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『withコロナの時代』の男と女・セックスと恋愛――食べたい?食べられたい?小説『ピュア』刊行記念トーク

「もしも女が男を食べないと妊娠できない世界」になったら、あなたはどうする?ーー小説『ピュア』刊行記念 #食べたい食べられたい ハッシュタグ企画に寄せ、noteで人気記事を書き続ける新進気鋭の女性の書き手2人と、noteディレクターの志村優衣、そして作者の小野美由紀が「男を食べたい?食べられたい?」「現代社会のおける男女の生きづらさ」「アフターコロナの時代に恋愛はどう変わってゆくか」他、赤裸々に価値観をぶつけ合いました。

小野美由紀

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1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。2015年2月、デビュー作エッセイ集『傷口から人生。』(幻冬舎)を刊行。他に、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)、旅行エッセイ『人生に疲れたらスペイン巡礼』 (光文社新書)、小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)などがある。
Twitter:@Miyki_Ono

佐々木ののか

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文筆業。家族と性愛を軸として、取材やエッセイなどを執筆するほか、洋服の制作や映画・演劇のアフタートーク登壇など、ジャンルを越境して自由に活動中。
Twitter:@sasakinonoka

佐藤友美(さとゆみ)

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書籍ライター、コラムニスト。
ファッション誌のライター&エディターとして活動したのち、書籍ライターとして活動中。
著書にベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』など。
朝日新聞「telling,」では書評コラム連載中。
Twitter:@SATOYUMI_0225

志村優衣

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noteディレクター。通信会社勤務、書店員、編集者を経て、2019年4月より現職。個人/法人のnoteクリエイターのサポート全般、日経新聞との共同主催コミュニティ「Nサロン」の運営、メディアとのパートナーシップ等を担当。

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小野美由紀『ピュア』
(好評発売&電子版配信中)


■セックスするにも命がけの時代

さとゆみ:なんかさあ、今、コロナのせいで、人間関係の転機を迎えている人が多いと思わない?

小野:思う!離婚しそうなカップルが増えてるって聞きますよね。

さとゆみ:それこそSFみたいな世界になっている中で、既存の価値観が大きく更新されつつあるなーと思って。無駄な飲み会とかしなくなってるし。

小野:そういえばこの人と惰性で付き合ってたな、っていう人とは会わなくなってる。

さとゆみ:今まで私たち、ファットだった気がするんだよね。

人間関係にもしがらみがあって、ややこしくて。

でもコロナのおかげでさ、すごく関係性がピュアになってきてると思うの。
純粋に「会えると嬉しいな」とか。
男関係だけじゃなくて、友達とも。

小野:単純に濃厚接触のハードル上がったよね。
セックスだって命がけじゃん。(笑)

さとゆみ:今って人と会う時は常に、伝染すか伝染されるかの危険性を感じながら会ってるよね。
それってすごくこのSF小説集『ピュア』の世界観に近づいてきてると思う。
この人なら食い殺されてもいいって思う人としか会えない(笑)

小野:生殺与奪の権を互いに握らせてるわけだからね。下手したら相手も自分も濃厚接触リストに入るかもって思うし。

さとゆみ:なんかね、コロナによって、剥がれ落ちてゆくものと残るものとが、はっきりと目に見えてきたと思うんですよ。

余計なものを捨てていった先に、本当にピュアな関係性やものしか残らない。

だから『ピュア』で描かれる「食う食われる」の関係性って、すごく実は現状に近いなって思いながら読んだ。

■もし、子供を作るために最愛の男を食べないと行けなくなったら……。

小野:もし今、作品のように「女が男を食べないと妊娠できない世界」になったら、みなさんは自分だったら食べると思いますか?

ののか:私は読んで「この世界に生まれたかったな!」ってすごく思った。

小野:まじで?!

