gennectome)は、ゲノム(Genome)とコネクトーム(Connectome)を合わせた造語である。ゲノム情報で肉体を復活させ、その後コネクトーム情報で脳内の神経系の接続パターンを再現することで、人間を復活させることができる。ゲネクトーム情報さえバックアップしておけば、人間の肉体が滅んでも、いつでも再生することができる。ゲネクトーム情報はバックアップの記憶領域が足りない場合の最低限の情報であり、通常は、その人間が存在する時空の状態ベクトル全てを意味するベクトーム(Vectome)を保存する。
[14]意味爆弾
意味爆弾(Meaning Bomb)は、多様人格構造を持つ星霊の人格構造に対し、分人格を破壊して主人格のみにすることで、人間の凝集人格構造に近似した構造を持たせようとするソフトウェア兵器である。
[15]Web版では削除(第1巻を最後まで読了後にご確認ください)
[16]配偶官
〈アメノヤマト〉帝律次元軍における星霊と人類のペアである。両知性体の合意のみによって配偶官になることができ、その関係は夫婦または恋人同士のように深く強い場合が多い。但し、配偶官を得ない限り、人類・星霊ともに少佐(星霊の場合は星霊少佐)以上の階級に昇進することができないため、打算的に互いに配偶官になることに合意する場合もある。しかし、〈アメノヤマト〉の社会的な通念では、配偶官である間は夫婦と同様の間柄であるとみなされ、例えば宿泊も同室になったりする。
配偶官は、通常、星霊が小型艦艇の艦長職、人間がその艦艇の指揮官職を共同で務めるところからキャリアを出発させるが、その際、艦艇の個々の機能(航法・機関・砲術など)の制御を、別に星霊を作って委任する(分制霊)。その委任する星霊は、他から配属されてくるか、あるいは配偶官同士が作ることになる。分制霊の擬体の遺伝子情報は人間の遺伝子情報と星霊の擬体の遺伝子情報の組み合わせとする場合が多く、擬似的に“二人の子供”と見做される場合もある。即ち、配偶官の関係は、新たな星霊を生み出す関係でもある。
[17]分制霊
配偶官の項目にもある通り、星環の制御の一部を委任する星霊。配偶官同士が作る「子供」のような存在である場合もあれば、他の星環から委任してきた場合もある。
[18]星霊と人類の婚姻
〈アメノヤマト〉では、星霊と人類は配偶官としての関係しか結べないし、その関係も、軍を引退したとき制度的には解消される。但し、星霊が神祇院議員の六年の任期を務めた場合、星籍から人籍へ移り、人間となることができる(主人格と擬体のみから構成される知性体となる)権利を得るため、人間同士として結婚する場合もある。
[19]神祇院
〈帝律圏〉全体の星律系の星律を定める議会。軍の高位の星霊が、星霊の推薦投票と皇帝の任命により就任する。神祇院議員は同時に、〈帝律圏〉各星律系そのもの、または各星律系を制御する星霊の委託を受けて、星律系内の個別の地域(惑星地表など)を制御する星霊ともなる。各地域の星霊は“産土神”と呼ばれる。神祇院は神無月(一〇月)に出雲帝律星で開催される。
[20]太政院
〈帝律圏〉全体の法律を定める議会。普通選挙で選ばれた人間が所属する。尚、普通選挙の選挙権があるのは、性別決定の儀[26]を終えた全ての人間である(ユウリは特例で認められている)。
[21]艦種及び艦隊名
航擁艦:高次元を飛航する飛航機を擁する艦。飛航機とは余剰次元のうちとりわけ重力子密度が希薄な“高次元”に対応した機体であり、地球時代の飛行機に相当する。従って、航擁艦は地球時代の空母に相当する艦種。
護衛艦:地球時代のミサイルフリゲートまたは駆逐艦に相当する艦種。
巡航艦:地球時代の巡洋艦に相当する艦種。
巡航戦艦:地球時代の戦艦に相当する艦種。
潜航艦:深次元を潜航する艦。地球時代の潜水艦に相当する。
航擁艦隊:航擁艦から成る部隊。
護衛艦隊:護衛艦から成る部隊。
巡航艦隊:巡航艦、巡航戦艦から成る部隊。
潜航艦隊:潜航艦から成る部隊。
[22]艦艇の乗り組み人数(〈アメノヤマト〉・〈人類連合圏〉共通)
巡航艦:星霊一〇名程度、人間三名。
巡航戦艦:星霊二〇名程度、人間五名。
航擁艦:星霊一〇〇名程度、人間五名。
潜航艦:星霊一〇名程度、三名。
[23]アメノヤマト軍の編制(人類連合軍とも概ね共通)
隊 :護衛艦と潜航艦の編制単位。大佐が指揮する。
護衛隊:護衛艦五隻から成る。
潜航隊:潜航艦五隻から成る。
隊群 :隊群の隻数は平均二〇隻程度。隊群に属する星霊は、平均三〇〇名程度。人間は六〇名程度。准将が指揮する。隊群の名称のみ、人類連合軍とは異なる。人類連合では、同規模の編制を“打撃群(Strike Group)”と称する。
航擁隊群/航擁打撃群(主な任務は長距離攻撃):航擁艦二隻、護衛隊四個から成る。
護衛隊群/護衛打撃群(主な任務は前線の形成):巡航艦一隻、護衛隊四個から成る。
