【第3シーズン7/18刊行開始記念】《ローダンNEO》おさらいその4:本国で刊行の200巻までの展開を紹介する、井口忠利氏による第17巻『テラニア執政官』の解説を掲載!
世界最長のSFシリーズ《宇宙英雄ローダン》、そのリブート企画として始まった新プロジェクト《ローダンNEO》。2019年7月より全8巻毎月刊行が始まった第3シーズン〔銀河の謎篇〕。
これまで、第1シーズン〔テラニア誕生篇〕、第2シーズン〔ヴェガ遠征篇〕のあらすじを紹介してきた。
【第3シーズン7/18刊行開始記念】《ローダンNEO》おさらいその2:第1シーズン〔テラニア誕生篇〕(第1~8巻)のあらすじを掲載!
【第3シーズン7/18刊行開始記念】《ローダンNEO》おさらいその3:第2シーズン〔ヴェガ遠征篇〕(第9~16巻)のあらすじを掲載!
《ローダンNEO》おさらいその4では、現在ドイツ本国で刊行されている200巻までの展開を紹介。もはやおさらいではないがそれはそれ。
第3シーズンスタートの第17巻『テラニア執政官』に掲載された長年のローダンファンである井口忠利氏による詳しい解説を一挙掲載します!
NEO200巻までの軌跡
ペリー・ローダンファン
井口忠利
本国ドイツでは2019年、〈宇宙英雄ローダン〉シリーズ(以下早川書房の呼称に従い「正篇」と呼ぶ)は2月15日に3000巻に、〈ローダンNEO〉シリーズ(以下同理由により「NEO」と呼ぶ)は5月17日に200巻に到達した。
2月9日にミュンヘンにて開催された3000巻記念イベントの様子は、正篇590巻にて訳者増田久美子氏による「あとがきにかえて」で詳しく説明されている。イベントではイラストレーターのアルント・ドレッヒスラー自身が、3000巻記念表紙の構想から完成まで約8週間かかったという全制作過程について、パワーポイントで詳しく説明していた。表紙の中央にペリー・ローダン、向かって左側には彼の5番目の奥さんであるシク・ドルクシュタイガー、右側はまだ謎の人物とされている異星人が描かれていた。
いずれにしても、発売当日そのポスターは駅のキオスクに大きく貼り出され、ケルンのような主要な駅ではプラットフォームにずらりと並ぶ電子看板に1斉に映し出されたりして、久々に新聞、雑誌、テレビなどでもニュースになった。ファンもさっそく買ったばかりの3000巻を1000巻、2000巻と並べて撮影した写真をツイッターやフェイスブックなどSNSに挙げたり、ビール片手に自撮り写真を挙げたりと盛り上がった。
NEOについても、正篇3000巻記念イベントの中で「どうなる200巻、Expose作家(“Expose〟は粗筋。以降は「プロット作家」とする。ファンはエクスポクラーテンとも呼ぶ)が語るこれから」と題して2人のプロット作家が解説するコーナーがあった。
ドイツのリレー小説のシステムとして、NEOもプロット作家による数ページ程度の個別のプロットと共に詳細な歴史・技術的背景や星系、宇宙船の描写や数値、キャラクターの外見や性格などを設定した指示書が作成され、各作家は設定の範囲内で自分の個性ある小説として仕上げるシステムを採用している。
ローダンNEOの第1期(期=エポック。第1期は全9シーズン100巻で構成されている。シーズンは、ドイツ語ではシュタッフェルと呼ばれている)のプロット作家は、フランク・ボルシュ(NEO第1巻に嶋田洋一氏による詳しい経歴解説がある)だった。
第2期のプロット作家リュディガー・シェーファーは1965年生まれ。熱心なローダンファンで、23歳からアトランファンクラブにてアトラン(正篇の人気キャラクター。後にNEOにも登場する)のファンジンを執筆していた。有名なローダンコンベンションであるコロニアコンの2006年大会では大会議長を務めている。アトランミニシリーズなどを執筆後、ミヒャエル・ブフホルツと共同でプロット作家となる。
