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自分の意志を貫くとき、女性が出会う壁と希望 和田彩花×新井見枝香×かん、小説『三つ編み』を語る(2)

フランスで100万部を突破した小説『三つ編み』(レティシア・コロンバニ、齋藤可津子 訳、早川書房)。3人の女性が困難や差別と闘いながら、自分自身の人生を選んでいく物語です。
日本では2019年4月に刊行し、SNSや新聞・雑誌等で話題となり、大きな反響を呼んでいます。
ここでは、異なるバックグラウンドをもつ3人が、本書について、みずからの経験と日本の女性をとりまく状況について語ります。
語るのは、アイドル、そして女性としてのあり方について積極的に発言をつづける和田彩花。『三つ編み』を自身が手がける賞に選んだ「女性のための本屋」HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの新井見枝香、そして劇団雌猫のメンバーでありライターとして活躍するかんの3人です。全3回。(第1回はこちら

三つ編み

三つ編み
レティシア・コロンバニ 齋藤可津子訳


自分の意志を貫くとき、直面するもの

―― この小説の女性たちは、「自分で決める」ことを大事にしています。会社での新たな挑戦を家族に反対されるジュリア(イタリア)も、夫に止められるスミタも、同僚に妨害されるサラも、だれに何を言われても、みずからが選んだ道を進んでいく。その点が読者に評価されていると思うんです。その点で、和田さんは2019年8月1日の活動再開のとき、ウェブサイトとブログに「私の未来は私が決める」というメッセージを発表しています。自分の意志を貫くことについて、どう思っているかうかがえますか?

和田 自分の意志を貫く……ちょっと考えます。

新井 たとえばジュリアのように「そんな輸入物の髪なんて誰もほしがらないよ」って言われたら、揺らぐんですよね。「そうかもしれない、やめようかな」と思うけれど、でも「やろう」と決めるのは、最後は自分ですよね。つまり、「自分の敵は自分なのでは」というふうに読んでいきました。
サラは病気を認められない自分と戦って勝って、ようやく楽になれた。
スミタは身分の差を乗り越えるために、娘と逃げようとする。でももし自分がスミタだった場合、私はくじけちゃうかもしれない。旅の途中で自転車を盗まれたら、「やっぱり行くなってことなんだ」って思っちゃって。スミタの意志はとにかくすごい。

かん 日々働いていてすごく難しいなと思うのは、どうしても「今の資本主義構造で自分が勝ち抜く方法」と「今後の世界を良くするためにすべきこと」に矛盾が出てきてしまうということ。
たとえば、「男も産休・育休をとるべき」というけれど、夫が1、2年休み、昇進のチャンスを逃すことになったら、それはこの競争社会において良いことなんだっけと。理想論はもちろん分かるけど、いざ自分の人生として考えると答えが出なくて。
スミタの娘だって、正しいことを言っているのに、教師に叩かれちゃったわけです。痛い思いをする方が正しいとは言い切れない。かっこいいんですけど、みんなに「こうしよう」と押し付けることはできないと思いますね。

新井 そうですね。「これが正解だよ」とは言えない。

かん それでも少しずつ誰かが変えていくしかないので、リスクを取ってでもやっていきたいとは思っています。生活がめちゃくちゃにならない範囲で!

和田 難しいな……でも自分の意志を貫くのであれば、やっぱり、女性として生きていくなかでの疑問って必ず出てきますよね。
ただ「アイドルだったら言わないほうが得だ」と言われることもあって、私も「そうなんだ」と思ってました。目の前でファンが笑っているのは今の自分があるからだとして、もし自分の意志を貫くことでその笑顔がなくなってしまったら悲しいと思うんです。
でも、自分の意志じゃないものを表明して、ステージ上で仮想のキャラクターを作り、それがファンに応援される。その構造は、私は「ちょっと違うな」とも思うんです。
私と同じことをみんなにしてほしいとも思えない。危険なことでもあると思うし、たくさん叩かれるだろうし、批判や揶揄のコメントが来たりもする。そういうコメントは、「作られたキャラクターを応援する」っていう構造のなかでしか考えていない言葉だなって思います。
アイドルを続けようというのも、こういう場で意見を言っていこうというのも、自分の意志です。自分でいるということが私の意志です。

かん アイドルにとって「ガラスの天井」のようなものがあるとしたら、「結婚」と「強い発言」ですよね。何かを批判したり、強く主張するような発言は敬遠されてきた。今でももちろんバッシングはあると思うのですが、ずいぶん世論も変わってきた印象です。

10代が『三つ編み』を読んだら…

かん 『82年生まれ、キム・ジヨン』は読みましたか?

和田 読みました!

かん 『キム・ジヨン』を読んだときに、「この先が書かれてないんだ」というのがめちゃめちゃ衝撃だったんです。「苦しい現実です」「まわりも気づいていません」で、終わり。
でもサラは、キム・ジヨンが感じていたガラスの天井を爆破・粉砕していく。「私は強いから、自分のポジションを築いて、みんなにうらやまれるように強く生きてます」というところからはじまりますね。
だから『三つ編み』は『キム・ジヨン』の「その後」を描いていると思ったんです。『キム・ジヨン』を読んだ敏感な20代の人には、その次だよって読んでもらいたくて。

キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』
チョ・ナムジュ 斎藤真理子 訳

和田 フェミニズムの視点が入った小説に強く関心を抱いているので、いくつか読んできました。
『三つ編み』は、女性によっても悩みはぜんぜん違うし、女であることだけに悩みがあるわけじゃない、というのが淡々と語られていて、読みやすかったです。あとは、どうしても男性と女性とで対立する軸を描いてしまうことが多いけれど、この本はちょっと違うなって。

かん 冒頭から絶望的なシーンではじまるけれど、読み口がそれほど暗くないですよね。

―― 3人の物語が交互に語られる構成のうまさもあると思います。

和田 サラは、女性にかかる抑圧によるストレスに気づいているようで気づいていなくて、体調がどんどん悪くなっていっちゃう。キム・ジヨンもそうですね。
でも、前のようなキャリアウーマンではない、病気を患い、体が弱っていること、自分の現在の姿を受け入れ、肯定する力、そんな現在にこそ真実があると変化していくサラの姿が力強く、かっこいいなと思いました。
また、ストーリーの展開としても、この部分はスピード感があって好きです。絶望的じゃないところからはじまるのもそうだと思うんです。それが読みやすかったです。
もっと若い世代が『三つ編み』を読んだらどう思うのかが気になっていて。10歳下の後輩と話していると、「女だからこうなる」ってことを知らないんですよ。「学校で男子がえばってて」「学級委員長にはみんな男子がなっていって」と話してくると、どきっとします。
「なにも気づかずにそういうことを思ってて、素直に私に聞いてくるんだ」って。
後輩には、私がこういう視点をもって生きているとは言ってないんです。自分が否定されるのが怖いというよりも、まだ幼くてもその子の考え方があるので、私の考え方や理想がうつることを避けたいから。
でも、彼女たちがもうちょっと大人になって興味があって訊いてきたら、話そうと思います。彼女たちがいまの意識していないうちに『三つ編み』を読んでどう思うのかは気になります。

【つづきます(その3は、4月8日公開予定)】


収録:2019年9月20日 HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE
撮影:飯本貴子 構成:小澤みゆき 編集:窪木竜也

予告:2020年5月、『三つ編み』の著者レティシア・コロンバニによる新作『彼女たちの部屋』が早川書房より刊行予定です。

告知:『三つ編み』をはじめとする電子書籍のセール中(4月13日まで)です。



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