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マシンガンの反動で山を飛び越えるために必要な火力とは? ベストセラー『ホワット・イフ?』から

 元NASAのウェブコミック作家、ランドール・マンローが、自身のウェブサイトに集まってくるトンデモ質問に、マジメな科学と並外れた調査能力、そしてたっぷりのユーモアで答えていく『ホワット・イフ?』。世界で100万部以上を記録した本書が、ついに日本でも文庫化します!

ホワット・イフ_文庫2冊セット

(書影はAmazonにリンクしています)
(『ホワット・イフ? Q1&Q2』ランドール・マンロー
吉田三知世訳/早川書房/12月4日発売)

そして、生活のあるあるなお悩みを科学とユーモアで解決する、マンロー新作の『ハウ・トゥー』も、2020年1月に刊行予定!

ハウ・トゥー(仮)

『ハウ・トゥー――バカバカしくて役にたたない暮らしの科学』
(ランドール・マンロー/吉田三知世訳
/早川書房/1月23日発売予定)

 そんな連続出版を記念してお送りする、内容紹介ミニ連載第2回です。(第1回はこちら


 今回は、全FPSプレイヤーを悩ます銃の反動を使って、空を飛びます! あなたの愛機には、空を飛べるほどのパワーがあるかな?

P43もっとパワーを


マシンガンでジェットパックを作る


質問.マシンガンを何挺(ちょう)か束ねて下向きに撃ってジェットパックの代わりにし、飛ぶことはできますか?  ──ロブ・B


答.検討してみたところ、答が「イエス」だったので、私はちょっとびっくりしてしまった。しかし、ほんとうにちゃんとやるには、ロシアの人たちに訊いたほうがいい。 

 原理は極めて単純だ。弾丸を前向きに発射すれば、反動で後ろに押される。したがって下向きに発射すれば、反動で上に押し上げられるはずだ。

 最初に明らかにしなくてはならないのは、「銃は、発砲時の反動によって銃自体の重さを持ち上げられるだろうか? 」という点だ。あるマシンガンが、重さは10 ポンドなのに、発砲時の反動は8ポンド分しかなかったなら、そのマシンガンは自らを地面から持ち上げることはできない。自分に人間ひとりを加えたものはなおさら無理だ。

 技術の世界では、飛行機や宇宙船の推力と重さの比を、実に適切に推力重量比と呼ぶ。推力重量比が1未満なら、その飛行機または宇宙船は離陸できない。サターンⅤ型ロケットは離陸時の推力重量比が約1.5 だった。

 私は南部で育ったけれども、銃についてはあまりよく知らないので、この質問に答えるのを手伝ってもらおうと、テキサスにいる知人に連絡した(1)。

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おことわり:ここに書かれていることを、ご家庭では絶対にお試しにならないよう、切にお願い申し上げます。

 調べてみると、カラシニコフ自動小銃AK-47 の推力重量比は約2であることがわかった。だとすると、AK-47 を上下逆さまに立てて、引き金を何らかの手段で引いたままの状態で固定したら、AK-47 は発砲しながら空へと昇っていくはずだ。
 
 すべてのマシンガンでこうなるわけではない。たとえばM60 機関銃では、自分を地面から持ち上げるに足りるだけの反動はないだろう。

 ロケットが生み出す(もしくは銃の発砲による)推力の大きさは、(1)後方にどれだけの質量を放出しているかと、(2)その放出の速度はどれだけか、という2つの要因に依存する。推力は、この2つの量の積で、次の式で表される。

推力= 一定時間あたりに放出する質量×放出の速度

AK-47 1挺が、1秒間に8グラムの弾丸を10 個、秒速715 メートルの速度で発射するとすると、その推力は次のように計算される。

10 個の弾/ 秒× 8 グラム/ 弾× 715 メートル/ 秒
=57.2N ≒ 13 ポンドの力


 AK-47 は、弾薬を込めた状態で10.5 ポンドの重さしかないので、これだけの推力があれば、離陸し、上方に加速できるはずだ。

 実際の推力は、これより約30 パーセント高い。それは、銃は弾丸だけを放出しているわけではないからだ。高温の気体と火薬の滓(かす)も同時に吐き出している。これによってどれだけの推力が加わるかは、銃とカートリッジによって異なる。

 全体としての効率は、薬莢を捨てるのか捨てないのかでも違ってくる。この計算をするために、テキサスの知人らに頼んで、何種類かの薬莢の重さを量ってもらった。彼らが秤が見つからず困っていたので、秤を持っている誰かほかの人を見つけ、あなたがたの保有している大量の銃器を見てもらえばいいのではないですかと助言をしたら、役に立てたようだ(2)。

 さて、ここまでの話から、ジェットパックをめぐるわれわれの目論見について、どんなことがわかっただろう?

