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【重版決定】「知ってるつもり」の治し方なら、ブッダに聞け! 全米ベストセラー『なぜ今、仏教なのか』内容紹介

by 編集部S・I

宇多田ヒカルさんのツイートが話題を呼んでいます。

「有名無名問わず、誰かがメディアでした話から別の誰かが一言だけ抜き取って、文脈から切り離してネットで持ち出して、そこから少数派を除いた多くの人がソースの文脈を参照しようとしないまま自己投影に基づいた批判や擁護(つまり妄想)のたたき台にして論争が繰り広げられる現象にまだ名前ないのかな」(2018年7月17日19時55分)

ツイートを読んで、こう思いました。
この現象に名前をつけるなら――「知ってるつもり」はどうだろう、と。

知ってるつもり――無知の科学』という本があります。いかに多くの人が「自分の無知に対して無知であるか」を容赦なく可視化する、べらぼうに面白い本です。今年4月に発売後、早くも7刷を数える快調な売れ行きを見せています。

この本によれば、人間は他人の持っている知識と自分のそれを容易に混同してしまいます。テキサス大の研究では、「知らなかった事実をインターネットで検索した後、その情報をどこで見つけたのか尋ねたところ、記憶違いをして「もともと知っていた」と回答するケースが多かった。検索したことを完全に忘れてしまう被験者も多かった。グーグルのおかげではなく、自分自身の実力だと考えたのだ」といいます。

ところで、『知ってるつもり』の最終盤、「結び」の章では、こんな究極の二択が提示されます。

私たちは、自分は実際よりも物事を理解していると錯覚しながら生きている。この錯覚は、本当に振り払わなければならないものだろうか。常にできるだけ現実的な考えや目標を持つよう努力すべきだろうか。これこそ映画『マトリックス』でキアヌ・リーブスが演じた主人公ネオが迫られる決断である。赤い錠剤を飲んで現実を生きるか。それとも青い錠剤を飲んで心地よい錯覚のなかにとどまるか。赤い錠剤を選んだら、それに伴う痛み、悲しみ、ロボットによる支配を含めて現実世界に直面しなければならない。青い錠剤を選べば、人類の集団的夢のなかに戻ることができる。(『知ってるつもり』p.281より)

この問いを真正面から引き受ける本が、7月19日に発売されます。その名も『なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』(ロバート・ライト/熊谷淳子訳)。なにしろ、この本の書き出しはこうなっているのです。

人間のありようをドラマチックに表現しすぎるのを覚悟のうえで尋ねよう。映画『マトリックス』を見たことはあるだろうか。(『なぜ今、仏教なのか』p.11より)

しばらく引用を続けてみましょう。

主人公のネオ(キアヌ・リーブス)は、自分の住む世界が夢の世界であることに気づく。ネオが日々暮らしていると思っていた生活は実際には精巧な幻覚にすぎず、現実のネオの肉体は、ぬめぬめした液体に包まれて棺大のポッドにとらわれていた。ネオのポッドは、何列も何列もずらりと並ぶたくさんのポッドのうちの一つで、どのポッドにも夢にふける人間がひとりずつはいっている。人間は機械軍団によってポッドに入れられ、いわばおしゃぶりとして夢の人生をあたえられていた。

ネオが迫られた選択──妄想を生きつづけるか、現実に目覚めるか──は、有名な「赤い薬」のシーンで描かれている。ネオは、自分の夢にはいりこんできた反逆者たち(正確にいうと、夢にはいりこんできたその分身)から接触を受ける。反逆者のリーダーであるモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)は、ネオにこう状況を説明する。「きみは奴隷だ、ネオ。ほかの者たちと同じように、きみは生まれたときからとらわれの身だ。味わうことも見ることも触れることもできない牢獄にいる。心をしばる牢獄だ」。その牢獄はマトリックスと呼ばれるが、マトリックスの正体を説明するすべはない。全貌をつかむ唯一の方法をモーフィアスは伝える。「自分の目で見る以外にない」。モーフィアスはネオに二つの薬をさしだす。赤い薬と青い薬だ。青い薬を飲んで夢の世界にもどることもできるし、赤い薬を飲んで妄想の覆いを突きやぶることもできる。ネオは赤い薬を選んだ。

なんとも過酷な選択だ。妄想ととらわれの人生か、洞察と自由の人生か。あまりに芝居がかった選択で、いかにもハリウッド的だと思うかもしれない。私たちが実際にしなければならない人生の選択はここまで重大なものではなく、もっと平凡なものばかりだ。ところが、映画が公開されたとき、実際に自分がしてきた選択が忠実に描かれていると感じる人たちがいた。

それは、いわゆる西洋仏教の信者──アメリカなどの西洋諸国で生まれ、大半は仏教徒として育ったわけではなく、どこかの時点で仏教を信じるようになった人たちだ。少なくとも、輪廻(りんね)や諸仏への信仰といった、アジア仏教に典型的に見られるいくつかの超自然的な要素がはぎとられた形の仏教を信じている。西洋仏教は、アジアでは一般の信者より僧侶のあいだで広くおこなわれる修行に重点をおく。瞑想と、仏教哲学への没入だ(西洋でもっとも流布している仏教に対するイメージ──仏教は無神論であり、瞑想を中心にまわっているというイメージ──はまちがっている。大多数のアジア仏教の信者は、全能の創造主としての神とはちがうが、神々を信仰しているし、瞑想もしない)。

