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ハヤカワSF

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ハヤカワ文庫SFや、新ハヤカワ・SF・シリーズなどの話題作品の解説、試し読みを公開中。
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#ハヤカワSFコンテスト

【書評】三田誠:『標本作家』/〈異才混淆〉とシェアードワールドについて

【書評】三田誠:『標本作家』/〈異才混淆〉とシェアードワールドについて

大好評発売中の第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』。本記事では『S-Fマガジン』2023年6月号(4/25発売)に掲載予定、作家/ゲームデザイナーの三田誠さんによる『標本作家』の書評を先行公開いたします!

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 すでに人類が滅びた遠未来。高等知的生命体である「玲伎種」は、かつての人類から名だたる文豪たちを復活させ、不死固定化処置を施した後、専用の収容施設〈終古

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小川楽喜『標本作家』第二章⑨ チャールズ・ジョン・ボズ・ディケンズ 十九世紀最大の小説家

小川楽喜『標本作家』第二章⑨ チャールズ・ジョン・ボズ・ディケンズ 十九世紀最大の小説家

(第15節はこちらの記事に掲載しています。)

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 ──そうして、時代は、十九世紀へと戻ってきます。

 チャールズ・ジョン・ボズ・ディケンズ。十九世紀最大の小説家。イギリス国民からもっとも愛された作家。
〈終古の人籃〉で調べたかぎり、彼の作品は千年以上にわたって読み継がれていました。貧苦と孤独のなか、ロンドンの片隅にあった靴墨工場で働いていた少年が、ジャーナリストというキャリアを経て、英国

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小川楽喜『標本作家』第二章⑧ クレアラ・エミリー・ウッズ 世紀不明、人類最後の文学者

小川楽喜『標本作家』第二章⑧ クレアラ・エミリー・ウッズ 世紀不明、人類最後の文学者

(第14節はこちらの記事に掲載しています。)

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 クレアラ・エミリー・ウッズ。世紀不明。どこにも属さない作家。
 おそらくは人類最後の文学者です。そして、人類初の、標本化された作家でもあります。
 彼女を既存のジャンルのいずれかに当てはめるのは不可能、いえ、無意味といっていいのではないでしょうか。あまりにも逸脱しているのです。彼女の書いたものの一側面に目をむければ、そこには狂想的な思索の断

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小川楽喜『標本作家』第二章⑦ マーティン・バンダースナッチ 二十八世紀の児童文学作家

小川楽喜『標本作家』第二章⑦ マーティン・バンダースナッチ 二十八世紀の児童文学作家

(第13節はこちらの記事に掲載しています。)

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 マーティン・バンダースナッチ。二十八世紀の児童文学作家。
 ……二十八世紀ともなれば、世界のありようが劇的に変わり、その言及にも労を要すると思われるかもしれませんが、文明の発達度という点では、先述した二十四世紀のころと、たいした違いはありませんでした。
 あのナノマシンの異常によって起こった連続狂死事件以降、ナノテクロノジーの研究が禁止され

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小川楽喜『標本作家』第二章⑥ エド・ブラックウッド 二十四世紀のホラー作家

小川楽喜『標本作家』第二章⑥ エド・ブラックウッド 二十四世紀のホラー作家

(第12節はこちらの記事に掲載しています。)

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 エド・ブラックウッド。二十四世紀のホラー作家。
 彼の著したホラー小説が社会にどのような影響を与えたか、それを語るには、まず二十四世紀という時代の背景について述べなければいけません。
 二十世紀にウィラル・スティーブンが執筆したSF小説にあるような未来は、完全な形ではおとずれませんでした。一部、実現したものもありますが、基本的には近代以降の

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小川楽喜『標本作家』第二章➄ ロバート・ノーマン 二十二世紀のミステリー作家

小川楽喜『標本作家』第二章➄ ロバート・ノーマン 二十二世紀のミステリー作家

(第11節はこちらの記事に掲載しています。)

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 ロバート・ノーマン。二十二世紀のミステリー作家。
 ミステリー小説をとりまく情勢は、二十二世紀に大転換をむかえることになります。インターネット上で「ミステリー小説の世界に飛びこむ」ということを試みたゲームが開始され、そこから数々の名作が発表されるようになったのです。
 そのゲームは〈解しがたき倫敦〉というもので、仮想空間につくられたロンドン

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小川楽喜『標本作家』第二章④ ウィラル・スティーブン 二十世紀のSF作家

小川楽喜『標本作家』第二章④ ウィラル・スティーブン 二十世紀のSF作家

(第10節はこちらの記事に掲載しています。)

