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日本では、強い女の子は圧倒的に損なのだ。なぜか?――『三つ編み』レビュー(佐々涼子 ノンフィクション・ライター)

(書影はAmazonにリンクしています)

早川書房より好評発売中の『三つ編み』(レティシア・コロンバニ/齋藤可津子訳)。理不尽な人生に立ち向かう3人の女性たちを描き、フランスで100万部突破したベストセラーを、ノンフィクションライターの佐々涼子さんがレビューします。

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日本では、強い女の子は圧倒的に損なのだ。なぜか?

佐々涼子

レビューを書く前に、ごくごく個人的な話をすると、私は最近筋トレにはまっている。不思議なことに自分にパワーが宿るにつれて、背中に羽が生えたかのような自由を感じるようになった。誰かに頼るのではなく、自分を信じること。それが他人の目を気にすることなく、自分の本当の願いに近いところで生きることの快感を教えてくれたのだ。

私は個性的なネイルを施し、髪の色を変え、誰かの好みに合う味付けを一切やめて、自分のために料理を作るようになった。すると、私の魂はみるみるうちにかろやかに健やかになっていったのである。

あっという間に高重量を持ち上げられるようになって、私は自分のさまざまな思い込みにぶち当たった。口にするのも恥ずかしいが、今まで私はモデルなみに痩せて華奢になりたいと思っていたのである。自律神経失調で太り始めた体はみるみる引き締まり、現在15キロ減。健康で風邪ひとつ引かない。もう太ってもいない。それなのにひもじい思いをしてでも、もっと痩せたいと思っている。だが、これ以上痩せると、今まで持ち上げていたものが持ち上がらなくなるという段になって、ふと考えてしまった。

「そもそも華奢がいいっていうのは誰の目線なの?」

出てくる、出てくる。自分を窮屈にしてしまっている思い込み。

「背が高い自分をどうして恥ずかしいと思っていたの?」

「より逞しくなってしまうことに、どうして抵抗があるの?」

ねえ、私の思い込みって変じゃない? 小さな頃からアクセルを踏みながら、ひそかに心でブレーキをかけている自分に、自分自身まったく気づいていなかったのだ。

よくよく考えてみると変な自主規制がたくさんある。

「どうして、いい成績取っちゃダメなの?」

「どうして他人の目や評価ばかり気にしていたの?」

考えてみれば、今の時代、もっと弱くていいとか、もっと自分を甘やかしてもいいとか、そういうメッセージはあふれているけれど、強いなら強いままでオッケーとか、マッチョでも逞しくても大丈夫とか、そんなこと言われたことがあっただろうか。日本では、強い女の子は圧倒的に損なのだ。なぜか? たぶんそれは社会にとっていろいろな意味で脅威だから。


そんな折だ。「きっと、この本気に入りますよ」と勧められたのが『三つ編み』(レティシア・コロンバニ)。読み始めたら止まらない。仕事場にしているドトールで、号泣してしまった。さして期待もしていなかったので不覚にも油断した。嗚咽は漏れるし、鼻水は出るしでもう大変。まるっきり遠くの国に暮らす、出会うことのない三人の女たち。でも、これは私を呪縛から解き放ってくれる自由への物語だった。


この本の主人公は三人の女性。国籍も、置かれた立場も、直面している困難もそれぞれ違う。最初に登場する主人公はインドの不可触選民スミタ。彼女は娘に教育を与えたい一心で決死の逃避行を目論む。次に描かれるのは毛髪加工の作業場で働くイタリア人ジュリア。彼女は異国からやってきた男性に恋をし、保守的な町で、父の倒れたあとの工場の再建を背負う。カナダのサラは、法律事務所のやり手弁護士。この世の成功を手中に収めたかに見えたが、突然のがんの宣告により、自分の積み上げてきたキャリアがもろくも崩れさるのを思い知る。

彼女たちはお互いを知らない。そして、とうとう知らないままで物語は終わる。私の国とも無縁の人たちだ。だが、私は彼女たちが愛しい。女が足を引っ張り合うストーリーは今までさんざん読んできた。しかし、この分断の世の中にあって、彼女たちはそれぞれが、社会の理不尽さの中で、自分の自由を求めて立ちあがり、その行動が目に見えない形で繋がりあう。

心の底から私は願った。私も三つ編みのひとつに加わりたい。世界では、女性のストーリーが書き変わりつつある。アメリカの映画、『キャプテン・マーベル』は、押さえつけられていた女性が自分の力を取り戻すストーリーだし、保守的と言われるお隣の韓国でも、目に見えない女性の息苦しさが、『82年生まれ、キム・ジヨン』につづられベストセラーになっている。

では私たちは? 私たちはどうだろう。黒い髪を同じように束ね、同じリクルートファッションに身を包んだ大学生たちに、賢いね、日本社会に生きていくにはそうじゃなきゃね、だってそうしなくちゃ損だもん、というメッセージを出していないだろうか。そうじゃない。私たちはもっと自由でいい。もっと自分の人生を生きていい。


彼らに『三つ編み』を贈りたい。社会に過剰適応して生きてきたすべての老若男女にこの本を。

そう、これは私たちの物語だ。本当の自分の願いをかなえるための勇気の書だ。

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■評者紹介

佐々涼子

早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。新宿歌舞伎町で取材を重ね、2011年『たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん』(のちに『駆け込み寺の男 ―玄秀盛―』に改題、ハヤカワ文庫)を上梓。2012年『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』で第10回集英社・開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年に刊行された『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(ハヤカワ文庫)は、雑誌『ダ・ヴィンチ』のBOOK OF THE YEAR 2014(エッセイ・ノンフィクションランキング)第1位、紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする「キノベス! 2015」第1位、第49回書店新風賞特別賞など全8冠を獲得してベストセラーとなった。

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◎著者インタビュー
フランスで100万部「女の生き辛さ」わかる小説 『三つ編み』が描いた女性の葛藤と強さ」(東洋経済オンライン2019年6月7日)
「人間が好きならフェミニストなはず」フランスで100万部突破「三つ編み」の著者、日本を思う。」(ハフポスト2019年4月24日)

◎本書の紹介・抜粋記事
黙らなかった女性たちをつなぐ物語(あらすじ紹介)」
怒りと祈りが私たちをつなぐ(冒頭の試し読み)」
フランスで100万部、女性たちにエールを送る小説『三つ編み』(レティシア・コロンバニ、齋藤可津子訳)訳者あとがき
抵抗する者たちの物語――『三つ編み』レビュー(河出真美〔梅田 蔦屋書店 洋書コンシェルジュ〕)

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