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【連載18(最終回)】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新の連作中篇、全18回集中連載の最終回です!

星霊の艦隊 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー
ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優


Part.2

 銀海縁衛大要塞は、アメノヤマト帝律次元軍近衛艦隊が管理している。全部で九つの大要塞がアメノヤマトの要所に配置されているが、一番重要なオリオン銀海側の銀海央衛大要塞は氷見名市の襲撃事件の時に破壊されて以来、再建を急いでいるがまだ復旧していない。
 ペルセウス銀海側にあるこの大要塞は、敵の襲撃の可能性が低く、かつ、広大なペルセウス銀海に位置していることから、練習艦隊の拠点が置かれている。管理者・近衛艦隊、使用者・練習艦隊、という状態だ。
練習艦隊は管理権も近衛艦隊に渡す方が効率がいいとたびたび申し出ているが、近衛艦隊では、「ペルセウス銀海側から襲撃がある可能性がある」として防衛飛航隊を配置し続けており、管理権も手放そうとしない。
(結局、〈アルヴヘイム〉への不信感があるということなんでしょうね、近衛艦隊には)
 要塞の展望室で、ルリハは思う。
 三〇年前、〈アルヴヘイム〉による人類への大規模襲撃事件が起こったとき、グルス共律星など、近傍星律系の救助に向かったのが近衛艦隊であった。救出行動をとる近衛艦隊とアルヴヘイム党律親衛軍との交戦も各地で発生しており、近衛艦隊はそのときの印象が根強いのだろう。
「おお、ペルセウス銀海から見たオリオン渦状腕はこんな感じなんだねー」
 ククリが展望室に入ってきた。銀河中央バルジの圧倒的な光の洪水には及ばないが、それでも空に横たわる星の帯は美しい。
「そうですわね……。ここからオリオン渦状腕まで約一〇〇〇光年。一〇〇〇年前。太陽系時代よりも更に昔、地球時代の太陽系が見えるはずですわ」
「一〇〇〇年前。共通歴一五世紀の太陽系か……」
「不思議なものですわね。あれからわたくしたち人類は太陽を星環に変え、ソル共律星とし、そして更に今ではアルヴヘイム党律星になっているというのに、ここに届けられた光は、そんなことをまだ知らず、ずっと昔の地球の記憶を伝えている……」
(それに比べれば、私の敗北の屈辱など吹けば飛ぶようなものかもしれませんが……。それでも悔しいですわ)
「吾桜リョウには一本取られたね」
 ククリがやがて言った。
「あの動き、ルリハがあらかじめ深次元誘導弾を配置していると気づいてなきゃできなかったよ」
「彼女にとっては想定内の戦術だったんでしょう。それだけですわ。次は負けないですわ」
 ルリハはやがて言った。
「ユウリならどうしただろうね?」
 ルリハは眉をひそめた。答えて口を開いたとき、語気は彼女の予想以上に強くなっていた。
「――こんなときに彼子の話はやめてくださいまし」
「彼子がどうしたって?」
 振り向くと、ユウリがいた。
 こんなときに一番出会いたくない相手――ルリハの劣等感を刺激してやまない存在――翠真ユウリがそこにいた。
「あら? ユウリ。アルフリーデさんは一緒ではありませんの? お一人で出歩いて大丈夫なのですか」
 思わず皮肉っぽい口をきく。
「なんだか星霊同士で遊びに行くと言ってたよ」
「ああ、あれね。アルフリーデは本当に元気だねえ。私は演習の合間に出かけるなんて、ちょっと考えられないよ。まあ何回かは参加したけどね」
 ククリは言う。
「やあ、ククリ星霊少尉。お久しぶりだね」
 ユウリは微笑む。ルリハ、ユウリ、ククリ、アルフリーデは、あの高次元高高度爆撃機の迎撃においてともに戦った仲だ。もともと不仲のルリハとユウリ、ルリハとアルフリーデ以外は、仲良くなっている。
「お久しぶりだね、ユウリ少尉。そういえば、もう少尉中級リーグだって? 勝率が九割を超えていると、星霊たちの間でも話題になってるよ」
「運に恵まれてね」
 ユウリは微笑んだ。
「嘘をおっしゃい。あなたの実力でしょうが」
 ルリハはとげとげしく言う。ユウリはルリハの方をちらりと見たが、すぐに目をそらし、わざとらしく星を眺めながら、語を継ぐ。
