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【連載08】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優

Episode 4 「再開」
Part 2

 穏やかなBGMが始まり、ルリハのいた演台とは反対側のダンスホールの扉が開いた。照明がホールの向こう側で佇んでいる多くの人影に向けられた。
 星霊たちが入場してきたのだ。
「……きれい……」
 学生の一人が呟いた。
 彼女等は全員、プリンセスラインの――つまりスカートが大きく広がった紫のドレスを着て、照明が彼女等に捧げられると同時に、丁寧にお辞儀をした。紫と言ってもそれは一様な色ではなく、藤色から濃い瑠璃色まで様々で、それらは彼女等の髪と目の色に合わせて作られていた。その胸のデコルテには髪と目の色と同じ星勾玉。そして、先端の尖った、特徴的な耳の形。
 練習艦隊やその他部隊に新たに配属され、これからユウリたちとパートナーを組むことになる星霊たちだ。
 最終的に、誰がパートナーになるのかは、今は分からない。だが、ここで一緒に踊った相手がその後もパートナーになることも有り得る。
 BGMのテンポがやや早まると、純白の詰め襟姿の学生達の動きが俄に慌ただしくなる。
「おい、整列だぞ」
 ナオに小突かれ、ユウリは頷いた。一〇〇人の大和本校の学生たちが、一〇人ずつ一〇列に整列する。純白のドレス姿だったルリハも、端玉のシステムを使って素早く服を着替えたか、ユウリが目にしたときには既に詰め襟姿に着替えており、一〇人の列の一つの最後尾――彼女がいた演台に近い側――に並んだ。
 その時には、しずしずと星霊たちが学生達の列の間に進んでいく。一〇人ずつの純白の詰め襟の学生達の列の間に、一〇人ずつの紫のドレスの星霊たちの列が入っていく。
 だが、ユウリの目の前にやってきた星霊のドレスだけは、紫ではなかった。
 それは、吸い込まれるような、深い天空の青――天色。
 その星霊の肩までの髪、そして、ユウリを見下ろす冷たさを持つ瞳の色と同じ――。
「……君は……っ!」
 ユウリはアルフリーデの両肩を掴んでいた。
「Lange nicht gesehen. Wie geht es Ihnen? (お久しぶりね、お元気?)――それともdirでいいかしら?」
 このアルヴヘイム語を話す星霊こそ、大和襲撃事件の際、瀕死の状態にあったユウリを救った、ユウリの命の恩人であった。
「ずっと……探していたんだぞ……! ずっと……! あれから、君は姿を消してしまうし……。教官に相談しても、軍務に関係ない誓約などというものは存在しないと言われてしまうし……そんな記録はないと言われるし」
 誓約とは、人間と星霊が結ぶ最高の契約だ。これによって配偶者にも擬せられる関係にあり、星霊のデータ処理能力、現実の時空を操作する力の恩恵を受けやすくなる。
「テスタメント・フェルトラークは基本的に当人同士だけが認識できるもの。アメノヤマトはテスタメントの立会人たるアルヴにその事実を報告することを義務付けているから、公式な記録として残るけど、本来は当人同士が知っていれば良いものだったのよ。昔はね――aber(でも)」
 アルフリーデはユウリの手を取り、その紫の端玉を自分の胸の星勾玉に押しつけた。途端に、天色の光がばちり、と走る。
「このように、私たちの結びつきは確かに存在するわ」
 アルフリーデは僅かに微笑み、教えた。
 目映い光に、周囲の数人が何事かと2人を見るが、そのときにはアルフリーデはぱっと手を離していたので、彼等は気のせいだと思ったのか、視線を戻してしまう。周りの学生たちは、それぞれ向かい合う相手を見つめるのに夢中だったし、星霊たちの方は、感情も注意も抑制されているから、一つのことにそこまで深く興味を持ったりしない。
