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『 高い城の男』×『パシリム』メカの衝撃はここから生まれた!USJ著者インタビュー 第3回 PKD×ジャパン・カルチャー=USJ!

第二次世界大戦で日独が勝利するというフィリップ・K・ディック『高い城の男』を思わせる展開に、巨大メカが乱舞する『パシフィック・リム』的なビジュアルで、今年度最大の話題作ピーター・トライアスの『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』。その著者インタビュー、第3回は作品のアイデアの元になったPKD作品との出会いや、日本のゲーム・アニメ・小説・etcについて、熱く語ってもらう。

本インタビューは、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』刊行時にcakesに掲載されたものの再録です。また、本インタビューの抜粋は、SFマガジン2016年12月号に掲載されています。(インタビュー&翻訳:中原尚哉・編集部)

(第1回「ディック『高い城の男』の精神的続篇」はこちら)
(第2回「想像力をかき立てる「メカ」イラスト作成秘話」はこちら)

──初めてのフィリップ・K・ディック体験はどの作品ですか? また、『高い城の男』以外で好きなPKD作品を教えてください。

ピーター・トライアス(以下PT) 初体験は映画で、ブレードランナートータル・リコールです。原作者がおなじだと知って、読まなくてはと思いました。最初に読んだPKD作品はアンドロイドは電気羊の夢を見るか?です。ショックを受けました。たんなるアンドロイド狩りの話ではなく、もっとメタフィジカルで、デッカードの人間性そのものを揺さぶるスピリチュアルな経験が描かれていたからです。PKDと私には、奇妙な共通点があります。カリフォルニア大学バークレー校に通い、ベイエリアに長く住んでいるのもおなじです。他の多くの作家とはちがう個人的な縁を感じます。科学と、思索要素と、歴史の奇妙なエピソードと、宗教がシームレスに融合していて、あいだに垣根のない書き方が好きです。彼の登場人物はありえないシチュエーションに投げこまれ、かならずしも英雄的な行動はとりません。だから親しみやすく感じます。
 デッカードはヒーローでしょうか?
 彼は、本来ならステータスシンボルである電気羊を持っていることを恥ずかしく思い、そのためにアンドロイドを殺していきます。そんな自分を嫌悪しながら、“廃棄処理”をやらざるをえない。タイトルの反語的疑問は、この状況全体の愚かしさをあらわしています。この本でとくに印象的なのは次の文です。
「どこへ行こうと、人間はまちがったことをするめぐり合わせになる。それが──おのれの本質にもとる行為をいやいやさせられるのが、人生の基本条件じゃ。生き物であるかぎり、いつかはそうせねばならん。それは究極の影であり、創造の敗北でもある」(浅倉久志訳)

この『アンドロイド~』を読み終えると、矢も楯もたまらず、手にはいる彼の本を片っ端から読みました。そのうち落ち着いて、一部はあとの楽しみとしてとってあります。彼の本はどれも重要な主張がありますが、とくにお気にいりなのは『アンドロイド~』高い城の男です。またヴァリス『ティモシー・アーチャーの転生』スキャナー・ダークリー』『流れよわが涙、と警官は言ったも好きです。中短篇で好きなのは「マイノリティ・リポート」「トータル・リコール」『トータル・リコール』収録)ですね。
 一言つけ加えたいのは、日本でのフィリップ・K・ディック作品の版元である早川書房から『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』が出版されるのを、本当に名誉に感じていることです。言葉にならないほど感謝し、感激しています。

──日本文化から大きな影響を受けたとのことですが、好きな日本人アーティストや作品を挙げてください。

PT 日本文化からはとても深い影響を受けています。挙げはじめるときりがないので、ここでは一部にとどめます。まずなにより、ゲーム『ファンタシースター』における小玉理恵子(訳注・ゲームデザイナー。セガのプロデューサー。ファンタシースターシリーズ、セブンスドラゴンシリーズなどを手がける)の仕事が私を変えました。とくに『II』『IV』です。その物語に魂を揺さぶられました。ゲームにかぎらず、サイエンスフィクション全体を通して見ても、これほど強力な物語を他に知りません。セリフを暗唱できますし、世界観を説明できるほどです。もっと大胆で強力な作家になれと鼓舞されている気がします。いまでも憶えていますが、子どものころに『ファンタシースターII』の話を友だちから聞いたときに、ゲームがそんなにすごいわけがない、嘘だろうと思いました。でも実際にプレイしてみると、想像を超えてすごかったのです。

『ファンタシースターII 還らざる時の終わりに』(1989)

