ハーバードの個性学入門

日本的「平均思考」は、なぜ有害なのか? ダニエル・ピンク、ダン・ハースら絶賛の話題書『ハーバードの個性学入門』

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ハーバードの個性学入門 ―― 平均思考は捨てなさい』トッド・ローズ/小坂恵理訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫/2019年3月20日発売
◉抜粋記事
ハーバード流「平均値を気にしない生き方」とは?
グーグルやマイクロソフトも「平均思考」の限界に突きあたった!?
東大教授・柳川範之氏、推薦! 独創的な知性が身につく『ハーバードの個性学入門』の読みどころを紹介!
「あなたの知能は『平均』以上ですか?」――こんな問いに振り回されない個性を磨くには、『ハーバードの個性学入門 ―― 平均思考は捨てなさい』

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はじめに:みんなと同じになるための競争 より抜粋


ゆりかごから墓場まで、平均という尺度は常に付きまとい、平均値にどれだけ近づいているか、あるいは平均値をどれだけ上回っているかによって人物が判断される。学校では、平均的な学生の成績と比較して評価やランク付けが行なわれる。大学への選抜では、評価やテストの点数が平均的な受験生と比べられる。就職の際には、評価やテストの点数だけでなく、スキルや経験年数、性格検査の得点までが平均的な応募者と比較される。そして採用されれば、同じ職務レベルの平均的な社員を基準にして、毎年かならず業績が評価される。金銭的な機会も例外ではない。お察しのとおり、クレジットの信用度は平均からどれだけ乖離しているかによって決定される。

性格検査の得点、標準化された評価におけるランク、学業平均値、業績評価での格付けなどが、あなたやあなたの子ども、学生、社員の能力を反映していないことは、ほとんどの人たちが直観的に理解している。ところが平均という概念は、個人を評価する尺度として心に深く刻まれており、その妥当性を本気で疑う人は滅多にいない。平均値に不快感を抱くときはあっても、結局のところ、人間の現実を客観的に象徴する手段のひとつとして受け入れてしまう。

では、この測定方法、すなわち平均が、ほぼ常に間違っていると、私が皆さんに指摘したらどうだろう。個人について理解しようと思って平均に注目しても、不正確な結果しか得られず、むしろ誤解を招く可能性が高いとしたらどうだろう。コックピットの設計やノーマの彫刻のように、この理想が神話にすぎないとしたらどうか。

本書では、平均的な人間は誰もいないというシンプルな発想を大前提としている。あなたも、あなたの子どもも、同僚も学生も配偶者も、決して平均的な人間ではない。しかもこれは決して根拠のない励ましでも、空虚なスローガンでもない。科学的な事実であり、無視できない多くの結果によって裏付けられている。平均の存在しない世界を私が熱心に売り込むと、ギャリソン・ケイラーがホストを務める《プレーリー・ホーム・コンパニオン》に登場する架空の村レイク・ウォビゴンを思い出し、胡散臭さを感じるかもしれない。あの村では「すべての子どもが平均以上」だと言われる。それに、そもそも統計をとるならば、どこかに平均的な人間がいなければならないのは明白な事実だと反論したくなるだろう。しかし、これから本書で説明していくが、この一見明白な前提さえ実は大きな欠点を抱えており、放棄しなければならないものとなる。

ただし、平均がまったく無駄というわけではなく、役に立つ場合もある。たとえばチリ人のパイロットとフランス人のパイロットの実績を個人的に比べるのではなく、集団として比較する際には、平均が役に立つ。しかし、パイロットや配管工や医者がひとりだけ必要なとき、あるいはこの子どもを教えなければならないときや、あの従業員を雇うべきかどうか決めるとき、すなわち個人に関して決断を下す必要が生じた途端、平均は役に立たなくなってしまう。いや、役に立たないどころではない。平均からは貴重な知識が得られるという幻想のせいで、個人に関する最も重要な情報が覆い隠されてしまう。

平均的な体のサイズなど存在しないのと同じで、平均的な才能や知性や性格も存在しないことは、本書を読み進めるうちに明らかになるだろう。平均的な学生や平均的な社員、ついでに言えば、平均的な頭脳も存在しない。これらの馴染み深い概念はすべて科学的虚構にすぎず、想像力が誤って誘導された結果にほかならない。実のところ、平均的な人間という今日の観念は数学的事実ではなく、1世紀半前に2人のヨーロッパ人科学者が、当時の社会問題を解決するために発明したものである。2人が考案した「平均人」という概念は、実際に多くの問題の解決に役立ち、工業化時代の形成と進展にも貢献した。しかしもはや、工業化時代は幕を閉じ、今日の私たちはまったく異なった問題に直面している。おまけに、科学も数学も一九世紀よりはるかに進歩している。

私はこの10年間、個性学という学際的で斬新な学門分野に関わってきた。この分野は、個人を理解する際に平均を主要なツールとは見なさず、個性に正しく注目してこそ理解は得られるという立場をとっている。細胞生物学者、腫瘍学者、遺伝学者、神経科学者、心理学者らがこの新しい科学の原理を採用し始め、それぞれ細胞、病気、遺伝子、脳、行動についての研究を様変わりさせている。大きな成功をおさめた企業のなかにも、この原理を実践し始めたところがいくつか見受けられる。実際、個性に関する諸原理はひとつの例外を除き、ほぼすべての場所で応用されるようになった。その例外とはあなた自身の人生であり、本来なら諸原理はこの分野で最大の影響をおよぼす。

今回私は、この状況を変化させるために本書を執筆した。

このあとに続く各章では、個性に関する3つの原理、すなわちバラツキの原理、コンテクストの原理、迂回路の原理についてそれぞれ紹介していく。これらの原理は私の研究分野の最先端の科学から取り入れたもので、あなたの最もユニークな点は何か理解するために役立つだけでなく、個性を十分に発揮しながら人生で優位に立つための方法も教えてくれる。ジェット戦闘機の時代に第二次世界大戦と同じコックピットに閉じ込められる必要はないし、存在するわけでもないノーマと自分を比較する必要もないのだ。

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■著者紹介
トッド・ローズ Todd Rose
ハーバード教育大学院で心/脳/教育プログラムを指揮し、個性学研究所長を務める。〈個人の機会最大化のためのセンター〉共同設立者。高校中退後、10種類もの最低賃金労働に就き、怠け者で愚か者などと言われたどん底時代を経て、大学の夜間クラスに学び、ハーバード教育大学院で博士号を取得する。その後、世界的な研究者となるという規格外の経歴の持ち主。2016年に本書を刊行し、《ワシントン・ポスト》紙などのベストブックに選出される。近著にDark Horseがある。

■訳者略歴 
小坂理恵 Rie Kosaka
翻訳家。慶應義塾大学文学部英米文学科卒業。訳書にアグラワル&ガンズ&ゴールドファーブ『予測マシンの世紀』、セガール『貨幣の「新」世界史』、ストーン&カズニック『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史2』(共訳)(以上、早川書房刊)ほか多数。

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