新書創刊の舞台裏:古生物との旅を楽しむ『古生物出現! 空想トラベルガイド』担当編集者が語る
早川書房はあらたに新書レーベル「ハヤカワ新書」を立ち上げます。早川書房の強みであるSFやミステリ、そしてポピュラーサイエンスなどのノンフィクションの視点を生かした、新しい切り口の新書刊行を多数予定しています。
第一弾は2023年6月20日(火)発売。どんな内容の新書が読めるようになる? そもそも新書の「創刊」って何を準備するの? ……そういった疑問にお答えすべく、『古生物出現! 空想トラベルガイド』(著:土屋健/サイエンスライター)の発売に向けて奮闘する担当編集者(新書編集部・石井広行)にじっくり話を聞きました。創刊に至る(そして現在も進行中の)舞台裏と本の内容を、いち早くご紹介します。
ナウマンゾウが現代の東京に! アイデアのきっかけは?
編集担当・石井広行(以下同):ハヤカワ新書の企画立ち上げの話が出た際に、書き手として即座に頭に思い浮かんだのが土屋健さんです。以前書店で、土屋さんが手がけた『リアルサイズ古生物図鑑』シリーズ(技術評論社)を見かけた時に、手に取ってすぐに買ってしまったことがあります。「もしも恐竜や古生物が現代に生きていたら?」という視点で、本の内容に様々な工夫がこらされていて、ビジュアルはもちろん、それを説明する文章も実に面白いんです。勉強や学問としてだけでなく“エンターテインメント”のかたちで科学の醍醐味を伝えることができる人だ、と思いました。
ちょうどコロナ禍も続いて旅行に出かけることもままならない時期に、「古生物を巡る仮想のトラベルガイドを作れないだろうか?」という提案を土屋さんに打診したところ、すぐにOKの返事をいただきました。そこからはあっという間にアイデアがふくらんで、形になって固まっていきました。
たとえば、この本の〈まえがき〉には、現代の東京・日本橋に出現したナウマンゾウのために交通整理をする警察官が登場するシーンもあるんですが、そういった一見突拍子もないようなアイデアも次々と出してくれるのが土屋さんのアイデアマンたる魅力。ただ古生物に詳しい専門家、というだけではないのです。
古生物ファンの聖地巡礼を後押ししたい
この本の魅力を一言で伝えるなら、「if(もしも?)」の世界を想像する面白さに尽きると思います。他を見渡せば古生物に関するいろいろな本がありますし、カラー写真やCGを駆使したものもあります。それとは別に、「頭のなかで想像をふくらませる楽しさ」を提供できるのは、手に取りやすい“新書”ならではの強みだと考えています。この本のページをめくる読者の方は、きっと想像のなかで、生き生きと動き回る古生物の迫力やかわいさを”体感”できると思います。
さらにこの本を手に持って、実際に旅をしてほしいという期待もあります。(刀剣ファンや城郭ファンのように)古生物や恐竜のファンがこの本を携えて日本各地に旅行に出てくれたらと願っています。
ファンのなかには既にそういう熱心な人もいるそうです。たとえば、北海道の決して交通が便利とは言えない場所にある博物館(この本にも登場)に、珍しいアンモナイトの化石のコレクションを見るだけのために足を運ぶファンの方もいらっしゃると聞きます。この本もそういった”聖地巡礼”の後押しになれたらいいですね。
この本が出るのは6月下旬、ちょうど夏休みを控えた時期です。大人だけでなく、子どもも一緒に古生物追体験の旅に出るというのはいかがでしょうか。出かけた先の博物館で化石を見るのはもちろんのこと、本で紹介する古生物出現スポットや実際の景色を眺めながら、「もしも今この湖にクビナガリュウが出現したら?」などと想像を膨らませたり、それを語り合ったりするのも面白いかもしれません。「心が豊かになる旅」になるのではないでしょうか。
SFやミステリ小説のファンにもおすすめする理由
もともと古生物や恐竜が大好きだという人はもちろんのこと、早川書房のSFやミステリ小説を読んだことがあるという人にも、この本をきっと気に入ってもらえると思います。どちらにも共通するのは、「空想を楽しむことができる本」というポイント。「かつて日本に棲んでいた古生物が現代に復活したら?」という設定だけはフィクションですが、それ以外の内容はどれも、国内外の論文や全国各地の博物館の研究員の方にご協力いただいて得た最新研究情報に基づいています。本では〈空想編〉〈種明かし編〉と分けながら展開しますが、どちらも存分に楽しんでもらえると思います。
6月20日発売予定の新刊は現在ご予約受付中です。創刊ラインナップは全5作品。それぞれの作品の読みどころを随時note記事などで発信していきます!
▶記事で紹介した本の概要
『古生物出現! 空想トラベルガイド』(ハヤカワ新書)
著者:土屋 健
出版社:早川書房
発売日:2023年6月20日(火)
■著者プロフィール
土屋 健(つちや・けん)サイエンスライター。2003年金沢大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。修士(理学)。科学雑誌「Newton」の編集記者、部長代理を経て、現在はオフィス ジオパレオント代表。 著書に6万部を突破した『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』や、ファンから「古生物の黒い本」と呼ばれる〈生物ミステリー〉シリーズなど多数。2019年、サイエンスライターとして初めて「日本古生物学会貢献賞」を受賞。