 それはこういうことだ。AK-47 は離陸することはできるが、リス1匹よりも重いものを持ち上げるだけの余分な推力はないのである。

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 複数の銃を使うことを検討してみよう。銃を2挺地面に向かって撃てば、推力は2倍になる。1挺の銃が、自分の重さに5ポンド上乗せして持ち上げることができるなら、2挺なら上乗せ分は10 ポンドになる。

 こうなると、われわれの進むべき方向は明らかだ。

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 十分な数のライフルを用意すれば、持ち上げる人間の重さは重要ではなくなる。多数の銃が人間の重さを分かちあうので、個々の銃は人間の重さなどほとんど感知しない。ライフルの数を増やしていくと、このシステムは「個別に自分を推進しながら並行して飛んでいる多数のライフルの集合体」になるので、システム全体としての推力重量比は、余計な重さを運んでいない、1挺のライフルのそれに近づく。

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 しかし、ひとつ問題がある。弾薬だ。

 1挺のAK-47 は30 発の弾を装填できる。毎秒10 発撃つとすると、これでは推進力の得られる時間はたった3秒しかない。

 弾倉を大きくすることでこの状況を改善できる。しかし、それはある程度までだ。250 発以上の弾を装備しても何のメリットもない。その理由は、燃料を増やせば重くなるからだ。ロケット科学最大の根本問題である。

 弾丸1個は重さ8グラムで、カートリッジ(いわゆる「実包」、つまり、弾丸、薬莢、発射薬、銃用雷管からなる、実際に発射できるもののこと)の重さは16 グラムを超える。約250 個以上の弾を装備すれば、AK-47 は重くなりすぎて離陸しないだろう。

 このことから、最も望ましいのは、1挺あたり弾薬を250発装填した多数のAK-47(最低25 挺。しかし理想的には少なくとも300 挺)を用意することだとわかる。こうして組み立てた装置で最大のものなら、上方に加速して、秒速100 メートルに近い垂直速度に達し、上空500 メートルまで到達できるだろう。

 これでロブの質問に答えたことになる。十分な数のマシンガンがあれば、飛ぶことは可能だ。

 しかし、こうして完成したわれわれのAK-47 システムは、どう見ても実用的なジェットパックではない。もっといいシステムは作れないものだろうか?

 私のテキサスの友人たちがいくつかのマシンガンを提案してくれたので、私はそれぞれについて計算してみた。結構うまく使えそうなものもあった。グロスフスMG-42 機関銃は相当重たいが、推力重量比はAK-47 よりわずかながら大きい。

 さらに大きな銃も検討してみた。

 GAU-8 アベンジャー機関砲は、1ポンドの弾丸を1秒間に最高で60 発撃つことができる。発砲の反動は5トン近くになるが、この機関砲が搭載される飛行機はA-10「ウォートホッグ」という攻撃機で、エンジン2つが生み出す推力はわずか4トンということからすると、素人にはアンバランスな感じがする。1機のA-10 にGAU-8 を2門装備して、2門とも前方めがけて発射し、同時にA-10 のエンジンを全開にしたら、2門の機関砲のほうが優って、飛行機は後ろ向きに加速するだろう。

 GAU-8 の威力はこんなふうにも言い表せる。私が自分の車にGAU-8 を1門装備し、車のギアをニュートラルにして、車が停止している状態で機関砲を後ろ向きに発砲したなら、私は3秒以内に、州間高速道路の制限速度を超えてしまうだろう。

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 ロケットパック・エンジンもこれと同じくらいの性能が出せると思われるが、ロシア人たちがもっといいものを実際に作っている。ソ連が開発したグリアゼフ゠シプノフGSh-6-30 機関砲は、重さはGAU-8 の半分なのに発射速度ははるかに高い。GSh-6-30の推力重量比は40近くにもなる。つまり、GSh-6-30 1門を地面に向けて発砲したら、この機関砲は危険な金属片がものすごい速さで四方八方に飛び散るなかで離陸するのみならず、それを発砲した人は40G、すなわち重力加速度の40 倍の反動を受けることになるわけだ。

 これはちょっといきすぎだ。実際GSh-6-30 は、爆撃機にしっかり固定させて使用された際にも、反動が問題になった。次の引用のとおりだ。


(GSh-6-30 の)反動は……依然として、爆撃機に損傷を与えがちであった。発射速度は毎分4000 発にまで抑えられたが、あまり効果はなかった。発射のあと、着陸灯が必ずと言っていいほど壊れた。一気に30 発以上撃つのは、自ら災いを招くようなもので、過熱を起こす……
──グレッグ・ゲーベル、airvectors.net

 だが、何らかの方法で人間を固定し、機体を反動に耐える強さに改良し、GSh-6-30 を空気力学的に設計された保護板でくるみ、十分冷却されるように配慮したなら……

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 ……山を飛び越えられるかもしれない。


(1) 私が寸法や重さを計測できるように彼らが自宅いっぱいに並べてくれた武器の量から考えるに、テキサスは映画『マッドマックス』ばりの、世界終焉後の戦争地帯のようなものになっているらしい。
(2) できれば、武器はそれほど持っていない人がいい。


 跳弾は大丈夫なのだろうか……という的外れな心配が脳裏にうず巻いてきたので、今日はここまで!
 来週は12月3日に公開です!