ののか:妊娠したいわけじゃないけど、今でも好きな人を殺して食べたいって感覚がある(笑)

さとゆみ:私も同じような欲望がある。
昔「可愛い!」って思うあまりに息子のほっぺたをかじったら、歯型がついちゃって慌てたんだよね。
食べたいって言うより、好きなものは体内に取り込みたい(笑)

小野:取り込みたい……!すごい。

さとゆみ:でも、もし自分だったら”妊娠するために食べる”ってのは無いなと思った。
だって、あの世界で起こりえる一番不幸なことって「男の子を産む」ことなんだもん。

小野:え!

さとゆみ:だってさ、最愛の人との間にできた息子が、だれか他の女に取って食われるわけでしょ?
そんなの耐えられない!

私、あの世界で好きな人ができたら妊娠自体したくないって思うし、万が一身籠ったら「生まれてくる子は女でありますように!」って毎日願うだろうな。

小野:すごい……私は子供を産んでないから分からないけど、子供がいたらそこまで想像働くんだ……。
じゃあさ、みんなはセックスしてるときに「食べてるな」って感覚ある?それとも「食べられてる」って感覚?

ののか:私は食い合いたいですね。食べたいし食べられたい。恋愛も、性愛も、殺生ってイメージがある。

小野:殺生!どう言う時に「勝ち」を感じるの?

ののか:例えばセックスで、自分が物理的に支配権を持っていたとしても、相手にやらされてる感を感じる時もある。そう言う時は向こうが支配権を握っているわけですよね。その関係における支配権のボールを取り合う力学が働いてるのが楽しい!みたいな。

小野:なるほどね。けど、セックスにおける「支配」って言っても色々あるよね。

私の女友達はね、「相手の気持ち良さとか1ミリも考えずに、騎乗位でめっちゃ腰動かして快感ガンギまってる時が一番相手を支配してるって感じる」って言ってた。

一同:すごい(笑)

小野:私は逆にこっちが冷静で、相手がガンギまってるときに「ああ、支配してるな」って思う。あ、今この人は私に勝てないんだな、って。
だってもし正常位の状態で、こっちが手にナイフとか持ってたら、相手の首、一瞬で取れるじゃん。

ののか:(笑)そういう意味では、私は相手の欲望を読み取って先手を打ったり、相手を満足させた時に支配してるなって思う。

■安心感で盛り上がるセックスと、ときめきをブースターにするセックスがある

さとゆみ:えーと、私、ここに混ざってていいのかな(笑)私はすごく安心してないとセックスが楽しくないから、殺生とは真逆かな。むしろセッションに近いかも(笑)

私、小説『ピュア』の子たちが不幸だなと思うのは、同じ人と1回しかできないことだよ。

「あ、この人、めっちゃ相性いいわ」って思っても二度はできないんだよね。

一同:確かに!

さとゆみ:セックスってさ、安心してないと自分をさらけ出せないタイプの人と、初めてする相手との、「わーっ!」て盛り上がる感じのが好きって人と、2種類いるでしょ。
私は前者だから、全員が「初めまして、ハイさよなら」だといつまでたっても気持ちよくなれない気がする。

ののか:私、以前コラムで書いたんですけど、昔セックスだけを目的で会ってた男の人に「体目当て」で会ってるって伝えたらすごく嫌がられたことがあって。(笑)
その人ともそうだったけど、回数重ねてくごとに気持ちよくなるってことはある。

小野:どこが気持ちいいかを伝え合ってくうちに良くなったの?

ののか:その人とは、恋愛感情ありきでのセックスじゃなかったから。恋愛感情ってセックスにおけるブースターだけど、それがなかったから、コミュニケーション重ねて良くしてゆくしかなかったんだよね。

小野:なるほど。『ピュア』の世界だと、セックスが単なるセックスでしかなくて、男女のコミュニケーションが深まってく手段であるってのが体験できないよね。

さとゆみ:この本の中で一番セクシャルだなって思ったの「To the Moon」の情事のシーンなの。食う食われるよりも”溶け合う”って方が気持ちいい気がして。お互いにね。

