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【追悼 コーマック・マッカーシー】早川書房刊の既刊/新作のご紹介

ピュリッツァー賞を受賞した『ザ・ロード』、『すべての美しい馬』に始まる〈国境三部作〉、アカデミー賞四冠のコーエン兄弟監督映画「ノーカントリー」の原作などを執筆した現代アメリカ文学を代表する小説家コーマック・マッカーシーが亡くなりました(享年89)。登場人物の台詞をかぎ括弧でくくらず、地の文に読点をほとんど打たずに淡々と描かれる事物。心理描写を差し引いた独特の文体で暴力と哲学、そして人間の在り方を描き、多くの作品が映画化されました。名実ともにアメリカ文学の巨匠でした。謹んでご冥福をお祈りいたします。

この記事では、早川書房より刊行されたコーマック・マッカーシーの作品をご紹介します。()は原作発表年です。

『チャイルド・オブ・ゴッド』(1973)

レスター・バラード。暴力的な性向を持った彼は、家族を失い、家を失い、テネシーの山中で暮らしはじめる。次第に社会とのつながりさえ失われていくなか、彼は凄惨な犯罪に手を染める。米文学の巨匠が、極限的な孤独と闇を、詩情あふれる端整な筆致で描き上げた傑作。ジェームズ・フランコ監督映画化!


『ブラッド・メリディアン』(1985)

19世紀半ばのアメリカ。14歳で家出した少年は、各地を放浪した末にグラントン大尉の率いるインディアン討伐隊に加わった。彼はそこで隊の一員である異形の大男、ホールデン判事を知る。戦争は神だ―にこやかにそう述べる判事とともに、一行は荒野をわたり、暴虐の限りをつくす旅をつづけるが。美しく情け容赦のない世界とそこで生きる人々の生と死を冷徹な筆致で描き上げた、マッカーシー初期の代表作。


『すべての美しい馬』(1992)

〈国境三部作〉第一作。1949年。祖父が死に、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは、自分の人生を選びとるために親友ロリンズと愛馬とともにメキシコへ越境した。この荒々しい土地でなら、牧場で馬とともに生きていくことができると考えたのだ。途中で年下の少年を一人、道連れに加え、三人は予想だにしない運命の渦中へと踏みこんでいく。至高の恋と苛烈な暴力を鮮烈に描き出す永遠のアメリカ青春小説の傑作。全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞


『越境』(1994)

〈国境三部作〉第二作。十六歳のビリーは、家畜を襲っていた牝狼を罠で捕らえた。いまや近隣で狼は珍しく、メキシコから越境してきたに違いない。父の指示には反するものの、彼は傷つきながらも気高い狼を故郷の山に帰してやりたいとの強い衝動を感じた。そして彼は、家族には何も告げずに、牝狼を連れて不法に国境を越えてしまう。長い旅路の果てに底なしの哀しみが待ち受けているとも知らず―孤高の巨匠が描き上げる、美しく残酷な青春小説。


『平原の町』(1998)

〈国境三部作〉の完結篇。十九歳になったジョン・グレイディ・コールは国境近くの牧場で働いていた。メキシコ人の幼い娼婦と激しい恋に落ちた彼は、愛馬や租父の遺品を売り払ってでも彼女と結婚しようと固く心に決めた。同僚のビリーは当初、ジョン・グレイディの計画に反対だった。だがやがて、その直情に負け、娼婦の身請けに力を貸す約束をする。運命の恋に突き進む若者の鮮烈な青春を、失われゆく西部を舞台に謳い上げる傑作。


『ノー・カントリー・フォー・オールド・メン』(2005)

1980年。ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境付近で麻薬密売人の殺戮現場に遭遇する。男たちの死体と残された莫大な現金を前に、モスは決断を迫られる。この金を持ち出せば全てが変わるだろう──モスを追って残忍な殺し屋が動き始め、その逃亡劇はさらなる"血と暴力"を呼ぶ。実直な保安官ベルは相次ぐ凄惨な事件の捜査を進めるが……。『血と暴力の国』(扶桑社ミステリー)から改題、改訂した上での再文庫化。解説は作家・佐藤究さん。


『ザ・ロード』(2006)

空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして――。
世界は本当に終わってしまったのか? 現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。


『悪の法則』(2013、映画脚本)

麻薬取引に手を染めた弁護士の男。一度儲ければそれでおしまいのはずだった。しかし、彼は自分がいつの間にか断崖の縁に追い込まれていることに気づく。そして彼にも、彼の周囲にも容赦のない暴力が襲いかかる。映画脚本。

『チャイルド・オブ・ゴッド』『悪の法則』は単行本で、その他の作品はハヤカワepi文庫より刊行されています。

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マッカーシー遺作。早川書房近刊
『The Passenger』『Stella Maris』(2022)

数学の天才である若い女性とのその兄の物語。二人は第二次世界大戦中の原爆開発に参加した科学者を父親に持ち、その影を背負うかのような人生を歩む。作中では量子論や数学をめぐる対話が交わされ、核兵器の脅威に象徴される化学の発達がもたらす危機のものと、人が生きることに価値はあるのかが突き詰められていく。

『ザ・ロード』から16年を経て刊行された待望の新作にして、惜しくも遺作となった長篇二作も早川書房より刊行予定です。

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