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 ウィラル・スティーブン。二十世紀のSF作家。
 彼は、サイエンス・フィクションという分野の創始者ではありませんし、二十世紀においてより著名な「ビッグ・スリー」と呼ばれるSF作家たちのひとりに数えられているわけでもありません。──が、SFの全史を語る上では欠かせない、偉業をなした人物だということに異論をはさむ者は少ないのではないでしょうか。

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小川楽喜『標本作家』第二章③ ソフィー・ウルストン 十八世紀のゴシック小説家

小川楽喜『標本作家』第二章③ ソフィー・ウルストン 十八世紀のゴシック小説家

(第9節はこちらの記事に掲載しています。)

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 ソフィー・ウルストン。十八世紀のゴシック小説家。
 人類史でもっとも愛された魔人たちを生みだした作家です。吸血鬼。人造人間。狼男。これらはすべて彼女の創作であり、そこから多くの読みものや映像作品が誕生しました。フィクションの存在でありながら、人類が滅び去るまで、途絶えることなく私たちに恐怖と怪異をもたらしました。
 なぜに、こうも愛されたので

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小川楽喜『標本作家』第二章② ラダガスト・サフィールド 二十世紀のファンタジー作家

小川楽喜『標本作家』第二章② ラダガスト・サフィールド 二十世紀のファンタジー作家

(第8節はこちらの記事に掲載しています。)



 ラダガスト・サフィールド。二十世紀のファンタジー作家。
 人類史でもっとも偉大な幻想文学をたちあげた作家です。現実には存在しない架空の世界を創造し、それにもとづく神秘的な物語を発表しました。かつては彼の個人的な夢想にすぎなかったものが、人類全体の巨大な夢へと変貌していったのです。
 人は、事実にそったことのみを著述してきたわけではありません。古

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小川楽喜『標本作家』第二章① バーバラ・バートン 二十一世紀の恋愛小説家

小川楽喜『標本作家』第二章① バーバラ・バートン 二十一世紀の恋愛小説家

第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』第一章「終古の人籃」特別公開に引き続き、第二章「文人十傑」もあわせて特別公開いたします。本記事を含めて全九回、一日一節ずつ更新いたします。
また、『標本作家』特別公開は第二章までとなります。第三章「痛苦の質量」以降につきましては、本書をご購入のうえお楽しみいただけますと幸いです。

(「第一章 終古の人籃」はこちらの記事で掲載しています

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【1/24刊行】圧倒的な完成度で描かれる、人類未踏の仮想文学史SF! 第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』第一章「終古の人籃」特別公開!

【1/24刊行】圧倒的な完成度で描かれる、人類未踏の仮想文学史SF! 第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』第一章「終古の人籃」特別公開!

(2023年1月19日 9:35 2023年1月18日 17:00に公開した内容に、実際の小説とは異なる表記がありましたので、修正いたしました。ウェブ掲載版は、『標本作家』の本文と一致する内容を目指しております。お詫びして訂正いたします。)
(2023年1月20日 16:50 改行の位置や、字下げの有無などでミスがありましたので、再度修正いたしました。修正前の文章は、書籍版『標本作家』本来のもので

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【1/24刊行】第10回ハヤカワSFコンテスト大賞、小川楽喜『標本作家』その驚異の設定と「受賞のことば」特別公開!

【1/24刊行】第10回ハヤカワSFコンテスト大賞、小川楽喜『標本作家』その驚異の設定と「受賞のことば」特別公開!

第10回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、小川楽喜『標本作家』を2023年1月24日に刊行いたします。前年の人間六度『スター・シェイカー』に続く大賞受賞作となる本作は、最終選考会において神林長平・小川一水・菅浩江の三氏から、その高い完成度に対する激賞を受けました。その大胆な想像力と繊細な描写力は、SFコンテスト史上最高級の美しさを誇っているといっても過言ではありません。
今回の記事では、『S-Fマ

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【4/20刊行!】加藤直之氏のカバーイラスト完全版公開! ハヤカワSFコンテスト出身・春暮康一が、国産ハードSF史を更新する傑作中篇集『法治の獣』刊行!

【4/20刊行!】加藤直之氏のカバーイラスト完全版公開! ハヤカワSFコンテスト出身・春暮康一が、国産ハードSF史を更新する傑作中篇集『法治の獣』刊行!

2022年4月20日、春暮康一氏の異星生命体SF中篇集『法治の獣』を刊行!

緻密な驚きが星々に息づいている。また新しい宇宙がSFに生まれた  ――小川一水(作家)

高揚感・知的興奮に満ちた、第一級のストレートなSFである。    ――山岸真(SF翻訳業)(本書解説より)

第7回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作『オーラリメイカー』の系譜につながる、超弩級のアイデアが詰まった異星知性体ハードS

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