小野:そう思うと、「ピュア」の世界って割と地獄じゃん。私「女にとって都合のいい世界」ってつもりで書いてたけど、全然よくないわ。

この小説を読んでくれた女性医師の方から聞いた話なんだけど、女性って「相手のことを愛しい」と感じると、愛情ホルモンが分泌されて妊娠率が飛躍的に上がるらしいんですよ。

一同:へぇー。

小野:小説『ピュア』の世界では、人類の繁栄のために無理やり月1でセックスして男を食べないと行けないわけだけど、妊娠率はすごく低い。
これって現実も一緒で、「子作り」のためにセックスしてると逆になかなか妊娠しないんだって。これって、欲しくない遺伝子の相手の子供を妊娠しないようにする女性の体の自衛なんだって。

だから『ピュア』のストーリーは理にかなってるんだって言ってて。

一同:それ面白い!

■女も辛けりゃ男も辛い、現代社会を鏡のように映した作品

ののか:私は「ピュア」を、単なるフィクションじゃなく、現代の世相を映した作品だなと思いました。
「どう生きるべきか」って多くの女性が抱えるすごく痛切な問いをテーマにしてるなって。

登場人物たちは、自分たちが置かれている状況について三者三様の価値観を持っていますよね。
この世界の目標とされる、軍人として活躍して、かつ男を食べて妊娠して「名誉女性」の称号を勝ち取ってゆくことについて、嫌悪している子もいれば、素直に実行に写している子もいて。これって現代の女性たちそのものだなって。

読んだ女の子たちに、誰にいちばん感情移入した?って聞きたい。


小野:今の世の中で生きる女性ってさ、ルービックキューブ全面揃えるみたいな厳しさがあるよね。ちゃんと子供育てて、働いて稼いで、いい奥さん、いい母、女性としても魅力的…って、それ全部満たさないと勝ちじゃない、みたいな世界。それ、すごく辛いよね。

ののか:みんな構造の犠牲になってるっていうか、男を殺して妊娠しないとっていうシステムの中で苦しいのはみんな同じで、けどそれぞれ違う痛みを抱えてる。

例えば、フェミニズムの論壇でも、みんな「女性が女性であるだけで、差別されない世界を作る」と言う同じ目的を持っているはずなのに、それぞれの人生で体験したことも違うし、守りたいことが違うから、主張が食い違って喧嘩になっちゃうのもわかる。

その意味で『ピュア』の世界の主人公と他の女の子のバトルも、現実世界に起き得るよね、と思ったし、いろんな人の視点に寄り添ってくれる話だなって思った。

小野:シスターフッドの難しさってそこよね。立場が違うとさ、手を取りにくいじゃない。
「上か下か」みたいなのが生まれて。
フェミニスト同士で時々、起きる議論も、大枠で言えば「青」なのに「私にはコバルトブルーに見える!」「いやいや、お前どこに目つけてるの?これ群青じゃん!」「は?何言ってんの?セルリアンブルーっしょ!」って言い合ってるだけに見える時もある。

例えば大丸百貨店の「生理ちゃん」バッヂの件が去年ネットで炎上したけど、「生理をオープンにするのは良いこと」とする考えと「そんなの個人の自由だから企業が推し進めることじゃない」って考えで二分されて。
私は「やり方まずいところもあるけど、女性が働きやすい職場にする、って目的のための実験なんだから、そこ、評価しようよ!」って思っちゃう方なんだけど。
ちょっとしたものの見え方の違いなのに、ガチガチに自分と同じものの見方を求めあうとケンカになる。

ののか:そういう分断も含めて、世の中の生きづらさな気がする。

さとゆみ:私ね、女が苦しい社会って、男も苦しいって思うんだよね。
『ピュア』の世界でも男は食べられるためだけに存在してて、労働しかすることがなくて、相当苦しいけど、今の世界の男性もこれぐらいは苦しいと思う。

