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デザインの専門用語で説明することが難しい製品──LED薄型歩行者灯器のはなし②(秋田道夫『かたちには理由がある』より)

ソニー独立後、フリーランスとしてさまざまな製品を手がけてきたプロダクトデザイナー・秋田道夫。自身が「代名詞」と語るのが、歩行者用の薄型信号機のデザインです。

銀座4丁目和光前

この「風景に溶け込む」信号機のデザインは、どのように生まれたのか? 新刊『かたちには理由がある』(ハヤカワ新書)より、数回にわけてご紹介します。


デザインの専門用語で説明することが難しい製品──LED薄型歩行者灯器のはなし②

▶連載第1回(「あの人は相当信号機に興味があるようだ」)はこちら

その後、作ってもらえる会社も無事に決まり、わたしは「雪を溶かすサーチライト」をデザインしていました。しかしスケッチを渡して以降音沙汰がなくなって、どうしたのかなと思っていたある日、仕事の依頼主ではなく訪問先の信号電材さんから、一本の電話がかかってきました。

歩行者用信号機のデザインをしてほしいとのことでした。信号機を見て目を輝かせていたわたしを覚えていてくださって、「依頼をするなら信号機に興味を持ってくれている人がよいだろう」ということで、わたしに声をかけてくださったそうです。元々、社内にデザイナーがいる会社でもないですし、そもそも信号機をデザイナーにデザインさせるという発想自体が業界全体にないことで、ほんとうに「特別なこと」でした。

信号機もこれまでの電球式からLEDになって輝度も上がり、薄くできるようになっていたなかで、社内のあるスタッフの方が「デザイナーに依頼してみたらどうか」と提案してくださったようです。面白いのは、「雪を溶かすサーチライト」のスケッチを見た社長さんが、その時点ではわたしが昔ソニーにいたことをご存じなかったのに、「なんだかソニーの製品みたいだな」というふうに感じられたのだそうです。

独立してから多くの期間は、社内デザイナーがいるメーカーや、デザイン性が製品の価値を左右する「デザインの必要性」を認めているところで自分の仕事をしてきました。「実用性とレギュレーション(規制)」が重要な要素で、過去どのメーカーもデザイナーに依頼をしていない信号機の世界はかなり様子が違い、まずもってデザインの専門用語で説明することが難しい製品を作る仕事をした経験は、すごく勉強になりました。

今になって何冊か本を出すことになったのは、専門用語を使わないで平易な言葉で説明するということを、信号電材さんとの仕事の中で培ったからだと思います。

(次回に続く▶連載第3回はこちらで公開中

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著者紹介

秋田 道夫(あきた・みちお)
1953年大阪生まれ。プロダクトデザイナー。愛知県立芸術大学卒業後、トリオ(現JVCケンウッド)、ソニーを経て1988年よりフリーランスとして活動を続ける。LED式薄型信号機、交通系カードチャージ機、虎ノ門ヒルズセキュリティーゲート等の公共機器から日用品まで幅広く手がける。X(Twitter)での発信が話題を呼び、フォロワーは10万人を超える。著書に『自分に語りかける時も敬語で』『機嫌のデザイン』がある。


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