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腹が減っては捜査はできぬ。『パリ警視庁迷宮捜査班』、注目の食事シーンを紹介!

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「フランスの『特捜部Q』」とも評されるコミカル警察サスペンス、『パリ警視庁迷宮捜査班』。
停職明けの熱血警視正カペスタン率いる曲者ぞろいの特別班が、迷宮入りした事件の捜査に奔走します。
スリルと笑いたっぷりのストーリーはもちろんのこと、山本知子さんによる訳者あとがきにも書かれているように、作中にたっぷり登場する、おいしそうな食べ物の描写も大きな魅力のひとつです。
今回は、本文中から、読むとおなかが減ってしまう食べ物登場シーンを抜粋しつつ、個性豊かな特別班のメンバーもご紹介します。


クルーズ県のリンゴジュースとジャガイモのパテ

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事件の捜査で被害者の弟の住むクルーズ県へ行ったカペスタン警視正とトレズ(組んだ相手がことごとく事故に遭う、通称”死神”)は、ひょんなことから地域のお祭りに林檎を届ける彼の仕事を手伝わされることに……。

 カペスタンとトレズはジュースを飲んでみることにした。花柄のエプロンをした快活な女性が、セーヌ河の水より濁ったジュースをプラスチックのコップに入れてくれた。
(略)
 カペスタンは紙皿にのったジャガイモのパテを2人ぶん買ってきた。2人はそれを手づかみで食べながら、出店者たちをさらに眺めた。(132頁)


ニシンとジャガイモのオイル和え

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いつもワインで酔っぱらっているメルロ警部の悪だくみシーン。

 メルロは、ニシンとジャガイモのオイル和えの皿が置かれたテーブルについた。コート・デュ・ローヌをグラスに注ぐと、強靭な手のひらでまたボトルの栓を押し込んだ。グラスを口に運んだそのとき、ふと思い出したことがあった。思わず手が止まる。(158頁)


タルティーヌ(フランス風オープンサンド)

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兼業脚本家のセレブ警部ロジエールの優雅な朝食。この作品の隠れた読みどころはロジエールの愛犬・ピルーのふてぶてしい愛らしさです。

 《カフェ・デ・ソーニエ》の青い建物の壁には、詩人が描いたというカモメの群れをモチーフにしただまし絵(トロンプ゠ルイユ)がある。ロジエールはそのカフェのテラスで、紅茶とタルティーヌの朝食をとっている。ピルーはペット用の皿をぺろぺろと舐めてきれいにすると、その皿をテーブルの周りに置かれた椅子の脚のほうへ押しやった。(167頁)


ハンバーガー

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酔いどれメルロの手にかかれば、ハンバーガーを食べるシーンも一大スペクタクルに。

 メルロは、冒険好きの探検家のような顔でチーズバーガーを食べはじめた。ジャンクフードという未知の世界に足を踏み入れ、柔らかいパンにがつがつかぶりつく。大量のケチャップがハンバーガーの反対側に漏れ出した。サーファーのようにバランスをとりながら輪切りのピクルスがソースの上を滑り、すでに染みのついているメルロのネクタイの上に座礁する。メルロは動じることなく紙ナプキンをつかんでさっとこすった。すると、今度はマスタードが戦線を離脱、テラスのタイルの上に落ちた。ピルーは何か落ちたと嗅ぎつけたものの目当てのものではなかったので、肉のかけらが落ちてくるのを待つことにした。(181頁)


ビスケット

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ギャンブル依存症の警部補、エヴラールはなんでも賭け事にしようとしてしまいます。

 エヴラールはビスケットの四隅をカリカリとかじりながら、周りにもビスケットの箱を差し出して勧める。ダクスが手を伸ばした。
 すると、エヴラールはダクスの耳元で言った。「あなたが1分で3枚食べられるかどうか、10ユーロ賭けない?」
「賭けはダメよ!」すぐにカプスタンが口をはさんだ。
「で、1分間に何枚ですって?」
「3枚です」そう言うと、エヴラールはしぶしぶうなずいた。ご指示に従いますということだ。
「たった3枚?!」ダクスが吹き出した。
 ひと暴れしたくてうずうずしていたダクスは、両足を踏ん張り、腕を体に沿わせるようにして身構えた。それから、両手をぶらぶらさせて、頭を回し、首をほぐした。
「やってやろうじゃないか」(182頁)