「戦いには運の要素も多いよ。ただ、それだけに任せて準備を怠れば負けるけどね。ボクはそう思っている。勝ちは運のせいにして、負けは実力のせいにする、それぐらいの心持ちでなきゃね」
 堅い声でそう言った。
「ルリハにも何か助言してやってよ。彼女、吾桜リョウに負けてしょげているんだ」
 ククリが口を挟む。
「ああ、彼女か……」
 ユウリはつぶやき、ルリハの近くを避けて、ククリの隣に立った。
「彼女は優秀だが、勝ち目がないわけじゃない。武蔵分校の知り合いによれば、予想外の動きに弱いと言われているそうだ」
「――私も、予想外の動きのつもりでしたわ」
 ルリハはむすっとして、言った。ククリが手短に、前回の演習の顛末をユウリに伝える。
「そりゃあ、深次元誘導弾を装備していること、その誘導弾が深次元に配置できることは彼女も知っているだろうから、可能性として考慮に入れるさ。予想外でもなんでもない」
 それから彼子は少し考えて、口を開こうとした。
「お待ちなさい。あなたの助言なんて不要ですわ。実力で勝って見せますので」
 ルリハが言う。
「まあそれならそれでもいいけど」
 ユウリは立ち去ろうとした。
(これでいいのですわ……爆撃機を撃墜したときとは違います。これは私のための戦い。誰かを護るためなら、彼子と協力でもなんでもしますけど、私の昇進のために彼子の助力を請うようでは、情けない限りですわ。恥ですわ)
「ユウリ! 待ってよ。ルリハも意地張るのやめなって」
「――意地? これは矜持ですわ」
「どっちにしろつまんないよ。あーあ、人間ってなんでこうこだわりがつよいのかな」
「ククリ! いくらあなたでも許しませんわよ」
 ルリハはククリに詰め寄る。
「――ルリハ。あなたは自分のために助力を請うのが嫌いみたいだけど、結局、練習艦隊が期待しているのは、あなたたちに全力で切磋琢磨してもらうことなんだよ。つまらない自意識で強くなる努力をためらっていては、練習艦隊はより強い将校を育てられないし、そうなったら結局、誰かを護ることもできなくなるよ」
 ククリは冷静かつ平静な調子を保ちながら、続ける。
「――って、練習艦隊に入って最初の訓示で言われたでしょ。私はあれは本当だと思うよ。〈アメノヤマト〉はいい国だよ。あのとき、私たちが迎撃した爆撃機の星霊が感じた悲しみ……あんなものを感じなくていいんだからさ……。それに、あの参事官……ゲルトルードのような嫌な奴にもならなくてすむ……。それを護って欲しいよ。だめかな?」
 ルリハは少し息を整えた。
「……だからといって……!」
 言い返そうとしたが、言葉が浮かばない。
「分かった」
 横から声がした。ユウリだ。
「ククリの言うことも尤もだよ。君たちの戦術研究に付き合うことで、ボクも何か学びがあるだろう」
 それからルリハを嫌そうに見た。
「安心しなよ、あくまで……君のためじゃない、ククリや、それに〈アメノヤマト〉のためだ」
 ルリハは鼻を鳴らす。
「ふん、まあいいですわ。じゃあ言ってみなさいな」
 ユウリはルリハから目をそらし、オリオン渦状腕を眺めた。
「近衛艦隊の警戒ブイを使うというのはどうかな」
「近衛艦隊……?」
「ああ。この要塞は近衛艦隊の管理だ。だからもちろん、近衛艦隊は要塞の周辺に多数の警戒ブイを配置している。だいたい、小惑星級の小規模なもので、通信微弾も発しているが、近衛艦隊と練習艦隊はシステムが違うので通常は受け取れない。しかし、同じ帝律次元軍だから受け取ることが不可能なわけじゃない」
「それは……ルール違反では」
「ボクは真面目な性分だから、演習規定は隅々まで読むんだけど、そういうことをしてはいけないとはどこにも書いてない。これはアルフリーデの言葉だけど、“禁止されていなければ、何をやってもいいはず”、だそうだ。一回やったら、次からは禁止になるかもしれないけどね」
「――なるほど。警戒ブイの情報を受け取っているというのは、確かに吾桜リョウにも予想外かもしれませんわ」
 ルリハはつぶやいた。
 順位戦は三番勝負だ。次とその次に勝てば、吾桜リョウに勝利できる。
          *
 翌日。早くも吾桜リョウとの再戦の日がやってきた。
「少尉下級リーグ。青部隊、洲月ルリハ=甘樫坐ククリ組、赤部隊、吾桜リョウ=布多天アカル組。演習想定、距離一五光年での遭遇戦」
 演習監督官、ユヅキ中佐の通信が入る。
「双方、準備はよいか」
「問題ありませんわ」
「――こちらも問題なし」
 リョウは余裕の笑みを浮かべているように見えた。相変わらず、こちらを見下しているような視線。
(……見ていなさい!)