西洋仏教の信者は、『マトリックス』を見るずっと以前から、自分がかつて見ていた世界は一種の錯覚だと確信していた。それは幻覚とはいわないまでも現実を激しくゆがめた虚像であり、自分の生き方をゆがませ、自分や周囲の人々によくない結果を招いていた。それが今は、瞑想と仏教哲学のおかげでものごとがもっと明晰に見えるようになったというわけだ。信者たちのあいだでは、『マトリックス』は自分が経験した変化とよく符合する寓話ととらえられ、そのため「ダルマ映画」として知られるようになった。「ダルマ(法)」ということばには複数の意味がある。ブッダの教えも意味するし、その教えに従って仏教徒が歩むべき道という意味にもなる。『マトリックス』をきっかけに、「ダルマに帰依する」ことを意味する新しい表現、「赤い薬を飲んだ」が通用するようになった。(『なぜ今、仏教なのか』p.11-13より)

本書は2017年9月に米国で刊行されるや大きな反響を呼び、《ニューヨーク・タイムズ》紙のベストセラーリストに名を連ねました。20カ国で刊行が決まっている、世界的話題作です。

本書の肝はなんといっても、著者が進化心理学に精通する科学ジャーナリストであることです。「無我(むが)」「空(くう)」といった仏教のコンセプトと、「心のモジュール仮説」「認知バイアス」など科学分野の知見とが、全米雑誌賞に輝く熟練の筆によりアクロバティックに接続されます。斬新で、そして何より、面白いのです。

こうした本が米国で多くの読者に迎えられたことは、「真実」とは何かが切実に問われざるをえない(すなわち、「妄想ととらわれの人生か、洞察と自由の人生か」の選択に向き合わざるをえない)ポスト・トゥルース的な社会状況の裏返しなのかもしれません。

そして、おそらくは日本にも同じことが当てはまります。橘玲さんが『知ってるつもり』の解説に記した言葉を借りれば、「「モリカケ」問題や憲法改正、原発の是非から「歴史戦」まで、あるいは芸能人の不倫や官僚のセクハラに至るまで、あらゆる分野で「知ってるつもり」が増殖している」いま、私たちひとりひとりが真実を見定める目を養う必要性が、かつてなく高まっているのでしょう。本書は言います――仏教がその役に立つ、と。

[私は]人間のありようについての科学的な真実をもとに、人間がおちいってしまう錯覚を特定したり説明したりするだけにとどまらず、さらにその錯覚から自分自身を解放することはできないかと考えた。そして、よく耳にしていた西洋仏教というものがその方法かもしれないと思いはじめた。もしかすると、ブッダの教えの多くは、現代の心理学と本質的に同じことをいっているのではないか。それに、瞑想はかなりの部分、科学とはべつの形で真実を正しく理解する方法ではないか。それだけでなく、もしかしたら真実について実際に策を講じる方法ではないか。(『なぜ今、仏教なのか』p.22-23より)

ぜひお読みください。

***

福岡伸一(生物学者。『生物と無生物のあいだ』)
「無常は新陳代謝、縁起は相補性、輪廻転生は生態系。仏教思想の本質が、動的平衡の生命観と極めて似ていることに心底驚かされた」

魚川祐司(著述家。『仏教思想のゼロポイント』)
「『悟り』に関する一般の先入見と、瞑想が開く世界の実状とのギャップを埋める記述を、見事に成功させている」(本書解説より)

アントニオ・ダマシオ(脳神経学者。『デカルトの誤り』)
「刺激的でタメになる、大満足の1冊」(ニューヨーク・タイムズ紙2017/8/7)

ピーター・シンガー(哲学者。『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』)
「進化心理学に通じた者が仏教をクールな目で見つめると、何が起きるだろう? 答えはこうだ――その人物がロバート・ライトのような傑出した書き手なら、面白くて挑戦的で、人生を変える力を秘めたこの本が生まれる」

マーティン・セリグマン(ポジティブ心理学創始者)
「強靭で批判的な知性を備えた誰かが仏教を明快に解説してくれるのを待っていた。そういう本がここにある。本書は読者を未体験の旅へと連れだす」

甘いものがやめられない、
他人の成功がねたましい、
大事なプレゼンでアガってしまう……
現代人は、進化の結果ヒトの脳に備わった「錯覚」に惑わされがちだ。
錯覚を振り払い、よりよく生きるすべはあるのだろうか?
答えを求めて瞑想合宿に参加した科学ジャーナリストは、
「マインドフルネス」の驚くべき効能と、ブッダの奥深い教えに出会う――
認知科学や心理学の最新成果が裏づける、仏教の真価とは?
世界20カ国で刊行のニューヨーク・タイムズ・ベストセラー!

ロバート・ライト『なぜ今、仏教なのか――瞑想・マインドフルネス・悟りの科学』(熊谷淳子訳、本体1,800円+税)は早川書房より7月19日(木)に発売です。

★魚川祐司さん(著述家。『仏教思想のゼロポイント』)による本書の解説「『赤い薬』が飲みたくなる名著」を公開中!→こちら

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不快さを抱きしめ、執着を手ばなす――瞑想5日目に訪れた驚異のマインドフルネス体験!『なぜ今、仏教なのか』試し読み

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