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【文庫版刊行記念 第2弾】人間六度『スター・シェイカー』香月祥宏氏の解説を全文公開!【ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作】

第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、文庫版がついに刊行!

驚愕のテレポーテーション・バトルが、宇宙の根幹を揺るがせる!

『スター・シェイカー』ハヤカワ文庫JA
人間六度 著
カバーイラスト:ろるあ/ROLUA
カバーデザイン:有馬トモユキ

2022年、「スター・シェイカー」でハヤカワSFコンテスト大賞、「きみは雪を見ることができない」で電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞してデビューした現役大学生(祝! 2024年3月25日卒業)・人間六度氏のデビュー作。
加筆・修正を経て読みやすく解像度が上がった文庫版が登場! 

刊行を記念して、文庫版のために書かれた、書評家・香月祥宏氏による「解説」を全文公開します!
本書の読みどころと、著者・人間六度氏の経歴、現在の活躍をコンパクトにまとめた、解説の決定版です!

解 説


                  書評家 香月祥宏 

「この小説の中に、普通の小説六冊分ものすばらしいアイデアを持ち込んだ」──テレポートを扱ったSFの古典であり、本書では主人公の名前でオマージュを捧げられているアルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』を評した、デーモン・ナイトの言葉だ。
 これは本作にも当てはまる評言だろう。惜しげもなく投入されたアイデアの数々が、やがて大きな流れとなり、宇宙規模の壮大な物語を形づくってゆく。読み終えた方は、そんな荒削りだが奔放な魅力を存分に堪能されたと思う。

 本書は、柴田勝家、小川哲、樋口恭介らを輩出したハヤカワSFコンテスト、その第九回(2021年)大賞受賞作の文庫化である。第6~8回で大賞が出ていない中、満を持しての授賞だったが、すんなり決まったわけではなかったようだ。

 最終選考委員選評(〈SFマガジン〉2021年12月号及び本作単行本版巻末に収録)を読むと「文体も構成もガタガタで欠陥が多い」(東浩紀)、「読み通すのに苦労した」(神林長平)、「構成の甘さは許せなかった」(塩澤快浩)など厳しい意見が散見される。しかし一方で「ネタひとつひとつが輝いていた」(東)、「圧倒的な熱量とパースペクティブがある」(小川一水)、「物語の終盤で開陳される宇宙像のアイデアが圧巻」(神林)とさまざまな長所が評価され、「とにかくスケールが大きな作家を送り出したい」(東)という賞の方向性とも一致して、大賞受賞が決定した。もちろんこれらは応募原稿に対しての評価であり、出版~文庫化のブラッシュアップを経た本書には、必ずしもそのまま当てはまらないことを付言しておく。しかしとにかく、数々の弱点を抱えながらも、それらを上回る圧倒的な魅力を持つ作品だったことは伝わるはずだ。

 物語の舞台は、21世紀前半の近未来。人類は、本来身体に備わっていたテレポート能力に“気づいた”。しかし、移動時に臓器の一部を〈置き去り〉にしてしまう肉体欠損、出現先にいた人間を破裂させてしまう〈翔突〉などの事故が多発。これを解決するために免許制度とテレポート専用の街角WB(ワープボックス)が整備され、本格的な〈テレポータリゼーション〉社会が到来する。乗り物による移動は過去のものとなり、街から道路は消えた。
 主人公の赤川勇虎は、運送業務中に翔突事故を起こし、後遺症でテレポート能力を失った青年だ。あるときゴミ箱に隠れていた少女ナクサを助けたことから〈炭なる月〉という組織に追われ始める。ナクサは世界的にも珍しい垂直方向への長距離テレポート能力者で、力を悪用しようとする者たちから逃げてきたというのだが……。

 ここまでが話の発端だが、まずテレポータリゼーションによって変貌を遂げた街の描写がいい。移動コストの低減に伴い、人が密集していることに価値があった東京は今や空洞に。ペーパーオフィスや〈国土廃棄物〉となった首都高が寒々しく残っている。かつての鉄道や自家用車の普及がそうだったように、移動手段の変化は街の姿をがらりと変えてしまうのだ。

 しかし急激な変化は、同時に歪みも生む。勇虎とナクサは追っ手から逃れて高速道路へ向かうが、そこには国を棄て、国に棄てられた〈ロードピープル〉が棲みついていた。彼らは車移動にこだわり、高速道路上のSAを国家領土(ステイツ・エリア)として独自の精神性を持った暮らしを営んでいる。この荒廃した道路を舞台に繰り広げられるカーアクションは、前半最大の見せ場だろう。

 中盤の見事なアクセントになっているロードピープルをめぐる物語は、勇虎に同行する記者志望の少年マフラーを通じて、その後もメインストーリーに関わり続ける。怒濤のアイデア連発の影に隠れがちだが、時代の“普通”から外れた人々へ向ける視線は、人間六度作品の重要な要素のひとつだ。例えば、本作単行本版の約半年後に刊行された『永遠(とわ)のあなたと、死ぬ私の10の掟』(メディアワークス文庫)はタイトル通り永遠に生きる不死者と普通の人間との恋を描いた恋愛小説だが、不死者たちが人間社会と折り合いをつけてゆくために積み重ねてきた悲しく過酷な歴史が全体の背景になっている。

