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ハルと一緒に冒険しよう! 『列車探偵ハル 王室列車の宝石どろぼうを追え!』訳者あとがき

11歳の少年ハルが豪華列車で謎解きを繰り広げる、『列車探偵ハル 王室列車の宝石どろぼうを追え!』。大好評発売中の本作より、翻訳者の武富博子さんによるあとがきを公開いたします。
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列車探偵ハル

訳者あとがき   
武富博子


ハルはもうすぐ十二歳の少年。旅行作家のナットおじさんにつれられて、はじめは気乗りしないながらも、イギリスを一周する四日間の鉄道の旅に出かけます。ところが列車内で宝石が盗まれ、なんとハルが疑われてしまうのです。ハルは本物のどろぼうを探そうとするうちに、レニーという少女と友だちになり、いっしょに豪華な王室列車のなかを冒険します。気づいたら列車が大好きになっていて、ついには探偵として大活躍することに。はたしてその推理の結果は……?

この物語は、鉄道ものとしても、冒険ミステリーとしてもおもしろく、わたしも初めて読んだときは、最後までワクワクドキドキしどおしでした。鉄道にそれほど思い入れがなかったのに、ハルたちの冒険にのめりこみ、すっかり鉄道好きになってしまったくらいです。同時に、「列車探偵」の謎解きには舌を巻きました。イギリスにはミステリーの伝統がありますが、そこに新たな少年名探偵が加わったのはまちがいありません。

主人公のハルと、友だちのレニーが、どちらも生き生きと描かれているのもこの作品の魅力です。ハルとレニーの出会いをはじめ、印象的な場面がたくさんあります。ふたりの友情は、この本の大きな読みどころでしょう。そして忘れてはならないのが、ハルを見守るナットおじさんの存在。ナットおじさんにはいいセリフがいっぱいあります。こんな大人が身近にいるからこそ、ハルは思うぞんぶん冒険ができたのだと思います。

この本を読んでいると、実際に列車でイギリスを旅しているような気分になってきます。登場する地名や駅名、橋の名前などはどれも本物なので、インターネットで見られますし、もしイギリスに行く機会があれば訪れることもできます。また、鉄道の描写が正確なので、鉄道好きはもちろん、鉄道のことをあまりよく知らない人も、イギリスの鉄道に興味がわいてくると思います。かつてイギリスで、蒸気機関車を走らせたまま給水できるように使われていた、ウォーター・トラフとウォーター・スクープの描写は臨場感たっぷりです。そして物語のもうひとりの主役ともいえる「ハイランド・ファルコン号」は、実際に走行していた「マラード号」という蒸気機関車をモデルにしています。めずらしい流線形のA4形蒸気機関車で、蒸気機関車として世界一のスピードを誇り、その記録はこの先も永遠にやぶられることはないのだそうです。

この物語には作者がふたりいます。作者のひとり、マヤことM・G・レナードはイギリスで人気の児童書シリーズ(邦題は『裏庭探偵クラブ』)を執筆しており、新たに鉄道を舞台にした冒険物語を書きたいと考えていました。というのは、「きかんしゃトーマス」が好きで列車のおもちゃや模型で楽しんでいた息子が、すこし大きくなったとき、鉄道をリアルに描いた物語を読みたいと思ったのに見つからなかったからです。あいにくマヤ自身は、それほど鉄道にくわしくありません。ところがその話を友人のサム・セッジマンにしたところ、鉄道とミステリーが大好きなサムは、自分も少年のころにそんな物語を読みたかったと目をかがやかせ、どんな事件がどんな列車でおこりうるか、つぎつぎとアイディアを語りだしました。サムといっしょなら、そんな物語が書けるとマヤは確信し、そこからふたりの執筆の旅がはじまったのです。サム・セッジマンにとってはこの作品がデビュー作になりました。

このように誕生した『列車探偵ハル』は、現代を舞台にしながら、イギリスの伝統的な雰囲気も感じさせます。若い読者とともに、むかし子どもだった大人も楽しめるような作品だと思います。

この物語で鉄道とミステリーに興味を持ったなら、アガサ・クリスティーの『名探偵ポアロ オリエント急行の殺人』を読んでみてください。豪華な列車のなかで殺人事件がおこり、名探偵が活躍する、大人向けに書かれた推理小説です。ちなみに、『列車探偵ハル』のレニーが住んでいるトーキーという町は作者のひとりM・G・レナードの出身地ですが、アガサ・クリスティーが生まれ育った場所でもあります。ついでにいうと、ナットおじさんの名字の「ブラッドショー」は、十九~二十世紀に発行されていたイギリスの鉄
道時刻表と同じ名前です。こんなふうに、さりげないところにも作者たちbの遊び心を感じます。

さて、ハルは十二歳の誕生日をむかえたあと、ナットおじさんといっしょに、今度はアメリカにわたって大陸横断鉄道に乗ることになりました。列車探偵ハルのつぎの冒険をどうぞお楽しみに!

二〇二〇年九月


武富博子さんプロフィール

東京都出身、上智大学法学部卒業。英米児童文学翻訳家。
子どものころ、オーストラリアとアメリカに住んでいた。
訳書に、ダイアナ・キンプトン『動物探偵ミア』シリーズ、
ダイアナ・ハーモン・アシャー『サイド・トラック 走るの
ニガテなぼくのランニング日記
』、
エリン・エントラーダ・ケリー『ハロー、ここにいるよ』、
キャロライン・B・クーニー『闇のダイヤモンド』ほか多数。


列車探偵ハル

列車探偵ハル 王室列車の宝石泥棒を追え!
M・G・レナード&サム・セッジマン作
武富博子訳 イラスト:乃希
四六判並製 本体価格1300円+税
小学校中級~(小学3年生以上の漢字にふりがなつき)
早川書房より好評発売中!

ありがとうございます!今日のおすすめは『三体』です。
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