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【連載17】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新の連作中篇、全14回集中連載の予定でしたが、ご好評につき第18回まで延長いたします!

星霊の艦隊 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー
ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優


Episode 9 練習艦隊

Part.1
 アメノヤマト帝律次元軍練習艦隊は、練習艦や練習飛航機によって構成される艦隊である。知性化質量資源、つまり人工超次元ブラックホールはただのブラックホールではなく、特別な工程を経て加工されたものであり、前線で戦うわけでもないのに恒星クラスの質量を持たせるわけにはいかない。
 そこで、惑星級、つまりは飛航機と同等の質量レベルの艦艇が練習艦の主機となる。一方で構成アルゴリズムは艦艇らしく常次元を航行するものであって、飛航機のように高次元を航行するものではないので、操作する者にとっては若干の違和感を抱かせるものであるらしい。
「……うーん。どうも慣れないね。飛航機の方が良かったよ」
 準惑星級練習護衛艦〈甘樫坐あまかし〉の艦長兼制霊となったククリが艦長席でぐっと伸びをした。
 深紫色の髪は後頭部に無造作にくくられており、襟ぐりの深く開いた帝律次元軍の星霊の制服の胸元からは、同じ色の星勾玉がのぞく。くるくるした丸い愛らしい瞳でルリハを見上げている。
 艦橋の操作士席には、ククリの分擬体がずらりと並ぶ。ルリハはククリの隣、ストゥールのような指揮官席に腰掛け、七二〇度全天スクリーンの正面、戦況モニタを見つめている。
(これが指揮官の目線ですのね……)
 ルリハにとって、祖母たちや父母から伝え聞いていた光景そのままだ。
 ルリハは仮初めの自身の乗艦となった練習護衛艦〈甘樫坐〉の指揮艦席の脇に、鏡を設置するよう構成プログラムをカスタマイズさせていた。
 少しでも髪が乱れていたり、服装が乱れていたら印象が悪くなると思ってのことだ。祖母は良い心がけだと褒めてくれたが、同時に、「身ぎれいにすることと、自分を過度に印象づけることを混同してはいけません」とも言っていた。
 しかしルリハにはその区別は若干よく分からない。
 今だって、彼女は瑠璃色の髪をきれいになでつけ、後頭部で丁寧に編みこんでアップにしているし、身体にぴったりした詰め襟の白い軍服は清潔でシミ一つない。豊かな胸をしっかり包みこんで、かつ、無駄なしわがでないよう、ククリの超次元状態ベクトル操作で立体縫製の調整をしてもらっているのだ。きっちりと折り目のついた同じく白いズボン、少し高いヒールのついた黒い革靴の足先に至るまで、きりりとしまったウェスト、丸みのあるヒップ、すらりとした脚、というルリハの身体をしっかり包み込むように、ククリに調整してもらっている。
「えー、そこまで調整しなくていいじゃん……」
 と、ククリは言っていたが、そういう問題ではない。だらしない格好だと印象が悪くなるではないか。それで、相手の将校にも軽んじられるかもしれない。それは嫌だった。それで勝ち上がっても、周りに何を言われるか分からない。
 勝ち上がる。
 そう、練習艦隊というのは、練習と言うより演習を繰り返す組織だ。
 最下級の“少尉下級リーグ”から、最上級の“大尉上級リーグ”まで、九つのリーグがあり、各リーグで勝率が上位の少数の士官だけが上位のリーグに進むことになっている。士官学校で習った戦い方、星霊の力との連携の仕方、睡眠中にたっぷり注入された知識は、ここで勝ち上がり、前線に出る実力を見せつけるために与えられたといっても過言ではない。
