
子どもたちと科学の未来のために『ホワット・イフ?』はある! 『Dr.STONE』原作者、稲垣理一郎さんによる解説を公開。
好評発売中のランドール・マンロー『ホワット・イフ? Q1』『ホワット・イフ? Q2』。noteでも、3回にわたって質問をひとつずつご紹介してきました(第1回、第2回、第3回)。
そして、じつはQ1には『Dr. STONE』や『アイシールド21』で知られる漫画原作者、稲垣理一郎さんによる解説が掲載されています。
ホワット・イフ? Q1: 野球のボールを光速で投げたらどうなるか
— 稲垣理一郎(リーチロー) (@reach_ina) December 4, 2019
簡潔なイラストで説明された、科学のモシモ本です。ハヤカワ文庫。
解説文をちょこっと書かせていただきました~!
おそらく本日発売かな?
帯見ると一瞬見間違いそうだけど、僕は元NASAの漫画家ではありません笑 pic.twitter.com/xCS6GAamME
舞台は違えど、ともするとマジメになりすぎてしまうサイエンスをテーマに「漫画」を執筆している二人。同じ漫画家として『ホワット・イフ?』をどのように読んだか、そして、科学を題材にする漫画家の胸中には、読者である若い世代に対するどのような思いがあるのか。
小さな息子をもつ父であり、人気漫画の原作者でもある稲垣さんに、熱く語ってもらいました。
ギモンは捨てない! 愛すべき大人たち
漫画原作者 稲垣理一郎
皆さんは子供のころ、身の回りのちょっとしたギモンに、答を知りたいと思ったことがありますか?
例えば「お月様はなぜついてくるのだろう」といったような……。 ないよ! という方は、たぶん一人もいないでしょう。でもそのうち、だんだんとギモンを感じなくなります。本当は、感じなくなるのではなく切り捨てるのです。こんなこと、知ってどうするんだ!? って。それが大人になるってやつです。
ところが、そんなギモンを切り捨てない愛すべき大人たちがいます。
マシンガンを束ねて下向きに乱射したら空が飛べるのか? って、それを知ってどうするんだ本当に!(笑)
でも正直、ちょっとだけ知りたいですよね??
著者ランドール・マンローはそれらのギモンに、様々なアプローチを使って、一歩一歩科学的に迫っていきます。企業の面接などで使われて有名になった、フェルミ推定のようでもあります。その論理的な思索過程そのものが、本書『ホワット・イフ? 』のオモシロみであり、読んで糧になる部分でもあると言えるでしょう。
子供たちのギモンに、正面からガッツリ答えた経験はありますでしょうか?
僕には小さな息子がいますが、彼らの質問は無限に続くのです! 「どうして? 」「じゃあどうして? 」
著者は、そんな無限のギモンすら切り捨てません。
例えば、レーザーポインターを集めても月が照らせないのなら、もっとパワーを上げてみたら? おそらく子供たちは、無限に聞いてくるでしょう。もっと! もっと上げてみたら!?
その答にも、本書はきちんと永遠に迫っていきます。ひたすら繰り返されるパワーアップの天丼、つまり繰り返しネタは、もはやギャグ漫画のようです(笑)。
いや、著者の本職はコミック作家とのことなので、むしろ本書自体が一冊の特殊な漫画と言えるのかもしれません。子供のころの素朴なギモンをイメージさせる、簡潔なイラストで、ジョークを交えてわかりやすく解説されています。
こんなステキな本に出会えた子供たちは、何人かがきっと、科学の道に進んでくれるでしょう。まずは、科学そのものを探求する道。例えば研究者など。ほかにも、科学を楽しむ道。例えば著者のように科学を扱ったコミックなど。
前者に関しては、僕は専門家ではないので詳しい方に解説をお譲りします。
後者に関しては……おおなんという偶然、僕は専門家だ!
創作という観点からも、本書は読んでいて大いに刺激になりました。
例えば……
「二人の人が惑星の離れた場所から出会うには」
とてもドラマチックな恋物語ができそうです。
「とても小さいけれど重力は強い惑星に住めるのか」
星に放り込まれた男の七転八倒と、いずれ辿り着く創意工夫ぶりが、科学的にリアルにするほど興味深くなります。
どんな不思議なシチュエーションでも、大切なのはその状況に放り込まれたキャラクターたちの心の動き、つまり人間模様です。科学的な考察は、そのシチュエーションをよりリアルなものに感じさせてくれます。結果キャラクターたちもリアルになり、まるで実在するかのように思えてくるわけです。
こんなふうに本書の全ての項目で、一つ二つはドラマが生まれそうです!
なぜなら人は、不思議をクリアしていくことそのものが楽しいからです。
そう、科学は楽しいのです!!
世の中の不思議に答を見つけていく。クイズの解答をのぞき見するような、そんな作業がつまらないわけがありません。読んだ子供たちが、そこに気づいてくれることを願います。
そして大人たちは本書で、知的好奇心の刺激という、しばしのステキな楽しみをいただくのです。
2019年11月
(『ホワット・イフ? Q1&Q2』は、早川書房より好評発売中です)
(書影はAmazonにリンクしています)
(『ホワット・イフ? Q1&Q2』ランドール・マンロー
吉田三知世訳/早川書房/12月4日発売)