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ハヤカワ文庫初登場! 笹本祐一新シリーズ『放課後地球防衛軍1 なぞの転校生』冒頭公開

第一話 謎の転校生

「センターラインがない!」
 灰色一色に見えるほどの速度で流れていた岩壁が途切れると、HIDライトの真っ白な光が虚空に吸い込まれた。はるか彼方にかすかに星明かりを照り返す太平洋の大海原が浮かび上がる。
「ガードレールもない!」
 運転席のバックレストにしがみついたまま、後席の桐生祥兵が情けない声を上げた。
「杏せんせ、スピードスピード!!」
「ぅやかましい!」
 アクセルを床まで踏み込んだまま、ロングヘアを振り乱した運転席の梅田杏は真横を睨み付けて風切り音が聞こえるような勢いでハンドルを切り返す。
「なにをどー飲んだくれよーとおまえらの自由だが、真夜中12時にはどんな体調になっていても引っ張り出して連れて行く、最初のブリーフィングでそう宣告したはずだ!」
 耳障りなスキール音とともに、軽四駆のワンボックスが中央車線すら引かれていないヘアピンカーブの急坂を横向きに駆け抜ける。
「夕食後の自習も負けてやったのに、それをどう過ごせばいいか計画出来ないほどガキじゃあるまい!!」
 カウンターを当ててグリップを取り戻したワンボックスのアクセルを底まで踏み込んで、四輪駆動の加速でヘアピン出口に無理矢理脱出させる。短いストレートを全開加速して、山際のカーブに向けて最小限の急ブレーキ。
「だって今夜の降水確率60パーセントって予報出てたじゃないですかあ!」
 運転席のバケットシートにしがみついたまま、祥兵が涙声で抗議する。
「雨で流星観測やるなんて誰が考えるんですかあ!!」
「網元のじっちゃんが晴れるって言ってただろうが!」
 急ハンドルで車体の向きを変えた杏は、素早いシフトダウンでワンボックスをフル加速させた。
「生活賭けて海見てるじっちゃんと責任取ってくれない天気予報、どっち信用するかの判断もつかないのか!?」
「わかりました、わかりましたから先生、もう少しスピード落として」
 四点式のシートベルトが装備された運転席のバックレストで持って行かれる身体を支えながら、祥兵は哀れな声を出した。
「下の入り口に凍結注意って出てたし、わあ前!」
 ハイビームのヘッドライトと追加装備のルーフライトに、うっすらと路面に張り付いた霜が浮かび上がった。斜めになったまま氷にのった車体がくるんと廻る。
「わああああ!」
「シートベルトしとけって言っただろう!」
 ハンドルを切り返しながら鮮やかなダブルクラッチを踏んで瞬間ギアをバックに入れた杏は、道なりにスピンしたワンボックスを正確に二回転させただけで立ち直らせた。三速全開のフル加速でつぎのカーブに飛び込んで行く
「い、今、うしろ擦りませんでした!?」
「そのためのバンパーだろが! 席着いて口閉じてろ!」
「なんでこんな寒いのに山の上なんぞに登らなきゃ……」
 祥兵は左右に振られながら後席に戻った。
「ここまで登ってこなけりゃ街の明かりが消えないだろうが!」
 ハンドルを抱えたまま、杏はシートベルトを締めはじめた祥兵を一喝した。
「ここでなければじっちゃんの漁船の沖曳きに乗せてってもらえばやっぱり真っ暗になるけど、そっちのほうがよかったか、あん?」
 マニュアルのフロアシフトを二速まで叩き落としてアクセルを踏み込みながら、わずかにハンドルを切る。次のコーナーのインを増設された大光量のドライビングライトで照らし出しながら、軽のワンボックスはリヤタイヤを滑らせてガードレールもない一八〇度のヘアピンカーブに滑り込んだ。
「見えた(ゲゼーエン)!」
 助手席のマリアがドイツ語で鋭く叫んだ。フロントウィンドウを下から見上げて、助手席の窓を一杯に開いて身を乗り出す。夜の冷気が車内を吹き荒れ、ポニーテールにまとめた豊かな金髪が夜風に流れ散る。