 一〇年経っても大尉上級リーグまで勝ち上がり、前線に出られなければ強制引退だ。士官学校を卒業したと言っても、それは単にこのリーグに参加する資格を得ただけのことなのである。
 ちなみに、星霊の場合は引退にはならないが、階級を星霊曹長に戻されて前線部隊に復帰させられる。星霊にとって、士官となる資格があるのは、人間と配偶官あるいは仮配偶官でいるときだけなのだ。例外は戦死したときだけだ。
「洲月ルリハ少尉、甘樫坐ククリ星霊少尉、準備はいいか?」
 スクリーンの正面に通信ウィンドウが開き、演習監督官の士官の映像が表示される。
「演習監督官、馬酔木あせびユヅキ中佐だ。洲月ルリハ、吾桜リョウ、これより少尉下級リーグ順位戦演習を開始する。双方準備はよいか」
「問題ありませんわ!」
 ルリハが先に言った。ルリハの対戦相手――吾桜リョウは、そんなルリハを見下すように見て、それから落ち着いた声で言った。
「――吾桜あさくらリョウ少尉、布多天アカル星霊少尉、ともに問題なし」
「よろしい、では一分後に演習開始する」
 ユヅキ中佐は言い、そこで通信は切れた。
 吾桜リョウ――その名は大和本校でも伝え聞いていた。武蔵分校の主席。星間貿易で名をなした一族の令嬢だという。流麗な肩までの金髪、白磁のような肌で、ルリハよりも尚、“お嬢様”という言葉の似合う人物のように、ルリハには思えた。
 美しさ――というのはこの銀河時代には両親によって調整されるものだし、ルリハは親がせっかく巧くデザインしても、中身がそれに伴っていなければ虚しいだけだと思っているが、リョウの場合中身――というより訓練成績が優秀であったので、全くひけをとらず虚しくもなっていない。
 しかも、彼女は多くの男性や女性との交際経験があるようで、そちらの方面でも有名だった。
 ルリハが経験し得なかったことだ。彼女は士官学校のカリキュラムについていくのに必死だったのに、そこで主席を取りながらどうやってそんな時間があったのだろう。
 アカル、という彼女の星霊も、ルリハのククリと同様、皇后候補に考えられていたという。
 戦況ウィンドウに映し出された護衛艦〈布多天〉をルリハはにらんだ。
「ククリ、強敵ですが、負けたくありませんわ」
「あなただって大和本校の三位だよ。ユウリやナオはずば抜けて優秀だったみたいだから、気にしない気にしない」
「ユウリとナオが? それも気に入らないですわね」
「もうすぐ始まるよ!」
 ククリが注意を促す。ルリハは指揮官席から降り、腕を組んで仁王立ちになった。
「よろしい! 時空延展航法最大戦速! 三〇万光速にて、敵へ向かいなさい! 同時に高次元戦闘部署を発令。対艦高次元誘導弾、発射用意。目標、敵護衛艦〈布多天〉、射程に達すると同時に発射開始」
 演習宙域は、オリオン銀嶺から更に銀河周縁へ向かったところ。ペルセウス銀海、アメノヤマト帝律次元軍の銀海縁衛大要塞の周辺宙域であった。
 敵はおよそ一五光年の距離。誘導弾の射程は一〇光年、一光年進むのに、光速の三〇万倍程度が最大戦速の護衛艦は一〇〇秒かかるから、射程まで全速で進んでも五〇〇秒だ。
「馬鹿みたいにまっすぐ進んでていいの?」
「敵もそう思っていることでしょうね!」
 ルリハは投げつけるように言った。
 戦場に設定された宙域は、銀海であるため天体はまばらで、ダークマター密度も適度に低い。そして戦うのは戦列を構成する護衛艦同士。
つまり地球時代の戦いに例えるならばだだっ広い平野で歩兵同士が突撃するようなもので、極めて平易な戦場設定であった。飛航機――いわば砲兵が放つ“砲弾”であったククリから見れば、あくびが出るような単純な戦闘になると思っていることだろう。
(でもそういうわけではありませんわ……)
 護衛艦という艦種は、航擁艦よりは速いが巡航艦・巡航戦艦よりは遅く、攻撃力も両艦種に劣り、かといって潜航艦のように深次元にもぐるような特殊能力もない。ただ数をそろえられるだけが利点と思われがちだ。だが、誘導弾を数多くそろえ、高次元からの攻撃にも深次元からの攻撃にもある程度対応できる打ち手の多彩さは随一だとルリハは思っている。せっかく、名高い吾桜リョウと戦えるのだ。汎用艦である護衛艦の潜在力を最大限活かす戦い方をしてみるつもりだった。
