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アメリカ発怪獣小説、日本上陸! ジョン・スコルジー『怪獣保護協会』8/2発売開始!

 アメリカ発怪獣小説、日本上陸!
 ジョン・スコルジーの新作SF『怪獣保護協会』(原題 The Kaiju Preservation Society)(内田昌之 訳)が、2023年8月2日に刊行されました。

 怪獣映画ファンとして知られるスコルジーが、楽しんで書きあげたのがこの作品怪獣保護協会』です。映画のゴジラは、並行世界の地球「怪獣惑星」からこちらの地球にやってきた巨大怪獣がモデルだった!? そしてその怪獣たちが、絶滅の危機に瀕して保護を必要としている!? ひょんなことから「怪獣保護協会」のメンバーとなった主人公のジェイミーは保護する任務にとりかかるが……。日本の怪獣映画へのリスペクト満載の、抜群のエンタメ作品です。
 本国アメリカでは、書評家を中心に投票して決めるローカス賞を受賞(SF長篇部門)。SFファンの投票で決めるヒューゴー賞の候補にも挙がっています。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーリストなどの各ベストセラー・リストにもランクインした、話題の怪獣小説。日本の読者としては、読むしかないということがおわかりいただけるかと!

 日本版では、怪獣絵師といえばもちろんこの方、開田裕治さんに装画を描いていただきました! ぜひ書店でこの素晴らしい怪獣イラストを見てください。
 さらに、怪獣や特撮に詳しい〝暴力系エンタメ〟専門ライターガイガン山崎さんに熱気のこもった解説を書いていただいています。これも必読!!

 そして……。この記事の後半では、さらに、特別企画として、主人公のジェイミーたちが怪獣と邂逅するシーンを一部抜粋してチラ見せいたします。

 2020年。パンデミックのさなか、会社を解雇されたジェイミー。たまたま再会した昔の知りあいの紹介で「大型動物」の権利を守る組織とやらに雇われて、急遽、「現場」に向かうことに。だが、ジェイミーが連れていかれた先は、なんと並行世界の地球「怪獣惑星」だった! 保護する動物とは、体長150メートルの「怪獣」!?
 驚きながらもジェイミーは、「怪獣保護協会」の一員として、巨大怪獣の生態を研究し、ある事情から絶滅の危機に瀕しているという彼らを保護する任務にとりかかる。だが、組織への資金提供者として地球からやってきた億万長者が怪獣を悪用しようとしたため、怪獣惑星と地球に危険が迫る……!
〈老人と宇宙そら〉シリーズで知られるアメリカSF界の第一人者スコルジーがあふれんばかりの怪獣映画愛を注ぎこんだ傑作怪獣SF。

