見出し画像

日本列島が全消滅したら、地球への影響は?『もっとホワット・イフ?』NASA出身コミック作家の解答を紹介

NASA出身のウェブコミック作家が、自身のウェブサイト(xkcd)に集まってくるぶっ飛んだ「もしも?」という質問に、マジメな科学と並外れた調査力、そしてたっぷりのユーモアで答えていく人気シリーズが、満を持してカムバック! 最新刊『もっとホワット・イフ?』(ランドール・マンロー、吉田三知世訳、早川書房)から、早速気になる「Q&A」のいくつか紹介。連載第2回では、有名なSF作品『日本沈没』がもしも本当に起こったら……? というトンデモナイ質問を取り上げます!(▶第1回の記事はこちら

『もっとホワット・イフ?』(早川書房)

質問. 日本のすべての島が消えたら、地球の自然現象(プレート、海、台風、気候など)に影響は出ますか? (質問者:ミユ・ウチダ、日本)

答え.日本列島は火山弧をなしており、その片側には日本海が、もう一方の側には太平洋がある。

ミユがどんな消え方を考えているのか私にはよくわからないが、日本列島全体が瞬間的にどこかに飛んでいって、しばらくおつかいに出ていると仮定しよう。

日本――の海面上に出ている部分――の重さは440兆トンだ。その部分だけが遠くへ瞬間移動したとすると……

……地中の重心と地軸はウルグアイ――地球の反対側――の方向に約45センチ移動するだろう。

引力の変化で、海は少し波立つだろう。新しいジオイド(標高0メートルの点をつないでできた面で地球を覆ってできるでこぼこした面)の形に追随する新しい「海抜(標高)0メートル」の面に海面が落ち着こうとするためだ。

日本の重力がなくなったので、海は地球の反対側へと少し移動するだろう。海水位は、東アジア周辺で約30から60センチ下がり、南米周辺で同じぐらい上昇するだろう〔*1〕。

この約45センチの海水位上昇はウルグアイには非常に劇的な影響を及ぼし、海岸線の多くが海に沈むだろう。もちろん、これは架空のシナリオなどなくても起こり得る。人間が温室効果ガスを放出しているおかげで、今後50年かそこらで、海水位はこの程度上昇すると予想されているのだ。

さて、ここまでは、日本の海水位より上●●●の部分がなくなることだけを考えていた。日本の残りの部分についてはどうだろう? 海面下の部分もなくなるとしたらどうだろう?

日本のこの部分は、海水位より上の部分よりも10倍以上重たい。

日本の水面下の部分を取り除いたとすると、地軸の移動は一層大きくなり――約3から6メートル――海水位の変動も一層大きくなるだろう。

日本の消失は、海流にも大きな影響を及ぼすだろう。日本の西側の海は、数カ所の浅い海峡によって周囲の大海につながっているだけで、その領域の水は比較的孤立している。この日本海には、それ自体の水の循環があり、おかげでさまざまな海水層がよく混ざり合っている。それは、北大西洋などのもっと大きな海で起こっていることのミニチュア版のようなものだ。

日本海の水を囲っていた日本列島が消えてしまったなら、日本海の水は太平洋に思う存分混じることができるだろう。

気候への影響は予測が難しい。日本は、太平洋の西端を北上して日本列島の東側を通る、暖かい海水を運ぶ黒潮によって暖められている。日本列島という障壁がなくなったなら、黒潮はおそらくアジアの海岸に沿って進み、ウラジオストク付近に暖かい海水が及ぶようになり、朝鮮半島とロシアの海岸沿いの台風のリスクが若干上昇する恐れがある。しかし、これらの地域の人々は、台風の急増を心配する必要はないだろう。なぜなら、海水位は下がっているだろうし、ウラジオストクのガラス・ビーチ〔*2〕は海抜が高くなって海から遠ざかっているだろうからだ。

少なくとも、彼らは長期的●●●な台風の増加を心配する必要はなさそうだ。

日本が海底の下へと消えてしまったなら、海には巨大な空洞が残ることになる。この空洞を埋めようと、海はそこに急激に流れ込み、最後の大規模隕石衝突〔*3〕以降最大の津波が生じるだろう。その津波はアジアの東岸を壊滅状態にし、太平洋を横切ったうえに、南北アメリカ大陸の西岸を水浸しにし、アンデス山脈とシエラネバダ山脈に押し寄せるだろう。

その水が海盆に戻った時、太平洋西部には日本の形をした溝ができているので、海水位は以前より下がるだろう。日本がおつかいから帰ってくるとき、以前の場所におさまろうとしたら、同じ大洪水がまた起こってしまう危険がある。
だが、ミユは日本の行先については一切触れていない。

日本は永遠に移動してしまったということかもしれない。

〔*1〕この効果は、地上の巨大な氷床が溶けるときにも起こる。氷床が溶けて生じた水は、海水位を全体的に上昇させるが、巨大氷床の重力が海を引き寄せる効果がなくなるので、氷床付近の海では海水位は実際には低下しうる。地球の反対側では、あなたが予想する以上に上昇するだろう。もしも、あるいはいつの日かグリーンランドの氷床が溶け去ったなら、洪水が最も深刻になるのはオーストラリアとニュージーランドだろう。これについての詳細は、『ハウ・トゥー Q1』第2章「プールパーティを開くには」を参照いただきたい。

〔*2〕ご存じなければ、「ウラジオストクのガラス・ビーチ」でさっと画像検索してみるようお勧めする――後悔しないこと請け合いです。

〔*3〕この規模の津波が最後に起こったのは、3500万年前に北米大陸東岸沖(現チェサピーク湾)に小惑星が衝突したときだ。私が学んだバージニア州のクリストファー・ニューポート大学は、この衝突でできたクレーター(その後埋もれて痕跡となっている)の、ちょうど縁の上に建っている。


次の更新予定は3月8日(水)です

【連載①】恐竜がNYに出現……どれくらいの人数が食べられてしまう?

本書には他にもこんなとんでもない質問も!

|| この記事で紹介した本の概要 ||

『もっとホワット・イフ?』
著者:ランドール・マンロー
訳者:吉田三知世
出版社:早川書房
発売日:2023年2月21日
税込価格:1980円