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新書創刊の舞台裏:英語学習の近道はミステリ小説の中にある?『名作ミステリで学ぶ英文読解』担当編集者が語る

早川書房があらたに立ち上げる新書レーベル「ハヤカワ新書」。早川書房の強みであるSFやミステリなどの視点を生かした、独自の切り口の新書を多数予定しています。
第一弾は2023年6月20日(火)発売。どんな内容の新書が読めるようになる? そもそも新書の「創刊」って何を準備するの? ……そんな疑問にお答えすべく、『名作ミステリで学ぶ英文読解』(著:越前敏弥/翻訳家)の発売に向けて原稿整理や関連イベントを仕込んでいる担当編集者(新書編集部:山本純也)に話を聞きました。現在進行形で進んでいる舞台裏と、本の内容を一部早出しでご紹介します。

『名作ミステリで学ぶ英文読解』越前敏弥、ハヤカワ新書、早川書房
『名作ミステリで学ぶ英文読解』ハヤカワ新書

名作ミステリは原文も謎だらけ!
手ごわい英文を精読し、読解力を鍛えよう

「ミステリの女王」ことアガサ・クリスティーや、「シャーロック・ホームズ」の生みの親、コナン・ドイル、さらには本格ミステリの巨匠エラリイ・クイーンの「かなり手ごわい」原文を取り上げ、英文読解のポイントを解説。高校生程度の知識があれば挑戦可能。翻訳のテクニックやミステリ作品のおもしろさに言及するコラムもはさみながら、英文読解能力を鍛えつつ、ミステリファンには新たな角度で作品を楽しんでもらえるガイドとしても。

「ミステリ小説×英語学習」を掛け合わせたきっかけは?

編集担当・山本純也(以下同):越前敏弥さんは、これまで本格ミステリの巨匠エラリイ・クイーンやダン・ブラウン(『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズ)など、数多くの傑作ミステリを翻訳して日本に広く紹介してこられた方です。英語の読み方を説いた「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文」シリーズや『越前敏弥の英文解釈講義『クリスマス・キャロル』を 精読して上級をめざす』、『シートン動物記で学ぶ英文法』(倉林秀夫さんとの共著)などのご著書はありますが、越前さんの本業であるミステリを扱った英文読解本はないのではと考えて、「時は来た!」という思いで越前さんに企画を打診しました。

越前さんに快諾をいただいたときは本当にうれしかったですね。企画当初はエラリイ・クイーン中心の内容でしたが、その後いろいろな話し合いを重ねて、コナン・ドイルアガサ・クリスティーという、名作ミステリの巨匠たちを加えて、三人の名作家が綴った古典ミステリの英文をテーマに取り上げることにしました。

ハヤカワ新書創刊の告知をしたところ、越前さんのファンやミステリ・ファンからとても大きなSNS反響を受け取り、嬉しく思うとともに改めて編集作業を頑張らねばと思った次第です。

ミステリの巨匠が紡いだ「クリアな英語」を堪能してほしい

英語を勉強したことがある全ての人が実感していることだと思いますが、英語を読む時には(日本語の場合とは違った)論理的な思考が求められます。“巨匠”と呼ばれて長いこと多くの読者に愛されてきたミステリ作家たちが書いた英語文章は、とても緻密で無駄がないものです。「英語の論理的な読み方」を学ぶにあたって、実に打ってつけの題材なんです。これを通じて論理的な読解のセオリーを学ぶことができるように、意識して本づくりをしています。

現代英語を理解するためならば、ニュース記事を読むほうが英語学習に向いているんじゃないの? という意見もあるかもしれないですね。でも、ミステリ作品には必ずストーリーの山場やオチがありますから、好奇心をキープしながら英語の勉強を続けたいと考えている方々にとっては最適です。

ミステリ作品で展開される推理は一つのプレゼンテーションである、という言い方があります。プレゼンだから、そこには説得力ある文章が必要です。「本当の犯人は誰なのか……?」ミステリ作家と読者との駆け引きを、論理的に読み解いてほしいですね。勉強としての英文読解だけじゃなく、「原文を読んであらためて知るミステリの楽しみ方」もコラムとして収録します。

ミステリ作品が英語学習に“最適”である理由は?

