「あの人は相当信号機に興味があるようだ」──LED薄型歩行者灯器のはなし①(秋田道夫『かたちには理由がある』より)
ソニー独立後、フリーランスとしてさまざまな製品を手がけてきたプロダクトデザイナー・秋田道夫。自身が「代名詞」と語るのが、歩行者用の薄型信号機のデザインです。
この「風景に溶け込む」信号機のデザインは、どのように生まれたのか? 新刊『かたちには理由がある』(ハヤカワ新書)より、数回にわけてご紹介します。
「あの人は相当信号機に興味があるようだ」──LED薄型歩行者灯器のはなし①
わたしの代名詞とも言えるのが、LED薄型歩行者灯器のデザインです。どうして信号機をデザインすることになったのか、そのきっかけについてお話ししましょう。
そもそも信号機というものをデザイナーがデザインすることはまずないでしょう。わたしが信号機をデザインしてから20年近く経ちますが、いまだにわたし以外のデザイナーの名前を聞いたことがありません。
「千載一遇」ともいうべき仕事は、ほんとうに意外なきっかけで始まりました。
20年ほど前のある日、高校時代の同級生から電話がかかってきました。「大阪のある会社でプロダクトデザイナーを探しているのでやってみませんか」という内容でした。
具体的になにをするかも分かりませんでしたが、連絡先を聞いてその方にメールをし、新大阪駅からほど近いビルにある会社に向かいました。そこで「こういうものを作りたい」と説明していただいたのが、雪を溶かすためのサーチライト(大型ランプ)のようなものでした。想定しているサイズが「信号機のランプ一個分」に近く、そういう製品を量産できる会社はそうなかったため、まさに信号機を作っている会社にお願いするのがよいだろうということで、福岡県の大牟田市にある信号機メーカー「信号電材」に白羽の矢が立ったのです。
それで、大阪の会社の方数人とわたしで実際に信号電材さんに伺って、信号機の組立工場を案内してもらいました。日頃見慣れているはずの信号機が、間近に見るとこんなに大きいものかと単純に驚き、感動を覚えました。たぶん目がキラキラしていたと思います。
わけても興味深かったのは、歩行者用信号灯器に使われている「ストップ」と「ゴー」の人型の入った赤と緑のアクリル製のパネルでした。そのパネルがとても「デザイン」に見えたのです。
その日のわたしは、傍目にはヒーローものに熱中する子どものように映っていたかもしれません。実際、信号電材は信号機好きの子どもたちの憧れの場所であり、見学を希望する声がひっきりなしに届いているそうです。
(続く ▶連載第2回はこちらで公開中)
著者紹介
秋田 道夫(あきた・みちお)
1953年大阪生まれ。プロダクトデザイナー。愛知県立芸術大学卒業後、トリオ(現JVCケンウッド)、ソニーを経て1988年よりフリーランスとして活動を続ける。LED式薄型信号機、交通系カードチャージ機、虎ノ門ヒルズセキュリティーゲート等の公共機器から日用品まで幅広く手がける。X(Twitter)での発信が話題を呼び、フォロワーは10万人を超える。著書に『自分に語りかける時も敬語で』『機嫌のデザイン』がある。