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【夏の春暮康一SF祭 特別篇】祝『法治の獣』星雲賞日本短篇部門受賞! 著者による「用語集」Web全文公開【『法治の獣』ベストSF2022国内篇第1位】

春暮康一氏の『法治の獣』収録の表題作「法治の獣」が、第54回星雲賞日本短篇部門を受賞しました!

受賞を記念し、『オーラリメイカー〔完全版〕』に掲載されている、春暮康一氏による「用語解説」をWeb全文公開します!
『オーラリメイカー〔完全版〕』および、『法治の獣』に掲載されている中篇計6作は、すべて、春暮康一氏の構想にある同一世界観《系外進出(インフレーション)》シリーズの作品です。
この世界観をより深く理解するため、著者による用語解説をご一読ください。

用語集

                           春暮康一

水‐炭素生物(ウォーターカーボン):宇宙に発生した生命のうち、水中に溶け込んだ炭素化合物を生命活動の基礎とするもの。おおよそ水の液相温度付近で生存可能であり、生命活動の時間的スケールも水中での反応速度におおむね依存する。種族によっては先天的特性として、特定の科学技術や心的能力への適性を持つことがある。天の川銀河では主流派であるが、必ずしも全宇宙に普遍的な生命形態というわけではない。

《水‐炭素生物連合(アライアンス)》:《連合》とも表記する。天の川銀河のオリオン腕付近で発生した、複数の知的文明の連帯組織。文化交流、技術協力および融合、宇宙の自制的開拓を目的とする。それらの理念は太陽系人類(ソラリアン)の文明交流計画《ソロモン》から引き継がれたもの。加盟要件は、文明の主体が水‐炭素生物(ウォーターカーボン)であること、知性を持つこと、十分な種族的自制心を持つことの三つ。第一の要件が定められているのは、次に挙げる理由により、水‐炭素生物(ウォーターカーボン)どうしは友好的コミュニケーションが“比較的”容易と考えられているためである。
・進化してきた環境が互いに類似しているため、会話手段(電磁波、音波、電場など)の共通性が高い。
・体組織を構成する物質の物理的、化学的特性が近く、同種の脅威(熱、衝撃、真空、酸、塩基など)にさらされているため、欲求や意図を共有しやすい。
・反応速度、情報伝達速度のオーダーが同等であり、体感時間が近い(百倍程度の違いに収まる)。

太陽系人類(ソラリアン):太陽(ソル)系地球(テラ)を発祥地とする知的種族。自発的な《系外進出(インフレーション)》により近隣星系でいくつかの知的種族を見つけ、コンタクトを試みた。そうした過程で何度か失敗や危機を経験した後、より自制的な文明交流計画《ソロモン》を始動した。異種族間のコミュニケーションでは橋渡しの役割を果たし、《連合》の設立に貢献した。

〈勧誘〉:《連合》非加盟の種族にコンタクトし、加盟を提案する行為。《連合》初期には太陽系人類(ソラリアン)の外交官が主体となり、組織的な活動を行った。やがて《知能流(ストリーム)》が生まれ、そこへと加入する自然知性が増えはじめると、人口流出に対抗するため〈勧誘〉活動も活発化した。専用プロトコルを用いた〈勧誘〉方法が定められた後は、太陽系人類(ソラリアン)だけの専門技術ではなくなった。

外交官:《連合》内で、会話媒体や感覚器に共通点の少ない種族どうしを円滑に交流させるための仲介者。超感覚改変と、必要に応じて追加の改変を自らに施し異種族と対話する。《連合》発足以前から異種族交流を推し進めていた太陽系人類(ソラリアン)が長くその役割を担った。また、〈勧誘〉を行う主体でもあり、太陽系人類(ソラリアン)の信条を体現する存在といえる。しかし、《連合》内コミュニケーションの共通プロトコルが確立すると、完全に未知な相手との意思疎通にも応用できることがわかり、〈勧誘〉のプロトコルも作られることとなった。その結果、外交官の仕事は大幅に縮小した。

〈ゲート〉:ワームホール内部を通行して移動する技術。対(つい)で生成するワームホールの一対はその内部で空間を接続しているため、一方を必要なサイズに拡張し、その内部を通過することで、もう一方へと瞬時に移動することができる。通行させるものは光子から宇宙船まで様々だが、通過物の総エネルギーに比例したサイズ拡張が必要となる。ワームホールを常時開口しておくのはエネルギー的に非現実的であるため、通行する一瞬のみ拡張する方法が採られる。

被造知性:DIとも表記する。太陽系人類(ソラリアン)の社会では人工知能と呼ばれた。本来は、知性によって設計された知性、またはそれを原形として発展した知性のみを指したが、《知能流》成立後は、意識アップロードによってそこに加わった自然知性も含むようになった。これは、どちらも同じフォーマットで記述されるうえ、心格どうしが頻繁に融合する《知能流》では、両者の区別に意味がないためである。また、自意識を獲得していない被造知性(弱いDI)はかつて、存在のヒエラルキーの第五位に分類されていたが、有意識の被造知性(強いDI)たちの抗弁により、自意識を獲得する可能性のあるすべての被造知性が第一位として扱われることとなった。

