【中田敦彦のYoutube大学で紹介】重版決定!「加速する」世界でチャンスをつかむために今できることとは?『2030』試し読み
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【中田敦彦のYoutube大学で紹介】重版決定!「加速する」世界でチャンスをつかむために今できることとは?『2030』試し読み

中田敦彦のYoutube大学で紹介され、反響を呼んでいるマウロ・ギレン著『2030』。2030年――それはすぐそこに迫っている近い未来に訪れる大変化の数々。

・男性よりも女性がより多くの富を所有することになる。
・アジア・アフリカの中流階級は、欧米の中流階級よりも多くなる。
・共有経済が拡大し、国家通過の権威は失墜する。


これら変化の傾向を俯瞰的に捉え、未知の脅威をまたとないチャンスに変える大きな指針となるのが「水平思考」。10年後の私たちを取り巻く社会を見通すヒントを新刊『2030 世界の大変化を「水平思考」で展望する』(マウロ・ギレン:著、江口泰子:訳/早川書房)からの試し読みでご紹介します。

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事実と数字

来たる産業革命の発祥地 サハラ以南のアフリカ
その根拠 約200万平方キロメートルの肥沃な土地が農地として未開発
メキシコの面積 約200万平方キロメートル(日本の約5倍)

世界の富に占める女性が所有する富の割合(2000年) 15パーセント
世界の富に占める女性が所有する富の割合(2030年) 55パーセント
もしリーマン・ブラザーズが“リーマン・シスターズ”だったら 世界金融危機は避けられた

世界の飢餓人口(2017年) 8億2100万人
世界の飢餓人口(2030年) 2億人
世界の肥満人口(2017年) 6億5000万人
世界の肥満人口(2030年) 11億人
アメリカ人の肥満人口の割合(2030年) 50パーセント

世界の陸地面積に占める都市面積の割合(2030年) 1.1パーセント
世界人口に占める都市人口の割合(2030年) 60パーセント
世界の二酸化炭素排出量に占める都市の排出量の割合(2030年) 87パーセント
海面上昇のリスクに曝される世界の都市人口の割合(2030年) 80パーセント

最大のミドルクラス消費者市場(現在) アメリカと西欧
最大のミドルクラス消費者市場(2030年) 中国
2030年までに新興市場国でミドルクラス入りする人口 10億人
アメリカのミドルクラス人口(現在) 2億2300万人
アメリカのミドルクラス人口(2030年) 2億900万人

イントロダクション:時計の針は刻々と

人はたいてい見たいものを見て、聞きたいことを聞く。
 ──ハーパー・リー著『アラバマ物語』に登場するテイラー判事

2030年
 パリからベルリンまでその年の夏の西欧は異常なほど暑く、記録的な高温はとどまる気配がない。国際的な報道機関はそのニュースを伝え、ますます強い口調で警戒を呼びかけている。2、3週間、ロンドンの遠い親戚を訪ねていたリヒマは、帰りの便で母国のナイロビに着いたところだ。異邦人の目で英国を見たことが、周囲の世界の多様性についてリヒマに深い考えをもたらした。ナイロビの空港のなかを歩きながら、自分が生まれた国と英国との大きな違いを実感する。一世紀もしない前、英国は紛れもなくアフリカ大陸の強大な植民地帝国のひとつだった。英国人がいまだに現金を使っていたことに、リヒマはひどく驚いた。ケニアではずいぶん前からモバイル決済が当たり前になり、財布の替わりにスマートフォンを使う。空港を出たあと、自宅へ向かうタクシーのなかで運転手にジョークを飛ばす。6歳の時から自分も近所のほとんどの友だちも、オンラインスクールに「通っていた」ことを話すと、英国人がいかにも戸惑ったような反応を見せたのがおかしかったのだ。