ミヒャエル・ブフホルツが60歳で亡くなると、第3期はグラフィックデザイナー兼ファンタジー作家で、リュディガー・シェーファーと同年齢のライナー・ショルムがプロット作家を引き継ぎ主導している。5歳にしてキャプテン・フューチャーを読んで以来のSFファンで、12歳にして熱烈なローダン読者。彼は正篇を分析し独自のアイデアを持っていた。
正篇とNEOの作家チームは定期的に作家ミーティング(Autorentreffen)を開催している。新しいサイクルやNEOにおける期(エポック)が始まる前に、プロット作家からの細部の説明や、お互いにアイデアを出し合ったり議論したりするためだ。直近では200巻が近づいた2018年12月7日にフランクフルトでNEO作家ミーティングが開催された。
参加者は2人の女性作家と6人の男性作家に加え、編集長含めて編集部から3人の計11人だった。10時から始まった会議はまずNEOの発行部数や日本のライセンス、打ち切りとなったNEOのハードカバー版、3000巻に向けての状況報告、次の250巻までのキャンペーンなどについて話し合われた。初めて顔を合わせる作家もいるので、お昼のブュッフェでは美味しい料理を食べながら冗談を言い合ったり、笑ったりと親交を深めたという。午後はまず原稿の書き方について、そしてプロット作家による200巻以降の展開のプレゼンである。人類の技術的な発展、遺伝子工学、武器や社会的・政治的な未来世界についてコーヒーとケーキを食べながら議論して5時半に終了した。
200巻刊行に先立って、ホームページのコラム欄にはプロット作家2人によるショートストーリーが連載された。ローダンとトーラが植民地惑星を巡る「植民地周遊旅行」と題したものである(全6部7回)。連載第1回は、皇帝アンソン・アーガイリスの招待を受けて惑星オリンプのトレード・シティを訪問する話から始まる。200巻の刊行を前に、主な植民地を紹介して話題作りをするというキャンペーンである。ちなみに200巻からの予約特典として、これら植民地の位置が分かるNEO星図A3ポスターがプレゼントされた。
これまでのNEOにおける期(エポック)の開始巻は、第1巻、第101巻、第151巻なので、本来なら第4期は201巻から始まるべきなのだが、正篇の3000巻に合わせて、第19シーズンを全9巻で切り上げて、数字のキリが良い200巻からになった。
そして編集長クラウス・N・フリックはその200巻刊行にあたり、編集長ブログで次のように書いている。
「これは新しいシーズンが始まるばかりでなく、新しい期(エポック)でもある。2011年以来、作家チームはこれまでペリー・ローダン・シリーズに変更を加え、新しい要素を追加してきた結果、この8年間で別の世界として知られるようになった。2019年5月17日から、このシリーズに参加する素晴らしい機会となるだろう。200巻以降は全く新しいストーリーが展開される。物語はそれほど遠くない未来の2088年から始まる。この30年間でソラー連合が設立され、人々はエルトルス、プロフォス、シガ、そしてエプサルなどの惑星に植民地を築いていた。ナイク・キント、アンソン・アーガイリス、ロナルド・テケナー、イラチオ・ホンドロといった有名なキャラクターも登場し、全く新しいアイデアによって非常にエキサイティングに展開する。広大な銀河系にまだ若い人類にとって更なる発見と危険が待っている。人類は大惨事を乗り越えてきたばかりだが、新たな困難も待ち構えている」
それでは200巻までの8年間の経緯を振り返ってみよう。
2011年9月30日、NEO第1巻発売当日にあたりパベル・メーヴィヒ社はTVで初めてスポットCMを放送した。NEOは日本の文庫と新書の間くらいのタッシェンヘフトというサイズで、これはドイツでは女性向けロマン小説のサイズとされ、書店でNEOをSF文庫コーナーの棚に置いてもらおうという意図だった。
