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海外文芸

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2023年1月の記事一覧

全米図書賞翻訳部門受賞!『ソクチョの冬』(エリザ・スア・デュサパン/原正人訳)の「訳者あとがき」公開のお知らせ

全米図書賞翻訳部門受賞!『ソクチョの冬』(エリザ・スア・デュサパン/原正人訳)の「訳者あとがき」公開のお知らせ

早川書房から1月24日、スイスの作家エリザ・スア・デュサパンによる『ソクチョの冬』(エリザ・スア・デュサパン/原正人訳)が刊行となりました。フランスと韓国にルーツを持ち、現在はスイスで執筆し、マルグリット・デュラスの再来と言われる作家による、デビュー作にして全米図書賞翻訳部門を受賞した話題作です。北朝鮮国境近くのソクチョにやってきたフランス人のバンド・デシネ作家と、旅館で働く韓仏ミックスの女性が出

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【試し読み】『ファイト・クラブ』著者が2020年代の世界へ捧げる爆弾。『インヴェンション・オブ・サウンド』

【試し読み】『ファイト・クラブ』著者が2020年代の世界へ捧げる爆弾。『インヴェンション・オブ・サウンド』

チャック・パラニューク『インヴェンション・オブ・サウンド』冒頭掲載。本作の物語は映画の音響効果技師であるミッツィ・アイヴズと、行方不明になった娘を長年探し続けるゲイツ・フォスターという2人の視点から交互に描かれます。「救いがない」という救いさえも与えられない現代人の物語。

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第1章 我らの罪を忘れたまえ

 救急車のサイレンが街を駆けていき、犬という犬が遠吠えする。ペキニーズもボー

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戦争文学の旗手が、トロイア戦争を生きた女性たちを描き出す。英国で40万部のベストセラー『女たちの沈黙』(パット・バーカー、北村みちよ訳)に込められたメッセージとは?

戦争文学の旗手が、トロイア戦争を生きた女性たちを描き出す。英国で40万部のベストセラー『女たちの沈黙』(パット・バーカー、北村みちよ訳)に込められたメッセージとは?

数々の戦争文学を執筆し、世界中で高く評価されるイギリスの作家パット・バーカー。著者の新たな代表作『女たちの沈黙』(2018年刊)は、ギリシア最古の叙事詩『イリアス』を女性たちの視点から語り直した長篇小説です。

「『イリアス』? 名前だけは知ってる……」という方もご安心を!
詳しく知らなくても、ぐいぐい読めます! 本書はイギリスで40万部し、26の言語で訳され支持されているベストセラー。その読みや

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女たちが語るトロイア戦争。ブッカー賞作家による傑作歴史小説『女たちの沈黙』(パット・バーカー)、1月20日発売

女たちが語るトロイア戦争。ブッカー賞作家による傑作歴史小説『女たちの沈黙』(パット・バーカー)、1月20日発売

早川書房は、イギリスの作家、パット・バーカー『女たちの沈黙』(原題 The Silence of The Girls、北村みちよ訳)を2023年1月20日に刊行します。

◆あらすじトロイア戦争、最後の年。
トロイアの近隣都市リュルネソスが、ギリシア連合軍によって滅ぼされた。都市の王妃ブリセイスは囚われ、奴隷となった。
その主は、英雄アキレウス――彼女の家族と同胞を殺した男。

ブリセイスは、やは

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想い人が3000年経っても現れないので、待ちくたびれて「山」になってしまった女の話──劉震雲『一日三秋』より(水野衛子訳)

想い人が3000年経っても現れないので、待ちくたびれて「山」になってしまった女の話──劉震雲『一日三秋』より(水野衛子訳)

中国文学界でもっとも栄誉がある賞の一つ、茅盾文学賞を受賞した中国のベストセラー作家、劉震雲さんの最新作『一日三秋』が水野衛子さんの翻訳で刊行となりました。中国のレビューサイト豆瓣では、「2021年度中国文学小説ランキング」で余華に次いで第2位を獲得し、すでに10以上の言語で翻訳されています。

そんな注目の本作は、劉さんの出身地である河南省延津を舞台に、そこで生きる人の「ユーモア」の由縁に焦点を当

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【創作論】文体の翻訳。僕が愛するチャック・パラニュークのスタイルとリズム(深見真)

【創作論】文体の翻訳。僕が愛するチャック・パラニュークのスタイルとリズム(深見真)

『ファイト・クラブ』などの傑作で知られるアメリカの小説家、チャック・パラニューク18年ぶりの新刊邦訳『インヴェンション・オブ・サウンド』が1月24日に発売されます。それを記念して、SFマガジン2023年2月号に掲載の深見真さんによる作家・創作エッセイをウェブ公開! 小説の秘訣を文体と翻訳から考察する名文、創作に関心のあるすべての方にお薦めです。

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 チャック・パラニュークの文体が好き

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人類にうがたれた穴を埋める、笑いと夢──作家いしいしんじが語る、中国文芸『一日三秋』の大いなる魅力

人類にうがたれた穴を埋める、笑いと夢──作家いしいしんじが語る、中国文芸『一日三秋』の大いなる魅力

「小説を書き終えて、この小説を書いた初心を記しておこう」と、冒頭で語り手はいう。「それは六叔父、六叔父の絵のためだ」と。

昔、劇団の胡弓弾きだった。引退してからは、妻にぶつくさいわれながら、日々、ふるさと延津の絵を描き、たまに訪ねてくる甥(語り手)に、なんの絵か教えた。

絵ではおおぜいが笑っている。延津のひとは笑い話が好きだ。厳粛な顔のものもいる。笑い話に圧し潰されて死んだのだ。テーブルの下に

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