【別役実とケラリーノ・サンドロヴィッチ編】ハヤカワ演劇文庫50冊を一挙紹介!~本を読んだら劇場へ、舞台を観たら本を手に。~
早川書房は演劇青年だった創業者・早川清の「自由に本が読みたい」という決意のもと、1945年8月15日に設立された出版社です。その創業の志をつなぐ演劇専門レーベル「ハヤカワ演劇文庫」は2006年に創刊。15年にわたり国内外の優れた戯曲をご紹介してきました。そしてハヤカワ文庫50周年にあたる今年、50冊目の演劇文庫「ピーター・シェーファーⅠ」を刊行いたします。この節目に、ハヤカワ演劇文庫の既刊をご紹介!今回はユーモアとナンセンスの極北、別役実とケラリーノ・サンドロヴィッチ編です。息を詰めて緊密なドラマの展開を追うもよし、詩情あふれる台詞に陶酔するもよし。あなただけの戯曲の楽しみ方を探してみてください。
病人 俺は気が付いたんだよ。奴らが本当は何を見たがっているのかという事をね。眼を見るんだ。俺の眼を……。背中のケロイドよりも俺の眼をのぞきこもうとするんだよ。(象)
食べ物からパラソルに蓄音器まで用意された素敵なピクニックの場に通りがかった他人同士。不在の主に遠慮していたはずが、ついひとつまみから大宴会へ。無責任な集団心理を衝いて笑いを誘う快作「壊れた風景」。背中に残る被爆痕を人目に晒すことでしか自己の存在を確認できない男と、それを嫌悪する男。深い孤独と不安に耐え、静かな生活を守りぬこうとする人間の姿を鮮烈に描き、演劇界に衝撃を与えた初期代表作「象」。
解説/大場建治 本体800円。
2.「別役実Ⅱ ジョバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語」
女2 いいかね、ジョバンニ、事実はどうあれ、街の人たちはみんな、二十三年前のあの日ザネリを川に突き落したのは、お前だと思っているんだよ……。(ジョバンニの父への旅)
銀河鉄道に乗った星祭りの夜から二十三年。ジョバンニが放浪の旅から帰ってきた。街では父が無実の罪を着せられている。そして再びあの晩のように、誰かが川へ落ちる事件が起きて……(『ジョバンニの父への旅』)。荒野の一角にある移動式簡易宿泊所。病人目当ての医者と看護婦、死人目当ての牧師がまだ見ぬ客を求め争っている。そこに現れたのは、生きるのに飽き、ひそかに死を待つ遍歴の騎士(『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』)。
解説/保坂和志 本体1400円。
3.「ケラリーノ・サンドロヴィッチ 消失/神様とその他の変種」
弟 また宇宙の話をしようね、一晩中。
兄 ……ああ。
弟 俺たちの小ささの話。いつかはなくなってしまう宇宙の話。(消失)
演出家、ミュージシャンでもあるケラリーノ・サンドロヴィッチが、自らの劇団ナイロン100℃に書き下ろした渾身の二篇を収録。いつの時代で、どこの国か、昔の話か、未来の話かもわからない。再生を図ろうとする兄弟を描いたシリアス・コメディー『消失』。ホームレス姿の男があわられ「どうも、神様です」といきなり観客に語りかける異色作『神様とその他の変種』。
本体1300円。
4.「ケラリーノ・サンドロヴィッチⅡ 百年の秘密/あれから」
コナ (…)おかしいわね、久しぶりに笑ってるわ私。あなたが笑ったから私が笑ったのよ……あなたが笑ったから笑ったんだわ……あなたがそこにいて、私に笑ったから……。(百年の秘密)
ベイカー家の長女ティルダとその親友コナ。二人は小学校の同級生だ。彼女たちは十二歳の冬に、その後の人生を大きく狂わせるある秘密を共有する。女たちの奇妙な友情を軸に、一族の栄枯盛衰を点描する一大クロニクル「百年の秘密」。数十年ぶりに再会した高校の同級生、ニチカとミラ。二人はそれぞれ結婚し家庭を築いていたが、心の傷と空虚さを抱えていた。荒廃した風景にむきあい再生を見い出す「あれから」。
解説/徳永京子 本体1500円。
別役実 1937年、満州生まれ。日本の不条理演劇を確立し、現代劇に新たな世界を構築した劇作家。早稲田大学政治経済学部政治学科に入学して鈴木忠志、小野碩らと出会い、劇団「自由舞台」(後の早稲田小劇場)を結成。61年に「AとBと一人の女」を発表、67年「マッチ売りの少女」「赤い鳥の居る風景」で岸田國士戯曲賞を受賞。68年に早稲田小劇場を離れてからは、俳小、演劇集団円、木山事務所、俳優座、文学座アトリエなどに次々と戯曲を提供し、18年、144本目の戯曲となる「ああ、それなのに、それなのに」(『悲劇喜劇』2018年11月号掲載)を発表。70年に「不思議の国のアリス」「街と飛行船」他で紀伊國屋演劇賞、87年に「ジョバンニの父への旅」「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」で芸術選奨文部大臣賞と読売文学賞、また98年には毎日芸術賞特別賞など受賞歴多数。また、童話、評論、軽妙なエッセイでも人気が高い。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ 劇作家、演出家、映画監督、音楽家。1963年1月3日、東京都渋谷区生まれ。劇団「ナイロン100℃」主宰。横浜放送映画専門学院(現:日本映画大学)卒業。本名は小林一三(こばやしかずみ)。76年に「喜劇映画研究会」を創設。82年、ニューウェイブバンド「有頂天」を結成。また自主レーベルであるナゴムレコードを立ち上げ、数多くのバンドのアルバムをリリースする。85年、劇団健康を旗揚げ、演劇活動を開始する。92年解散、93年にナイロン100℃を始動。99年、「フローズン・ビーチ」で第43回岸田國士戯曲賞を受賞し、現在同賞の選考委員を務める。また、第40回菊田一夫演劇賞(15年)、平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞(16年)、第51回紀伊國屋演劇賞個人賞、第24回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第68回読売文学賞戯曲・シナリオ部門、第4回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞(以上、17年)など、受賞多数。
今後も【イギリス現代演劇】【ハロルド・ピンター】【アーサー・ミラー】【岸田國士】など、随時アップしていきます。