翌10月1日、50周年を記念してマンハイムで開催されたペリー・ローダン世界大会2日目、ラウンジでクラウス・N・フリック編集長、NEO担当編集者エリケ・ヴォーパとプロット作家フランク・ボルシュの3人によるNEOの詳細を解説する企画があった。アメリカンコミックのリブート作品と決定的に違う点は、正篇がそのまま続いていることである。「2つの宇宙が混在することはありません」と編集長が約束した瞬間に大きな拍手があった。私と友人のファンはこの企画に参加していたが、ずっと後ろの方だったので、なぜ盛り上がっているかさっぱり分からなかった。ただ、マンガ家マリエ・サンが会場で描いたイラスト付きの特装版NEO第1巻が配布されるとファンたちはさっと散って、思い思いに座り込み黙々とNEOを読み始めていたのは今でも忘れられない。
第1シーズンは正篇3000巻からのプロット作家であるクリスチャン・モンティロンやヴィム・ファンデマーンなど人気・実力作家が起用された。ジョン・マーシャルなどのサブキャラクターまでが生き生きと描かれ、宇宙船や科学技術は現実的で、環境や政治の描写など60年代初期の正篇とは大きく違っていた。
第2シーズンではファン出身作家などがNEOの新人作家として起用された。12巻ではドイツの億万長者がヴァルター・エルンスティング(正篇を立ち上げたクラーク・ダールトンの本名)の別荘を買っていて、未来でいまだ続いておりめでたく出版された正篇のドイツの週刊SFシリーズ3908巻を愛読するシーンなど、作家や正篇のオマージュもあり、スター・トレックやゴジラなどのSFネタが豊富だ。
NEO作家の数も3シーズン24冊だけで12人おり、そのうちオーストリア人2人、スイス人1人、女性も1人というだけでも、24冊が4人だけで書かれていた正篇との大きな違いである。
本書から始まる第3シーズンでは、永遠の生命の世界であるワンダラーにたどりつく。ホムンクや超知性体〝それ”が登場する。また、14巻のケルロンの報告の中で語られた彼の司令官であるアトラン・ダ・ゴノツァルの過去や現代の行動が明らかになってくる。
そして1年後の第25巻(第4シーズン~)からは、いよいよアルコンへ。
第5シーズンではアトランが本格的に登場、リコのことなどの詳細も判明する。
第6シーズンの50巻目以降、ローダンはアルコンのエペトラン・アーカイブに保存されている地球の位置データを削除するべく行動するが、そのうちに地球は発見され、アルコンに統治されることに。
2014年には3年目の成功として、NEO4冊分を少し改訂して1冊としたものと新作短篇1冊を加えた640ページものハードカバーの出版が始まった。美しいカバーからプラチナ版とも言われている。短篇は「NEOストーリー」と呼ばれて2週間後に単独で電子本として発売された。プラチナ版は年間4冊、2018年末までで全18冊が発行された。
第8シーズンの75巻以降では、アルコン占領で地球がどう変わっていくのかが描かれ、なかには作中に登場する作家が自分の体験を書いたエピソードもある。やがて抵抗運動が起きて、地球が解放されて自由になるまでが100巻、第1期(エポック)である。
当初100巻にまで達するとは思われておらず、プロット作家として1人頑張ったフランク・ボルシュは2015年に100巻で交代した。その後「私には情熱が2つある、ひとつはSF、もうひとつは自転車である」と、自転車関連会社で編集者になっている。
第2期(エポック)の始まりとなった第10シーズンからは、フランク・ボルシュの伏線に応えつつも、新しい背景とプロットが構築された。全ての焦点は太陽系(ソル系)である。
紀元前8500万年前、太陽の中に時空構造の裂溝(Sonnenchasma)が発生してハラチウムという物質が生じた。やがて意識を持ったそれはメテオラ(METEORA)と呼ばれた。その後メテオラは太陽を嫌ってアンドロメダ銀河の恒星ハリトに逃避し、さらにいて座のブラックホールアンバに逃れた。恒星ハリトと太陽は5次元的に結ばれ大断裂(Grosse Reptur)に沿ってクレア宇宙(別次元の宇宙で、クレア宇宙の1時間は通常宇宙では2年間に相当する)からハラチウムやクレールという物質が通常宇宙に流れ込んできた。クレア宇宙には12の銀河系があり、200万年以内(通常宇宙では117年に相当)にビッグクランチすると予測されていた。