ベトナムの麺

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寡黙な警視、ルブルトン。この電話のあと、さらなる事件が……。

 ルイ゠バティスト・ルブルトンは、ヴォルタ通りにあるベトナムレストランの奥の部屋にいた。天井すれすれの高いところに置かれたテレビから、音のないビデオ・クリップが流れている。ルブルトンはそれを観るとはなしに眺めながら、出された麺にソースをしっかりからめた。そして、大きめの鉢を手に持ち、箸の先でソースがしたたる麺をつまみ上げたそのとき、フォーマイカのテーブルの上に置いてあったiPhoneが振動した。(187頁)

カモのコンフィ

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警視庁のお荷物部隊である特別班は、事件の捜査に参加させてもらえません。ブラスリーで待ちぼうけ。

 2時間後、刑事部がちっとも撤退しないので、特別班のメンバーたちはまだブラスリーにいた。エヴラール、ダクス、レヴィッツはバーカウンターの脇に立って《421》(サイコロを使うフランスのゲーム)をしている。そのあいだメルロは、自分の偉業をさらに膨らまして話しつづけていたが、3人とも聞いていなかった。オルシーニはカペスタンの横の出窓のところで、ゲームには参加せず、自分の大きな手を見つめていた。ロジエールはというと、彼らのうしろのテーブルを独り占めして、《カモのコンフィとジャガイモのトリュフ風味焼き》を切り分けていた。(206頁)


玉ねぎ、オリーブ、パルメザンのパスタ 

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それぞれにさみしさを抱える特別班のメンバーたちは、次第に絆を深めていきます。

「タマネギ、オリーブ、パルメザンチーズのスパゲッティ、私のレシピよ。よかったらどうぞ、特別班のためにつくったんだから……」
「喜んで」カぺスタンはそう答えると、手首にはめていた黒のゴムひもで髪をまとめた。
(略)
 夕食のあいだ、3人はスパゲッティをがつがつ食べた。添えられたのは、コート・デュ・ローヌのワインと、警察官をネタにしたエピソード、テレビ局での珍事、ピルーの話などだ。そして、ロジエールとルブルトンが煙草を吸いにいっているあいだに、カペスタンは暖炉に火をおこした。ピルーは毛が焦げることも心配せずに、鼻先を暖炉に向けて注意深く見張っていた。(222頁)


サンドイッチ

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TakenによるPixabayからの画像  

元ボクサーのダクス警部補、ハンガーストライキを「休憩」します。

 ダクスは、《ハンガーストライキ》というプラカードの杭を両膝のあいだにはさんで、黄色とグレーのリュックから電話帳よりも分厚いサンドイッチを引っ張り出した。アルミホイルをはがすと、ハムやソーセージの強烈なにおいが秋のさわやかな空気の中に蒸発していった。
「ひと口食べる?」ダクスがエヴラールに訊いた。
「ハムとチキンとベーコンとパストラミ。母さんがつくったんだ。サンドイッチが得意なんだよ。ほんのちょっとマスタードを入れるけど、レタスとか葉っぱは使わない。だからパンが湿ったりしないし、キッチンペーパーを巻いてアルミのにおいが移らないようにしてるんだ。食べる?」
 エヴラールが笑顔で断ると、ダクスはその大きな構造物にかぶりつき、見るからに満足そうな顔をした。(248頁)


ピザ

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クライマックス直前、特別班みんなでピザを食べ、ロジエールが脚本を担当したドラマ『ローラ・フラム』を視聴。

 ルブルトンが腕時計に目をやる。20時。伸びをして、デッキチェアからすっくと立ち上がる。それから、ピザを注文しようと提案した。トマト・マッシュルーム・ハム・オニオン入りを2枚、トマト・オリーブ・オニオン入りを2枚、トマト・マッシュルーム・ハム・アーティチョーク入りをチーズ増量で1枚、あとマカデミアナッツ入りバニラアイスを3カップ、ということで意見が一致した。(262頁)


もちろん、この作品の魅力は食べ物だけではありません。スリリングなのにたくさん笑えて、読み終わった後さわやかな気持ちになれるストーリーも必見です。初夏の読書にぜひ!

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パリ警視庁迷宮捜査班
ソフィー・エナフ/山本知子、川口明百美訳
本体1,800円+税
早川書房より好評発売中!