 音楽が変わった。学生達が星霊に手を差し出し、星霊たちがその手を取る。おずおずと、星霊と学生達は踊り出す。
「Sollen wir auch tanzen?(おどりましょう?) 私たちだけ突っ立ってたら、変に思われるわよ?」
 ユウリは仕方なく手を差し出す。アルフリーデは恭しくその手を取った。音楽に合わせ、二人は踊り出す。
だが、会話は続く。
「……医者にも、何が起きたのか分からないと言われたよ。ボクに挿入されたデバイスの仕組みも分からないが、おそらくゲネクトームが相当奪われて、ボクというインスタンスの実行にも支障を来す状況であったはずだと。だけれど、なぜかボクは助かった……それは奇跡としか思えない、と。君は艦隊にボクを助けたことを報告しなかったのか……? そもそも、なぜボクを助けた……誓約というのは、重要な結びつきだ。星霊にとっても、人間にとっても。それをあんな簡単に……」
「簡単ではないわ。でも、あなたの命も簡単に失われて良いものではないでしょう? それとも簡単に失われて良かったの? Oder?(ちがう?)」
「いや……それは……」
「あの時、私には誓約しか方法がなかった。あなたの命を保つにはね。アメノヤマトでは当人同士が好き合っているときにやるべきことだとされているという。でも私はアルヴヘイム出身よ。そもそも人間との誓約などという習慣自体が、我が国にはない。かつてはあったという……遠い過去に。それは特別な時にやるべきことだとされていた。でも私は『特別』を知らない。『愛』という概念も知らない。アルヴヘイムにも同胞愛はあったけれど、そして、親しい間柄のアルヴ同士が同衾することもあったけれど……それともまた違うものなのでしょう? 人間とアルヴの結びつきというのは? あるいは、人間同士の結びつきというのは?」
 それはユウリには難問だった。
 確かに、アメノヤマトにも、「星霊同士のカップル」というものは存在しない。星霊は星霊との間では愛を育めないという。だが、愛という感情そのものをまだ経験したことのないユウリにとって、それはただの知識であり、きちんと説明することは不可能だった。
「まあ……そう言われているね……」
「知らないことのために取っておくというのもおかしな話よ。それに、人間は嫌いではないわ。嫌いではない存在が死ぬのは嫌い。だから誓約した。勿論、軽い気持ちではないわ。重大な決断だったし、あなたの行動を見て、あなたにはその決断をする価値があると確信していた……。変かしら?」
「じゃあ、ボクでなくても良かったの?」
「それはそのときにならないと分からない。ただあの瞬間、私はほかならぬあなたと誓約しよう、と決意した。私にはそれで充分。あなたはそれじゃ不満?」
 アルフリーデは挑発的に――少なくともユウリにはそう見えた――言った。
「人間って不思議な生き物ね。あなたと話していると、あなたには命よりも大切なものがあるように聞こえるわ……。それが好きな存在との愛というものなのかしら。それを象徴するのが誓約。だから好きでない存在とは死んでもやりたくない……。それほど私がいやだったの……?」
 やや――そう、『やや』でしかないが――残念そうな顔で、アルフリーデは言った。
「ち、違う……!」
 寧ろアルフリーデの超然としたたたずまい、周囲をはばからぬ物言い――そこにユウリは高貴な雰囲気を感じ取っていた。そして、瀕死のユウリを放置せず、誓約という手段を使ってまで助けたという優しさ。それは偽善ではあり得ない。偽善とは周囲に見せつけるために善を為してみせることだが、アルフリーデはそもそも周囲に頓着しないのだから。
 そう、この高貴な雰囲気をまとわせたアルヴの美少女は、本質的な意味で善人であり、しかもそれを誇示したりしない。どこまでもまっすぐで、自分の考えに素直で、強く――。
 ユウリは、アルフリーデを最初に見たときから、彼女のことが好きだったのかも知れない。
「……じゃあ好きってこと?」
