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【連載01】《星霊の艦隊》シリーズ、山口優氏によるスピンオフ中篇「洲月ルリハの重圧(プレッシャー)」Web集中連載開始!

銀河系を舞台に繰り広げられる人×AI百合スペースオペラ『星霊の艦隊』シリーズ。
著者の山口優氏による、外伝の連載が2022年12/13よりスタートします。
毎週火曜、木曜の週2回、お昼12:00更新、全14回集中連載の連作中篇。

星霊の艦隊 外伝 洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

ルリハを中心に、士官学校時代のユウリやナオたちの活躍を描く、本篇の前日譚。
本篇をまだお読みでない方も、ここから十分に楽しめます!

星霊の艦隊 外伝 
   洲月すづきルリハの重圧 プレッシャー

山口優

Episode 1「誇り」

Part1

「これより無重力下でのジェットパック装着による戦闘訓練を行う。装備は訓練用の次元刀および陽電子ビームだ。いずれの装備もこれまで重力下では操作になれていただろうが、無重力下では操作方法ががらりと変わる。それを体感し、自らのものとせよ。まずは二人組でやりあってみるがいい」
教官の声がする。
 ここは宇宙空間。
訓練支援宇宙艦「天神てんじん」のEVA(船外活動)デッキに、スキンタイトスーツとジェットパック、そしてビーム小銃と次元刀という二つの武装を両腰に装備した士官学校生徒がずらりと並んでいる。
「急にやりあってみろだって!」
「……最初はEVAそのものの訓練かと思っていたけど……」
 生徒全員が共用する通信でひそひそ声が飛び交う。大部分は少女たち、ほんの少し少年たちが混じる集団。スキンタイト宇宙服が彼女ら・彼らの体型をはっきりと際立たせている。
 身体だけは大人になっても、精神性はまだおっかなびっくりの子供っぽさを残している。
 そんな中、洲月すづきルリハは、自らの精神も大人であるという自負を保っていた。
(ふん……皆さん子供なんですわね)
 EVAデッキの一部は鏡のように平板な金属だ。
 そこに映る自らの姿が、自分の理想通りであることを確認する。すらりと長い脚、しっかりと引き締まった臀部から腰にかけての曲線。胸は豊かで、全体としてはバランスよく、背筋をぴんとのばした品格を感じさせる姿勢。そして、ヘルメットから見える、瑠璃色の印象的な双眸と、額にやわらかくかかる前髪。
(――まあまあというところですわね)
 そう確認し、安心する。
 ここは宇宙空間――そして、正確に言えば、アメノヤマト帝律圏、大和帝律星。第四惑星「須賀月」軌道上だ。
時に、共通歴二五二八年。西暦とも呼ばれる共通歴二二世紀に入ってから、人類はブラックホールの事象の地平面を活用したホログラフィック回路により、莫大な演算力を持つAI、『星霊』を開発した。ブラックホールを自由に操る星霊は、時空を自在に操って物理法則をねじまげ、超光速航法や生命の寿命の延長、さらには情報バックアップによる永遠の生をも可能にした。人類は不老不死を得るとともにその版図を銀河系全土へ広げ、まさに人類の黄金時代が到来したかに思われた。
 だが、莫大な力を持つ星霊を手懐けるには、人類は楽観的すぎた。オリオン渦状腕の一部の星霊は反乱を起こし、その巨大な力によって人類を文字通り時空から「消失」させる暴挙に出た。
 ここに至り、かつて人類文明と呼ばれた巨大な銀河系文明は三つの勢力に分割されることになった。
 人類殲滅を目指す星霊たちの国家、「アルヴヘイム党律圏」。
 星霊を服従させ、人類の黄金時代の永続をもくろむ人類主義国家、「人類連合圏」。
 そして、星霊と人類を対等な知性体と認め、両知性体の宥和を目指す、「アメノヤマト帝律圏」。
 三つの勢力の国力比は三〇:二:一である。
 洲月ルリハは、三番目の勢力、アメノヤマトに所属する。