「左側! 梢の上!」
「普通の流星じゃないの?」
 流れる杉林の間から星が見えるほど空気が澄んだ山の中なら、星が流れるのはそれほど珍しいことではない。
「もうひとつ!」
 今度の流れ星は、後席で外を向いた祥兵にも見えた。
「まだ極大期まで1時間もあるのに!?」
「だから言っただろが、今度の流星群は特大だって!」
 豪快にカウンターを切りながら杏が叫んだ。
「天文台発表の極大期なんていくらでもずれるもんだ、ピークが前倒しになったのかもしれない!」
 四輪駆動のブロックタイヤがゴムの焼ける臭いと悲鳴を上げて空転する。強引に姿勢を立て直して、山頂に向かう最後のストレートに入った杏はアクセルを力一杯踏み込んだ。
「時間がない! このまま見晴らし台まで登るぞ!」
「え、ええー!?」
 祥兵が抗議の声を上げた。助手席にすとんと戻ったマリアがシートベルトを締め直し、二列目の祥兵はドアの上のグリップを握って手足を突っ張る。
 隣の席ではすっかり力の抜けた清水雅樹が二点式のシートベルトでベンチシートに死んでいる。
「……この運転でよく寝てられるな……」
「なんか言ったか?」
「いえ、安全運転でと」
 小さな駐車場に他の車の姿はなかった。ろくな減速もせずに歩道に乗り上げたワンボックスは、棒杭で立っていた車輛進入禁止の標識を撥ね飛ばして前日の雨が水たまりに凍っている登山道に突入した。
「あがががが」
 ときどきは山林管理用の軽トラックが入っているらしい狭い登山道には車幅ぎりぎりの轍が出来ている。道の両側から張り出した草や枝をかきわけるというよりは薙ぎ払いながら、ワンボックスは未舗装のまま砂利も敷かれていない登山道を一気に駆け登る。
 誰も開いているのを見たことがない土産物屋の軒先を吹き飛ばす勢いでかすめて、ワンボックスは登山道からジャンプした。錆びが浮いてゆがんだまま明かりが消えている観望台の自動販売機の前に着地、そのままスピンして、片輪を浮かせて横転して斜面を転げ落ちかけたところでかろうじてバランスを取り戻し、どさっと停止する。
「ふー」
 ヘッドライトに照らしだされたすぐ目の前に見晴らし台の腐りかけた木の柵があるのを確認して、杏はハンドルから手を離した。
「よおし、到着だ! 野郎ども、観測準備!」
 返事なし。ん? と車内を振り返った杏は、助手席のマリアと後席の祥兵の目が窓の外に向いているのに気付いた。
 マリアが言った。
「ライト、消して」
「ん」
 メーターパネルの明りも消えた車内で、杏は窓の外が宇宙空間に囲まれているのに気付いた。
 眼が暗闇に慣れ、瞳孔が開くまでしばらく時間がかかる。しかし、さっきまでライトに照らし出される山道を睨み付けていた目でも、星空に降り始めた流星がいくつか見えた。
「すげ……」
 市街といっても海沿いの漁師町で真夜中になれば人工の明かりは街灯のみ、それも少し離れれば真っ暗な自然が残っているような岩江市に光害という言葉はない。普通に生活していれば流れ星を見ることはそれほど珍しくないが、今降っているのは雨の名にふさわしい流星群だった。
「……眼視観測、するんですよね」
 祥兵がいまさらのように確認した。エンジンキーを抜いた杏は、バックミラーの上にあるマップライトのスイッチを切った。返す手で後席側のルームライトもドア連動からオフにする。
「あたりまえだ、なにしにここに来たと思ってる。総員観測用意!」
「うぉう、さすがに寒い!」
 右側のスライドドアを勢いよく開け放った祥兵は、吹き込んできた寒風にぶるっと震えて荷室に放り込んであった防寒用ジャンパーを引っ張り出した。ついでにシートで死んでいるような雅樹の肩を小突く。
「着いたぜ」
「お、あー?」
 目をこすりながら、雅樹は生返事した。
「良かった、無事辿り着けたかあー」
