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クリスティー賞受賞の掃除機ミステリ『地べたを旅立つ』選評抜粋

本年度アガサ・クリスティー賞に輝き、最終選考会で選考委員たちを全員驚愕させた、そえだ信氏による前代未聞の掃除機ミステリ『地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険』(応募時『地べたを旅立つ』改題)が、本日11月19日刊行となりました。

本の詳しい内容は、昨日の記事「掃除じゃない、捜査だ! クリスティー賞受賞の「掃除機ミステリ」刊行!」をご参考ください。

地べたを旅立つ

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険
そえだ 信
早川書房 46判並製
1700円+税
ISBN978-4-15-209985-3 C0093
カバーイラスト*toi8
カバーデザイン*AFTERGLOW

ここでは、第10回アガサ・クリスティー賞選評から、本作に関する部分を抜粋していきます。

北上次郎氏
「そえだ信『地べたを旅立つ』に最高点をつけてから、自分で驚いた。本当にこれが最高点なのかよ。というのはこれ、冗談のような作品だからだ。ロボット掃除機になってしまった男が主人公なのだが、このあとがぶっ飛んでいる。小学五年生の姪っ子を守るために彼女が住む小樽に行かなくては、と考えるのだ。たしかにロボット掃除機だから動くことは出来る。しかし、思うかね、そんなこと。お前、掃除機だよ。素晴らしいのはこれ、それだけの小説であることだ。掃除機男のロードノベルなのである。
 もちろん掃除機だから「旅」は円滑には進まない。次々にアクシデントが起こり、そのたびに掃除機男は悪戦苦闘。時々充電(!)したり、老人と「会話」したり、いやあ、その細部が楽しい。しかし自分で最高点をつけておきながらこんなことを言うのもなんなのだが、いくらなんでも選考会でこの作品が票を集めることはないだろうから、そのときは選評でこの作品に対する愛を語ろうと思っていた。私はお前が好きだよ、と。ところがびっくり。他の選考委員の方にも好評だったのである。これがいちばんの驚きであった」
鴻巣友季子氏
「大賞受賞作は前代未聞のといってもいい「掃除機ミステリ」である。
 作者のそえだ信さんはこれまでも歌謡喫茶を舞台にした連作ミステリなどで本賞の最終候補に残ってきたが、今回の『地べたを旅立つ』はひときわユニークで、遊び心に満ちている。スマート機能搭載のロボット掃除機に刑事が憑依して、少女を守るために奮闘するのだ。
「ある朝、落ちつかない夢から醒めたとき、鈴木勢太は一台の小さな機械に変わってしまっている自分に気がついた」
 たとえば、序盤にこんなくだりがあり、ぷっと吹きださせる。カフカの『変身』から、夏目漱石の某作にまで、ちょっとした目配せも楽しませてくれた。奇想天外な設定ながら、筆運びは手堅く、心地よいドライブがある。ミステリ界のニューウェーブとして活躍してください」
清水直樹ミステリマガジン編集長
「そえだ信『地べたを旅立つ』は、ある事件をきっかけにしてAI内蔵のロボット掃除機に憑依した刑事を主人公にした異色の冒険ミステリ。人格が無機物に転移するというのは、SFとしても記憶にない設定で、正直なところミステリとしてこの作品をどう評価すべきかに悩んだ。視点が変わることで世界の見え方が変わる面白さは、SF的な面白さだと私は思う。だが、小説として文句なく面白く、興奮して読んだことは確かなので、大賞受賞に何の異論もない」

(第10回アガサ・クリスティー賞の選評の全体は、『地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険』巻末と、11月25日発売のミステリマガジン2021年1月号でお読みいただけます。またそえだ氏による受賞の言葉はミステリマガジン2020年11月号に掲載されています)

選評から、本作の楽しさが伝わりましたでしょうか。ぜひこの驚きの読書体験を、読者のみなさまにも共有していただければ幸いです!


そえだ 信 (そえだ・しん)プロフィール

2020年に『地べたを旅立つ』で第10回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞しデビュー。北海道在住。


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