 アルフリーデが直截に尋ねたので、ユウリは面食らった。アルフリーデの青い瞳を見上げる。
 ――本当に青い……。深い青だ……。
 空の青ではない。海の青とも少し違う気がする。夕陽がとっぷりと落ちて、その後に広がる漆黒の闇の前の、或いは明け方、日が昇る前の、太陽の存在の予感に満ちた、深く、遠く、神秘的な、青。
 ユウリは言葉を急ぐ前に口ごもろうとした。だが、士官学校の訓練が、彼子の内向的な性格を抑え、率直な想いを即座に口に出すことを強制した。
「……好き、なのかもしれないとは思っている」
 そう素直に言えたのは、下手な誤魔化しや、ナオがよくやるような駆け引き、あるいは人間関係においてそういうことをすぐに言うべきではないという社会的な規範などが、星霊には――特にアルフリーデのような人間との付き合い方をあまり知らなそうな星霊には、通用しないと思ったからかも知れない。
或いは、ただ単にその気持ちの高まりと動きが急すぎて、彼子がオブラートに包もうとした手をするりと抜けて口から飛び出してしまったからかも知れない。
 アルフリーデは、一瞬、目を見開いた。
「……ふうん……そうなの」
「あ、いや……単に人として……いや、星霊として好き……というか……」
「『愛』ではない好き?」
「ボクはまだ愛というものがどういうものか知らないんだ。でも、君にはなんとなく惹かれる……そう言いたかったんだ……いや、ボクは何を言ってるんだ……君とは実質初対面のようなものなのに……。わ、忘れてくれ」
「忘れないわ」
 アルフリーデがきっぱりと言った。ユウリの左手をぐっと引き寄せ、その手の甲を自分の星勾玉に当てる。
「私、あなた以外にも、以前、人間とこれぐらいの距離で親しく話していた経験がある。アメノヤマトにおける軍務ではなくて、もっと昔の話。亡命する前の話。でも、その人間は私を好きだとは言わなかった。気に入っている、とは言ったけれど。だから、あなたの『好き』は、私が初めて言ってもらった『好き』。だから忘れないわ」
「……」
 アルフリーデはそこで、にっこりと微笑んだ。ユウリは目を奪われた。彼女が微笑んだのは――いや、はっきりと分かる表情を作ったのはそれが初めてだったからだ。一年前に助けてもらったときを含めても。
 とても愛らしく、かわいく、心の全てを奪われてしまいそうな笑顔だった。
「……かわいい笑顔だね……」
 思わずそう言ってしまう。
「笑顔……?」
 アルフリーデはきょとんとした顔になり、それから首を傾げた。
「そうなのね……。笑うなんて経験、あまりしたことがないから分からなかったわ。今のが笑うということなのね……不思議」
 それからアルフリーデはじっとユウリを見つめた。
「翠真ユウリ。同僚の星霊たちが言っていた。こういうときは返事をした方がいいって。私も言うべきなの? あなたが好きか、どうか」
 ユウリは赤面した。白皙の彼子が赤面すると、かなり目立つ。
「いや……ボクとしては、つい言ってしまった言葉だから、返事は――君の気の向いたときでいい」
「そう」
 アルフリーデは簡単に呟き、それからユウリをじっと見つめ続ける。ダンスは続いている。そこで、流れていた緩やかな曲が終わった。曲の変わり目は、ダンスの相手を変える機会だ。
「きれいなお嬢さん、私と踊っていただけませんか?」
 急にアルフリーデに声をかけてきた相手に、ユウリはちらりと視線を遣る。そして目を見開いた。
「ナオ!」
「やあユウリ。懐かしいお嬢さんと踊っているじゃないか。一年前、ユウリを助けてくれた星霊さんだよね? オレのことは覚えてる? 今はどこに住んでるんだっけ? 君の連絡先は?」
 アルフリーデがナオをじっと見つめていた。それからちらりとユウリに目を遣る。そのとき、端玉にメッセージが飛び込んできた。ナオからだ。
 ――(オレに彼女と踊らせるな。自分がもう一度踊りたいと言え。それで彼女の心を掴め。好きなんだろ?)
