もしも酔っぱらいの血を大量に飲んでしまったら…!?『もっとホワット・イフ?』NASA出身コミック作家がイラスト付きでバッサリ解答
NASA出身のウェブコミック作家が、自身のウェブサイト(xkcd)に集まってくるぶっ飛んだ「もしも?」という質問に、マジメな科学と並外れた調査力、そしてたっぷりのユーモアで答えていく人気シリーズが、満を持してカムバック! 最新刊『もっとホワット・イフ?』(ランドール・マンロー、吉田三知世訳、早川書房)から、気になる「Q&A」のいくつかを紹介。連載第4回では、ドラキュラばりに「酔っぱらいの血」を飲んだら何が起こるのか、可愛いキャラクターと一緒に考えます!(▶連載第1回の記事はこちら)
質問.酔っぱらった人の血を飲んで、酔っぱらってしまうことはありますか?
(質問者:フィン・バーン)
答え. 人間には約5リットル、つまりコップ14杯分の血液が流れている。
人間は血液のアルコール濃度が約0.5パーセントを超えると、死ぬ可能性がかなり高い。アルコールの血中濃度が1パーセントを超えながら命を取り留めた人がこれまでに数人存在するが、LD50―― 50パーセントの人が死ぬレベル(日本語では半数致死量または50パーセント致死量と呼ぶ)――は0.40(0.4パーセント)だ。
血中アルコール濃度(BAC)0.40の人がいて、その人の血液コップ14杯分すべてを短時間のうちに飲んだ〔*1〕とすると、あなたは嘔吐するだろう。
あなたが嘔吐するのはアルコールのせいではない。血液を飲んだから吐いただけだ。嘔吐するのを何とか我慢できたなら、あなたは合計20グラムのエタノールを摂取したことになる。ビール500ミリリットルから摂取するエタノールの量と同じだ。
体重にもよるが、それだけの量の血液を飲むと、あなた自身の血中アルコール濃度が約0.05まで上がる恐れがある。これは、アメリカの多くの地区で合法的に車の運転ができる低濃度だが、実際に運転したなら、事故に遭うリスクは2倍になるレベルだ。
あなたのBACが0.05だったなら、他人の血液に含まれていたアルコールのたったの8分の1しか体内には入ってこなかったということになる。あなたがこれだけの血液をすべて飲み干した後に、だれかがあなたを殺して、あなたの血液〔*2〕を飲んだとすると、その人のBACは約0.006になるだろう。このプロセスが約25回繰り返されたなら、最後の人の血液には、エタノールが8分子以下しか残っていないだろう。さらに2、3回このプロセスを繰り返せば、エタノールは完全になくなる可能性が高く〔*3〕、それ以降は普通の血液を飲んでいるだけになる〔*4〕。
アルコールが含まれていようがいまいが、コップ14杯分の血液を飲むのは楽しくはないだろう。これをテーマにした医学研究はあまり多くないが、非常に注意すべき類のインターネット・フォーラムに寄せられている投稿から得られる事例証拠によると、500ミリリットル以上の血を飲もうとする普通の人間はすべて、嘔吐するようだ。このイラストからわかるとおりだ。
血液をしょっちゅう飲んでいると、長年のあいだに体内に鉄分が蓄積し、鉄過剰症を起こす恐れがある。輸血を何度も繰り返した人に現れることがあるこの病気は、瀉血が正しい治療として使われる数少ない疾患の1つだ。
1人の人間の血液を飲んでも、鉄過剰症を起こすことはおそらくないだろう。それだけの血液を飲んであなたが罹るとすれば、それは血液感染による病気だ。血液感染症の大半は、胃のなかでは生き延びられないが、血液を飲むときに、口のなかや喉にできた引っかき傷から血液のなかにたやすく入り込んでしまうウイルスが原因だ。
感染者の血液を飲むことにより自分も感染し得る病気には、B型・C型肝炎、HIV、そしてハンタウイルスやエボラなどのウイルス性出血熱がある。私は医者ではないので、本書で医学的なアドバイスを提供するつもりはない。しかし、ウイルス性出血熱の感染者の血液は飲むべきではないと自信を持って言おう。
とはいえ、血液を飲んだり食べたりするという話はないわけではない。多くの文化においてはタブーだが、牛の血液を固めた「ブラッドソーセージ」は伝統的なイギリス料理だし、それに類似した料理は世界中に存在する。東アフリカの遊牧民、マサイ族は、かつては牛乳を主食としていたが、ときには血液も飲んだ。牛から取った血液を牛乳に混ぜて、一種の究極のプロテイン・シェイクを作ったのだ。
そのような次第で、結論は、誰かの血液を飲んで酔っぱらうのは非常に難しいだろうし、きっと非常に不快だろうし、重病に罹るおそれもある、ということだ。相手がどれだけ酔っぱらっていたかには無関係だ──血液そのもののせいで、あなたの体はひどい目に遭うだろう。血中のアルコールが何か影響を及ぼすずっと前に。
この続きは本書でお楽しみください!
【連載①】恐竜がNYに出現……どれくらいの人数が食べられてしまう?
【連載②】『日本沈没』が起こったら、地球全体にはどんな影響が?
【連載③】世界中の冷蔵庫を開けば、地球温暖化を回避できる?
本書には他にもこんなとんでもない質問も!
|| この記事で紹介した本の概要 ||
『もっとホワット・イフ?』
著者:ランドール・マンロー
訳者:吉田三知世
出版社:早川書房
発売日:2023年2月21日
税込価格:1980円