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世界中の冷蔵庫を開ければ、地球温暖化は回避可能!? 『もっとホワット・イフ?』NASA出身コミック作家の気になる解答は…?

NASA出身のウェブコミック作家が、自身のウェブサイト(xkcd)に集まってくるぶっ飛んだ「もしも?」という質問に、マジメな科学と並外れた調査力、そしてたっぷりのユーモアで答えていく人気シリーズが、満を持してカムバック! 最新刊『もっとホワット・イフ?』(ランドール・マンロー、吉田三知世訳、早川書房)から、気になる「Q&A」のいくつかを紹介。連載第3回では、地球温暖化に”冷蔵庫”と”ドウェイン・「ザ・ロック」・ジョンソン”で立ち向かう(?)奇天烈な仮説を取り上げます!(▶連載第1回の記事はこちら

『もっとホワット・イフ? 地球の1日が1秒になったらどうなるか』ランドール・マンロー、吉田三知世訳、早川書房「世界的ベストセラーの第二弾」
『もっとホワット・イフ?』(早川書房)

質問.冷蔵庫または冷凍庫を持っている人が全員、戸外でそれらを一斉に開けるとします。それだけの量の冷気を一気に放出したら、気温ははっきりわかるほど変化するでしょうか? そうでないなら、たとえば気温を華氏5度(摂氏約3度)下げるには、何台の冷蔵庫が必要ですか? それよりさらに気温を下げるとしたらどうでしょう?
(質問者:ニコラス・ミッティカ)

答え. 冷蔵庫は周囲を冷やすのではなく、暖める。

冷蔵庫は、内部の熱を外部に排出することによって機能する。内部が冷えるほど、外部は熱くなる。冷蔵庫の扉を開けると、冷蔵庫は前からやってくる熱を吸い上げて、冷却コイルを使ってその熱を空気中に排出しようと果てしなく努力し続けるだろう。なぜなら、排出した熱い空気がまた戻ってくるだけだからだ。そうなったら、冷蔵庫はまた一から冷却作業を始めなければならない。永遠に巨岩を山頂に運ぼうと努力し続けるシーシュポスのように(シーシュポスはギリシア神話の登場人物。ゼウスの怒りを買い、地獄で大石を山頂まで運ぶ罰を受ける。大石は頂上にたどり着く寸前で必ず再び落ち、シーシュポスの努力は終わることがない)。

これだけの熱をあちこちに動かすために、冷蔵庫は電力を消費するが、それによってさらに熱を生み出す。冷蔵庫の扉を開けっ放しにしたときのように、コンプレッサーを最高出力で働かせている冷蔵庫は、150ワット程度の電力を消費するだろう。そのため、意味もなく内部から背面のコイルへと移動させた熱に加えて、さらに150ワットに相当する熱が周囲の環境に捨てられることになるだろう。

この追加の、冷蔵庫1台あたり150ワットの熱は、理屈の上では地球の平均気温を上げるだろうが、ほんの少しだけだ。今現在、2、3億戸の家庭が冷蔵庫を持っているだろうが、世界の80億人の一人ひとりが冷蔵庫を1台持っており、全員が冷蔵庫を戸外で1日24時間、週7日間稼働させたとしても、地球の気温は摂氏1度の千分の一以下しか上昇しないだろうし、この程度の変化は小さすぎてとても観測できない。

しかし、冷蔵庫が直接捨てる熱は無視できるとしても、結局これらの冷蔵庫は実際に地球の温度を上げるだろう。私たちの家庭の電気の多くは化石燃料の燃焼に由来する。この80億台の戸外の冷蔵庫の電力が、2022年のアメリカにおける各種電力源の比率と同様の電力源から供給されると仮定すると、これらの冷蔵庫によって、毎年約60億トンのCO2が大気中に放出されることになる。これは、世界の排出量の約15パーセントに当たる。

冷蔵庫が21世紀の終わりまでこれだけの排出を続けたなら、人間によるほかのすべての原因による温暖化に加えて、さらに0.3℃地球温暖化が進むだろうと、さまざまな気候モデルから推定される。

これは、他の無意味な仕事に比べてどうなのだろう? ギリシア神話によれば、シーシュポスは巨岩を山頂まで上げる作業を永遠に続けているという。ホメロスによる『オデュッセイア』の記述によると、彼がかなり懸命に働いていたことは明らかだ。

また巨大な岩を両の手で押し上げつつ、無残な責苦に遭っているシシュポスの姿も見た。岩に手をかけ足を踏ん張って、岩を小山の頂上めがけて押し上げてゆく。しかし漸くにして頂上を越えんとする時、重みが岩を押し戻し、無情の岩は再び平地へ転げ落ちる。彼は力をふりしぼって再び岩を押すが、その全身から汗が流れ落ち、頭の辺りから砂埃が舞い上る。

──『オデュッセイア(上)』(松平千秋訳、岩波書店)より

ウルトラマラソンの走者たちのデータから、人間が長い時間耐久を強いられる状況で行える仕事量の上限は、人間の安静代謝量の2.5倍だとわかる。シーシュポスのカロリー摂取量の合理的な推定値を得るにはそもそもどうすべきかすら私にはわからないが、彼が相当な運動をしているのは間違いないので、筋骨隆々としたボディで有名な元レスラーの俳優、ドウェイン・ジョンソンに代わりをやってもらおう。私はジョンソンの身長と体重を調べ、それを安静代謝計算ソフトに入力することによって、2150キロカロリー/日、つまり105ワットという推定値を得た。

シーシュポスの代謝率を105ワットとすると、彼の長期的出力の最大値は260ワット、つまり、開けっ放しの冷蔵庫より少し多い程度と推定される。

そのようなわけで、あなたがこれといった理由もなく庭に無意味な物体を置いて、いつまでもエネルギーを浪費させ続けたいなら、冷蔵庫をコンセントにつなぐより、シーシュポスに巨岩を山頂まで運ばせるほうがいいだろう。そうすれば、動力は再生可能なエネルギー源(冥界の神ハーデースの尽きることなき怒り)から供給されるので、電気代が節約できるし、気候変動への影響も無視できるだろう。

シーシュポスに来てもらえないなら、代わりにドウェイン・ジョンソンがその役を引き受けてくれるかもしれないですよ。


次の更新予定は3月15日(水)です

【連載①】恐竜がNYに出現……どれくらいの人数が食べられてしまう?

【連載②】『日本沈没』が起こったら、地球全体にはどんな影響が?

本書には他にもこんなとんでもない質問も!

|| この記事で紹介した本の概要 ||

『もっとホワット・イフ?』
著者:ランドール・マンロー
訳者:吉田三知世
出版社:早川書房
発売日:2023年2月21日
税込価格:1980円


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