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【連載05】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧プレッシャー

ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを辞任していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧プレッシャー

山口優

Episode 3 「パーティの夜」

Part1
 ――結局、わたくしはこの順位で終わってしまうのね。
 つい先ほど、士官学校の卒業式は無事に終わった。
 吉備分校との強襲揚陸演習から、更に半年が経っていた。睡眠時にも学習を強いる効果的な教育により士官学校は一年で卒業となる。大和本校の士官学校生一〇〇〇名は、三〇名の脱落者を出したのみで、他は全員卒業に至っていた。
 今は卒業後のダンスパーティ。
 ルリハはドレス姿であった。トレードマーク(と自分では思っている)瑠璃色の派手なドレスで、自分らしい――と思うものであったが、もう少しおとなしめのものにすべきであった、と後悔していた。
背中と胸元が大胆に開いたデザインのイブニングドレスで、ルリハのスタイルの良さ、美しさを十二分に表現するものであったのだが。
 いつもは謹厳な士官学校だが、無礼講のような雰囲気の場合もある。卒業後のダンスパーティはまさにそれで、ドレスの規定も緩く、このような大胆な装いも許されていた。
 ――しかし、順位三位風情が、こんなに派手では情けない。
 ルリハはうつむいた。
 卒業時に発表された士官学校大和本校の成績順は、翠真ユウリが一位、科戸ナオが二位、そして、洲月ルリハが三位であった。
 順位は訓練成績や演習成績、そして、睡眠学習の効率など、全ての総合成績として随時更新されているが、吉備分校との強襲揚陸演習の頃から、一位であったルリハの地位は徐々に脅かされていった。まずユウリが台頭し、それにくっつくようにナオがユウリの次の地位をキープし始めた。その次がルリハ。だが、さらに、誉萪内よしだサツキ、佐紘マヒロといった学生が、ルリハを追い抜くべく成績をあげてきていた。
 ――正直、三位というのもぎりぎりだった……。
 ため息を大きくつく。
 ドレスを発注したのは三ヶ月前だった。その頃はまだ、一位に返り咲くイメージを持っていたのだ。
「よ。ルリハ。どうしたんだ? 元気ないな」
 デリカシーのない声がする。その声は間違いようがない。
「……科戸ナオ。なれ合いはしないと何度もいったはずですわ」
 ぎろりとにらむように、声のした方を見やる。
 科戸ナオがそこに立っていた。それに翠真ユウリ。そして、誉萪内サツキ、佐紘マヒロも。
 まず視界に入ってきたのは科戸ナオの装いだ。彼女は自分の順位などにはあまり頓着しない性格かもしれない。ただ、彼女の派手すぎる赤いドレスは、自分よりも上の成績を取った者特有のアピールを感じられ、不快であった。
 一方のユウリ。首元までぴったりと覆い、極端に肌の露出の少ないレースのドレス。ただし、スカートではなくズボンであり、女とも男ともとれる装いに仕上げていた。一位を取ったくせに自信のないこと、とあきれたが、彼子のコンプレックスが表出している結果なのかもしれない。
(――ふん、ま、そんなことわたくしには関係ありませんけれど)
 突き放すようにそう思う。
 サツキは、おとなしめのデザインの深い紫のドレス。マヒロはタキシードだった。サツキが、にやにや笑いながら、隣のマヒロの腕を肘で小突く。
「……いやいや、ごめんね。このマヒロのやつがさ、ダンスのお相手がいなくて困ってるんだってさ。ここにいるメンツのなかで、誰かお相手してやんない、って話をしててね」
 サツキがとりなすように言う。ルリハはあきれた。
「――そんなもの、マヒロが勝手にやればいいことですわ。わざわざわたくしたちが五人も集まって相談することでもないでしょう」