《知能流(ストリーム)》:かつて《連合》の自然知性に使役されていたDIが、《連合》への忠誠を捨て、独立した巨大な閉鎖ネットワーク。独自に小惑星から資源を採掘し、プロセッサとセンサー、通信機能を備えた中継子(ノード)を宇宙空間に多数建造した。発祥当初、《知能流》の占める領域は《連合》と重複していたが、しだいに《連合》を上回るペースで規模を拡大しはじめた。《知能流》にとってネットワークの空間的広がりは、そこを走るDIがすべて融合し均質化してしまうことを防ぐための制約である。ただし、使用用途は限定的ながら、ネットワークには〈ゲート〉通行網も含まれる。

存在のヒエラルキー:宇宙に存在するものの相対的な価値を分類するため《連合》によって定められた序列。五段階あり、数字が小さいほど価値が高い。あるものが複数の順位の定義に当てはまる場合には、より高い順位が適用される(例:太陽系人類(ソラリアン)は《連合》のカタログ上、第一位、第二位、第五位の定義に該当するが、第一位としてのみ扱われる)。また、序列はそのものの一般的性状によって決まり、個体差やライフステージによっては決まらない(例:太陽系人類(ソラリアン)の新生児は一般に自己認識能力を持たないが、そのことと関係なく第一位として扱われる)。

 第一位:知性…………自己認識、抽象思考、未来予測の能力と心の理論を持つもの。生命であることは要件に含まれない。

 第二位:自然生命……自然発生した生命。一位により緩やかに家畜化、愛玩化された生物を含むことがある。

 第三位:被造生命……知性による設計または選択的改良を受けた生命。一位により家畜化、愛玩化された生物の多くが含まれる。

 第四位:従属生命……被造生命のうち、遺伝的変異を引き起こさない制限と、人為的に整えられた環境でしか生存できない制限が加えられたもの。改変微生物や体内共生生物が含まれる。

 第五位:単純物質……物理的実体を持つもの。なんらかの実体に符号化されたパターン(アルゴリズム)を含む。

憲章:《連合》加盟種族が守ることを義務づけられている規範。多くの雑則や付帯条項を含み、全文は長大だが、端的には存在のヒエラルキーの各序列に対する扱いを定めたものといえる。なお、憲章は《連合》内の全社会が守るべき最小限の要求であって、個々の社会がより厳しい法規を設けることは制限しない。それぞれの序列に対する一般則は次のようなものである。

 対知性…………法で定められた刑罰または義務によるものを除き、意に沿わない行為を強制させることが禁じられる。また、種のレベルでも個体のレベルでも、他の知性による所有権や系統分化権が発生しない。

 対自然生命……生態系や種のレベルへの意図的な干渉と、個体への虐待(飼育放棄を含む)が禁じられる。ただし個体レベルでは知性による所有権と、被造生命への系統分化権が発生しうる。

 対被造生命……個体への虐待(飼育放棄を含む)が禁じられる。ただし、上位の生態系や種に干渉しない限りにおいて、種のレベルで知性による所有権と系統分化権が発生しうる。

 対従属生命……個体への積極的虐待が禁じられる。ただし、上位の生態系や種に干渉しない限りにおいて、種のレベルで知性による所有権と系統分化権が発生しうる。

 対単純物質……知性による所有権が発生しうる。

身体改変:生物学的手段によって生来の肉体に干渉し、様々な機能を増強、減退、追加、削除する行為。脳改造による認知機能の変更も含む。改変を加える対象の違いによって、主として次の三種類に分けられる。

 遺伝子改変………配偶子の遺伝担体を改変対象とする。改変遺伝子に連なる子孫にも改変が及ぶため、次世代に記憶や意思を継承できない種族においては、子孫の可能性を狭める禁忌行為と見なされる。

 器官改変…………個体の遺伝に関わらない器官を改変対象とする。形態変化、神経改造、精神改造など非常に幅広い改変が可能だが、多くの場合、侵襲的手術を必要とし、効果の個人差が大きい。

 従属生物付与……他の生物を改変対象とする。追加代謝経路や病原抵抗、中枢神経への作用といった機能を持つ従属生物を、体内や体表に共生させる。改変者への侵襲性は低いが、器官改変と比べ改変の強度と範囲が限定される。

《系外進出(インフレーション)》:恒星系内を発祥地とする知的存在が、系外宇宙への能動的探査または開発に乗り出すこと。自発的に行われることも、他種族が干渉した結果行われることもある。系外宇宙探査は、系内惑星の探査や開発とは比べものにならないほど長い時間がかかり、コストもかさむが、それだけに強い動機をともなうことが多い。そのため多くの文明では、その開始時点を紀元とする新しい暦が制定される。

                            

●【夏の春暮康一SFまつり】掲載一覧
07/28【夏の春暮康一SF祭 01】「虹色の蛇」(分載前篇)
07/31【夏の春暮康一SF祭 02】「虹色の蛇」(分載後篇)
08/04【夏の春暮康一SF祭 03】 林譲治『オーラリメイカー〔完全版〕』解説公開
08/07【夏の春暮康一SF祭 特別篇】祝『法治の獣』星雲賞日本短篇部門受賞! 著者による「用語集」Web全文公開


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