新書創刊の舞台裏:本当の意味でのChatGPTの凄さを、あなたはまだ知らない…?『ChatGPTの頭の中』担当編集者が語る
早川書房があらたに立ち上げた新書レーベル「ハヤカワ新書」。早川書房の強みであるSFやミステリ、ノンフィクションなど多彩な視点を生かした、独自の切り口の新書を多数予定しています。
創刊第二弾はいよいよ2023年7月19日(水)発売。どんなテーマの新書が読めるようになる? そもそも新書創刊って何を準備する? ……そんな疑問にお答えすべく、『ChatGPTの頭の中』(著:スティーヴン・ウルフラム、監訳:稲葉通将、訳:高橋 聡)の発売に向けて準備を重ねてきた担当編集者(新書編集部:石川大我)に話を聞きました。迫る発売に向けて、その舞台裏と本の内容を早出しでご紹介します。
ChatGPTの生みの親が絶賛した本を緊急出版へ
編集担当・石川大我(以下同):早川書房はノンフィクションだけでなく様々なジャンルの海外著作を日本語訳して出版してきた蓄積もあって、英語原書の発刊から間もなくして、出版エージェントを通じてこの本の情報を得ました。価格としてもサイズとしても手に取りやすく、かつ時事的なトピックをスピーディーに伝えることができる“新書”というメリットを最大限に活かすことができるのではと思い、この企画を進めてきました。
とはいえ、原文の原稿到着から翻訳、出版までの期間は非常に短く、通常の翻訳作品とはかなり違うペース感でしたね……〔補足:通常の翻訳出版はだいたい半年程のスケジュールで動いているため、いつもの2倍のスピードで進行してきたようなイメージです〕。
ChatGPTやAI(人工知能)について知りたいと考えている人が多くいる一方で、関連本は実に多種多様に発売されていますし、インターネット上には解説記事や動画もたくさんあります。「便利な簡単活用術」といった切り口のものも多いなかで本書がそれと一線を画すのは、この本が「ChatGPTの根本的な仕組み」について明解に説く本であることです。それが、「ChatGPTの頭の中を覗く」というスタンスです。それが一歩踏み込んだ内容であることを、ChatGPTの生みの親であるサム・アルトマン(OpenAI CEO)も絶賛しています。
他のChatGPT本とは「ココ」が違う!
ChatGPTの活用は、私たちの生活やビジネスを間違いなく変えていくでしょう。でも、誰もが簡単に利用できるからといってその仕組みを簡単に理解できるということにはなりません。誰もが驚いたChatGPTの凄さは、あたかも人間が書いたり喋ったりしているかのような、自然な文章が瞬時に自動生成されるという点にあります。でもそれは表面的な問題であって、ただ「人間にとって便利」だから凄いわけじゃないんです。
以前なら「意味のある人間の言語」を作ることができるのは、人間の脳以外にないと思われていたかもしれません。でも今では、ChatGPTでもそれに近いことができると分かってきました。つまり、人間がどのようなルールによって単語を並べて、そのルールを文法として構築しているのか」――ということを思考しているのではなく、単に「人間が書きそうだと予測される単語をひたすら追加し続ける」だけで自然な文章をスラスラと生成できる仕組みこそが「本当の意味でのChatGPTの凄さだ」とウルフラムは指摘しています。
本を開いた方はすぐに分かると思いますが、ChatGPTの仕組み自体は非常にシンプルなものです。このシンプルな仕組みで、人間の言語の法則を捉えられるということは、実は私たちの言語の成り立ちを説明できるシンプルな規則があるのかもしれない――そういった言語学的な分野にまでこの本の言及は広がります。
私はこのポイントが、この本の最も印象的な部分だと思っています。ビジネスにも活用できるというのはChatGPTの一つの側面に過ぎないんじゃないでしょうか。
著者のスティーヴン・ウルフラムは、理論物理学者であると同時に人間の質問に答えを返すソフトウェアやシステムを構築してきた人物で、ChatGPTを作ったアルトマンとはいわば同業のプロフェッショナルでもあります。本の後半部分では、ChatGPTの弱点を指摘しながら、どう活用すればAIをさらに学習(訓練)させ克服することができるかという具体的な提案も語られます。
AI全盛期に、本を読む理由とは?
この本は、シンプルで分かりやすくChatGPTの仕組みを解説したものですが、数学理論による説明部分もあるので、プログラミングを学びたいという読者には大いに参考になるでしょう。さらに、言葉の本質やその背景にある思考とは? といった言語学や哲学の分野に関心がある方にも、あるいは、シンギュラリティをテーマにしたSF作品に興味や造詣が深いという方にとっても、好奇心を大いにそそる内容であると思います。
ハヤカワ文庫から同時期に発売される『考える脳 考えるコンピューター』(ジェフ・ホーキンス)はやはり、大脳新皮質と人工的なニューラルネットワークとの相似性や決定的な相違点についてわかりやすく説いた名著の新訳です。「人間はいつかAIや機械に取って代わられる?」「機械が人間のような知能を持つことは可能?」と疑問に思うことがあれば、ぜひこれらの本を開いていただきたいと思います。きっと大きなヒントを得られるはずです!
7月19日(水)発売の本書は、現在予約受付中です(電子書籍も同時発売予定)。
7月発売のハヤカワ新書は4作品。6月の創刊ラインナップの詳細や最新情報は、note記事で随時更新中です!
記事で紹介した本の概要
『ChatGPTの頭の中』
著者:スティーヴン・ウルフラム
監訳者:稲葉通将
訳者:高橋 聡
出版社:早川書房(ハヤカワ新書)
発売日:2023年7月19日(水)
税込価格:1,012円
著訳者プロフィール
■著者:スティーヴン・ウルフラム(Stephen Wolfram)
1959年、ロンドン生まれ。理論物理学者。1980年にカリフォルニア工科大学で理論物理学の博士号を取得。1987年には数式処理システム「Mathematica」や質問応答システム「Wolfram|Alpha」の開発で知られるソフトウェア開発企業「ウルフラム・リサーチ」を創業し、現在もCEOを務める。また、映画『メッセージ』(2016)では異星人の使用する文字言語の解析や、恒星間航行に関する科学考証を担当している。
■監訳者:稲葉通将(いなば・みちまさ)
電気通信大学人工知能先端研究センター准教授。1986年生まれ。2012年3 月、名古屋大学大学院情報科学研究科社会システム情報学専攻博士後期課程短縮修了。同年4 月より広島市立大学大学院情報科学研究科知能工学専攻助教、2019年4 月より現職。共著に『IT Text 深層学習』、『Python でつくる対話システム』、『人狼知能』。
■訳者:高橋 聡(たかはし・あきら)
翻訳者。1961年生まれ。翻訳会社勤務を経て、2007年からフリーランス。日本翻訳連盟副会長。著書に『1 秒でも長く「頭」を使いたい 翻訳者のための超時短パソコンスキル大全』など。訳書にブテリン『イーサリアム』、ウォン『現代暗号技術入門』、ポイボー『機械翻訳』。