クリエイティブ_スイッチ

ヒットを連発する企画力を身につける習慣とは? 『クリエイティブ・スイッチ』訳者あとがき公開

(書影はAmazonにリンクされています)

『クリエイティブ・スイッチ――企画力を解き放つ天才の習慣』(アレン・ガネット/千葉敏生訳)

MicrosoftやHondaをクライアントにもつデータ分析のプロが、数々の事例と科学的知見をもとにヒットの本質に迫る! 読めば発想力のスイッチが入る、ビジネスパーソン必読の書。その読みどころを訳者の千葉敏生さんにご紹介いただきます。

本書冒頭を「「突然のひらめき」は真っ赤なウソ? 創造力の秘密に迫る」で公開中。

***

訳者あとがき

千葉敏生


私はどうせクリエイティブなタイプじゃない……。

名案をひらめくのは一握りの生まれつきの天才だけ……。

クリエイターやヒットメーカーになるなんて絶対にムリ……。

多くの人々がそう思いこみ、自分の創造力にフタをしてしまっています。

しかし、そんな思いこみを真っ向から否定し、私たちの見方をくつがえしてくれるのが、本書『クリエイティブ・スイッチ』(原題:The Creative Curve: How to Develop the Right Idea, at the Right Time)です。著者のアレン・ガネットは、彼の考案した「創クリエイティブ・カーブ造曲線の法則」を実践すれば、たとえ生まれつき天才的な才能をもっていなくても、誰でもヒット作品やヒット商品を生みだすコツを身につけられると説いています。

そんな著者のアレン・ガネットについて、簡単に紹介しておきましょう。彼は「トラックメイヴン TrackMaven」の創設者およびCEOとして、マイクロソフト、ホーム・デポ、ホンダ、GEといった名だたる大手企業にマーケティング分析ソフトウェアを提供してきた経験を持ちます。現在は2018年10月にトラックメイヴンと合併した「スカイワード Skyword」の最高戦略責任者を務めており、『フォーブス』や『インク』の発表する「30歳未満の30人(30 Under 30)」のひとりにも名前をあげられた若手起業家の有望株です。プライベートでは、起業家の夫(トレバー)を持ち、ツイッターでは大の愛犬家ぶりを披露、そして10代のころにはクイズ番組出演に執念を燃やし、徹底的に出演者の共通点を分析したという研究熱心な一面もあるようです。彼はそんな持ち前の分析能力を活かし、数十人のシェフ、作家、起業家、画家、ミュージシャンへの個人的なインタビュー、そして数々の神経科学の研究成果から、ヒットの背景にあるパターンを発見しました。それが本書に書かれている「創造曲線の法則」です。

著者のいう「創造曲線」とは、ある作品や商品に対する好き嫌いや人気度の時間的な推移をグラフで表わしたときにできる釣鐘型の曲線のことです。本書によると、人はあるものに対してなじみが増せば増すほど好きになっていきますが、ある時点を過ぎるとどんどん飽きて嫌気が差していきます。つまり、作品や商品をヒットさせるには、人々にとって適度になじみ深く、しかも適度に目新しいものをつくらなければならないことになります。詳しい内容は本篇に譲りますが、この人気や流行の上り坂の部分(創造曲線の「スイートスポット」)を見極めて、時流に合ったアイデアを意図的に生みだそう、というのが著者の考え方です。

本書は、2部構成になっています。

パートⅠでは、世の中に蔓延する「ひらめき説」のウソを次々と暴いていきます。

ビートルズのポール・マッカートニーは夢のなかで一瞬にして名曲「イエスタデイ」をひらめいた……。

モーツァルトは頭のなかだけでまるまる作曲を行なっていた……。

J・K・ローリングはロンドン行きの列車のなかで『ハリー・ポッター』のアイデアを完成させた……。

著者はさまざまな資料から、数々の名作が天才的なひらめきから生まれたという伝説のウソを暴き、その陰にある涙ぐましい努力や綿密な方法論を明かしていきます。

彼は数々のインタビューや証拠から、ヒットを連発するクリエイターや企業に共通するのは、自分のアイデアや商品が創造曲線のどの地点にあるのかを見極める能力だということを発見しました。たとえば、ビートルズはファンが新しいサウンドや楽器に慣れ親しむにしたがって、そのサウンドや楽器の使用頻度を増やしていき、飽きる寸前で使用を中止したといいます。また、日本のガリガリ君やうまい棒のような多彩な味で知られているアイスクリーム・メーカー「ベン&ジェリーズ」は、本書によると、ひとつの味の開発になんと2年もかけているそうです。しかし、おいしい味が完成したからといって慌てて発売したりはせず、トレンドをじっくりと見極め、その味(たとえばアーモンドミルク)にブームの兆しが現われたところで満を持して発売するわけです。

パートⅡは、いわばその実践篇です。パートⅠで紹介した創造曲線をうまく操り、ヒットを生みだすための「創造曲線の法則」を紹介しています。

創造曲線の法則は、
①大量消費
②模倣
③クリエイティブ・コミュニティ(創作仲間)
④反復
の4つの要素で成り立っていて、ヒットメーカーは共通してこの4つの法則に従っていると著者は主張します。

