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【本屋大賞翻訳小説部門第1位】『われら闇より天を見る』著者クリス・ウィタカーさん&訳者・鈴木 恵さんのメッセージ公開!

国内のミステリランキングで三冠、本屋大賞翻訳小説部門第一位に輝いたミステリ小説『われら闇より天を見る』(クリス・ウィタカー/鈴木 恵=訳)。
4月に行われた贈賞式では、著者であるクリス・ウィタカーさんからメッセージ動画、訳者の鈴木恵さんからスピーチをいただきました。
読んだ人みなの心をつかむキャラクターである主人公ダッチェスはどう生まれたのか。本日はメッセージを全文公開します!

『われら闇より天を見る』
クリス・ウィタカー/鈴木 恵=訳
価格:2,530円(税込)
四六判並製 単行本

訳者・鈴木 恵さんの受賞メッセージ

『われら闇より天を見る』を訳しました鈴木と申します。
 この賞を受賞したのは著者のクリス・ウィタカーさんですから、私がこのような場に出てくるのはいささか僭越ではありますが、応援してくださったみなさんに、まずは著者のウィタカーさんに代わってお礼を申しあげます。
 訳者としても、このようなすばらしい作品を訳すチャンスをあたえられた幸運を、しみじみ噛みしめております。
 この作品、実は年末のミステリランキングでも三冠を獲得したのですが、ブレイクするきっかけになったのは、先日お亡くなりになった北上次郎さんが、真っ先に熱い推薦文を書いてくださったからです。北上さんにも本当に感謝しております。

 ジャンルで言えば、この作品はふたつの謎を中心にすえたいわゆる「ミステリー小説」です。けれども一方では、世の中のすべてを敵にまわして闘おうとする13歳の少女の「成長物語」でもあり、取り返しのつかない過ちを犯してしまった男の「贖罪の物語」でもあります。
 とくに、幼い弟を守って孤立無縁で生きていこうとする主人公のダッチェスという少女のキャラクターが秀逸で、それが多くの読者の支持を集めている最大の理由だと思います。
 今ここでそのキャラの一端を紹介できればいいのですが、ネタバレになってしまいますので、ぜひ作品を読んで味わっていただきたいと思います。「泣ける」という言葉を売りにするのは嫌いなのですが、泣けます。いかにも北上さん好みのキャラだと思います。

 聞けば、著者のウィタカーさんがこの少女ダッチェスを生み出したのは、今から20年前のことだそうで、その経緯が大変興味深いので、ここでご紹介しようと思っていたのですが、このあとご本人がメッセージで語っていますので、そちらをお聞きになってください。

 ダッチェスは僕の心に長く残るだろう——ウィタカーさんは別のところでそう書いていますが、それと同じように、私たち日本の読者の心にも、きっと長く残ると思います。
 ありがとうございました。

著者クリス・ウィタカーさんの受賞メッセージ

※以下日本語訳

こんにちは。クリス・ウィタカーです。
私は『We Begin at the End』の著者です。日本では『われら闇より天を見る』という最高に美しいタイトルで刊行されています。
エージェントから『われら闇より天を見る』が本屋大賞翻訳小説部門の第1位を獲得したと聞いたときは、とても信じられない気持ちでした。

この小説は私の人生を大きく変えてくれました。それは、応援してくださったみなさんのおかげです。
日本の読者のみなさんはとても親切で、素晴らしい励ましのメッセージをたくさん受け取りました。
この物語を多くの人に届けてくださった書店員の方々には、これ以上ないほど感謝しています。

私の執筆の旅は、20年前に強盗に襲われ、刺されたことから始まりました。
この時、精神的に苦しくなった私は、セラピーの一環として文章を書くことにしたのです。
この小説は多くの読者の方が共感してくれるであろうダッチェスというキャラクターから始めました。
最初は、犯罪小説を書こうとは、いや、本を書こうとさえ思っていませんでした。
私はただ自分の気持ちを書き出して、その気持ちをこのキャラクター、――自分の身に起こった悪いことの影で生きている、もがき苦しんでいる女の子に重ねたのです。
自分の人生が変わるように、と思いながら。

そうして彼女は、私が助けを必要としているときや、悩みを打ち明けられないと感じたときに戻ってこられる存在になりました。
この小説は、私にとって非常に身近な物語であるだけでなく、どんなに人生が困難であっても、ポジティブな変化を起こすことは可能であることを思い出させてくれる物語でもあります。

まさか自分が作家になるなんて、想像もしていなければ夢にも思っていませんでした。
ましてや、こんなメッセージを収録することになるなんて、想像もしませんでした。
この本を見事に出版してくれた早川書房と、素晴らしい翻訳をしてくれた鈴木恵氏に感謝します。ありがとうと言うだけでは十分ではないかもしれませんが。
ただ、このような賞をいただけたのは、皆さんのご支援の賜物と思っています。
改めて感謝申し上げます。
ありがとうございました。

実際の発表の様子は以下のURLからもご覧いただけます。

〇あらすじ

「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」
 
アメリカ、カリフォルニア州。海沿いのケープ・ヘイヴンという町に、ダッチェスという少女がいた。
 母親は酒に溺れ、弟はまだ幼い。崩壊しかけた家庭を一人で支えるダッチェスは「無法者」を自称し、世間の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。
 一方、この町の警察署長ウォークは過去に囚われたまま生きている。かつて起きた事件――ダッチェスの叔母にあたる女性が死亡した事件で、彼の親友ヴィンセントが逮捕された。その決め手となったのがほかならぬウォークの証言だった。
 事件から三十年後のいま、ヴィンセントが町へ帰ってくる。彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークをも巻き込んでいく。そして、新たな悲劇が……。苛烈な運命に翻弄されながらも、少女がたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?

〇著者について

クリス・ウィタカ―

クリス・ウィタカー近影
© David Calvert Photography

ロンドン生まれの作家。ファイナンシャル・トレーダーを経て、2016年に『消えた子供 トールオークスの秘密』で作家デビューし、翌年の英国推理作家協会賞新人賞を受賞。2021年には『われら闇より天を見る』(本書)で英国推理作家協会賞最優秀長篇賞を受賞する。

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▽冒頭試し読みはこちら

▽川出正樹さんによる解説

▽北上次郎さんによる書評

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