 好きなメカ・アニメは、前述の『新世紀エヴァンゲリオン』『ガンダム』などたくさんありますが、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』のメカがもっとも大きな影響を受けているのは、押井守監督の『機動警察パトレイバー2 the Movie』です。あの映画の戦闘にはさまざまな深い意味や伏線がありました。普通のアニメにくらべて戦闘シーンは少ないのですが、いざ戦闘になると、たんなる巨大ロボットの激突ではありません。脳髄における意志の戦いであり、哲学が重要です。手にした武器より、個人的な関係に左右されるのです。

 深作欣二監督の『仁義なき戦い』からも深い影響を受けました。『ゴッドファーザー』シリーズも好きですが、『仁義なき戦い』にはもっと深く響くものを感じます。歴史があり、生々しいドキュメンタリータッチで激しい暴力を見せ、生き様を過激に赤裸々に描くところがすごい。シリーズを通した菅原文太の演技や、ナレーションにあわせて流れるキャッチーな音楽も好きです。
 素晴らしい作曲家はたくさんいますね。『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』の山根ミチルの音楽がお気にいりのひとつです。彼女の音楽はユニークな曲が多く、どれも生き生きとして、キャッチーで、魅力的です。

サウンドトラック『悪魔城ドラキュラX~月下の夜想曲~』

『USJ』の執筆中は、彼女の他に植松伸夫、近藤浩治、久石譲、光田康典の音楽を聴きました(これは黙っておいたほうがいいかもしれませんが、じつは浜崎あゆみもたくさん聴いていました・笑)。

トライアス氏のディーヴァ、あゆ

 三島由紀夫の豊饒の海四部作は、私が読んだもっとも強烈なシリーズ作品です。言葉の使い方に驚かされ、4つの時代の描写に息を呑みます。この四部作は本多繁邦を中心人物として展開しますが、『USJ』も昭子の人生を、異なる時代と異なる登場人物で描くシリーズとして構想しています。彼女の存在が全体をつらぬくガイドラインになるはずです。
 他にも大江健三郎、小島秀夫、宮崎駿、桐野夏生、黒澤明など、いくらでも名前を挙げられます。しかしインタビューが一冊の本のように長くなるので、このへんにしておきましょう。

——日本文化以外では、子供のころにどのような小説を読まれましたか? お好きなSF小説はなんでしょうか?

PT いろいろな国の文学が思いつきます。三国志演義とか、紅楼夢とか。私の人生でもっとも影響を受けたアメリカ人作家は、ジョン・スタインベックです。彼の文体はとても力強く、それ自体の表現が詩的であるともいえます。パール・S・バックと彼女の大地の大ファンでもあります。『大地』はとても感動的な物語で、寓話のような構成の、文化を超えたテーマを持つ小説です。子供時代は、マーガレット・ワイスがお気に入りの作家でした。ドラゴンランスシリーズや冥界の門シリーズを学校に持ちこんで、こっそり教科書の影で読んでいました。SFでいえば、コードウェイナー・スミスと彼の人類補完機構シリーズの作品の大ファンです。イアン・バンクスのCultureシリーズ(訳注・邦訳は浅倉久志訳ゲーム・プレイヤー〔角川文庫〕がある)も大好きで、彼の示す理想の未来はあらゆる欲望が満たされることの極致で、その理想は私たちの多くが熱望するものになってほしいと考えています。くわえて、フランツ・カフカ、莫言、シルヴィア・プラス、マキシーン・ホン・キングストン、アラン・ムーア、ハーマン・メルヴィル、J・K・ローリング、オクティヴィア・E・バトラーといった作家が好きです。
 私が以前に発表した短篇は、短篇集に収録した作品もふくめて、マジックリアリズムの要素をふくんだ文学寄りのものが多かったので、興味深いですね。USJと前作 Bald New World で初めて、ずっと大好きで夢中だったSFの世界に入りこみました。

トライアス氏の前作 Bald New World。全人類が毛髪を失った未来を舞台とする作品で、タイトルはオルダス・ハクスリーのすばらしい新世界(Brave New World)をもじっている

これらの文学的な短篇を書くことによって、言語で実験して言葉で遊ぶ楽しみを培いました。それがどのような音になるかを組み合わせて、詩のように用いるのです。リズムの流れをたもつだけのために、ときに適切ではないかもしれませんが、その音が潜在意識の流れにずっと滑らかな単語を使いました。書いた文章をしょっちゅう音読しています。作中でもっとも普通でないシーンのいくつかは、ベンと昭子の潜在意識が表に出てきた箇所で起こっています。彼らの世界の並行宇宙である私たちの世界を反映していて、私たちの社会の出来事のいくつかを示唆している、夢の中のようなシーンです。あの融合は、私なりの『高い城の男』の『易経』のくだりになります。

第四回「ゲームと映画業界の経験がUSJを形づくる!」につづく


『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』待望の続篇、『メカ・サムライ・エンパイア』は4月18日に刊行します。前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』のように、ハヤカワ文庫SF(上下巻)と新☆ハヤカワ・SF・シリーズの同時発売です。

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