見出し画像

コミュニケーションに自信を持ってほしい。『マッチングアプリの心理学』著者ミミ・ワインズバーグさんインタビュー

「まだ起きてる?」というメッセージに込められた本当の意味は?
文末が「……」で省略されているわけとは?
マッチングアプリでのカップルのやり取りを、「メッセージ文解釈の達人」を自認する精神科医の著者が分析した話題の新刊『マッチングアプリの心理学 メッセージから相手を見抜く』(ミミ・ワインズバーグ著、尼丁千津子訳、早川書房)
ハーバード大に学び、スタンフォード大で25年の臨床経験を積み、フェイスブックの産業医も務めた経験豊富な著者はなぜ、マッチングアプリをテーマに執筆したのか? ミミ・ワインズバーグさんにメールでインタビューしました。

>>本文の試し読み(メッセージ文に「……」や「!」を多用する人の性格は?『マッチングアプリの心理学』からコミュニケーション術を伝授)はこちら

オンラインの出会いは「現実」

――『マッチングアプリの心理学 メッセージから相手を見抜く』が日本でも刊行されました。初の著書のテーマに、なぜマッチングアプリ上のコミュニケーションを選んだのでしょうか? また、精神科医という仕事と「メッセ―ジ文解釈」との関係を教えてください。

著者 ミミ・ワインズバーグさん

ミミ・ワインズバーグさん(以下同):独身のときにマッチングアプリを使っていて、「20通以内のメールで精神科の診断ができる」と冗談を言うようになったんです。もちろん単なる趣味ではなく、それはある意味で、私のキャリアから来るものです。

フェイスブックの精神科医として勤務していたときに、私の患者は最もテクノロジーに精通した人々でした。でも、彼らのパートナー候補からのメッセージ文を解読することに、どれだけのセッションを割いたことか。彼らは誰よりもこの手のことを理解し、アルゴリズムを微調整している人たちのはずなのに。彼らはあなたがどう動くかを知っている。さらに私は精神科医として、彼らがどう動くかを知っている、というわけです。

私はデジタル・メンタルヘルスの最前線にも立ってきました。6年前には「ブライトサイド・ヘルス」という会社を共同設立しています。リモートでのメンタルヘルスの分野が急成長している中で、遠隔ツールを使っての診断、予測、トリアージを行っているのですが、それは私がこの本に書いたことと同じ原則に基づいています。

――日本でも人気のマッチングアプリは登録者数が2000万人いるほど、カップルが出会う場の主流になりつつあります。現実で出会うのとは違う、特有のむずかしさはどんなところにあると思いますか?

実際に会うのとオンラインで会うのとでは、明らかな違いがありますよね。オンラインでは非言語的な合図がありません。表情がないし、声のトーンもない。それはむずかしさの一部になっています。

でも、デメリットと同様にメリットもあります。マッチングアプリでのゴールは、テキストで良い第一印象を与えること。髪をとかす必要もないし、化粧をする必要もないんです。視覚的な手がかりがないので、気が散ることなく相手の話に集中できる。相手が言っていることに必ずしも意味がなくても、もしくは分からなくても、相手の言っていることそのものに集中することができる。

本でも言及していますが、「シンスライス」という言葉があります。データのごく一部(相手の言っていること)から、より大きな〝絵〟(その人そのもの)を推定すること。ある人の第一印象は、その人をより知った後よりも正確かもしれない...…という考え方です。ただし、あなたが「何を見るべきか」が分かっていれば、ですが。人間関係は発展するにつれて感情が絡んできます。一回キスをしてしまったら、客観性を失ってしまうでしょう?

メッセージ文はスローなやり取りです。多くの場合、これはテニスやスカッシュではなくバドミントンなんです。すべてのメッセージ文はロブ。忍耐力があれば、返事をする時間はたっぷりあります。ひとつ問題があるとすれば、それは完璧主義。間違ったことを言うのではないかという恐怖でフリーズしてしまう人もいます。

オンラインでの出会いは従来の出会い方よりいいのか悪いのか?という議論がありますが、これは「現実」なのです。これが今のやり方。だから、私たちはそれを最大限に活用すべきです。

メッセージ文は「新しい言語」

――そんなときに、この本が役に立ちますね。日本の読者に向けて、どんな意図で書かれた本か、改めてご紹介をお願いします。

『マッチングアプリの心理学 メッセージから相手を見抜く』(ミミ・ワインズバーグ著、尼丁千津子訳、早川書房)
『マッチングアプリの心理学』早川書房

この本はコミュニケーションについて書かれています。私たちはみな、コミュニケーションしています。世界のどの地域にいるかは関係ない。もちろん、コミュニケーションの方法には文化的な違いがあるので、私が理解できるものもあれば、そうでないものもたくさんあります。例えば、少し微笑んだような絵文字を使うとき、アジア文化圏では微笑みかもしれないけれど、アメリカでは軽い苛立ちを表すかもしれないですよね。

マッチングアプリでのメッセージのやり取りから長期的な関係の構築まで、人間関係のあらゆる段階で交わされるメッセージ文を解釈するのにこの本が役立てば、と思っています。私がこの本で一番したかったことは、人々に自信を与えること。無駄に時間を使ったり、傷ついたりすることを避けるために、より賢く振る舞うことを教えたかったのです。

――アメリカでの評判はいかがですか?

好意的に受け止められていると思います。役に立ったし、おもしろいと言われました。ひとつ後悔しているのは、私はみんなに自信を与えるために書いたのに、メッセージ文から相手を読み取る手がかりについて詳しく知ったことで、自分の文章について自意識過剰になってしまった人がいることです。

――本書は実際のメッセージ文のやり取りがたくさん引用されていて、アメリカのカップル事情が垣間見られるところも興味深かったです。ワインズバーグさん自身もマッチングアプリを使っていて、そこでの経験もさらけ出していますが、あえてそのようにしたのでしょうか?

私の仕事のおもしろいところは、人々の感情や人間関係を最前列で見られること。だから彼ら彼女らから学ぶことができるような方法で、親密なやり取りのいくつかを共有したいと思いました。

私自身のことは、そうするのがフェアだと思ったからです。読者は私の肩越しに、私が見ているものを見ることができますよね。

――最後に、マッチングアプリに限らず、現代は短文でのコミュニケーションに多くの時間が割かれています。そうしたコミュニケーションで大切なことは何だとお考えですか?

メッセージ文は新たな言語です。私たちがメッセージ文を交わしはじめたのは、スマートフォンが普及した2007年から。今では恋愛でも仕事でも、コミュニケーションの主流となっていますよね。私たちの脳はまだこの新しい言語に追いつくのに必死です。だからこの言語について、できる限り学ぶことが賢明だと思います。


気になる内容はぜひ本書でご確認ください(電子書籍も同時発売)

著者略歴

ミミ・ワインズバーグ (Mimi Winsberg, M.D.)
ハーバード大学で神経科学の学士号を取得し、スタンフォード大学で25年の臨床経験を持つ精神科医。デジタル行動ヘルスケア企業「ブライトサイドヘルス」の共同設立者であり、フェイスブックの産業医としても勤務した。本書は初の著書。

記事で紹介した本の概要

『マッチングアプリの心理学 メッセージから相手を見抜く』
著者: ミミ・ワインズバーグ
訳者: 尼丁千津子
出版社: 早川書房
発売日: 2024年1月24日
本体価格: 2,700円(税抜)

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!