***

 ラブラドル半島に差し掛かり、タナカ基地までもう少しというころ、ショウビジン号の客室になにかの音が鳴り響いた。全員が黙り込んだ。
 音がもう一度、今度はずっと近くで聞こえた。
「あたしが思っている音じゃないと言って」ニーアムが言った。
 ロデリゴ・ペレス゠シュミットの声がスピーカーから流れ出した。
「ゴールドチームにお知らせします。怪獣が出現しました。怪獣が出現しました。待機してください」
 全員が沈黙を続けた。やがてペレス゠シュミットの声がスピーカーから戻ってきた。
「ゴールドチームにお知らせします。訂正、怪獣が二体出現しました。上昇にそなえてください」
 客室内は騒然となり、全員が窓ぎわに駆け寄った。
「どういうことだ?」わたしはトムにたずねた。そして彼がまったく励ましにならない表情で窓の外を見ているのに気づいた。わたしは窓の外へ目を向けた。
 とても大きな生き物が飛行船を見あげていた。そいつはあまりにも近く、飛行船はわたしたちをさらにそこへ近づけようとしていた。
「ああ、クソっ」わたしは思わず座席から立ちあがった。
「もう一匹いるぞ」カフランギが客室の反対側の窓ぎわから呼びかけてきた。わたしはカフランギのそばへ行き、彼が見ているほうへ目を向けた。
 もう一匹の怪獣もやはり脳が拒否するような大きさだった。そいつはわたしたちを少し見つめてから、最初の怪獣に注意を戻した。そちらの怪獣はやはり近すぎたし、わたしたちはやはりそちらへ近づいていた。
 それどころか、飛行船の進路は二匹のあいだへまっすぐ向かっていた。怪獣同士でなにかをやっている、あるいはわたしたちになにかをしようとしている、そのまっただなかへ。
「うーん、これはまずいな」わたしはカフランギにそう言ってから、振り返ってトムに叫んだ。「上昇しているはずじゃなかったのか!」
「上昇しているよ!」トムが言った。
〝これじゃ間に合わない〟と言おうとしたとき、怪獣の一匹が無数のジェットエンジンを急に点火したような叫び声をあげて、それ以外の音がまったく聞こえなくなった。
 続いて、飛行船の反対側にいる怪獣が同じくらい大きな叫び声で返事をした。ステレオで完全に音が聞こえなくなることがあるなんて思ってもみなかった。
 叫び声が止まった。とにかくわたしは止まったと思ったが、こちらの鼓膜が溶けたのかもしれない。それから、またもやステレオで轟音がとどろいた。だれかが客室の中で悲鳴をあげた。窓の外へ目を戻すと、こちら側の怪獣がのしのしと飛行船に向かってくるのが見えた。初めはゆっくりだったが、すぐに、実際の大きさを考えたらありえないはずの速さになってきた。
 客室の反対側にいる人たちに警告しようと振り返ったとき、その窓のむこうで、二匹目の怪獣が同じように素早くこちらへ向かってくるのが目に入った。
 バカげた話だが、わたしは思わず身をかがめた。
 雷鳴のような音と衝撃が響き渡り、すぐに客室がばらばらに引き裂かれると思ったが、そうはならなかった。音はわたしたちの下から聞こえていた。二匹の怪獣が衝突した音だ。飛行船が怪獣には届かない高さまで上昇していたのだ。
 怪獣たちがわたしたちを殺そうとしていないことを理解するまで数秒かかった。そいつらはおたがいを殺そうとしていたのだ。
 ショウビジン号がわずかに南西へ進路を変えると、右舷側からは高層ビルなみの大きさの二匹の生き物がおたがいを叩きのめそうとする壮絶な光景が見物できるようになった。カフランギとわたしがながめていると、ほかの新人たちとトムもそこに加わった。
「いったいなにが起きたんだ?」わたしはトムにたずねて、戦う怪獣たちのほうへ手を振った。「パイロットはどうしてこんなもの・・・・・を見逃したんだ?」
「成獣には追跡装置がついている」トムは言った。「ときどき信号を見失うことがあってね。だからときどき予想外の場所にあらわれる」
「ああ、クソな飛行船の真横とかね」ニーアムが言った。
「発見するまでは地形の一部のように見えるんだ」トムは怪獣の片割れを指差した。「あれがケヴィン」
「へえ?」ニーアムが言った。「気のいいケヴィン君?」
「このあたりに棲む怪獣だよ。もう一匹はわからない。成獣になったばかりで、なわばりを主張しようとしているのかも」
「じゃあ、これはなわばり争いなのか」カフランギが言った。
 トムはそれまで見せたことのない緊張した顔で肩をすくめた。「たぶん。交配という可能性もあるけど」
 怪獣の巨大なかたまりが内臓をたなびかせて宙を舞った。客室内に耳をつんざく叫び声があふれた。
「やっぱりちがうかも」全員の聴力が復活したところで、トムが訂正した。
 ケヴィンではないほうの怪獣がよろよろとケヴィンから離れ、木々を押しつぶしながらショウビジン号のほうへ近づいてきた。
「ちょっと、やめて、やめて、逆のほうへ逃げなさい、このうすのろな岩山」ニーアムが言った。
「大丈夫だよ」トムが言った。「ケヴィンはもう一匹を追いかけたりはしない」
「ふーん、でもあれ・・はどうなの?」アパルナが指差した。
 全員がそれを見た。ケヴィンが大きな鉤爪のついたこぶしで小さな公園ほどの大きさの地面のかたまりをえぐり取り、巨大な腕をぐっとうしろに引いていた。
「道具を使うのか」アパルナがひとりごとのようにつぶやいた。わたしは、こんなときでも科学的にものを考えるのかと、なかば感心しながら彼女を見つめた。
 スピーカーがカチリと作動した。「えー、ただちにシートベルトを着用することをお勧めします」ロデリゴ・ペレス゠シュミットが告げた。
 全員がそれぞれの座席に飛び込んだ。
 ベルトのバックルを留めたとき、ケヴィンが小さな公園をもう一匹の怪獣のほうへ投げつけるのが見えた。つまりわたしたちのいるほうだ。巨大な土のかたまりが空中でばらばらにほぐれ、かなりの大きさがあるひとつがわたしたちめがけてまっすぐ飛んできた。

つづきは書籍でお楽しみください

***

『怪獣保護協会』
The Kaiju Preservation Society
ジョン・スコルジー
内田昌之 訳
装画/開田裕治  装幀/日高祐也
解説/ガイガン山崎
四六判並製/電子書籍版
2,640円(税込)
2023年8月2日発売

ジョン・スコルジーの既刊
〈老人と宇宙そらシリーズ

『アンドロイドの夢の羊』(星雲賞受賞)

『レッドスーツ』(ヒューゴー賞・ローカス賞受賞)

『星間帝国の皇女-ラスト・エンペロー-』(ローカス賞受賞)

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