 ナイロビから1万キロメートル以上離れたニューヨーク。エンジェルはジョン・F・ケネディ空港で通関手続きを待っている。ニューヨーク大学で2週間後に始まる理学系の修士課程に、2年間通うためだ。列に並ぶあいだ、その日の《ニューヨーク・タイムズ》に目を通す。トップニュースではアメリカ史上初めて、祖父母世代が孫世代の人口を上まわったと報じている。彼女の生まれ育ったフィリピンとは正反対の状況だ。それゆえ、アメリカでは何万人もの高齢者がロボットに面倒をみてもらって基本的なニーズを満たし、使わなくなった子ども部屋を貸し出して家計をやりくりしている。とりわけ、もはや期待したほどには、年金が財政的セーフティネットの役割を果たさなくなったからだという。エンジェルの注意を引いたかなり保守的な論説は、アメリカの富の所有において男女の地位が逆転したことを非難していた。論客はその動向を、将来のアメリカ経済にとって憂慮すべき事態と捉えている。エンジェルには、新聞の隅から隅まで読む時間があった。外国人は長蛇の列に並ぶしかなく、進みが遅いからだ。いっぽう、アメリカ市民と永住権保有者の列はかなり速く進む。この時、エンジェルがふと耳にした会話は、高度なブロックチェーン技術を使って、アメリカ人が入国審査を通過できるようになった詳しい方法についてだった。その画期的な方法を利用すれば、いろいろなことができるという。海外で購入した商品の売上税を査定したり、スーツケースを回収したあとすぐに自動運転カートを手配したりできるのだ。

* * *

「すべてにおいて中国がナンバーワンになる」。
 今日、その言葉を頻繁に耳にする。あるいは、しばらくのあいだ、米中が覇権をめぐって火花を散らす、とも。これらの言葉はいくらかの真実を含んではいるが、全体像を捉えてはいない。2014年、インドが火星探査機を打ち上げて周回軌道に乗せ、世界を驚かせた。初の打ち上げでこれだけの成果をあげた国はインドだけである。宇宙時代の幕開け以来、アメリカ、ロシア、欧州のミッションの半数以上が失敗に終わったことを考えれば、今回の成功は紛れもない快挙だった。しかも、インド宇宙研究機関はその歴史的偉業を、わずか7400万ドルという破格の低予算で達成したのである。

 それでは、あの赤い惑星の軌道に探査機を投入するためには、具体的にどのくらいの予算が必要だろうか。スペースシャトル1回のミッションにかかる費用は、およそ4億5000万ドル。映画「インターステラー」の製作費が1億6500万ドル。あなたが近所の映画館で見た「オデッセイ」の製作費は1億800万ドル。

 作家トム・ウルフの言葉を借りれば、インドはみずからも「ライト・スタッフ」を有していることを実証してみせたのだ(『ザ・ライト・スタッフ』は、アメリカの宇宙ロケット計画の黎明期と宇宙飛行士の奮闘を描いたトム・ウルフの著作。タイトルは、ミッションを遂行するための「正しい資質」の意味)。自分たちは世界的な技術大国であり、計画を効率的に、予定通りにやり遂げる力があると知らしめたのである。火星探査機打ち上げの成功は、まぐれではなかった。それどころか、インドが世界の超大国に大きく差をつけたのは、今回が二度目のことである。2009年、インド初の月探査機は月に水が存在する証拠を初めて提示した。月の水は「極域に集中していると思われ、もしかすると太陽風の作用で生成されたのかもしれない」。《ガーディアン》紙はそう伝えている。この時のインドの発見を独自に検証するために、NASAは10年の月日を要した。

 私たちの多くが育った世界では、宇宙探査は頭脳明晰な科学者が考え出す壮大な計画だった。莫大な資源を有する超大国が資金を出し、勇敢な宇宙飛行士と有能なミッションスペシャリストが遂行する大事業だった。そのとてつもない複雑さと巨額の費用(そして、どの国がミッションを遂行する能力を持つか)について、疑問の余地はなかった。だが、そのような現実はもはや過去のものになりつつある。