ひとつ目の「大量消費」は、作家なら本、ミュージシャンなら音楽、というように、自分がつくろうとしている作品や商品の分野について大量の情報を蓄積していく段階です。スポーツでいえば基礎体力に当たるでしょうか。ふたつ目の「模倣」は、ほかのクリエイターの作品やヒット商品のパターンを分析し、とりいれる段階。3つ目の「クリエイティブ・コミュニティ」は、作品や商品づくりに欠かせない仲間や人脈を築く段階。そして4つ目の「反復」は、いろいろなアイデアを出し、テストやフィードバックを通じて繰り返し磨きをかけていく段階。このあたりは、現在ビジネスパーソンに流行りの「デザイン思考」という考え方とも重なる部分があります。

この4つの段階を踏むことで、天才的なひらめきに頼らなくても、時流に沿うアイデア、なじみ深さと目新しさのバランスがちょうどいいアイデアを生みだしやすくなる、と著者は主張しています。そして、この法則に従うことなら誰にでもできる、と。

この考え方は、私自身にとってもたいへんためになりました。たとえば、先ほどの四つの法則を翻訳(特に出版翻訳)という仕事に当てはめて考えてみましょう(翻訳は純粋なものづくりとは少し性質がちがうかもしれませんが、あくまで例として)。

まず「大量消費」に当たるのは、無数の英文や本を読んだり、自分の手がける翻訳分野について予備知識を蓄えたりする段階です。「模倣」は、優れた翻訳書や翻訳者仲間の訳し方を見てお手本にする段階。ほかの人と自分の訳を見比べ、よい部分をとりいれるのは、上達に欠かせないプロセスでしょう。このふたつは、巷でどういう言葉遣いや文体が求められているのか、といったトレンドを見極める手段にもなるので重要ですが、仕事が忙しくなると、つい目の前の作業で手一杯になり、このふたつがおろそかになりがちです。

また、「クリエイティブ・コミュニティ」の役割も重要です。ふだんの翻訳者の仕事は基本的に孤独なものですが、私自身を振り返ってみると、幸い、私の訳文に目を通してフィードバックをくれる先生(本書でいう「一流の教師」)に恵まれましたし、ときには切磋琢磨しあい、ときには翻訳談義につきあってくれる翻訳者仲間もいます(「相補的なパートナー」)。ただ、出不精なので、わからない英語について質問できるネイティブの友人(「創作の女神」)がいなかったり、翻訳界での人脈(「卓越したプロモーター」)が乏しかったりするのが大の弱点です。

最後に、「反復」も仕事のうえで欠かせないステップです。私の場合、毎回「粗訳」(絵でいうスケッチ)、「突きあわせ」(粗訳を英文ともういちど見比べながら修正する作業)、「推敲」(訳文を練りあげる作業)という三つの工程を経て、ようやく原稿を出版社に提出できる状態になります。その後、編集や校正といった外部の目が入り、「初校」「再校」(時には「三校」「四校」……)と原稿の修正が続きます。無事刊行されたあとも、レビューや読者の方々の指摘を受けて重版時に修正が加えられることもありますが、翻訳者はこの点が少しおろそかになりがちです。本が刊行されると、次の仕事に意識が向かうからです。SNSなどを活用すれば、さらに多くのフィードバックを集める余地があるかもしれません。

このように、創造曲線の法則は、なにかをつくる仕事であれば、どのような仕事にも応用がきくのではないかと思います。音楽、小説、絵画などの純粋な芸術分野では、売れること自体を目的とすることについて、賛否両論があるかもしれませんが、とりわけ今日の企業では、ヒット商品やヒット企画を生みだすことが求められる場面が増えています。本書は、一般的な意味のクリエイターだけでなく、すべてのビジネスパーソンにとっても、意図的に名案を出すのに役立つでしょう。本書を読みながら、創造曲線の4つの法則と自分の行動を照らしあわせれば、きっと自分自身やチームに足りない部分がわかってくるのではないでしょうか(私の場合は4つともでしたが)。本書をきっかけに、ひとりでも多くの人が創造力を発揮してくれれば、訳者としてはうれしいかぎりです。

* * *

【著者紹介】

(C)Paula Bartosiewicz

アレン・ガネット Allen Gannett

マーケティング分析ソフトウェア会社「トラックメイヴン TrackMaven」創業者兼CEO。同社のクライアントにはMicrosoft、HondaやMarriottなど600以上の企業がある。2016年、24歳のときに、世界に影響を与える30歳未満の30人のひとりとして『フォーブス』誌の「30 Under 30」に選出。翌年『インク』誌からも選ばれる。「誰もがクリエイティブである」という信念をもち、創造力を高めるためのアイデアを以下のウェブサイトで発信している。
http://www.allen.xyz/


【訳者略歴】
千葉敏生 Toshio Chiba
翻訳家。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。訳書に、バーネット&エヴァンス『LIFE DESIGN』、ヒダルゴ『情報と秩序』、ハース&ハース『スイッチ!』『決定力! 』、ブラウン『デザイン思考が世界を変える』(以上早川書房刊)ほか多数。

* * *

クリエイティブ・スイッチ――企画力を解き放つ天才の習慣』(アレン・ガネット/千葉敏生訳、46判並製、定価1700+税円)は早川書房より発売中です。

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