待望の新刊『ハウ・トゥー』刊行迫る! ランドール・マンロー特集その1
来る2020年1月23日、ランドール・マンロー著『ハウ・トゥー』(吉田三知世訳、本体予価1600円)を弊社より刊行することとなりました。今月にはすでに、著者の代表作『ホワット・イフ?』もQ1、Q2として2分冊・文庫化刊行されております。つきましては、これより数回にわたり、ランドール・マンロー特集記事をお届けいたします。読書の参考に、あるいはクリスマスプレゼント候補の検討材料としていただければ幸甚です。
(書影はamazon.comにリンクしています)
(『ハウ・トゥー』の書影は目下作成中のものです)
第1回の今回は、ビル・ゲイツをも魅了してやまない、マンロー・ワールドの全貌をご紹介いたします。文庫化を機に『ホワット・イフ?』に興味をもっていただいたかたにも、既刊をお読みのかたにもお楽しみいただけることと思います。
聖地=xkcd.com
著者の代表作といえば『ホワット・イフ?』ですが、この本は著者のウェブサイト、xkcd.com中のwhat if?という、週1回更新の読者投稿コーナーに載せられた記事がもとになっています。じつは英米では、マンロー氏はこの、xkcd.comの著者としてもよく知られています。このxkcd.comというサイトはどんなものなのでしょうか?
xkcd.comは、著者マンロー氏が、『ホワット・イフ?』などで日本の読者にもおなじみになった棒人間の絵を駆使して、いわゆる「理系あるある」的な、主にコンピューター業界・サイエンス界隈をテーマにしたエッセイ風の読み切りマンガ(日本の4コママンガのようなノリですね)を定期掲載(月水金に更新)している、ウェブコミックサイトです。
ちなみに、12月9日に更新された最新のものは、「データエラー」というタイトルの4コママンガで、データエラーで論文がだいなしだとあわてる、マンロー・マンガのレギュラーである女性(メガンさんと呼ばれているらしい!)に、これもおなじみの黒帽子の人物が、まっとうなものと不穏なものの2つのアドバイスをするという内容。マンロー・ファンなら、一度は訪れてみたい「聖地」といえましょう(掲載のマンガを営々と日本語訳して紹介しているかたもおられます)。
ただ、『ホワット・イフ?』のギャグがわかりやすいのに比べ、このxkcd.com本篇の「マンガ」は、必ずしも理系ネタだからではないのですが、ギャグの内容(まれにはオチそのもの)が一読ではわからないことがままあります。それを解読するのがこのサイトの読者の楽しみでもあるわけですが、なんと、それを説明してくれるサイトがあるのです。explainxkcd.comという、わかりやすい名前のファンサイトです。ここには本篇のマンガやまれにwhat if?コーナーのネタ(オチ)解説、さらにマンロー氏のマンガに頻出する登場人物・動物についての、読者の集合知のたまものというべき解説が載っています。白状しますと、『ホワット・イフ?』や『ハウ・トゥー』などの邦訳版の制作にあたって大いに利用させてもらった、とても助かるサイトです。
主峰『ホワット・イフ?』
『ホワット・イフ?』(吉田三知世訳、原題WHAT IF?)は、このxkcd.comのなかの、What If?という、毎週金曜日更新の読者投稿コラムを抜粋してまとめた、マンロー氏の代表作ともいえる著作です。世界累計は100万部を超え、日本でも単行本版は翻訳ノンフィクションでは快挙と言える、〈キノベス!2016〉第2位となりました。
What If?の記事は、「マシンガンで空を飛ぶことはできますか?」といった、読者が寄せる主にサイエンスにかんするトンデモ質問がおかしいのにくわえ、xkcd.com本篇のマンガよりぐっとわかりやすいこともあって、サイト中の人気コラムでした。最終的な更新は2018年5月で終わっているようですが、過去の記事がアーカイブとして公開されています。まだまだ素材があるわけで、『ホワット・イフ?』の続篇/第2弾が期待されます。
詳しい内容は、先の弊社note連載(こちらなど)をご覧ください。2分冊文庫化され、いっそう手に取っていただきやすくなりました。
