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【文庫版刊行記念 第1弾】人間六度『スター・シェイカー』著者あとがきを全文公開!【ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作】

第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作、文庫版がついに刊行!

ほとばしりあふれ出るアイデア。
跳ね回り瞬転する物語。
それは若く荒っぽい。
だけど不思議に心が震えた。
これもSFの醍醐味じゃないか。

          劇作家・脚本家 中島かずき 推薦!


驚愕のテレポーテーション・バトルが、宇宙の根幹を揺るがせる!

『スター・シェイカー』ハヤカワ文庫JA
人間六度 著
カバーイラスト:ろるあ/ROLUA
カバーデザイン:有馬トモユキ

2022年、「スター・シェイカー」でハヤカワSFコンテスト大賞、「きみは雪を見ることができない」で電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞してデビューした現役大学生(祝! 2024年3月25日卒業)・人間六度氏のデビュー作。
加筆・修正を経て読みやすく解像度が上がった文庫版が登場! 

刊行を記念して、文庫版のために人間六度氏が書き下ろした「著者あとがき」を全文公開します!

あとがき

 大学四年の休学中の、ちょうどコロナ禍真っ盛りという頃だった。当時は、まとまりのいいロマンスにばかり挑戦していたので、一度本心から書きたいものを書いてみよう、と思った。パッと浮かんだのは、小学生の頃考えていたエイリアン。超スゴいチカラを持ってるけど超ものぐさなので、自分が移動するのではなく宇宙を引っ張ることで場所を転移する生態を持つ。画用紙の上でペンを滑らせるのではなく、画用紙そのものを引っ張って絵を描くみたいな、そういう感じだった。この転移方法って、見方によればテレポートだな、と思った。そしてその「画用紙自体をズラす」という行為は「振動」のようにも取れるので、そこから「素粒子と宇宙の合一」という破滅を思いついた。

 どう世界が破滅するのかがわかれば、ひとまず話は書き始められる。
 テレポート小説を書くにあたって、僕は有名なあの作品を思い出した。そう。ベスターの『虎よ、虎よ!』だ。ただ、実は最後までちゃんと読めていない。なので題名から「勇虎」という名前と、科学人のネタから「ロードピープル」のアイデアだけ借りてきた。どちらかと言えば『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の「白井黒子」とか映画『ジャンパー』の方がイメージ構築の助けにはなったと思う。いや、助けになったというより、乗り越えるべき目標を与えてくれた、と言う方がしっくりくるかも。

 僕は異能バトルが好きだけど、昔からずっと、ずっと納得がいっていないことがあった。それはテレポーターが戦う時、なぜ自分の体を相手と重ねるように出現しないのか、ということ。敵の体を引き裂いて出現するだけで、どんな相手でも瞬殺なのに。
 それで思った。先行作品はテレポートをあくまで「移動手段」と捉えている。でも、それはご都合主義なんじゃないか? その考えを強化してくれたのが、自動車学校で感じた自動車社会への印象だった。自動車に免許が必要なのは、当たり前だけど、危ないから。なぜ危ないかというと、すごく重たいものがすごい速度で移動しているから。移動していなければ何の問題もない。移動とはそれ自体が大きな力を持つ。免許はその力を制御するために必要なのだ。

 思えばチェスも将棋も、戦場から「移動」だけを抽出したゲームだよなぁ。
 テレポーター同士の戦いは一瞬で決着がついてしまう。これでは面白くない。……いや、違う。それなら、それが面白くなるような演出に持っていこう。
 と、このような経緯で敵との距離感を見極め、敵の体を砕いて瞬殺する異能バトルを描くことに決めた。

 八カ月かかった。
 書き上げた時には、もうこんなの二度と書くか! と思った。
 初稿ページ数六六六枚。応募できるところがハヤカワSFコンテストぐらいしかなかった。大学の指導教官に初稿を持っていったらボロカスに言われて、心が折れて、出すのをやめようかと思った。でも父が──「スター・ウォーズ」はSFじゃないと言い張る思想強めのSFおじさんが──どうせだから出したら? と言ってくれたので、出すことにした。実際にモノを投函したのは実家にいる母だったが。もちろん期待なんて全くしていない。