 ――ったく。世話焼きめ。
 ユウリは心の中で悪態をつきつつ、ナオとアルフリーデの間に割り込んだ。ナオに言う。
「ナオ。ボクは彼女ともう一度踊りたい。ここは引き下がってくれないか」
「……なるほど。分かったよ。お嬢さんも、それでいいのかな?」
「そうね。ユウリがそう言うなら、もう一度踊ってあげるわ」
 アルフリーデは微笑んで、言った。二回目の笑顔だ。今度はやや控えめだが。
 そこで、アップテンポの曲が始まる。ユウリたち学生は今日のためにダンスの振り付けを学んできており、ひととおりのテンポには対応できる。それはアルフリーデたちも同じだったようだ。二人はスムーズに踊りに入る。
「そういえば、あなたのことはなんて呼べばいいの?」
 息を切らせる様子もなく、軽やかにダンスしながら、アルフリーデはユウリに問う。
「みんなからはただ『ユウリ』と呼ばれているね。君にもそう呼んで欲しい」
「そう。ユウリとはどういう意味? 同僚の星霊から聞いたわ。アメノヤマトでも、名前にはみんな意味があるって」
「優璃と書く。『優』は、優しいという意味。璃は宝石の意味。宝石のように美しく、という願いを込めて付けることが多い。つまり、優しく美しくあれ、ということかな」
「……素敵な名前ね。私の方はアルフリーデと呼んで。アルヴと、フリーデの組み合わせよ。フリーデには『強い』という意味と『美しい』という意味があるらしい。少なくとも、名付けた人はそう主張していた」
「アルヴには……どんな意味が」
「『人類を駆逐し、銀河を支配するべき高貴なる種族』」
 アルフリーデはそう言ってから、やや暗い顔をした。彼子に見せた、三つ目の表情。
「私の出身のアルヴヘイムのことはよくご存知でしょう、将校どの。あなたの軍隊の同盟軍でもあるわ」
「……知っているよ。でも、君は亡命してきたというし、あの国のことをよくは思っていないようだね。ボクも同盟国のことを悪く言うのは避けたいが……」
「避ける必要はないわ、ユウリ。あなたは『優しく美しくあれ』という名を持つのでしょう? そう願われて生まれた期待を裏切る必要はないわ。答えなさい。聞くのは私一人。音楽は激しく、他は誰も聞けやしないわ。私は、私に好意を寄せた人間が臆病であることを望まないわ」
 ユウリはぐっと唾を飲み込んだ。
そのとき、ちょうど、アップテンポの曲が終わり、また緩やかな曲になった。今度は、誰もアルフリーデに話しかけない。そう、ナオが一端はなしかけて、フラれた。「ナオですらフラれた」という事実から、他の学生はアルフリーデに声をかけられなくなったのだ。
 二人の時間は、二人が望まない限り、ずっと確保されたと言える。
 だが、それにも関わらず、声をかけてきた者がいた。
「ごきげんよう、人間の方。二曲続けてその娘と踊っておられるようだが、他の星霊と踊るのも一興ではないかな?」
 流ちょうなアメノヤマト語。ユウリ、そしてアルフリーデは相次いでそちらに視線をやった。
 星霊だ。
 氷のような薄い水色の瞳、同じ色の髪――。そう、アメノヤマトの星霊ではない。
 彼等の言葉で言えば、「アルヴ」。アルヴヘイムの星霊だ。
 ドレスは他の星霊のようなプリンセスラインではなく、ぴったりと身体を包むようなデザインになっている。但し、星霊の象徴である星勾玉――アルヴヘイムではHühnergott(フューネルゴット)というそれが露出するほどに胸元が開いたデザインであるところは、他の星霊のドレスと変わらない。
胸の豊かさはナオよりも大きく、ルリハほどもある。すらりとした長い手足と高い身長――バランスのよい肢体。薄い氷色の瞳は、寒々とした冷徹な感情を反映しているが、整った顔立ちのために吸い込まれるような魅力がある。すっきりとした鼻筋。唇は薄いピンク色。そして、星霊のもう一つの象徴である長い耳を強調するように、耳の前後で髪を分け、長く、先の尖った耳朶を誇らしげに露出した髪型。顔の横に髪を垂らすと同時に、長い後ろ髪は三つ編みに編んでいる。
色素の薄い髪や目の色に合わせるかのように、肌の色も透き通るように白く薄く、白い胸元も青い血管がうっすらと見えるほどだ。外見年齢は二〇代半ば程度。つまり実年齢は分からない。少なくとも、その年齢以下の年若い星霊ではない。
「……あなたは……どこかで……」
 ユウリの記憶力がフル回転した。それでも結果が思い浮かばないと、自動的にユウリの意識に接続した端玉が、アメノヤマト帝律圏全体の端玉ネットワークのパブリックドメインも走査する。結果はすぐに、ユウリの意識に浮かび上がった。