ちなみに、『ホワット・イフ? Q1』127ページ、222ページに「(…について)金曜日までに知りたい」という、謎めいた文言がいくつかでてきますが、これは、What If?コラムの新規更新が毎週金曜だったから、ということらしいです。
世界のトリセツ『ホワット・イズ・ディス?』
マンロー・ワールドの、ひときわ風変わりな一塔がこの著作、『ホワット・イズ・ディス?』(吉田三知世訳、原題THING EXPLAINER)です。
本作は、基本的には書下ろしの著作ですが、xkcd本篇のものとして、UP GOER FIVEというタイトルで掲載された「マンガ」の、アイデアを広げたもののようです。基本コンセプトは、「アメリカ人のあいだで使用頻度の高い上から1000語だけの言葉(英語)をもちいて、イラスト入りのいろいろな込み入ったものの図解をする」というもの。このコンセプトのもと、動物の細胞、家庭用トイレ、ヘリコプター、元素周期表、アメリカ合衆国憲法、サターン型ロケット5号(これを示す言葉が、上の縛りではUP GOER FIVEとなります)……といった27の項目についてそれがなんであるかを説明する、マンロー流の「世界図鑑」です。
日本語版でも同じような縛りを設けてほしいという著者のリクエストに従い、子供にもわかりやすい言葉をつかうことのほかに、「漢字は小学6年生までに習うもののみとする」という縛りのもと、訳者・編集部ともに何度もチェックしながら邦訳版をつくりました。
かえって何を説明しているのかわからない、という声もありますが、そこがマンロー流のユーモア。笑いながら頭をひねって目を通していくうちに、世界の深淵な真実がわかる仕組みになっています。図鑑なので、B4判(タテ364mm×ヨコ257mm)というものすごい大きさですが、ちょっとかわったクリスマスプレゼントをお探しのかたにお勧めしたい1冊です。
ちなみに、xkcd.comのサイトにはsimplewriterという、読者が英文を入力し、上の1000語以外のものが使われているとチェックを入れてくれるという、楽しいワードチェッカーが用意されています。
最新作『ハウ・トゥー』
原書は今年の9月に刊行され、すぐにニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載りました。くわしくは抜粋をふくめ、本連載の次回以降に紹介させていただきますので、乞うご期待。
サブタイトルに「バカバカしくて役に立たない暮らしの科学」とあるとおり、「日常で出会う身近な問題を解決する、サイエンスに基づいてはいるがとてもバカげた方法」を、おなじみ棒人間マンガを豊富に盛り込みながら紹介するもの。『ホワット・イフ?』が「バカバカしい疑問にサイエンスでガチな答を出す」というコンセプトであったのと、ちょうど反対になっているのがおわかりいただけましょうか。
なお、今度の本は『ホワット・イズ・ディス?』とは違って普通の文章ですので、ご安心ください。
ニューヨーク・タイムズにも進出
What If?の新作はもう更新されていませんが、その衣鉢を継ぐというべき、マンロー氏のサイエンスコラムが今年の11月からニューヨーク・タイムズで始まっているようです。GOOD QUESTIONというタイトルのサイエンスコラムで、これまでに11月、12月に1回ずつ掲載されているので、月いち連載なんでしょうか。マンロー氏の公式HPでもあるxkcd.com には何もアナウンスがないようなのですが、月いちでも定期的にあれがまた読めるなら朗報です! ちなみに第1回(11月12日掲載)の記事のタイトルは……
If I Touched the Moon, What Would It Feel Like?
(もし月にさわれたら、どんな触り心地?)
まぎれもない『ホワット・イフ?』節。今後が楽しみです。
次回は12月18日に掲載の予定です。
『ハウ・トゥー』(ランドール・マンロー、吉田三知世訳、46判並製、本体予価1600円)は、2020年1月23日、早川書房より発売予定です。