渡辺えり子2

【渡辺えり編】ハヤカワ演劇文庫50冊を一挙紹介!~本を読んだら劇場へ、舞台を観たら本を手に。~

早川書房は演劇青年だった創業者・早川清の「自由に本が読みたい」という決意のもと、1945年8月15日に設立された出版社です。その創業の志をつなぐ演劇専門レーベル「ハヤカワ演劇文庫」は2006年に創刊。15年にわたり国内外の優れた戯曲をご紹介してきました。そしてハヤカワ文庫50周年にあたる今年、50冊目の演劇文庫「ピーター・シェーファーⅠ」を刊行いたします。この節目に、ハヤカワ演劇文庫の既刊をご紹介!今回は日本の演劇界を長年にわたり牽引する劇作家・渡辺えり編です。息を詰めて緊密なドラマの展開を追うもよし、詩情あふれる台詞に陶酔するもよし。あなただけの戯曲の楽しみ方を探してみてください。

渡辺えりIII

1.「渡辺えり子Ⅰ 光る時間/月夜の道化師」

花田笑(えみ) ゴム工場脱け出して来たの。退屈な仕事よ。毎日毎日同じこと。鋏でチョキチョキゴムのへりを切るの。機雷の角に被せるんだって。(月夜の道化師)

老親との家族旅行先でくつろいでいると、見知らぬ客が次々と現われ、戸惑う家族をよそに酒盛りを始めた。やがて彼らは太平洋戦争末期、若き父と軍需工場で生死をともにした仲間だったことが明らかに。いま初めて知る、“必死の時”を生き抜いてきた父と家族の想いを描く「光る時間」。時代に翻弄された男と家族が辿った歳月を描く「月夜の道化師」。多彩に活躍する劇作家が家族への万感の想いを込めて紡ぐ心揺さぶる二篇。

解説/筑紫哲也 本体920円。

2.「渡辺えり子Ⅱ ゲゲゲのげ/瞼の女」

鬼太郎 それじゃ、これからの生きる道を述べよ。それが理にかなうものならば、許してしんぜようぞ。(ゲゲゲのゲ)

いじめられっ子マキオはあのダークヒーロー、鬼太郎とともに、学園に巣食う妖怪退治に挑む。だが〈最後の妖怪〉の正体は思いもよらぬ……岸田戯曲賞受賞作『ゲゲゲのげ』。まだ見ぬ母、海、恋人を求めて夢と現をさまよう青年。彼が出逢った奇妙な面々とは……紀伊國屋演劇賞受賞作『瞼の女』。この世ならぬものたちとの邂逅をつうじて、喪われた魂と絆の再生を描く、禍々しくもリリカルな二篇の鎮魂歌。

解説/美輪明宏・林あまり 本体1000円。

3.「渡辺えりⅢ 月にぬれた手/天使猫」

節子 好ぎだ。好ぎだ。好ぎだ。好ぎだ。好ぎだ。ジージージージージー。(…)そして三日で死ぬのがあー。寂しい人生だなあ。蝉、蝉、蝉。やがましぞ。黙れ。蝉。黙れ。(月にぬれた手)

終戦後、花巻郊外の粗末な小屋。高村光太郎は大戦中の自身を厳しく省みる日々を送っている。ある日、亡き妻・智恵子の幻影が現れ――女性と地方の立場から、光太郎が象徴する都会の男性中心社会を問い直す『月にぬれた手』。東北地方の瓦礫の中でケンジは、妻の遺体を探す「猫」と出会う……東日本大震災と向き合い続ける著者が、宮澤賢治の人生と作品を織り交ぜて描いた、鎮魂と祈りの音楽劇『天使猫』。高村光太郎と宮澤賢治をモチーフにした、渡辺えりの円熟の夢幻劇二篇 。

解説/山口宏子 本体1500円。

渡辺えり 劇作家・演出家・女優・歌手。舞台芸術学院、青俳演出部を経て、1978年に「劇団3○○(さんじゅうまる)」を結成。97年の解散まで、主宰・劇作家・演出家・女優の4役をつとめる。『ゲゲゲのげ』(1982)にて岸田國士戯曲賞、『瞼の女』(1984)の作・演出にて紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。現実と幻想の入り乱れるノスタルジックな世界を描いた独特な作風で多くのファンを魅了している。舞台にとどまらず、映画やテレビでも個性を発揮。83年NHK『おしん』で国民的人気を獲得。96年映画『Shall we ダンス?』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。04年『今昔桃太郎』、07年『新版 舌切雀』で、歌舞伎の作・演出もつとめる。同年9月に「渡辺えり子」より「渡辺えり」に改名。


第一回【アメリカ現代演劇編】はこちら。

今後も【イギリス現代演劇】【フランス現代演劇】【アーサー・ミラー】【岸田國士】など、随時アップしていきます。