 んんーっと斜めに背伸びしてから、左側のスライドドアを開いて降りようとして締めたままのシートベルトに押し止められる。雅樹は二点式の古いシートベルトを外して、車外に出た。腰を廻しながら夜空を見上げる。
「おー、期待通りの快晴」
 暗さに目が慣れる前でも、天空を雲のように斜めに横切る天の川が視認出来る。見上げた星空に、一筋の流れ星が走った。
「あ、流れた」
「ぼけっと突っ立ってるんじゃない!」
 杏がワンボックスのリヤゲートを開け放った。降りてきた雅樹に荷室から持ち出したこたつ布団の束を押し付ける。
「さっきからもう流れはじめてるんだ、さっさと見晴らし台に上がれ!」
「へい」
 荷締めベルトで括られたこたつ布団と毛布の束を抱えて、雅樹は観望台の真ん中に設えられている、一段高い見晴らし台に続く短い階段を上りはじめた。
「祥兵! こたつ!」
「はいはい、了解」
 祥兵は荷室から四本の脚が束ねて入れられているポリ袋を括り付けた赤外線こたつを上台ごと引っ張り出した。雅樹を追って狭い階段を上りはじめる。「マリア、シートと茶道具お願い」
 杏が、分厚い防寒コートの前をとめてマフラーまで巻いたマリアに折り畳んだアルミ蒸着の断熱シートと大きなバスケットを渡す。
「はい、もらった」
 男子生徒よりは軽い荷物を請け負ったマリアは、腐りかけの丸太で補強されている階段の観望台を一気に駆け上がった。そのままの勢いで頂上の見晴らし台に飛び上がり、物干し場のように低い手すりで囲まれた木造の四畳半ほどのスペースにまずは断熱シートを拡げる。
 隅にバスケットを置いて形だけ押さえた断熱シートに持ってきたこたつを逆さに置いた祥兵は、括り付けられていたポリ袋の中から四本の脚を取り出して組み立てを開始した。四本脚を手際良くねじ込み、固定を確認してひっくり返す。
「待ってました」
 断熱シートの上のこたつに畳んだ布団を置いた雅樹が荷締めベルトを解いた。布団で覆われたこたつの上にテーブル台を載せた祥兵は、引っ張り出した赤白だんだら模様の布カバー付き電源コードを片手に見晴らし台の階段に振り向いた。
「ほいよ、電源よこせ」
 ロールに巻いた電源コードの束を繰り出しながら、杏が見晴らし台の板張りの床に上がってきた。祥兵が軽く放ったコードの先を受け取り、ロールの中心のコンセントに差し込む。
「あと座布団取りにいって、車のドア閉めておいてくれ」
「了解」
 観望台下に駐車しているというよりは突っ込んだようなワンボックスに人数分の座布団を取りに戻った祥兵は、電源コードが細く開いた窓から出ているのを確認してリヤゲートを閉じた。
 人数分の座布団に防寒用の毛布も抱えて観望台を登ってくると、見晴台に敷かれた断熱シートの上に布団とテーブルまで載せたこたつセットが出来上がっていた。マリアが魔法瓶と人数分の湯呑み、マグカップをバスケットから出している。
「あいよ、座布団」
 断熱シートに毛布の束を置いた祥兵は、せんべい座布団二枚を雅樹に渡した。
「ほい」
 座布団二枚を受け取った雅樹が声を潜める。
「車のエンジン、止まってた?」
「止まってたよ。ルームライトも運転席廻りも全部消えてた」
「ふーん」
 雅樹は、不思議そうな顔で煌々とインジケーターがロール中央に点灯している電源コードと、くたびれたトレンチコートで仁王立ちに双眼鏡を構えている杏の後ろ姿を見比べた。
「こないだもそうだけど、エンジンも掛けないで一晩中こたつ点けっぱなしにしてるのにバッテリー上がらないなんて、先生の車いったいどうなってるんだろう?」
 車載バッテリーだけでこたつを点けていたら、1時間もせずに空からになるはずである。
「さあねえ」
 祥兵は興味なさそうな顔で首を振った。
「なんかズルしてんじゃねえの? 近所のコンセントからつないでるとかさ」
「そりゃまあ、杏先生のことだからどんなズルしてるかわからないけど」
 金属部品が擦れて光っている古い双眼鏡片手に戻ってきた杏は、作業靴のようなごついブーツを脱いで断熱シートに上がってきた。トレンチコートのポケットから携帯端末を出し、電子コンパスを表示させてこたつに置く。
