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新書創刊の舞台裏:誰もが知る「あの味」に秘められた歴史の謎を解き明かす!『ソース焼きそばの謎』担当編集者が語る

早川書房があらたに立ち上げた新書レーベル「ハヤカワ新書」。早川書房の強みであるSFやミステリ、ノンフィクションなど多彩な視点を生かした、独自の切り口の新書を多数予定しています。
創刊第二弾は2023年7月19日(水)に発売したばかり。どんなテーマの新書が読める? そもそも新書創刊って何を準備するの? ……そんな疑問にお答えすべく、『ソース焼きそばの謎』(著:塩崎省吾)の発売に向けて準備に準備を重ねてきた担当編集者(新書編集部:一ノ瀬翔太)に話を聞きました。新書らしくない(?)装幀デザインで話題を呼んでいる新刊の“舞台裏”をご紹介します。


『ソース焼きそばの謎』塩崎省吾、ハヤカワ新書(早川書房)
『ソース焼きそばの謎』塩崎省吾

お祭りで食べる「あの味」の意外な起源
なぜ醤油ではなくソースだったのか? 発祥はいつどこで? 謎を解くカギは「関税自主権」と「東武鉄道」にあった!
全国1000軒以上の焼きそばを食べ歩いてきた男が、多数の史料・取材と無限の“焼きそば愛”でソース焼きそばのルーツに迫る、興奮の歴史ミステリー。

慣れ親しんだ「あの味」に、誰も知らない謎が隠されていた

編集担当・一ノ瀬翔太(以下同):本書のきっかけは、著者の塩崎省吾さんがKindleセルフパブリッシング版で出されていた『焼きそばの歴史』が面白いというSNSの評判を目にしたことです。さっそくダウンロードして読んだところ、食文化史として本当に面白くて、その日のうちに塩崎さんにご連絡しました。実はまだその時点では「ハヤカワ新書」の創刊は決まっていなかったんですが、単行本というパッケージよりは、お腹を空かせた会社帰りの人がふと手に取って読んでもらえるような本を、という思いで新書としての企画を温めてきました。

塩崎省吾さんは、国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩いてきた、いわば「焼きそば愛」に満ちた方です。この本の打ち合わせでもいろんな場所に焼きそばを食べに伺いました。昭和40年創業という浅草地下街の「福ちゃん」、新宿の思い出横丁にある「次作じさく」、浅草の老舗「デンキヤホール」……他にももっとあるのですが、「焼きそばライター」として活躍してきた塩崎さんだからこそ、「現在は店頭メニューにはない、創業期の焼きそば」を特別に作っていただいたこともありました。今思うと私自身もその味に実際触れたことが、本づくりを突き動かしてきた気もします。

ソース焼きそばって、誰もが知っているし食べたことがあるはずの食べものでありながら、ラーメンやそば・うどんと比べると、麺類の中ではなぜかマイナーな存在ではないでしょうか? でもその影には物凄く奥深い歴史が隠されている――というのが本書の大きなテーマです。その歴史的事実に迫るプロセスが畳みかけるように緻密で、読み心地は推理小説のようでもあります。戦前の「露店開業マニュアル」のような歴史的史料をひもとき、古くから伝わるお店の人の証言などを丹念に収集し、その証拠と証拠の繋ぎ目を辿りながら、今まで明らかにされていなかった真実に迫るんです。

ソース焼きそばは戦後の大阪発祥というのが、これまでの漠然とした通説でした。でも、この本では史料と証言を辿って、第二次大戦前、大正、さらに明治にまで焼きそばのルーツを追究します。そこでは、私たちが歴史の教科書で目にした「関税自主権」の回復や、当時の製麺を担っていた館林製粉(日清製粉の前身)、それを東京に運搬する東武鉄道の存在が明らかになります。それが、ソース焼きそばの誕生にいかに関わったのかというタネ明かしは、是非本書で読んでいただけたらうれしいですね。自分たちが慣れ親しんだソース焼きそばのルーツは、こんなことに繋がっていたのか! と驚いていただけると思います。塩崎さんは、こういった歴史的背景の紹介を通じて、焼きそばを地位向上させたいと願っている人でもあるんです。

ソース焼きそばの謎を追う、原動力になったものは?

「この本を読んだら焼きそばが食べたくなった!」という声を、ありがたいことにいろんな方から聞いています。この本の中では焼きそばのルーツを遡るだけでなく、全国各地に広がっている「ご当地焼きそば」の地域性についてもカラー写真を多数取り交ぜて紹介します。たとえば、北関東の家庭では焼きそばにじゃがいもを入れることも多いそうです。意外に思ったものですが、実際に自宅で試してみたら、ソースの風味にマッチしてとても美味しくて、それ以来何度かリピートしています。

「じゃがいもが見えますか?」(担当者・一ノ瀬談)

本に収められている美味しそうな焼きそばの写真は、著者の塩崎さんがこれまでに全国の焼きそば店を食べ歩きながら、撮り貯めてきたものです。地域や店舗によってじゃがいも入りやホルモン入り……日本津々浦々の焼きそばを紹介していますので……と、こう話しているだけでもお腹が空いてきますね(笑)。

著者の塩崎さんは、元々ツーリングが趣味で全国各地を回っていた中で地域によって異なる焼きそばに興味を惹かれたものの、2011年の東日本大震災をきっかけに東北地方の名店と呼ばれていたお店が次々に閉業してしまい、食文化が失われつつあることに危機感を覚えてブログを開設したのが、この焼きそば研究の始まりだそうです。それから、焼きそばという食の歴史に興味が湧き、ルーツを追いかけるようになった。そこから先行文献にあたり、情報の混乱を秩序立てて整理し、謎を解き明かす――理論的な面では論文のようでもあり、「壮大な歴史ミステリー」として楽しみながら読むこともできると思います。

著者・塩崎省吾さんが食べ歩いた全国の名店も多数紹介

本書の「NFT電子書籍版(※)」には、大正期からソース焼きそばを提供してきた浅草の老舗「デンキヤホール」を塩崎さんが訪ねて語る特典動画も収録します。

この『ソース焼きそばの謎』のページをめくっていけば、お腹が減ること、身近な食への理解が深まること、どちらも間違いなしだと思います!

著者・塩崎省吾さんよりメッセージ動画

※NFT電子書籍とは
本篇と同内容の電子書籍をNFT化。「FanTopアプリ」上のビューアで快適にお読みいただけます。NFT電子書籍は、従来の電子書籍とは異なりFanTop上で売買・譲渡することもできます。さらに作品によっては、追加のテキストや動画、音声、画像など、NFT電子書籍だけでお楽しみいただける限定コンテンツを収録。「未知への扉をひらく」というハヤカワ新書のコンセプトのもと、新しい読書体験を提供します。


本書は現在発売中です(電子書籍・NFT電子書籍付版も同時発売)。

早川書房 本社ビル1階「サロン・クリスティ」では特別メニューの「焼きそば(謎トッピング付き)」を期間限定で発売中!

記事で紹介した本の概要

『ソース焼きそばの謎』
著者:塩崎省吾
出版社:早川書房(ハヤカワ新書)
発売日:2023年7月19日(水)

著訳者プロフィール

■著者:塩崎省吾(しおざき・しょうご)
1970年生まれ。静岡県出身。ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩く。テレビ、ラジオなどメディア出演多数。本業はITエンジニア。