 ルリハはぐっとこぶしを握った。
「ククリ! 対高次元・深次元戦闘部署! 時空延展航法開始! 最大戦速三〇万光速で敵に向かいますわ!」
「了解だよ!」
 ククリの言葉とともに、ぐっと後方におされるような感覚がやってくる。全速の時空延展航法で、一瞬、艦内の重力制御が間に合わなかったのだ。
「続いて、煙幕微弾を大量にばらまきなさい!」
 煙幕微弾とは、探査微弾による探査を阻害する人工マイクロブラックホールだ。効果は一時的だが、この演習の想定のように、遭遇戦で、一度敵に発見されたあと、再び姿をくらますには有効だ。ただ、煙幕微弾は自分の探査微弾も妨害するので、敵味方ともに位置が分からなくなるのが難点である。
「そのまま突撃!」
 ルリハは命じた。
          *
(なるほど。前回のように分かりやすい追撃戦で罠にはめるやり方はしない、ということね)
 吾桜リョウは護衛艦〈布多天〉の指揮官席で腕を組んだ。波打つ金髪の先を指にくるくると巻き、思案を進める。
(おそらく、ルリハさんは、前回とは違った形で私を罠にはめようとしているのね。でも姿をくらましたということは、分かりやすく始めから自艦をおとりにするやり方ではないということ。さて、どうするのかしら?)
 リョウは静かに考える。
 周囲の評判と異なり、リョウはおとなしい性格だと自覚していた。交際経験が多いというのも、客観的な事実ではあったが、彼女が押しに弱いということに起因している。だから戦いは常に受け身だが、物事を一歩引いたところから客観的に見ることができるということでもあり、観察力に優れていて、敵の意図も、大抵見たら分かる。
 他人からは、よく見下しているのではないかと批判されることもあるが、彼女にとっては心外だった。受け身の彼女は周りに対して積極的な興味を示すことができず、それをそう解釈されてしまうのだ。
「アカル、どう思う?」
 傍らの星霊、アカルに尋ねる。
「……そうね。敵の出方を見るべきね。我々罠にはめるつもりなら、必ず分かりやすく食いつきやすい動きを見せるはずよ」
 アカルの主人格もどちらかというと消極的な性格であり、そういう点でリョウとアカルは気が合っていると言えた。
「同意だわ」
 リョウは頷く。
「警戒しつつ、微速前進」
 そう命じる。
(ルリハさん。――あなたに恨みはないけれど、これも勝負。私も全力を尽くさせてもらうわ)
 じっと静かに戦況スクリーンを見つめ、リョウは思う。それにしても、この煙幕微弾は濃い。こんなに濃くては、おそらく探知距離は一光年もないだろう。ということは、戦闘は一光年以内で行われるはずであった。
「探査微弾の密度、近距離で濃くしておいて、きっとものすごい近距離の遭遇戦になる。それと、進路はそのまままっすぐじゃなくて、ランダムに変えてね」
 柔らかくアカルに指示する。
「そうね。了解よ」
 アカルは微笑む。
(ああ……アカルはいいわ。こんなに気が合う、落ち着いた関係なんて今までなかった。女子も男子も、私を強く求めるだけで、そのうちに飽きて去ってしまう……。そんな関係ばかりは嫌よ。私を分かってくれるアカルとずっと一緒にいたい……そのために、勝たせてもらうわ、ルリハさん……)
 そこに、急に障害物のような物体の探査報告があがる。
「――何?」
「近衛艦隊の警戒ブイのようね」
 アカルが言う。
「なるほど……私たち練習艦隊とは別部署だし、関係ないわね」
「ええ……」