ミステリ小説の英語の特徴を一つ挙げるなら、“仮定法”が多いことでしょう。たとえば、「もし彼女が犯人だったら、きっと○○○○するだろう」といった「もしも」の文章を連ねてストーリーを組み立てていく構成は、ミステリならではです。でも、英語を勉強したみんなが共感してくれると思うんですが、仮定法って難しいし、苦手な人も多いですよね!
この本では描かれた情景が浮かびやすい例題を並べているので、読めば知らず知らずのうちに仮定法を理解できるような、いわば心強い助けになると思います。

ミステリ小説の場合は、それに加えて叙述の仕掛けや読者へのミスリードなども読みとらなくてはならないので、「好奇心をキープしながら学ぶ教材」として適していると思います。文章だけでなく行間を読んでストーリーの先を推理することも上達するかもしれません。

この本で初めて推理小説の原文を読んで、「こんな英文から日本語訳の小説が生まれているのか!」と驚く人もいるでしょう。単なる直訳ではなく、翻訳家・越前敏弥さんならではの翻訳の巧みさも存分に伝わると思いますので、読みながら翻訳作業を追体験してもらえたらうれしいです。プロの翻訳家はどうやって文章を積み重ねて一つの作品を作り上げているのか、目の当たりにすることができるはずです。日本語の勉強や文章の組み立て方の参考にもなると思います。

こんな方々の挑戦を期待しています!

英語レベルの目安としては、高校までに習った英文法を総動員して例題に取り組むことになると思います。英語を学び直しをスタートしたいという方にも、今よりもっと上の英文読解を目指したいという上級者にも、どちらにも最適ではないでしょうか。もちろん意欲的な高校生の挑戦にも期待しています。そして、名作ミステリや推理小説をもっと深く知りたいというミステリ・ファンにも手に取ってもらいたいですね。

本の中では【ネタバレ注意】の注意書きもわかりやすく表示していますので、まだ小説を読んだことがない、という人にとっても安心して読み進めることができますし、未読の作品を読むためのブックガイドにもなるのでは。

この本が気に入った方はこちらも……

言語が持つ面白さを再発見するという点では『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)はいかがでしょうか。世界各地の言語によって色や方角の表現が異なることを発端に、言語が文化や認知に与える影響の大きさを紹介する本です。
『シャーロック・ホームズの思考術』(同上)は、コナン・ドイルの小説のなかでホームズがみせた鮮やかな名推理の秘訣を、現代最新の心理学や脳神経科学の観点から解き明かす一冊。
そしてもちろん、越前敏弥さんが手がけるエラリイ・クイーン代表作の新訳版「ライツヴィル・シリーズ」などの邦訳作品も、あらためて読んでいただきたいですね。この『名作ミステリで学ぶ英文読解』を読んでから読み直せば、きっと新しい発見があるはずです!


6月20日発売予定の新刊は現在ご予約受付中です。創刊ラインナップは全5作品。それぞれの作品の読みどころを随時note記事などで発信していきます!

記事で紹介した本の概要

『名作ミステリで学ぶ英文読解』
著者:越前敏弥
出版社:早川書房
発売日:2023年6月20日(火)

■著者プロフィール
越前 敏弥
(えちぜん・としや)

越前敏弥さん近影(©大杉隼平)

1961年生まれ。文芸翻訳者。留学予備校講師などを経て、30代後半にミステリなどの翻訳の仕事をはじめる。訳書にクイーン『災厄の町〔新訳版〕』、ハミルトン『解錠師』、ロボサム『生か、死か』(以上、早川書房)、クイーン『Yの悲劇』、ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』、ダウド『ロンドン・アイの謎』、キャントン『世界文学大図鑑』など多数。著書に『文芸翻訳教室』『翻訳百景』『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文・決定版』など。

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