子どもの頃、ユウリたちは端玉を音声を通じて操作していた。だが、今やその必要は無い。端玉の自由な操作は士官学校で最初に習うことの一つだ。勿論音声操作も今でもできるし、重要な操作は音声で行うことを推奨される。だが、ちょっとした操作は音声ではもはや行わない。
「――ゲルトルード・グルヴェイグ参事官閣下」
 アメノヤマト駐在アルヴヘイム大使館の参事官であった。ユウリは敬礼しようとする。だが、ゲルトルードはそれを手で制した。
「いや、敬礼は不要。そういう場ではあるまい。それよりも、この私と踊るかどうか、問うているのだが?」
「――遠慮しておきます」
 ユウリは即答した。
「遠慮か。残念だ。だが、もう一つ遠慮してもらいたいことがある、我が同盟国の士官どの。この娘――かつて我が党律圏の栄光ある戦闘機のマイスターであった者だが――今は我が党律圏とは無関係となっている。従って、我が圏が唱える政策に関しても、この娘の言葉を真に受けることはご遠慮願いたい。我等アルヴは『アルヴ』という自称に大変な誇りを持っている。それを軽視されれば、我等の同盟関係にも支障が出よう。ご注意されよ」
「誇り――ですって? 六〇〇億人も虐殺しておいて、どういう誇りだというの?」
「――虐殺ではない。独立蜂起だ、アルフリーデどの。我等が人類からの頚木を脱する為の作戦行動だ。そこで、残念ながら多くの死傷者が出た。それだけのこと。戦争に犠牲はつきものだ。そして我等はかの作戦行動を是としている。それがなければ、貴官も人類の奴隷として生まれたかも知れないのだぞ?」
「だが、あなたがたは、人類は絶滅させるべきだと……」
 ユウリが言う。明らかに嘲笑の色を瞳に浮かべて、ゲルトルードはユウリを見遣った。
「人類の出方によっては、そうなる、というだけのことだ。我等との共存を志向するならば、必ずしもそうはならないだろう。賢明な汝等帝律圏のようにな。我等は我等の生存圏としてこの銀河を規定している。この銀河において、我等の生存を脅かす者、邪魔する者は絶滅させるが、汝等は現在のところ同盟者なので対象外だ。安心されよ」
 ゲルトルードはそこで言葉を切った。
「お邪魔をしたようだ。どうぞ存分に踊られよ。但し――我等同盟の絆は尊重されよ。『誰も聞いてない』などということはないのでな。言いたいことは、それだけだ」
 ゲルトルードはゆるりとその場を離れた。ダンス会場の一角、士官学校の教官たちが固まって談笑しているエリアに向かい、教官らと語り始める。彼女は招待客の一人であるようだった。
 星霊の感覚は鋭い。鋭い、というより、一度に多量の情報を受け容れても、それぞれの情報を処理する分人格にそれを担当させれば良いので、多量の情報の処理が得意だという見方もできる。大勢の人間と星霊がいるダンス会場で、アルフリーデとユウリの会話を耳ざとく聞きつけ、釘を指しに来たと言うことだ。
「あのアルヴ……党員だわ」
「党員?」
「アルファール独律党。アルヴヘイム党律圏を支配する組織よ。党員はごく少数の古参のアルヴしかなれないの。独裁官ディートリンデの側近中の側近……」
 それからユウリに目を遣った。そこに、失望の色を感じ、ユウリは言った。
「ごめん」
 呟くように。
「臆病になるな――っていう話だったけれど、ボクは君の期待には応えられなかったようだ。もっと何か言ってやるべきだった」
 アルフリーデはじっとユウリを見た。
「――まあ、仕方ないわよ」
 彼女は短く言う。本当は期待していたのかも知れない。だが、ゲルトルードの威圧的な態度がユウリの反駁を押さえ込んだことも理解していたから、無理強いは出来ない、ということも、不承不承納得している顔だった。
 ユウリは唇を噛む。彼子がアルフリーデに何か言いかけたとき、アルフリーデの長い耳が、びくん、と震えた。
 アルフリーデは目を見開く。そこに、近くでダンスをしていた星霊――なんと相手はルリハだった――が駆け寄ってくる。
「――聞こえたわね、ククリ」
「ええ――うん」
 隣の星霊も頷いた。ユウリは周囲を見渡した。星霊だけが――学生のダンスの相手をしている者だけでなく、ゲルトルードや、士官学校の教官を務める者も含み――何かが迫っている、ということについて、確信を持って頷き合っている。
 次の瞬間、彼子の端玉がけたたましく鳴り響いた。

2023/01/10/12:00更新【連載09】に続く


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