紀元前8万年前、ヒューマノイドのメメターはメム(テラ=地球)に住んでいた。メメターの一部は精神化して〝それ”となり、残った一部がリデュウリである。リデュウリから後にアルコン人とテラナーなどが分岐していったのでリデュウリは“最初の人達”とも呼ばれる。第2期のタイトルがこの《リデュウリ》である。テラ(=地球)はリデュウルと呼ばれた。
第11シーズンではマークスの宇宙船が木星近傍に現れる。マークスはアルコン人のメタン戦争の相手である。木星ではリデュウリのピラミッドが発見される。トーラ・ダ・ツォルトラルとローダンとの息子トーマスの誘拐事件も発生し、太陽では徐々に異常が起き始めていた。
第12シーズンになるとポスビが登場し、正篇でも有名なあのフレーズ「きみらは本物の生命体か?」を発する。
そうしていろいろな関係が判明して、第14シーズンでメテオラ問題を終息し、地球に戻ってみると地球は太陽の異常で人の住めない状態になっており、110億人類は月のクレーターで発見されたメメターの箱舟《AVEDANA-NAU》でパラダイス・ミマナに向かったということが明らかになる。
第3期(エポック)、第15~19シーズンのタイトルは《宇宙のチェスゲーム》。紀元前8万年前から、〝それ”とほぼ同時期に生まれた超知性体であるアンドロス(Andros)との戦いである。151巻から始まる第15シーズンのタイトルが《第2の島》と聞くと、シリーズについて少しでも知っている人はアンドロメダのことだと分かるだろう。人類を乗せた箱舟を追ってローダンたちは恒星転送機も使い、新型遠距離宇宙船《マゼラン》でアンドロメダ捜索の旅に向かう。そこで紀元前6万年前にアンドロメダに逃れてMdI(Meister der Insel 正篇では「島の王」)の創設者になったファクターIであるリデュウリのミロナ・テティンに出会う。アトランの助力でミロナと同盟して、六角転送機で地球に戻るはずのところ、銀河系イーストサイドのブルー族の領域に間違って転送された。
第17シーズンでブルー族と接触。太陽はメメターに修復されて、地球の再生が始まる。マークス艦隊が太陽系に侵攻するも月面のナータンが撃退。
第19シーズン、今度はけだものの艦隊襲来。ローダンの命を賭けた行動で、大断裂を閉じ、アンドロスをクレア宇宙に封印することに成功する。
第4期の冒頭である第20シーズン第200巻は、第1巻の2036年からわずかに52年後の2088年。地球はまだ《ソラー連合》に統合されていなかった。現実のEU(ヨーロツパ連合)がいまだに統一政府ではなくEU議会は懐疑派が過半数という最近の状況から考えると、TU(テラ連合)から発展したSU(ソラー連合)の未来もまた、確かに多くの困難が待ち受けているだろう。
パベル・メーヴィヒ社によると〈宇宙英雄ローダン〉シリーズの平均的読者像は45歳、高学歴・高収入の理系男性とのこと。最新の情報では印刷されたペリー・ローダンの年間発行部数は毎週発行のヘフトが320万部(5・8万部/1冊)、隔週発行の〈ローダンNEO〉は40万部(1・5万部/1冊)、ハードカバーは2018年は9冊刊行で21万部(2・3万部/1冊)である。NEOは出版と電子本とオーディオブックの3メディアが初めて同時発売されたことにより、綺麗に印刷された本として読む、手軽にデジタルだけ読む、オーディオブックとして聴くという3メディアそれぞれにファンがいる。さらに正篇とNEOの両方好きなファンもいるし、どちらか片方だけのファンもいるとのこと。
以上、駆け足での紹介となったが、次の250巻に向けて順調に巻を重ねていることは、ご理解いただけただろうか。本国ドイツでこれだけ人気が定まっているNEOであるが、日本でも順調に翻訳が進むことを願っている。
【第3シーズン7/18刊行開始記念】《ローダンNEO》おさらいその1:第1巻『スターダスト』の前半分第9章までを連続掲載(第1章)