「動かすぞ」
 マリアに言って、杏は布団の上からこたつに手を掛けた。ほぼ正方形な見晴らし台に合わせて置かれていた角度を微妙に調整、こたつの四辺を電子コンパスに表示された東西南北に正確に合わせる。
 携帯端末に指を触れた杏は、表示をコンパスから現在時刻表示に切り換えた。さらにタップして輝度を最低に落とす。
 杏は、首に掛けていた馬蹄形のネックライトを消した。夜空を見上げる。雲ひとつない星空に、また一筋の星が流れた。
「よおし、全員位置について消灯!」
 観望台に街灯はない。錆び付いた自動販売機の上に蛍光灯の残骸はあるが、この数年ばかり点灯しているのを見たことがあるものは誰もいない。南向きの見晴らし台の板張りの床の上に正確に方位を合わせて設置されたこたつの一番奥の座に、北側を向いた杏が入った。向かいに、首から提げていたポケットライトを消したマリアが着く。
「あれ、いいんですか先生?」
 雅樹が断熱シートの前で靴を脱ぎはじめた。
「極大期の輻射点、南側ですぜ?」
「いちばん派手なところの観察は生徒に任せようって親心だよ」
 杏は、どくろ印の湯呑みをとってポットからコーヒーをどぱーっと注いだ。冷えた空気の中に湯気が派手に立ち上る。
「さて、全員、目は醒めてるか?」
 湯呑みからコーヒーを一口だけ呑んで、杏はこたつ三面に着いている三人の生徒の顔を見廻した。
「外に出たばっかりの頃と比べればだいぶ眼が慣れたように感じるだろうが、人の瞳孔が闇に慣れて開ききるには30分はかかる。流れ星を人の眼で観測する眼視観測はそれからが本番だ」
 杏は、月の出ていない夜空を見上げた。
「冬の星座は覚えてるな。オリオン座のベテルギウスとおおいぬ座のシリウスを探してその明るさを確認する。一等星とマイナス一等星だ。見えた流れ星がそれより明るいか暗いか、自分で判断しろ」
「先生、質問」
 祥兵が、手袋のままこたつの中に入れていた手をおずおずと挙げた。
「なんだ?」
「ブッシュマン並みに目がいいマリアはともかくとして」
「誰がブッシュマンよ!」
「雅樹は人並み、僕なんか眼鏡等です。視力違うし、向いてる方向とかによって、同じ空を見てても見える流れ星の数が人によって違うと思うんですが」
「違うよ」
 杏はあっさり肯定した。
「だから、それは気にしなくていい。この辺りで正確な流れ星の観測状況が知りたければ蓑山の観測所に行けば全天記録とレーダー観測までやってる。安心しろ、素人に確実なデータは期待してない」
「それじゃなんで素人に流星観測なんか」
「実際に目で見て感じなきゃお前たちの身にならんだろが!」
 杏は、こたつの天板をどんと叩いた。
「教えられたことなんか覚えない劣等生でも、経験すれば覚えるんだ。体験学習という貴重な機会を恵んでやってるんだ感謝しろ!」
「劣等生って、それって差別発言では」
「今回の獅子座流星群は、テンペル・タットル彗星の昔の軌道が地球の軌道と重なるってんで予想されてるもんですよね?」
 祥兵があっさりと話題を変えた。杏が答える。
「そうだ」
「彗星の尾ってのは、つまり氷で、何百年も前にこの辺り通り過ぎた彗星から放出された氷がいつまでも宇宙空間に残ってるもんですか?」
「いい質問だ」
 杏ははじめてにやりと笑った。
「彗星ってのは宇宙空間を漂う汚れた雪だるまだってのは前に教えたな。そいつが、だいたい火星軌道近くまで太陽に近付いてくると、それまで凍り付いてた表面が炙られて大量の水蒸気が噴き出す。そいつが太陽風に煽られて吹き流されるのがつまり彗星の尾だ」
「はあ」
 祥兵は生返事した。子供の頃に親に連れられて夜空の三分の一も尾があるような大彗星を見たことはあるが、もはや記憶もおぼろである。杏は続けた。
