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私たちを待ち受ける「本当の2038年問題」とは?『2038年のパラダイムシフト 人生・社会・技術』本文試し読み

気候変動、経済格差、戦争、人工知能――2019年を境に様々な分野で巻き起こるパラダイムシフト。「19年周期」で世界は動くと論じる米国最高のトレンドスポッターが提起する次の契機は「2038年」。
この年の1月19日には、コンピュータが一斉に誤作動を起こすとされる「2038年問題」の発生が予想されています。ですが、それ以外にもあらゆる分野で全世界的な大変革が起きることは必定です。やがて来たる、2038年に私たちが直面するを説いた 話題の新刊『2038年のパラダイムシフト 人生・社会・技術』(マリアン・ソールツマン、江口泰子訳、早川書房)から、その問題提起を特別に試し読み公開します。

『2038年のパラダイムシフト 人生・社会・技術』(マリアン・ソールツマン、江口泰子訳、早川書房)
『2038年のパラダイムシフト』早川書房

イントロダクションーートレンドスポッティング〔抜粋〕

2019年後半に発行した2020年版の報告書のなかで、私は新型コロナウイルス感染症の大混乱を予測してはいなかった。とはいえ、マスクをつける人が増えることは予測していた。もっともその理由は大気汚染であって、新たな感染症のせいではなかった。また、生活必需品の買いだめが増えると予想したが、それは1990年代から不気味な影を落としてきた、「ドームズディ・プレッパー」〔プレッパーとは、災害や非常事態の準備に余念のない人。ドームズディ・プレッパーは世界滅亡に備える人〕の延長線上の話だった。2020年版の報告書をまとめた時に、私にとって確実だったのは、私たちがますますコントロール不能に感じられる世界に暮らしていることだった。その状態を「混乱はニューノーマル(新常態)」と私は呼んだ。ぴったりの表現だったが、状況はすぐに私の想像を超えてしまった。

(中略)

2020〜21年の大惨事が、ほぼすべてをリセットするきっかけとなったことは、少し考えればわかるだろう。それ以上に難しいのは、一過性の変化と長期的な変化とを見極めることだ。そのふたつを区別するために、本書ではまず2000〜20年のできごとと、その短い期間から拾い集められる文化的な変化とを振り返ろう。そのあとで、2021年から2038年1月19日という特定の日までに目を向ける。

だが、なぜその日なのか。ひとつには、その日にはふたつのコードネームがあるからだ。2038年問題(Y2038)エポカリプス●●●●●●。これは2000年問題(Y2K)のようなものだ。2000年問題とは、西暦2000年1月1日になった瞬間にコンピュータが誤作動して、新世紀のお祭り騒ぎを台なしにするのではないか、と非常に恐れられた問題である(西暦2000年1月1日は、正式には21世紀が始まる1年前だが、現代人はそんな些細なことにはこだわらない)。

2038年問題を専門的に説明するとなると、簡潔に述べるのは難しいが、基本的な考えはこうだ。一部のコンピュータ専門家によれば、世界がどのデジタルデバイスを用いているかに関係なく、2038年1月19日、協定世界時(UTC)午前3時14分7秒に、経過秒数を使い果たしてしまい、正しい時刻が表示できなくなるという。

この問題を知った時、私は本書の最終地点を2038年に設定しようと思いついた。2000年問題と2038年問題を、つまり2000〜2038年を本書で扱う枠組みとすると、およそ40年のタイムスパンについて詳しく見ていくことになる。この枠組みにおいて、本書で目にする動向のほぼすべてに、そして21世紀の人間生活のすべてにデジタルテクノロジーの重い手形がついている。

最初に断っておこう。本書で紹介する予測のなかには、思わず人里離れた洞窟に引きこもりたくなるような内容もあるだろう。それも無理はない。最悪のシナリオを考えたあと、ポテトチップスの袋かクッキーの箱を抱えてベッドに向かったことが、私には何度もある。だが、私はいつも現代の困難にまつわる基本的な事実に戻っていく──私たちは石器時代の精神を受け継いでいるかもしれないが、私たちが生きているのは宇宙時代のテクノロジーの世界だ。だから、そのテクノロジーは困難な問題だけではなく、可能性のある解決法ももたらしてくれる。

まずは、今日の私たちを取り巻く世界について、グローバルな4つの基本的動向について整理しよう。

「一緒にいてもバラバラ」が当たり前になった。テクノロジーのおかげで、高度にパーソナルな環境をつくることができる。その環境のなかで、カスタマイズしたプレイリストを(ひとりで)聞き、デバイスを使ってストリーミングサービスのエンターテインメント映像を(ひとりで)見る。バイアスのかかったメディアのバブル(泡)とエコーチェンバー(反響室)のなかに密閉されたまま、自分がつくった世界のなかだけで存在したいと望めば、そうすることも可能だ。

経済的な不公平が指数関数的に増大する。1970年代半ば以降、経済的な不公平があちこちの国で増大し、多くの貧困層とごく一部の超富裕層に対して、まったく異なる体験と可能性をつくり出してきた。(ほかの先進国と比べて)特にアメリカの社会的セーフティネットは擦り切れている。ミドルクラスは権利を奪われ、さらには縮小の一途をたどっている。そのため、みずからの富と権利を維持しようとするロビー団体に対して、ミドルクラスはまったくの非力だ。

自己中心性が新たな世界観になった。今日の私たちの世界観は自己中心性だ。子どもを含む誰もが、「パーソナルブランド」を築いて育てるように励まされる。

シェア体験により高い価値を置く。私たちは、自己中心的であると同時に共通の体験を重視する。友だちや家族とのビデオチャットが、自撮りに取って代わりつつある。パンデミック時期に、この傾向はほかのニーズよりも根強かった。ビジネスにおいても、一体感や仲間意識を重視する傾向が明らかだ。何でも協力、協業が主流だ。
 まわりを見渡せば、こっちの現実とあっちの現実は違う。陰と陽だ。世界もコミュニティも密閉されている。不公平と自己中心性がますます目立つ傾向は、ほかの要素にも影響を及ぼす。それがトレンドの性質だ。程度の差はあれ、ある動向には、それを埋め合わせるようにその反対の動向が存在する。ナショナリズムやトライバリズム〔部族主義〕の台頭をどこかで目にしたとする。だが、ほかの場所では人びとが協力し合う光景を目にする。すべての国が安全になるまで、どこの国もウイルスから──あるいはほかの深刻な脅威から──安全ではないという理解が生まれる。既存の組織的宗教の勢いは衰えても、スピリチュアリティと新たな信念体系の勢いは増している。

2038年には、ほかにもどんなことが待ち受けているだろうか。本書で紹介するトレンドの一部を見てみよう。


――私たちを待ち受ける2038年の世界とは? この続きはぜひ本書でご確認ください(電子書籍も同時発売)。

著者紹介

マリアン・ソールツマン Marian Salzman
1959年生まれ。ブラウン大学卒。トレンドスポッター、講演家、起業家。フィリップ・モリス・インターナショナルのグローバル・コミュニケーション担当上級副社長。1992年、世界初のオンライン・マーケット・リサーチ企業「サイバー・ダイアログ」を共同設立して以来、30年以上にわたって欧米の企業でコミュニケーション担当重役として活躍。毎年末に発表する来年のトレンド予測レポートは、世界的なメディアの注目を集めている。

記事で紹介した書籍の概要

『2038年のパラダイムシフト 人生・社会・技術』
著者:マリアン・ソールツマン
訳者:江口泰子
出版社:早川書房
発売日:2024年2月21日
本体価格:2,900円(税抜)

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