小野:確かに。男らしくあらなければならないって重圧を感じている男はやっぱりまだ多いですよね。稼いで、奥さんと子供食わせて、女の子にモテてこそ男、みたいな。

さとゆみ:私は女の人って、生まれて来さえすれば女になれる気がするんだけど、男の人っていろんなアイテムを得ないと一人前の男になれない、って気がしてて。

私もし自分が男だったら、今の社会でどう生きたらいいかわかんないと思う。「男なら奢れ」って言われたかと思いきや、イクメンでないとって言われたり。

志村:知人や友人の話を聞いていると、男性より女性のほうが評価されやすい場面が増えてきているのかなという気もする。

女性のほうが立ち回りがうまいというのもあるかもしれないけど、男性だと後方でフィールド守ってくれているような人よりは、前線で活躍している人の方がやっぱり評価されやすいというか。多くの会社においては、男性は昔と変わらず、一つの輝き方しかいまだにないって感じ。

小野:なるほど。旧来型の、ヒーロー的活躍をしないと男の人は勲章がもらえない?

志村:そうそう、そこに女性がどんどん入ってくと、じゃあ俺の輝き方ってなんだろう、って悩む男の人もいると思う。

ののか:世の中の価値観が急速に変わっていて、戸惑う人も多そうですよね。これまで旧来的な家父長制に守られていた男性が、急に「お前の価値観、もう通じないよ!」って世の中に突きつけられて、「ええっ」って戸惑ってる状況ってあるし、ロールモデルもない中で、いわゆるヒーローかイクメンか、の2択しかない。選択肢の少なさに辛さがあるというか。

小野:こっち選んだら地雷かも、でもこっちも地雷かもっていう。

さとゆみ:単行本には『ピュア』のスピンオフ作品『エイジ』が載ってるけど、これは「食べられる」男の側の話だよね。これ、めちゃくちゃ切ない。
「ピュア」が女の生きづらさだとしたら、「エイジ」は男の生きづらさを描いたアンサーソングだと思う。

■社会の仕組みや生殖システムからは逃れられないけど、生き方の選択権は自分にある

小野:話変わるけど、みんなは女性に生まれてよかったって思う?

志村:私はそう思います。子供を産む機能を持ってることも女性の特権だと思ってるし。今の所、女であることはプラスαだと思ってるんで。

さとゆみ:私は後100回生まれ変わるなら99回は女がいい。
女体でよかったって思うもん。

あと、産む産まないとか、セックスするしないの選択権って最終的には女にあるじゃない?こっちが嫌ですって言ったら男は入ってこれない。レイプとかは別だけど、合意の場合。

小野:なるほど。

さとゆみ:この人の子供を産む産まないとかの選択権もね。
だから性について、女性が弱い立場であるっていうのは、歴史レベルで言えばもちろんあると思うけど、個人でいうとあんまり感じないなあ。
もちろんまだまだ、男性向きの側面の強い社会だけど、それもまた人生の選び方次第だなって思う。そんなにどうしょうもない社会とは思わない。もちろん海外のように女性の首相が生まれたらいいなとか、もっと良くなったらいいなとは思うけど。

小野:私が『ピュア』で描きたかったのって、女って自分たちで思うより、ずっと強い生き物だよってこと。社会の仕組みや生殖システムからは逃れられないけど、選択権は自分にあるんだよ。自分なりの満足や決定をして生きることができるよってことを伝えたい。

っていうか、ピュアみたいな世の中にならなくても、女の方が生物的に強いよね。

■「男らしさ」「女らしさ」はプレイの一種と捉えることで解放される

ののか:とはいえ、家父長制が強い家庭で育って、お母さんがお父さんに尽くす姿を見て育ってたりすると、女性であることの生きづらさを感じたりしやすいと思う。

私は「女性らしくならなきゃいけない!」って思いが強くてそれが苦しかった。
男性に認められるために、自分を「理想の女性」像に寄せていかないといけない、みたいな。やっとそうじゃないって気づけた段階なんだけど。

小野:気に入られる女性にならなきゃ、みたいな?