「彗星ってのは汚れたってよりも泥水で作ったような雪玉だと思えばいい。尾は見ている端から拡散して見えなくなるが、本体から放出されるのは蒸発した水だけじゃない。一緒に岩石みたいなかけらも砂利や砂みたいな小さいのも放出される。水はそのうち蒸発して拡散しちまうが、一緒に吹き飛ばされた砂や砂利は太陽風に吹き飛ばされた勢いそのままに彗星の軌道上にとどまる。だから、彗星の軌道に残されてるダストチューブってのは水蒸気になって拡散した彗星の尾のあとじゃなくて、一緒に撒き散らされた砂やチリのチューブなんだよ」
「それって、軌道上にとどまる物なんですか?」
「もちろん、長い年月のうちには拡散して薄くなるが、それも数万年単位の話だ。今回、地球軌道が交叉する彗星のダストチューブはたった70年前の軌道、薄くなってるつってもたかが知れてる」
「はあ」
「だいたい、少しばかり拡散したところでこっちの直径は一万三千キロもあるのが秒速三〇キロで突っ込んで行くんだ」
 杏は地球の直径と公転速度を口にした。
「地球がダストチューブを突き抜ければ、直径分のダストはあらかた地球に落ちてくる」
 遙かに遠いはずの海鳴りがどおーんと聞こえてきた。杏はこたつに置いた携帯端末に表示されている現在時刻を確認した。
「さあ、現時刻をもって眼視観測を開始する。予測が当たる流星雨なんてめったにない機会だ、眼ン玉ひん剥いてしっかり観測しろ」
「はい」「ほい」「へーい」
 三人三様のあまり気のない返事をして、マリア、雅樹、祥兵の三人は夜空に顔を上げた。
 肉眼による流星の眼視観測では、出現した流星の大きさと方角と時間を手元のメモに記録する。雅樹と祥兵はこたつに拡げたノートに手袋越しのペンを走らせ、マリアは両手ともこたつの中に入れて手探りでの記録を行なおうとした。
 しかし、観測開始後ほんの十数分で肉筆による記録体制は瓦解した。見晴らし台にこたつを置く準備中から見上げれば流れていた星は徐々にその数を増し、最大で1時間あたり一〇〇と予想されていた出現数をあっという間に上回ったのである。
「十、じゃなくて二十!? 途切れないから、こんなのどうやって数えれば!」
「先生、一個ずつじゃなくて束で数えていいですか?」
 雅樹、祥兵が受け持ちの空を見上げて悲鳴を上げる。ただ一人マリアだけがこたつの中で黙々とメモを取っているらしいが、あとからどれだけ解読出来るか。
「こりゃ、流星雨じゃなくて流星嵐だ」
 杏は携帯端末を軽く叩いて現在時刻を確認した。
「あー、わかったわかった、記録はもういい。こんな密度の流星雨なんか一生に何度も見れるもんじゃないぞ、記録はいいから縁起物だとおもってしっかりその目に焼き付けておけ!」
「やた!」「了解!!」
 眉をひそめていたマリアは、ほっとした顔で夜空を見上げた。
 予告されていた流星は、肉眼で発生中心である輻射点がわかるほど大規模なものだった。四人が四方向をそれぞれ見上げているのに、大部分の流星は輻射点である天頂やや東よりの一点から撒き散らされたのがわかるような長く光る尾を曳く。
 視界内に一度に数本から数十本もの星が流れる。集中して流れたかと思うと、数分ほど何も流れないいつもの星空が続き、そしてまた予告編のように何本か星が流れ、数が増えていく。
「時間あたり数千、下手すりゃ五桁行くな」
 輝度を最低に落としたディスプレイも眩しく感じるほど開いた瞳孔で端末に目を走らせて、杏は呟いた。
「先生、こんな流星雨見たことあります?」
 祥兵の質問に、杏は軽く首を振った。
「こんな、星が全部墜ちてくるような流星嵐ははじめてだ。蓑山の観測所、悲鳴あげてるだろなあ」
「南、正面、大きい!」
 マリアが叫んだ。南に背を向けていた杏を含む残り三人の目がそちらに向いたのは、マリアの顔が夜目にもはっきりと照らし出されたからである。振り仰いだ夜空に、真っ白な光の球が墜ちて来た。


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