 結論から言うとハヤカワSFコンテストは狂っている。普通の賞だったら、一番大事なのは「完成度」だと思う。でもハヤカワSFコンは「SFとしての飛躍」というものを一番大事にしている。マジでイカれた賞です。
 間違いなく、この作品はこの賞以外ではデビューできなかった。
 要するにハヤカワに見出されたわけです。

 ところで僕は大学に入学時、さも大学生らしいことをしてやろうと思って軽音部に入ったのだけど、ぬるいビールと塩を振っただけのキャベツしか出てこない飲み会がクソすぎて、ビールというものが嫌いになった。ビールが風評を喰ったのはいいとして、それ以上にタバコをポイ捨てする程度の悪をロックだと思っている先輩がおり、というかそういう人ばかりだったので一年で辞めた。しかしその一年は僕にとってかけがえのない時間になった。人間的にリスペクトできない相手の下につくことがどれほど苦痛なのかを教えてくれたからだ。社会がまともかどうかは横に置くとして、まともな社会人になれないだろうな、ということが早い段階でわかってよかった。

 そういうわけで、就職は絶望的だなと思っていた矢先の受賞。
 ありがとよハヤカワ!

 そんな『スター・シェイカー』にも文庫化の話が来るなんてね。感慨深い。
 シナリオにはほとんど手を加えていないけれど、文章の方はかなりやっている。
 単行本版を出していただいた時は読みにくいという評が多くて、僕はこれを重く受け止めた。それこそ優秀賞の安野貴博さんの方が面白くね? なんでこっちが大賞なん? みたいな話も結構出ていて、僕も、そうなんだよなぁなんで僕が大賞なんだろう、と思ったりもしていた。でもまあ、そういう「正の理不尽」も込みで新人賞だし、受け止めていかなきゃいけない。

 僕の見えている範囲の話をすると、SF業界は頭がいい人ばかりだ。この頭がいいというのはいろんな意味合いがあるけど「知識がある人」が多い気がする。どこと比べるってわけでもないけど。だから関わっていて楽しいし、ワクワクするし、飽きない。この条件は、僕にとって脅威であるのと同じくらいチャンスであるとも思う。知識がある人は知識に引っ張られるから、僕はそれ以外のもっと非常識な方法で、SFに関与していきたいなぁ、と思っている。

 デビューから今日まで、だいたい二年。
 ノベライズの仕事をしたり、SFプロトタイピングをやりまくったり、『小説すばる』に読み切りを載せていただいたり、漫画原作もやらせていただいたりと、色々あった。これはハヤカワSFコンテストと同時に電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を取ったことで、しっかりめのSFもライトなSFも書ける人という認知をしてもらっているからではないか、と自己分析している。僕としても色々やりたいのでありがたい。

 それで最近思うのは、僕は実は小説を書くのがだいぶ好きなんだな、ということ。全てを自分一人で決められる小説って、責任も高揚感も絶望も全部自分のものだから、どこにも逃げられない。自分とガチファイトできる。しかも誰にも迷惑をかけずに。これが最高なんだよ。

 文章を書いて、ゲームをして、たまに後輩に飯を作ったりして、それを無限に繰り返す日々。全然筋肉を使わない。客観的に見たら寂しいやつかもしれない。だけど僕はいつも、『ここではない何処か』を翔び回っている。僕が作家になりたかったのは、自分の人生でこれからずっと続けていくべきことを一つに選べなかったからなんじゃないかな、と思う。一番何もしてなくて、一番なんでもできる作家だから、これからも続けていけそうな気がする。
 いろんな人生をつまみ食いしながら、これからも人間ぶっていきたいと思う。

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