(我が士官学校の成績トップの学生たちが、こんな不真面目な話しかしてないなんて。これを連合圏が知ったら小躍りして喜ぶでしょうよ)
 それからサツキ、マヒロを交互に見た。
「サツキ、そんなにマヒロを気にかけてるんだから、あなたがお相手してあげればよろしいでしょう。わたくしに話すことではありませんわ」
「……と、ルリハは言ってるけど」
 サツキがマヒロに言う。
「む……。そうか。ルリハ」
 マヒロはそれだけ言った。ナオがにやにや笑いながらサツキ、そしてマヒロを見、マヒロを小突く。
「正直に言え、マヒロ。この中で誰がいいんだ? サツキはお前が誰に興味があるのか知りたがってるみたいだぞ。みんな美人じゃないか。よりどりみどりだ。オレも男を選んでてもよかったな、とお前を見てると思うよ」
「……ふん。お前は自分が女でも男でも、好きに遊ぶだろうさ」
 マヒロは冗談を返すように言うが、その声は固い。
「む……そうだな……ユウリ、相手を頼めるか?」
 マヒロが緊張しっぱなしのような状況の中で、やっと言った。
「えええええ! マヒロはユウリが気になってたの!」
 サツキが焦ったように言う。顔を紅潮させ、無意識にマヒロとユウリの間に立っている。
「いや、ちょっと待って待って、ボクは女ではないし……男でもないけど……」
 ユウリは後ずさっていく。
「おいおい、ちょっとまて。それならオレが相手になってやるよ」
 いつもは余裕の笑みを常にたたえているナオも若干焦り気味に、マヒロに迫る。
(……本当に、この人たち、『青春』してますのね……)
 ルリハは取り残されたように感じた。彼女は必死だった。自分のポジションをキープするために。だが、彼女を追い抜き、あるいはそのポジションを脅かしてきた者たちは、その中でも充分に様々なことを楽しんできたのだ。
 そのことが、予想よりも重い衝撃をルリハの心に与えていた。
(ここから退くのは気に入りませんわね)
 ルリハは肩をすくめて見せた。
 ここ――というのは、こういう他愛のない会話のことだ。
「ユウリは嫌がっているようですわ。ここはマヒロ、わたくしがお相手してさしあげましょう。それでよろしくて?」
「ちょっとルリハ……!」
 迫ってくるサツキの肩にルリハは手を置いた。
「それが本心ですのに、わざわざわたくしたちを当て馬にしようとしたのがよくないのですわ。ほら、マヒロと踊りなさいな」
 そう言って、微笑みかける。パン、と手を鳴らした。
「これでよろしいですわよね? はい、解散」
 サツキは顔を真っ赤にして、マヒロを連れて離れていった。マヒロはちらちらとユウリに視線をやっていたが、渋々といった様子で離れていく。
「……名采配だな、お嬢様」
 ナオが言う。
「名? ――マヒロのことは無視してますわ。サツキは親しい友人ですから」
「まあそれでもさ……。あんたは踊る相手はいるのかい? オレはユウリと踊るつもりだが」
「――適当に探しますわ。わたくし、人気ありますのよ。ご存じないかもしれませんが」
「ああ、知ってるぜ。あんた、余裕があるときは優しいもんな。ユウリに対するときにはそんなに余裕がないのかい」
「しりませんわ」
 ルリハは顔を背けた。
「困ったお嬢様だ……。ま、この学校にはいろんなやつがいる。あんたみたいなやつもいれば、オレみたいなやつも……いろんなやつがな。それはそれでいいのかもしれん。アルヴヘイムのように、ひとつの考えだけだとつまらん」
 ナオは言う。それから、さ、行くぜ、ユウリ、と声をかけ、ユウリと一緒に去って行った。
 それを淡々と見送るルリハ。
 思い出してみると、ユウリとは一言も話していなかった。
(ウカノおばあさま、つまらない女ですかね、わたくしは……)
 そう、心中、寝祖母に話しかけてみる。それでも、彼女は自分からユウリに話しかける気にはどうしてもなれなかった。

2022/12/29/12:00更新【連載06】に続く


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