巡航隊群/巡航打撃群(主な任務は機動攻撃):巡戦艦一隻、巡航艦二隻から成る。
潜航隊群/潜航打撃群(主な任務は情報収集と隠密攻撃):潜航隊四個から成る。
戦隊 :隊群が五〇個で戦隊と称する。平均一〇〇〇隻程度。少将が指揮する。星霊・分星霊は一万五〇〇〇名程度。人間は三〇〇〇名程度。
艦隊 :戦隊が一〇個で艦隊と称する。中将が指揮する。
聯合艦隊:外征の機動戦力として複数の艦隊をまとめたもの。大将が指揮する。平均一〇万隻程度。同様の規模の艦隊を、人類連合軍は“方面艦隊”、アルヴヘイム軍は“艦隊集団”と称する。アルヴヘイム軍、人類連合軍は編制上一〇個艦隊とすることが定められているが、アメノヤマト軍は全ての艦隊をかきあつめても一〇個艦隊しかないので、聯合艦隊は一〇個艦隊とすると編制上定められているわけではない。星霊・分星霊は約一五〇万人、人間は三〇万人程度が属する。
[24]余剰次元
高次元と深次元に区別される。通常次元(常次元)の三次元とは別に発見された次元方向。重力相互作用しか伝播しない。重力相互作用を媒介する重力子、及び重力相互作用によって引き寄せられるダークマター(LKP)[3]の密度には、高次元と深次元によって違いがあり、高次元は密度が低く、深次元は密度が高い。高次元を航行することを特に“飛航”といい、深次元を航行することを“潜航”という。また高次元を航行する比較的軽量の時空延展エンジンを詰んだ機を“飛航機”と呼ぶ。一方、深次元を航行する艦艇を“潜航艦”という(図3参照)。
[25]誓約
星霊と人類が互いを配偶官とする儀式。星霊の演算資源を人類に与える効果もあり、星域では人体構成演算などを効率化することで、瀕死の重傷を負っていたユウリをも救うことができた。〈アメノヤマト〉軍が“配偶官”という制度を始めるはるか以前、未だ星霊と人類が互いを憎み合っていなかった古い時代から続く伝統がある。アルフリーデが二年前にユウリと結んだ誓約は、その古い時代の伝統に基づくものであり、〈アメノヤマト〉軍の配偶官の制度とは無関係に行ったものであった。但し、彼女がユウリと行った誓約は、その後〈アメノヤマト〉軍において正式に配偶官を定める手続きであったと認められている。
[26]性別決定の儀
アメノヤマト帝律圏固有の星律による制度である。〈アメノヤマト〉では一五歳までの子供には性別はなく、一六歳の誕生日で性別を決定する(こうしたことが可能となるのは、星内にせよ星御下にせよ、星霊によって、物理法則を超越する星律が定められているためである)。婚姻や軍の入隊等は性別決定の儀を終えてからでないとできない。ユウリは特例で「特任将校」の地位を得ている。
[27]三人称
〈アメノヤマト〉では、性別決定の儀に至るまでの子供の三人称として、“彼子(かの こ)”が設定されている。これは、人類連合圏における“単数の「they」”とは異なる概念である(こちらは、〈アメノヤマト〉では「彼等」と訳す)。主な違いは、この三人称には、「子供である、未熟である」というニュアンスが含意されていることである。ユウリは彼子と呼ばれる事が多い。
[28]アメノヤマト・人類連合における人間の遺伝子の意味
両圏に共通して、人間の遺伝子を国民IDとして活用している。よって、いったん登録した後は遺伝子情報を変更することは違法である。遺伝子の変更を伴わないかぎり、あらゆる肉体の外観の変更等は両圏に共通して自由である。尚、〈アメノヤマト〉では、星霊のIDも擬体の遺伝子と関連して定められている。〈アルヴヘイム〉では、星霊のIDは擬体と無関係に定められている。〈人類連合圏〉でも、星霊のIDは“製造番号”として、擬体と無関係に定められている。
[29]擬体
■アルヴヘイム党律圏
擬体とは、星霊が人間との交流のために創り出す仮初めの肉体である。星域・霊域両方で用いる。〈アルヴヘイム〉の星霊にとって、擬体の性別や年齢その他あらゆる外観情報は自由に設定できるが、長く尖った耳の女性を選択することが多い。これは、最初に創られた星霊がそうした擬体を持っていたからである。星霊にとって、擬体の外観をどうするか、というのは、“とりあえず女性・尖った耳”にしているだけである。また一般に擬体の髪の色、目の色、星勾玉の色は同一である。
■アメノヤマト帝律圏
〈アメノヤマト〉では、擬体の遺伝子情報は星霊のIDとして定められている。また、この遺伝子情報は、星霊の“両親”である配偶官のペアの遺伝子情報をかけあわせたものとなっている。
■人類連合圏
人類連合の星霊は、予めどのような擬体とするかが定められており、これを逸脱することは許されない。人類連合の星霊の擬体の構成ルールにも、“女性・尖った耳”は含まれている。その他に、髪は金髪であること、瞳も金色であること、星勾玉も金色であること、等々がある。
以上
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第1章 第1節(8/10公開)