見出し画像

新書創刊の舞台裏:どうしたら「自分のやりたいこと」を実現できる? 点数かせぎをやめて自分らしさを見つけるヒントを『脱優等生のススメ』担当編集者が語る

早川書房があらたに立ち上げた新書レーベル「ハヤカワ新書」。早川書房の強みであるSFやミステリ、ノンフィクションなど多彩な視点を生かした、独自の切り口の新書を多数予定しています。
創刊第二弾は2023年7月19日(水)に発売したばかり。どんなテーマの新書が読める? そもそも新書創刊って何を準備するの? ……そんな疑問にお答えすべく、『脱優等生のススメ』(著:冨田 勝)の発売に向けて準備を重ねてきた担当編集者(新書編集部:一ノ瀬翔太)に話を聞きました。「“優等生”がAIに置き換わる時代を、どう生きるか?」話題を呼んでいる新刊の“舞台裏”をご紹介します。


『脱優等生のススメ』冨田勝、ハヤカワ新書(早川書房)
『脱優等生のススメ』ハヤカワ新書

「自分らしい人生」をどう生きるか?
やりたいことで、やる価値があることなら、やらない理由がない。日本の旧弊な教育が強いる点数かせぎの罠を脱して、自分の「好き」を追求しよう! 山形県・鶴岡の地で次世代のイノベーターを数多く輩出してきた慶應大先端研の初代所長が説く「脱優等生」的生き方。

成績優秀な人材は、AIでも代用できる?

編集担当・一ノ瀬翔太(以下同):著者の冨田勝先生は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の創設にかかわり、その後同大の先端生命科学研究所の所長として20年以上にわたって次世代のイノベーター育成に携わってきた方です。『脱優等生のススメ』というタイトルには、これまで多くの学生たちに向き合ってきた冨田先生が長く掲げる普遍的な、そしてとても熱いメッセージが込められています。

分かりやすくこの本のテーマを説明するために、この本を開いてすぐ目に入ってくる「はじめに」から紹介しましょうか――。

「教科書を勉強して試験で良い点をとる」
「過去のデータを分析してビジネスプランを立案する」
「万人が高く評価する優秀な文章を生成する」
これらが得意な人のことを「優等生」といいます。(中略)一方、もしあなたが勉強嫌いで、「優等生」には向かないタイプだとしたら、まったく別の道があります。それは「脱優等生」を目指すことです。そのことがもしかしたらあなたの人生を輝かせるかもしれません。

(『脱優等生のススメ』「はじめに」より)

脱優等生のススメとは、誰かに用意されたレールに沿って生きることからちょっとはみ出してみようという指針です。与えられた問題をそつなくこなすことや点数かせぎに没頭することから離れて、自分の好きなことを徹底的に追究してみたらどうだろう――これはきっと学生に限らず多くの社会人にとっても心に刺さるテーマだと思います。

成績優秀な人の代わりは、今やChatGPTやAI(人工知能)でもこなすことができるようになりつつあります。そうではない「人間らしい生き方、自分らしい生き方って何だろう?」と多くの人が漠然とした不安を抱えているんじゃないでしょうか? そういう意味で、「これからの時代」を生き抜くためのヒントにしてもらいたい本です。

やりたいことがあるのに、やらない理由は?

この一冊をつくるにあたって、慶應先端研のある山形県鶴岡市に私も取材に行きました。庄内平野の田園風景のなかに、山形県と鶴岡市の支援がベースとなって大学や民間企業を巻き込んで形作られた「鶴岡サイエンスパーク」があります。施設というよりも今や一つの街のようになっています。新世代の素材として「人工クモ糸」を開発するSpiber(スパイバー)というベンチャー企業を率いる関山和秀さん、パーク内外の人の交流の場となる先進的な宿泊施設・SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSEを経営する山中大介さん、損保ジャパンの人材開発部門に所属しながら社会人大学院生として鶴岡にやって来た高木慶太さん……取材した方々のインタビューもこの本に収めていますが、それぞれがまったく別の分野に軸足を置きながら、同じ熱量でつながっている! というワクワク感を、取材をしながら受け取りました。

鶴岡のSUIDEN TERRASSEからの風景(編集者撮影)

多くの方が「冨田先生の言葉に背中を押された」と語るのと同じように、私自身もこの「ハヤカワ新書」の創刊にあたって大いに後押しされた気持ちです。この本の目次や見出しにもそのフレーズを活かしているのですが――

「やりたいことで、やる価値があることなら、やらない理由がない」
「前例のないことをやるには、まずやってしまうこと」
「『これは違うな』と思ったらやめていい」

新書レーベルを新しく立ち上げるにあたって様々な困難もありましたが、こういった言葉には勇気をもらいました。「この道を進んでいいんだ」って。

「ただ夢を語るだけ」に終わらない

多くの社会人や学生を勇気づけてくれるような言葉の数々は、冨田先生自身の体験から生み出されてきたものなので、説得力があります。先生はもともと「勉強嫌いのゲーム少年」で、インベーダーゲームに夢中になって画期的な大技を繰り出し、学生時代にはゲームを自作することからソフト開発や研究の道へとのめり込んだという経歴があります。自分の「好き」を追究することで新しい道を切り拓いてきた、個人としてのバックグラウンドがあるんです。

さらにこの本の特色は、「ただ夢だけを語るだけ」の本ではないことだと思います。「理想だけを追い求めている人は残念な人、現実だけを見て理想を見ていないのはもっと残念、どこに向かっているのか分かっていないことが残念」――とても印象的な言葉です。自分の人生において、理想と現実の折り合いをどう付けるか? 悩んでいる方は多いと思うので参考になるのではないでしょうか。

また、同じくハヤカワ新書のレーベルから発売された『教育虐待』(石井光太著/本書編集の舞台裏記事はこちら)は、教育という名のもとに違法に行なわれる虐待や、それを助長してきた受験熱など、ゆがんだ教育熱の総体を俯瞰する一冊です。親や教師といった大人が子供にどういう教育を行なうか、あるいは逆に、自分はどういう教育を支えに成長するべきか、そういう問題の表裏一体にある本だと考えています。

教育の場でも家庭でも、あるいは仕事の場においても、本当ならば人のいろいろな面を見て評価すべきなのに、テストの成績のような一面的な情報だけで判断されてしまう現状の弊害は多くの人が経験していると思います。その一元的な物差しや旧い価値観から距離を置いてみよう! というのが、この『脱優等生のススメ』のテーマです。『教育虐待』とあわせて手に取っていただけたら、この本のそれぞれの力が存分に活かされるのではと期待しています。


本書は現在発売中です(電子書籍・NFT電子書籍付版も同時発売)。

記事で紹介した本の概要

『脱優等生のススメ』
著者:冨田 勝
出版社:早川書房(ハヤカワ新書)
発売日:2023年7月19日(水)

著訳者プロフィール

■著者:冨田 勝(とみた・まさる)
1957年生まれ。慶應義塾大学名誉教授。同大学工学部卒業後カーネギーメロン大学に留学し、コンピュータ科学部で博士課程修了。1990年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)創設メンバーとして帰国し、環境情報学部教授と学部長を歴任。日本初のAO入試導入に関わる。2001年、同大学先端生命科学研究所の創設とともに所長就任。2023年3月退任。著書に『みんなで考えるAIとバイオテクノロジーの未来社会』など。

本文試し読みをこちらで公開中


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!