ののか:女の子らしさの参照先をいっぱい集めて、それにならないといけない、みたいな。だから今でも、男になりたい、男に憧れるってとこあるんだよね。ミソジニーを内面化してるのかも。男にも女にもなりきれないって、性に当てはまってないって感覚はずっとある。

さとゆみ:うちもすごい、家父長制的な家庭だったの。お風呂をいただくのもご飯をよそうのもお父さまが1番みたいな。私、大学まで父に敬語だったんだよ。

小野:ええっ、それすごい!

さとゆみ:でも、私はなぜか「それと自分とは関係ない」ってずっと思ってた。
お父さんとお母さんはそういうプレイをするのが好きなカップルで、自分は自分で気持ちいいプレイを見つければいいなって。

私、1回目の結婚の時に、夫が18歳年上だったんだけど、母がうちに来た時に、夫が母にお茶入れたの、そしたら母がびっくりして「あなた、旦那さんにお茶入れさせるの?」って。

だから言ったんだよね。

「うちにはうちのルールがあるので、お母さんが気にすることじゃないよ、お茶を入れることが男性の沽券にかかわるとか全く思ってないから」って。

そういうこと、私は全ての人に対して思ってる。

プレイとしてやって、楽しい人はすれば?って感じ。

小野:プレイっていい言葉ですね。みんなプレイしてるんだ!

さとゆみ:彼に尽くすのが好きってプレイの人もいるじゃん?あと、男を立てて気持ちいいって人もいる。私はそれを、男尊女卑だ、とか言ってるのって違うかなと思う。ただのプレイ。私はそのプレイ好きじゃないわとか「でもこの彼氏だったら私はそのプレイしたいわ」とかあるじゃない?

小野:確かに。人によって変わりますね。そっか。プレイなんだ。

私はね、逆に「男と女は平等だから、男に勝たなきゃ」ってずうっと刷り込まれて育ってるんですよ。
『幻胎』の主人公みたいな。女の方が強いんだから、自立しなきゃ!って。

でもね、学生時代に銀座でホステスのアルバイトしてた時にさ、ママが「男は棒」って言ってんの聞いて、目から鱗が落ちたんだよね。
「男はね、偉いからじゃないの、棒だからとりあえず立てとくのよ」って。

一同:棒!

小野:水商売ってさ、男にちやほやして、男尊女卑の極みみたいな世界じゃんって思ってたのに、あの人たち、そんなのに全然とらわれてないの。だって獲物なんだもん。

でね、「全部立たせなくていいのよ。自分に役に立つ棒だけ立たせるのよ」
「あと、自分に立たない棒は立たせなくていいのよ」って。

一同:すごい(笑)

小野:あ、男を立てるって、もしかしたらめちゃくちゃ女性本位の前提でやるべきことなんじゃないの、って思った。それはさ、銀座のお姉さんのプレイだよね。

あと、最近ポールダンスを習ってるんだけど、先生がすっごく良いこと言ってて。

「みんな、今の時代、自立しなきゃダメとか、しっかりしなきゃ、って思ってるじゃない?でもね、ポールダンスで女性が美しく見えるのって、棒にめちゃくちゃ体重かけるからなのよ!自立しちゃだめなの!思い切り棒には頼るのよ!そうしたら楽しく踊れるんだからね!」って。

さとゆみ:名言……。

小野:それ聞いてめっちゃ楽になったんですよね。ああ、男と張り合わなくていいんだーっていう。
私はフェミニストだけど恋人は立てるし、男は棒で全体重かけてる。そういうプレイです。全体重かけても立っててくれてる棒がいるからなんだけどね。棒には感謝ですね。

さとゆみ:男の人と競争しなくていい、って思うと楽になれるよね。


■『男も子供も、女の中には絶対に入れない』

ののか:私、根っこには男にライバル心があるんですよね。どうあがいても男にはなれないし、勝てない。「男の体が欲しい」ってすごく思うもん。
昔、男の人に首を絞められて、ムカついて絞め返したら殴られて抵抗できなくて、その時に女であることの絶望感を感じた。

小野:なんかさ、男女の間で「支配」「被支配」みたいになる時って、一体化できない寂しさみたいなものがあるからそうなっちゃうのかも。どうやっても溶け合えない、だから支配被支配の関係になってく。

小説に出てくる、『体の構造的に、男も子供も絶対に女の中には入れない』って言葉は生物学者の福岡伸一さんの本に書いてあったことなの。

志村:『生物と無生物のあいだ』の!