 そして五〇〇秒後――。ルリハがある命令を更にククリに下した直後――。
「敵の射程に到達! 高次元誘導弾発射開始します!」
 ククリそっくりの、攻撃担当の操作士が報告する。
「了解! 一〇〇発全弾たたきこみなさい! 出し惜しみはなしですわ!」
 主機のトロイダル回転によって、高次元に投射された高次元誘導弾は、自律的に敵に向かって殺到していく。
「敵の誘導弾も来ます! 数五〇!」
(吾桜リョウ……かかってきましたわね……!)
 五〇発は、護衛艦の搭載量の約半分だ。高次元誘導弾が一斉に飛び交うなか、リョウの護衛艦〈布多天〉は、巧みな回避動作でルリハの放った誘導弾を回避しつつ、こちらになおもまっすぐ向かってくる。
「ククリ! 全力で回避しつつ後退!」
 ルリハは命じる。
 客観的に見れば、この勝負、ここでルリハは不利になったと思われるはずだ。なぜなら、リョウは残弾を半分残している一方、ルリハには残弾がない。最初に撃ちきってしまった以上、今度は残弾を残している敵から逃げ続けるしかない。
 こちらが全弾発射したのを見て取った吾桜リョウは、残弾を残して高次元誘導弾の打ち合いに勝てば、勝負がつくと判断、残弾を半分残して、アカルの回避能力に賭けたのだ。
 そして、リョウは賭けに勝った。
 ルリハの護衛艦〈甘樫坐〉は五〇発の高次元誘導弾を回避しきったものの、リョウの護衛艦〈布多天〉も倍の誘導弾を回避しきったのだから、ここからはルリハが逃げ続けるしかない。
「全力で回避するよ! 星域の超次元状態ベクトル操作でも重力制御ができないかもしれない。指揮官席に座って、安全帯をつけて」
「ククリ。任せますわ」
 ルリハは短く言った。指揮官席に座り、腰に安全帯をつける。左手をククリの前に垂らした。
「あなたの戦術がうまくいくよう全力を尽くすよ」
 ククリは深紫の瞳でルリハを見て頷き、ルリハの左手を右手で握り、手の甲の端玉を自身の星勾玉に押し当てた。
 ルリハの神経系にククリの回避動作が入ってくる。すさまじい量の高次元誘導弾が降り注ぐなか、それを全力で回避し続けるククリ。回避しつつ、来た経路をそのままたどるようにまっすぐに後退していく。
(そう……それでいいのです。頼みましたよ、ククリ)
 ルリハは祈るように思った。
 そして――一〇〇〇秒後。
「今ですわククリ! 休眠深次元誘導弾、全弾機動、目標〈布多天〉!」
 ルリハが鋭く命じる。
「深次元誘導弾起動! 〈布多天〉を攻撃!」
 そう。射程ぎりぎりでルリハが命じたのは、深次元誘導弾を放ち、深次元奥深くに沈めておく戦術だった。敵はもちろん探深微弾でこちらを警戒し、深次元誘導弾を放てば回避する準備を整えていただろうが、急に直下から襲われては回避しきれないだろう。
 このために、来た経路をそのままたどるように後退してきたのだ。
 だが。
「〈布多天〉、急停止! 後退! 対抗深次元誘導弾発射! 全弾迎撃!」
 探査・探深担当の操作士たるククリの分擬体が報告する。
 ルリハは顔面が蒼白になった。
「敵、なおも進撃中、高次元誘導弾多数飛来!」
「回避! 続けて!」
「三〇発、同時に飛来! あらゆる回避経路が塞がれています!」
「無理! 回避不能!」
 ほぼ同時。
 全天720度スクリーンがブラックアウトした。
 正面、通信ウィンドウだけが表示される。ユヅキ中佐が現れた。
「こちら演習監督官、練習護衛艦〈甘樫坐〉撃沈判定。吾桜リョウ=布多天アカル組の勝利が確定。以上。演習参加各艦は演習宙域より撤退、銀海縁衛大要塞へ帰投せよ」
 事務的な彼女の声が、敗北の衝撃にえぐられたルリハの胸を、さらにえぐった。

2023/02/09/12:00更新【連載17】(最終回)に続く


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