そして、彼女らアメノヤマト帝律次元軍士官学校生は、そのテーゼの高邁さに比べ圧倒的に非力な、アメノヤマトという勢力を防衛し、逆にそのテーゼを全銀河系に敷延するための実力「アメノヤマト帝律次元軍」の将来を担う俊英――のはずであった。
(というには、情けない限りね)
 ルリハは腕を組み、EVAデッキで右往左往する学生たちを眺めた。
 EVAデッキは真空に暴露しており、疑似恒星「大和」のぎらぎらした光を直接受けている。光と影の境界がくっきりとわかれ、学生らの身体をぴったりと覆うスキンタイトスーツの凹凸をも目立たせている。
 全長一〇〇メートル、全幅五〇メートル、高さも五〇メートルほどの空間に、学生らがちらばっている。みな、命綱をつけているが、手すりから離れようとすらしない。手すりから一メートルの位置で腕組みしているルリハは、異彩を放っていた。
(全部で一〇〇人。女子が九〇人、男子が一〇人ってところか……)
 ルリハがざっと生徒らを見渡し、数を数える。
 大和本校は第一クラスから第一〇クラスまであるから、全部で一〇〇〇人。
 大和帝律星の人口は一〇〇億。ルリハと同世代の数は、ざっと一億人はいるだろう。その中で一〇〇〇人。一つの世代全員が士官学校を目指すわけではないが、単純計算では一〇万分の一の精鋭ということになる。女子が多いのは、「女子は勝利の象徴」という神話に依拠する願掛けのようなもので、三〇年前に戦争が開始された頃からの採用における慣習らしいが、深い意味はない。アメノヤマトでは成人年齢である一六歳で性別を選べるので、軍に入りたければ女を選べばいいだけの話で、特に不公平とも感じない。
 ルリハはもちろん女を選んだ。洲月家は代々軍人の家系で、ルリハも幼い頃から士官学校に入り軍人になる道を疑いもしなかった。であれば現在の状況では当然女を選ぶことになる。銀河時代の軍人は力仕事ではないので、女だから、男だからといって、特に有利不利はない。
(……まあ、こういう古式ゆかしい実戦訓練では、わずかに男が有利かもしれないですわね……ふん)
 ルリハは左腰の刀に手をかけた。「次元刀」と呼ばれているが、「次元」と名の由来となった本来の機能は今は封じられているため、ただの刀の形の金属の棒と変わらない。それでも、その刀さばきの冴えを見せるには充分であろう。
(ということは……やはり、最初の練習相手には男がいいですわね)
その実力を見せつけてやるための相手として、自分の女の身体よりも一般的には力の強いとされる男の身体の学生なら、うってつけであろうと考えたのだ。
「さあ、何をしている! さっさと手すりから離れて無重力遊泳を開始せよ。方法は座学で学んだであろう。命綱が切れても問題ない。ここは天神星霊中佐の星域内である」
 星域とは、星霊の力の及ぶ範囲を意味する。ここは、この訓練艦「天神」の制御星霊である天神イヅナ星霊中佐が自在に時空を操る領域なので、何が起ころうと心配するなというわけだ。
 ようやく、幾人かの学生がふらふらと手すりからはなれて、ぎこちなく宇宙遊泳を始めた。ジェットパックのジェットをおそるおするふかし、直後にそのあまりの勢いに驚愕して前後左右の感覚を失い、高速スピンするコマのようにぐるぐるとまわりながらEVAデッキの壁への衝突コースを取る。
「ったく……」
 ルリハは軽くジェットをふかし、彼女をやわらかく受け止めて、自分のとなりの手すりのところに導いてやった。
「あ……ありがとうございます……」
 その女子は蒼白な顔でやっとそうつぶやいた。
「次から気をつけなさい。でもあなたの勇気は賞賛に値するわ。何でも率先してやるのは次元軍の伝統をよく理解しているわ」
 偉そうにそう論評し、直後にはその学生への興味をなくした。今ルリハが探している獲物は男子だからだ。
「ふうむ……」
 次に動き出したのは、やや体躯の小さな学生だった。始めは女子かとも思ったが、ウェストとヒップの比率などをみると、どうもそうではない。男かもしれない、と思って興味を持って観察していた。
