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【連載10】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web連載中!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13より始まっています!
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

ルリハは洲月家の娘として将来を嘱望されて士官学校にトップの成績で入学し、自他共に第一〇一期帝律次元軍士官学校大和本校のトップを自認していた。しかし、ある日の無重力訓練で、子供と侮っていたユウリに完全に敗北する……。

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優

Episode 5 「高次元攻撃(前編)」

Part2

「ゲルトルード閣下」
ルリハは意を決し、アルヴヘイムの参事官に声をかけた。
「君は先ほど挨拶した卒業生か……。何だね」
「あなたは、『貴国のいわゆる配偶官制度』、とおっしゃいましたね。参事官閣下の言葉は独裁官閣下の言葉と同じ。二言はございませんね?」
「無論」
「ではアルフリーデさん。あなたは我が国の配偶官制度の外で誓約を行えばよいのではないですか?」
「え……?」
 ルリハは言葉を続けた。
「そもそも、配偶官制度と誓約というのは本来関係ないものです。――と、祖母が言っていましたわ。故に、あなただけは、我が国の配偶官制度とは別に誓約を行えばよろしい。我が国はそれを後で追認し、配偶官制度で行った誓約と同じもの――と見做せばいいのですわ」
「なん……」
 ゲルトルードはある種の感情に支配されたようだった。だが、相補的な分人格によってそれが抑制され、急速に冷静さを取り戻す。
「――詭弁だな」
「綸言汗の如し。閣下はさきほど、閣下の言葉は独裁官閣下の言葉と同じとおっしゃいましたわ。それを取り消せば、独裁官閣下の権威をも傷つけることになりましょう」
 ルリハは、ミツハとゲルトルードに間に割り込み、まっすぐにゲルトルードに相対した。
「それとも同盟国の君主の前で、自国の元首の権威をおとしめますか、参事官閣下」
 ゲルトルードは目を閉じた。
「人類にしては頭が回るようだ。――洲月ルリハ少尉どの」
 それから、ミツハに向き直る。
「我が言は独裁官閣下の言。それを取り消すつもりはございません、陛下。貴国の配偶官制度の外で誓約を交わした人間ならば、好きなように搭乗させてよいでしょう。その状態でラケータを使っても。ただし、この後の外交文書では、そうはいきませんぞ」
 ミツハは安堵の息を吐いた。
「承りました。人類連合の高高度爆撃機による絨毯爆撃の危険に常に晒されている我が帝律圏にとって、時空噴進エンジン……『ラケータ』を搭載した戦闘機による迎撃の実現は願ってもないことです。貴国の国是はさておき……その点については、我が帝律圏は総統閣下に深く感謝し、敬意を表するものです」
「もったいないお言葉……我が党律圏の国是にも、いずれ賛同してもらいたいものですな、皇后陛下」
 ミツハはゲルトルードを再度、激しい怒りと軽蔑の視線でにらんだ。
「人間たる我が伴侶を憎めと? 殺せと? 死んでも願い下げだわ。二度とそのようなことを私の前で言わないでいただきましょう、参事官閣下」
 それからふっと息を吸った。その一瞬で、皇后の主人格に沸いた怒りと軽蔑の感情は、分人格によってなだめられ、平静をとりもどしたようであった。
「では、アルフリーデ……あなたが配偶官を定めるに限っては、今後の外交関係も鑑み、配偶官制度は適用しないこととします。それでいいですね?」
 アルフリーデは、じっとやりとりを聞いていたが、ミツハに問いかけられ、悪びれず首を振った。
「それならば、特に問題ないですわ、陛下。すでに私には、〈アメノヤマト〉の配偶官制度の外で、誓約の儀を交わした人間がおりますので」
 ミツハはため息をついた。
「あなたがすでに『誓約』を為したのがこの帝律圏であれば、この星律系を制御する私に一言報告がほしいところでした。ですが、我が国の制度に不慣れな亡命星霊ゆえ、不問に付すことにしましょう。それに、ルリハの機転で、あなたの行動は追認されましたので、もはや問題とすることはないでしょう」
「ありがとうございます、陛下」
 それから、ミツハはルリハを興味深げに見つめた。
「ルリハ。よい機転でした。我が帝律圏の国是をよく守りましたね」
 沸き立つような鼓動が胸の内で踊った。
「……次元軍少尉として、帝律圏市民として、当然のことをしたまでです」
「あなたは、観測機として参戦を希望していましたね。あなたの機転は用いるに価値ありと認めます。参戦の意思は変わりませんか?」
「は――」
「よろしい。しかし、仮にでも誓約しなければ参戦は叶いません。相手の星霊は?」
「――それは、私が」
 ククリが言う。
「いいのですか?」
「この人間さん……道を教えてくれたし、機転はきくようだし、よい人だと思いますので」
(……本当に……? 私を選んでくれるというのですか……?)
 ルリハはほおが紅潮するのを感じた。
 二人の様子に、ミツハは微笑んだ。
「そうですか。互いに好意を持っているのなら、かまいません」
「では、アルフリーデ、ククリ。以後は配偶官とともに、機動要塞〈大和〉を制御する私の麾下となるように」
 いったん、短く間を置き、アルフリーデ、ククリを順に見つめた。
「人間を、護ってね……」
 そこで、皇后の分人格は消えた。
アズサは消える皇后の分人格に律儀に敬礼し、それからアルフリーデに向き直る。
「では――頼んだわよ、アルフリーデ、ククリ、ルリハ。失礼します、グルヴェイグ参事官閣下。技術提供ご同意の件、帝律次元軍の将校として、帝律圏市民として、深く感謝します――では」
 彼女は駆け去っていく。この有事だ。士官学校の教官としての仕事があるのだろう。 イヅナも去り、彼女が維持していた遅滞時間の効果も解けた。
「さて、私もそろそろ大使館に戻らねばな。お手並み拝見だ、諸君」
 ゲルトルードも去って行く。
「……やれやれ……オレも高射砲で参戦したかったがな……今回はあんたたちに任せるよ。頼んだぜ」
 ナオは言い、ユウリの方に足早に歩いて行く。彼女に続いてユウリの方へ歩いて行こうとしたアルフリーデに、ルリハは声をかけた。
「アルフリーデさん」
 相手は、天色の双眸で探るように自分を見ている。
「その様子だと、ユウリですね、あなたが誓約を交わしたのは」
「――そうよ。それがなにか?」
「彼子は――」
 未熟だからあなたのような優秀な星霊にはふさわしくない――と言おうとした。が、吉備帝律星の訓練で、「皆の信頼のために」と言っていたあの顔を思い出すと、何も言えなくなった。
「何でもありませんわ。……一時的ですが、ご協力、よろしくお願いします」
 手を差し出す。
「ユウリに思うところがありそうね?」
 アルフリーデはルリハを探るように見つめる。
「まあいいでしょう。よろしくね」
 手を握り、それからぐっとルリハを引き寄せて、耳元でささやいた。
「とりあえず、さっきの件は感謝しておくけど、ユウリを悲しませたら、ただじゃおかないわよ、覚悟しておきなさい」

2023/01/17/12:00更新【連載11】に続く


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