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芦沢央が描く「推し」への愛。伴名練による「魂婚心中」解説!

芦沢央さん最新作『魂婚心中(こんこんしんじゅう)』が発売となりました!本日から6回にわたり、豪華執筆陣が収録作の魅力を語った解説を公開していきます。
1作目は、表題作の「魂婚心中」です。作家の伴名練さんに解説を寄せていただきました。

「魂婚心中」解説:伴名練

「推し」への愛。誰もが発信者やファンになれる時代だからこそ、ごく当たり前に語られるようになったその衝動は、しかし、時として暴走する。

二十九歳の会社員・律子は、配信者アイドルグループに所属する「浅葱ちゃん」こと神宮寺浅葱への推し活をこじらせて、既に、自宅や本名の特定にまで及んでいる。ただし浅葱ちゃんを神と崇める律子は、彼女にガチ恋したり彼女との「繋がり」を望むようなファンを軽蔑し、狂おしい感情にギリギリで線引きをしていた。

 しかし、現代日本と限りなく近い本作の社会に潜む、唯一の差異——「冥婚文化」の浸透が、一線を越えた想いを呼び寄せる。生きている推しと結婚はできない。だが、、死後結婚ならば、、、、、、、

「どんな願いのためならばゴキブリを食べられるか、という問いを投げかけられたことがある。」という強烈な書き出しから、主人公のロジックと世間とのズレを語る冒頭は、小林泰三ホラーを彷彿させるが、サスペンスフルな物語の行先は予想外だ。

死後結婚が一般的になった日本、という突拍子もないイフに、冥婚マッチングアプリと言う現代的ツールや、悲しみと祝福が複雑に入り混じる死後結婚式の描写が、現実味を纏わせる。SF作家はイフ社会のエスカレーションや崩壊を描きがちだが、卑近で切実な感情に焦点を絞る手法は、ジャンル外の読者へリーチし得るものだ。八〇年代のSF誌に彩りを添えた、日常に根ざす国内作品の進化系とも言える。SFに興味の無い読者であっても、アイドルやクリエイターや作品を強烈に「推し」たことがある人なら、律子が浅葱ちゃんの存在から受け取った光と、浅葱ちゃんを愛するがゆえに抱えることになった闇、そのいずれにも親近感を覚えるだろう。

 さりげなく配された伏線を鮮やかに回収する手際は作者の面目躍如で、明日にでも「世にも奇妙な物語」あたりで実写化され、共感や賛嘆を浴びておかしくない佳品である。

書店員さんからの応援コメントをご紹介!

おもしろい!芦沢先生の発想がすごすぎる。まさかのラストで「え!!!」と声が出るほど驚いてしまいました。
(紀伊國屋書店エブリイ津高店 高見晴子さん)

“あなたは推しのためにどこまでできますか?” 最初から最後までずっとそう問われているような作品でした。平和なラストになるわけがない、そう思いながら読み進めてホラやっぱり…となりつつもなぜか清らかな気持ちにもなる。不思議な短篇でした。
(文教堂人形町店 内海奈津恵さん)

やられたー!と思いながら読み進めました。最後の展開まで、短いページ数の中で繰り広げられる起承転結に、自分のもつ想像力をぐっと広げられる快感たるや…面白かったです!
(紀伊國屋書店鶴見大学ブックセンター 伊勢川詩織さん)

推し心が炸裂し、思考が弾け飛ぶ、究極すぎる推し愛!息もつかせぬ展開が鳥肌ものです!!
(うさぎや矢板店 山田恵理子さん)