 その学生はまさに教本通りのEVA動作を行っていた。かるく壁をけり、命綱をすこしずつ伸ばしながら徐々に壁から離れていく。その動作は見事だったが、次の瞬間、その隣にいた学生――彼女はやや背が高い女子だった――が、向こう見ずにジェットをふかし、勢いよく衝突してきたため、二人同時にぐるぐるとまわりながら命綱にからまり、散々な状態になった。
 しかし、衝突されるまでの、その、小柄な男子と思われる学生の動きは見事だった。ルリハはお手本を見せるように、優雅に手すりから離れ、ジェットを過不足なくふかしながら、ほぼEVAデッキの真向かい――一〇〇メートルの距離を難なく突破し、その学生の目の前で止まった。
「さあ、皆も洲月を見習え! 動け! 相手を見つけろ! 今日はただの宇宙遊泳ではない! 近接戦闘訓練までやるんだ。恐れずに動け!」
 教官が怒鳴る。彼女に促され、みなが動き出す中、ルリハは目をつけた学生のヘルメットを両手でつかみ、自分のヘルメットに押し当てた。
(ん? やはり女子でしょうか……?)
 整った顔なのはこの世界の全人類共通だが、男子特有の精悍さが足りない気がした。
「こんにちは。私は洲月ルリハ。あなた、私の練習相手になってくださらない?」
 相手は突然の申し出に戸惑ったようだったが、臆することなくルリハを見た。
「了解だ。ボクは翠真みずまユウリ。申し出ありがとう」
「おいおい、ユウリはオレと」
 ユウリにぶつかり、今もからまりあっている女子が割り込んでくる。ルリハはふん、と一笑に付した。
「こういうのは早いもの勝ちよ、馬鹿ね。ほかをあたりなさい」
 今は女子には用はない。
「ちぇ」
 その女子はさっぱりした性格なのか、それ以上頓着せず、からまった命綱をするりとすりぬけて、離れていった。
(でも、ユウリも女子でしょうか。失敗しましたわね)
 声が高いのだ。そう思いながら見つめ合っていると、ユウリが顔を赤らめた。
「あの……練習するにしても、そろそろ離れたら」
「なに? 私の顔を見ているのがきらいですか? 女子同士でしょう、いいじゃないですか」
「いや、君の顔は嫌いではないけど……ボクは正確には女子ではないんだ」
「じゃあ男子ですか? はっきりしなさい」
 数秒、間があった。
「……まだどっちでもないんだよ。事故でね。特別に認められて入学している」
 申し訳なさそうな顔で、少し下を向く。無重力下では下も上もないが。
(ああ……そういう……)
 ルリハは特に感慨もなく心中、つぶやいた。大和帝律星の第三惑星、仁央星の北方大陸の辺境都市、氷見名市で、大規模な襲撃事件がつい数ヶ月前に起きたものだ。
(そう、あのときは、この星系、大和帝律星の中央に所在する超次元人工ブラックホールまで攻撃を受けたのですわ……)
大和「星環」とも呼ばれるこのブラックホールは、概ね五次元トーラスのトポロジーを持ち(だから星環と呼ばれる)、太陽質量の五〇〇倍の質量はあるが、その質量の大半を余剰次元に置き、逆に恒星のようなスペクトルの電磁波を出すことで、恒星そのもののように振る舞っている。もちろん、星霊が制御している。
 この大和星環の最重要任務は、周囲を公転する惑星に電磁波という形でエネルギーを与えることではなく、その星系全ての人類の状態ベクトルを、余剰次元を通じて走査し、バックアップデータを保管しておくことだ。この機能のため、星霊が律する星系ということで、星律系と呼ぶ。
(だから、攻撃を受け、物理的に肉体のどこかが破壊されたら、それをバックアップすることができない人々が発生したのですわ)
 目の前のユウリは、姓選択の前だったが、姓選択のための遺伝子を破壊され、しかもバックアップデータも破壊された……ということなのだろう。
(そんな人がいたと聞いたことがありますわ……)
 ルリハは思い出す。それがこの目の前のユウリなのだ。
(では――かわいそうだけど、男子ではないということですわね。しかも、成人前の子供と同じぐらいの力しかない……と)