 そして本書の後半では、最大の読みどころであるテレポート能力者同士の戦いが本格化する。異能バトルではおなじみのテレポート能力だが、それ自体は武器というよりも補助的な役割を担うことの方が多い。ところが本作では、移動先の相手を裂殺するという(前半ではマイナスだった)設定を生かし、一撃必殺の達人技になっている。WBを使わずに心のみで自在にテレポート(古典テレポート)できる者は〈奥義者〉と呼ばれ、手練れ同士の戦いは相手の出現位置を見極める駆け引きにさまざまな体術を絡めた、究極の高密度戦闘になるのだ。

 さらに〈奥義者〉の能力に関わる〈旦那〉という設定も興味深い。本作に限らず、人間六度作品ではさまざまな特殊能力・体質を持つ人々が描かれるが、孤高の存在がほとんど出てこない。〈旦那〉を必要とする〈奥義者〉のように、みんなが誰かとつながろうとしていて、その切実な想いが荒唐無稽な設定や派手なバトルに奥行きを与えているのだ。

 さて、そんなカー&異能アクションだけでもお腹いっぱいだが、後半では各組織の思惑やテレポート能力をめぐる謎も二転三転。具体的な展開には触れないが、章が変わるごとに物語の雰囲気もどんどん変化し、最後には宇宙全体の運命に関わるスケールにまで突き抜けてゆく。その間“移動”というテーマに力を与え、疾走感を生み出す勢いはずっと衰えない。

 力の源は、数々のアイデアを投入しながらも、要所で“テレポート×振動”の一点突破を貫いているところにある。“テレポート能力者も登場する”超能力SFはいくつも思いつくが、テレポート一点張りで、それがインフラであり、武器であり、恋愛や親子関係の核にもなり、宇宙存亡の鍵にまでなってしまうような作品となると、ちょっと他に思いつかない。そのぶん多少強引なところもあるが、そんな力技も含めて、SFならではの醍醐味が存分に味わえる一冊だ。

 ちなみに、ハヤカワSFコンテストにおいて本作と争い優秀賞を受賞した安野貴博『サーキット・スイッチャー』は対照的にスマートなテクノスリラーで、2029年(奇しくも本作で人類初のテレポートが確認されたのと同じ年)、自動運転が一般化した時代の首都高が舞台になっている。
 移動することの意味や価値が改めて問われていたコロナ禍真っ只中の2021年に、交通インフラが激変した近未来を描いた二作がそろって受賞したというのも象徴的だ。それでいて、紡がれた物語の読み味がまったく異なっているのもおもしろい。
 

 著者・人間六度はSNSやブログでも積極的に情報を発信しているが、単著ではこれが本文庫初登場となるので、本作以外の作品についてもざっと触れておこう。

 まず、SFコンテスト出身者としては柴田勝家に次いで(?)気になる不思議なペンネームは、病を患った経験から「人間、三十六度の平熱で、健康でいるのが一番だよね」という思いでつけた、とのこと。

 闘病中の2016年に自費出版した現代版かぐや姫『BAMBOO GIRL』が2020年に文芸社文庫NEOに収録されたのを皮切りに、本作とほぼ同時期に『きみは雪をみることができない』で第28回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉を受賞。こちらは現代の眠り姫物語で、英訳版もYou Can’t See the Snow(Yen Press)として『ダンジョン飯』などの翻訳を手がけたTaylor Engelの訳で刊行予定となっている。

 自身の物語原体験はフラッシュ動画やボカロ曲のMVだそうだが(日本SF作家クラブ「新入会員自己紹介」より)、近年は『過去を喰らう (I am here)beyond you.』(一迅社)、『トンデモワンダーズ』(メディアワークス文庫)など、ネットで人気の楽曲のノベライズも執筆している。カンザキイオリ、花譜、プロセカ、sasakure.UK……と言われてもいまいちピンと来ない人もいるかもしれないが、前者はAI漫画家とその人格モデルになった少女、後者は謎の生物が棲息する世界で奮闘する少年少女を描いており、SF読者にもおすすめだ。

 その他、本文庫から出た日本SF作家クラブ編のアンソロジー『2084年のSF』には「星の恋バナ」、『AIとSF』には「AIになったさやか」でそれぞれ参加。さらに〈小説すばる〉への短篇寄稿、SFプロトタイピング案件、漫画原作も担当するなど、受賞から3年足らずだが活動は幅広い。

 本書で初めて著者の作品に接した読者には意外かもしれないが、恋愛小説では登場人物の心の動きを丁寧に追い、ノベライズでは元楽曲から巧みに要素を抽出し、不死者やAIといったSF的な設定を採用しつつバランスの取れた作品をいくつも書いている。作家として経験を積んだ部分はもちろんあるにせよ、やはり本作は、作者にとってもある種のリミッター解除で書いた作品なのだろう。
 豊富なアイデアを撹拌(シェイク)しながら一点突破を試みた、人間六度の貴重な全力SF。ぜひ新鮮なうちに、味わって欲しい。

【文庫版刊行記念 第1弾】人間六度『スター・シェイカー』著者あとがきを全文公開!【ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作】

【文庫版刊行記念 第3弾】人間六度『スター・シェイカー』第1章(~122頁)を一挙全文公開!【ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作】


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