小野:女ってさ、中に入られる生き物だと思ってたけど実はそうじゃないんだよね、結局、私たちは生まれてから死ぬまで一人で、どんだけ男とセックスしようが、子供産もうが、その穴は埋まらないんだよ。

志村:私、『ピュア』の1シーンですごく良いなと思ったとこがあって、
ヒトミちゃんが「みんなさ、退屈が怖いんだよ。その穴を埋めたいから、男食ったり戦争したりするんだ」ってセリフがあるじゃないですか。

私、昔は自分のことを好きにならない男に執着してたんですけど、その時は仕事も充実してなくて、やることもなくて、不安やさみしさが大きかったんですよね。
最近は仕事も楽しいし、プライベートも好きなようにやってて、だんだんセックスが退屈を埋めるためのものじゃなくて、コミュニケーションの一部になりつつある。お互い楽しくて気持ちよければいいな、それが幸せだなって感じに……。

さとゆみ:わかる。セックスをちゃんとセックスとして楽しめる感じ。

小野:依存って、すごくあとを引く行為じゃん。ずっと口の中で、吐き出せず、飲み込めず、咀嚼し続けてるみたいな。相手にも自分にも気持ち悪いよね。

私、男をもっと綺麗に平らげられるようになりたいわ。それが今の目標。

■人間関係が根こそぎ変わってゆく、コロナの時代に読むべき小説

志村:「ピュア」は、さとゆみさんも言ってたけど、すごく「今の時代」が現れてるお話だなって思った。「みんな、退屈が怖いんだよ」って部分、コロナの情勢もあって共感する。

小野:いや、もう、最近めちゃくちゃ退屈だよね。家から出られないし。

志村:世の中の人もさ、することなくて家に閉じこもってると、SNSで悪口書いたり憂さ晴らししたりという方向にいっちゃう人もいるけど、自炊したり、家でできること発見したりとか、やりたいことを見つけてエンジョイしてる人もいて。

コロナに限らず、いろんなものが激変してく時代の中、このままならない退屈な世界で、自分のためにどう生きようって、考えなければいけないフェーズにいるんだと思う。
「ピュア」はそんな世相の中で読むにはぴったりな話だなって。
登場人物がそれぞれみんな自分なりの幸せを追求しようとしてて、「社会のルールの中でいい点数出してこう」って決めた人もいれば、「社会のルールから外れて自分なりの幸せを追求してゆこう」って決めた人もいて、どちらも素敵に描かれていて、いいなって思いました。

さとゆみ:『ピュア』もだけど、私は収録作品の『バースデー』を読んで、今の世の中を予言してるなって思った。

小野:性別が手術によって自由に変えられる世界で、幼馴染の女の子が突然男になっちゃって戸惑う女子高生の話ですね。

『バースデー』は生まれ直しの話なんです。

自分の価値観が、根こそぎ崩れちゃうような出来事が起きた時に、人はどうやって新しい人間関係を築き上げてくのかっていう。

さとゆみ:この小説に書かれている人間関係はまさにピュアだなと思った。これからどんどん、こんな世界になってゆくなって。

小野さんって時代をちょっと早く捉えてるっていうか、「炭鉱のカナリア」だと思ってて。世の中のみんなが感じることを一足先に感じる人だなって。
そういう意味で、『ピュア』は全収録作品、今、コロナの時代に読むべき作品だなと思いました。

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