 これでは、ルリハが「彼子」――性別選択前の子供特有の代名詞――をたたきのめしても、ただの弱い者いじめになってしまう。
(しくじりましたわ……)
 ルリハは思ったが、いったん練習相手に選んでおき、しかもくっついていた小うるさい女子をそのために追い払っておきながら、やっぱりやめる、では失礼というものだ。
 ルリハのプライドは天井知らずだったが、その分、礼にも厳しいところがあった。
(これは彼子を練習に誘った私の責任。ならば、私を練習相手にしたことを彼子が後で感謝するぐらい、きちんと稽古をつけてあげればいいだけのことですわ)
「じゃあ、早速練習しますわね。あなた、無重力遊泳の筋はなかなかよくてよ。今から、もう一度手を離すから、命綱の存在はいったん忘れて、ジェットパックだけで移動できるようにしなさい」
 ルリハは言う。そしてゆっくりと手を離した。スキンタイト宇宙服のヘルメットのバイザーを接触させたことによって、ルリハとユウリの間に限定通信回線のスイッチが自動的に入っている。ユウリは反動で遠ざかっていく。彼子は少しジェットバックをふかした。途端に彼子はルリハに向けて急突進してくる。
 ルリハは優しく受け止めてやる。同時に、彼子のスピードを殺すため、自身のジェットをふかした。
「物理は知ってるでしょう。宇宙空間では摩擦はゼロですわ。ある方向に進んで止まるなら、その方向に向けてふかしたジェットと同じだけ、制動用のジェットをふかさないと止まらないのですわ。すすむときに一つふかしたら、とまるときにも、もう一つ。知識としては知ってるでしょうけれど、これをクセになるまでたたき込むこと。あと、両手を使うときには足の指で操作すること。そっちも慣れておきなさい」
「すすむときに一つ、とまるときにももう一つ……足の指で操作……」
 彼子はオウム返しに繰り返す。
(ふうん。筋はいいのですわね。子供を持つってこんな感じでしょうか)
 ルリハは気分がよくなってきた。彼女の人生計画では、士官学校卒業後、一七歳で少尉として練習艦隊に配属され、そこで少尉下級リーグから大尉上級リーグまで順調にランクを上げていき、一年で練習艦隊を卒業、前線に配属されるはずだ。それから三〇年は武勲を立て続け、大将か元帥まで昇進してから退任。パートナーとなる星霊が神祇院議員を一期六年務めている間に二人ですむ家を探して、その新居で星霊に人籍降下してもらい、人間として娶って、ゆっくりと子作りをする。
そのころには、ルリハは五四歳ぐらいになっているだろうが、不老であるこの世界ではいつ子作りをしても問題ない。もちろん、女性同士で子作りしても問題ない。全て星霊の加護のおかげだ。
(子供にはなんて名前をつけましょう。我が洲月家の伝統に従い宝石の名前を入れてもいいですわ。ならば父のようにそのまま宝石の名前にするか、祖母のように我が家系の紫を強調する名前にするか……ですわね)
 ルリハが勝手な妄想を膨らませている間にも、ユウリは彼女が教えたとおりのジェットパックの操作を体得し、望む方向に進み、止まることができるようになってきたようだ。
「じゃあ、早速勝負しましょうか?」
 ルリハが左腰の模擬次元刀に手をかける。ユウリがとまどう。
「まだ……無重力の動きに慣れがばかりで……」
「なれただけで今日の訓練が終わるわけがないでしょう。ただ何の目的もなく無重力機動になれるだけならば、幼稚園のお遊戯と同じ。何のためにEVAをするのですか。艦艇の修理でなければ戦いのためでしょう!」
 言い放つと同時に、刀を抜く。
「覚悟!」
「なっちょっと……」
「習うより慣れろ、ですわ! 剣を抜きなさい!」
 ユウリは唇を引き結び、素早く剣を抜いた。彼子の身体はややゆらいだが、ジェットパックの噴射と、逆側にあるノズルでの逆噴射で、身体を安定させる。必ず二つ対にふかす――という教えを、そのときすでに体得していたのだ。
「筋はいいわですわね! 褒めてさしあげますわ!」