 アカルは答えつつ、はっと目を見開いた。
「しまった……! 敵の狙いは……!」
 そのとき。
 アカルの分擬体たる探査・探深担当の操作士が緊迫した表情で振り返った。
「高次元誘導弾、多数飛来!」
「まさか……なぜなの? 敵にもこちらの位置は分かっていないはず……!」
 リョウは蒼白な顔で言う。
「だめ! 回避できない!」
 アカルは叫んだ。
 瞬間、全天720度スクリーンがブラックアウトした。
          *
「やりましたわっ!」
 警戒ブイの発する通信微弾の情報を取得し、〈布多天〉の位置は常にトレースしていた。その上で戦場を煙幕微弾で満たし、彼我の位置を、自艦と敵艦の探査微弾では探知できないようにした。
 その状態で敵が射程に入った瞬間、ありったけの高次元誘導弾を撃ち込んだのだ。
(あとは……監督官がこの判断を是とするかどうか……)
 幸い、スクリーンはブラックアウトしていない。敗北との判断は下っていないのだ。
 通信ウィンドウが開く。
「――見事な作戦だった、洲月ルリハ少尉、甘樫坐ククリ星霊少尉」
「……これは、規定違反にはなりませんの?」
 思わず聞いてしまう。ユヅキ中佐は微笑んだ。
「予想外の手段で敵に敗北したときにも、君は敵にそんなことを聞くのかな、規定違反だと」
「……いいえ」
「ならばそれが答えだ。物理法則さえ、超次元状態ベクトル操作で上書きできるのがこの銀河時代だ。敵も――そして無論味方もだが、相手の予想外の行動を取り、裏をかこうと必死になっている。その努力を、練習艦隊の時から続けてもらいたい。それが我々の考えだ。頑張りたまえ、少尉」
 通信が切れる。
(……ユウリ……あなたは正しかったのですわね……)
 どっと力が抜け、へなへなと指揮官席に座り込む。ククリが立ち上がり、ルリハを抱きしめた。
「……よく頑張ったね」
 ルリハはククリの深紫の髪の頭に手を乗せた。
「そうですわね……あなたも……」
「ユウリ少尉に感謝しないとね……」
「そうしたいのはやまやまですが、死んでも嫌ですわ」
 ククリはふくれっつらをした。
「そんなことを言ってると、仮配偶官を解消するよ?」
「ごめんなさいね、どうせ頑固で意固地なんですよ、わたくしは」
 ルリハもふくれっつらになる。
「まあそういうところも含めて、あなたなんだろうね」
 あきれたように、ククリは言った。
「まあいいところはあるし、口ではなんといっても、きっとあなたはきちんとユウリ少尉とも協力できるだろう。口でも素直になれたら、配偶官として一緒になってあげるよ」
 ルリハはふくれっつらのまま、言った。
「あらそうですの。では、きっとそれは遠い未来になりそうですわね!」
 共通歴二五二九年。帝歴三一八九年。アルヴ独律歴二九年。
 その年、練習艦隊に入ったルリハとククリは、一年後、九つのリーグを乗り越え、前線勤務に就くことになる。そして、ユウリとアルフリーデ、更には、ナオ、サツキ、マヒロら大和本校の同期の主だったメンバーも。
 だが、そのときになっても、結局ルリハとユウリとの関係は、悪いままであった。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー
                             完


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