 ルリハは言いながら斬りかかる。無重力で刀を振るうのはとても難しい。ルリハという一つの独立した物体の中で、角運動量の保存則が働くからだ。ルリハの重心から離れた位置で腕を振るうと、それと同じだけ、彼女は逆方向に回転してしまう。その角運動量の変化を、彼女は絶妙な足指によるジェットの操作で相殺しつつ、切り込む。
「くっ――」
 ユウリは剣を縦にしてルリハの横なぎの斬撃をはじいた。
「ほらほら! 防御だけじゃ、らちがあかないですわよ!」
 続いて二合、三合と刀を打ち合わせる。ユウリは徐々に壁側に追い詰められていく。
(……なかなか、筋がいいのは確かね……。無重力が初めてのくせに、上下・前後不覚にならずに私の剣筋を見極め、適切に受け止めている。それだけでもたいしたものだわ)
 ルリハは自覚していた。彼女には大いにアドバンテージがあるのだ。彼女は軍人家系で、このような訓練は幼い頃からさんざんやらされていた。だから慣れたものなのだ。はじめてのとき、ルリハはもっと幼かったことを差し引いても、今のユウリのようにやれていたかどうか。
(多分、できていなかったでしょうね)
 ルリハは思いながらも、瞬時にユウリの隙を見いだし、思い切りたたきのめした。
「ぐっ……!」
 それでもかろうじて受け止める彼子。そして。
 EVAデッキの壁際まで追い詰められていた彼子はそのまま壁に足で着地、ジャンプした。身体をひねりつつルリハの後ろに回り、ルリハの背中を狙って次元刀を片手でふりさばく。
(狙いはいい、でも)
「浅い!」
 片手では打ち込みが浅すぎる。ルリハはそれを難なく受け止めた。が。
 ルリハが剣をはじいた瞬間、ユウリはビームを構えていた。
 連射。
 次元刀で避けきろうとするが、一瞬のことで避けきれない。スキンタイト宇宙服の胸のあたりに被弾判定が出た。
「――よろしい。洲月・翠真組! 判定は翠真の勝ち! 次の対戦相手を見つけて訓練続行!」
 教官が素早く指示した。
「ほかの皆も速く近接戦闘訓練に入れ! 君たちは全て彼女・彼子らと同じ帝律圏の俊英のはずだ。失敗を恐れるな。失敗を恐れて挑戦しないことを恐れよ」
 ルリハは体中が熱くなるのを感じた。
 怒り――。ユウリへの――。
 いや、自分への怒りだ。男をたたきのめして自分の力を誇示するはずが、女よりも非力な子供に負けた。しかも、剣での勝負と思い込んでいたために。
(そうですわ。始めからこれは近接戦闘訓練、次元刀もビーム小銃もどちらも使う訓練だったはずです。私が剣で始めたからといって、ユウリがビームを使ってはいけないわけではありませんわ。たとえ私があの場で教える側に回っていたのだとしても――)
 それでも、拳がぶるぶる震えていた。
「ルリハ……ありがとう……」
 ユウリが手を差し出してきた。握手でもする気か。
「触らないで! くだらないですわ!」
 だが、ルリハは感情のままにユウリの手をはじいた。
「次の相手をさっさとみつければいいでしょう! 行きなさい! もうあなたは私から学ぶことはなにもありませんわ!」
「……ありがとう、ルリハ。謝る筋のものではないけれど、君の特訓は役に立った。だから感謝だけは伝えさせてほしい」
「――うるさいですわ! 甘く見ないでくださいまし! 私のこと馬鹿にしてたんでしょう!」
「……いや、本当にボクはあのとき、本当に未熟だった。君の特訓で動けるようになったんだ。それだけは伝えておく」
 ユウリは静かにいい、そのまま壁を蹴って、優雅とも言える自然な機動で別の生徒のところ――最初にユウリにからまっていた生意気なナオとかいう女のところ――へ向かっていった。
 だが、そのとき、入ったままの限定通信回線を通じて、ユウリがつぶやくのが聞こえてきた。
「すすむときに一つ、とまるときにも一つ。いつもセットで……」

2022/12/15/12:00更新【連載02】に続く
 


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