 かつて世界は裕福な先進国と開発途上国とにはっきりと分かれていた。それだけではない。次々と子どもが生まれ、退職者よりも労働者のほうが多く、人びとは持ち家と自家用車のある生活に憧れた。企業は、アメリカと欧州だけに目配りしていればよかった。政府債務であれ民間債務であれ、法貨と言えば刷ったお札だけだった。学校では「ルールに従って戦う」ように教わり、そのルールは変わらないものと考えて育った。そして学校を出たら仕事に就き、結婚して家庭を持ち、子どもが独立したら定年退職した。

 私たちの知るそのような世界は急速に消えつつあり、目の前に広がるのは、新たなルールが動かす、ひどく困惑する新たな現実だ。いつの間にか、ほとんどの国で祖父母の数が孫の数を上まわる。アジアのミドルクラス市場が、アメリカと欧州を合わせた規模をしのぐ。男性より女性のほうが多くの富を所有する。ふと気がつくと、産業ロボットが製造労働者の数を超えている。人間の脳よりコンピュータのほうが多くなり、人間の目よりセンサーの数が増え、国の数より多くの通貨が出まわる。
 それが2030年の世界である。

 この数年間、私は10年先の展望について調査してきた。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールで教鞭を執る身として、将来のビジネス状況だけでなく、やがて押し寄せる変化に労働者と消費者がどう呑み込まれてしまうのか、についても憂慮している。本書で述べるテーマについて、これまで数えきれないほど多くのプレゼンテーションを行なってきた。その対象も企業の経営陣から政策立案者、中間管理職、大学生や高校生までと幅広い。ソーシャルメディアとオンライン講座を通して、何万もの人たちと接触してきた。私が描き出す未来図に対して、彼らは決まって困惑と懸念の入り混じった反応を示す。本書は、待ち受ける乱気流をうまく乗りきるためのロードマップを提供する。

 どんな未来が訪れるか、確かなところは誰にもわからない。もしわかるなら、ぜひ教えてほしい──一緒に巨万の富を築けるからだ。とはいえ、たとえ完全に正確ではなくても、10年後の世界についてさほど間違いなく予測することはできる。たとえば本書が描く未来像の影響を受ける人は、すでにそのほとんどが生まれている。彼らの学歴や現在のソーシャルメディアの利用パターンを考えれば、消費行動をおおまかに描き出すことは可能だろう。あるいは、80~90歳まで生きる人の数についてもかなり正確に算出できる。また、現時点でそれなりに確かな自信を持って予測できるのは、一定の割合の高齢者が介護者──人間にせよ、ロボットにせよ──を必要とすることだ。後者の場合、そのロボットは様々な言語を多様なアクセントで話し、自分の意見は押し通さず、休みは取らず、高齢者の金融資産を騙し取ることもなく、精神的や身体的に虐待することもない。

 本書で伝えたいのは、時計がチクタクと時を刻んでいることだ。2030年は先の見えない遠い未来ではない。すぐそこに迫っており、私たちはその好機と課題に備えておかなければならない。簡単に言えば、2030年には、私たちの知る今日の世界は消えている。人びとはお互い感慨深げにこう問いかけるだろう。「あの世界が終わりを迎えた時、あなたはどこにいましたか」

 多くの人は今後直面する新たな動向に混乱するばかりか、ひどく動揺する。待ち構えるのは破滅か。それともそれは実際、凶運ではなく幸運か。本書では、多くの不確定要素の影響を理解するための指針を示そう。現在の不安に向き合う読者に、希望の持てる未来のメッセージを伝えよう。前途に待ち受ける大きな変化を乗りきるためのツールを提供し、その新しい、不案内な状況において為すべきことと、為すべきではないこととを提案する。

 基本的にはこういうことだ。どんな世界を迎えても、それは好機に溢れた新たな現実の幕開けを意味する──そのためには、思いきって表面を深く掘り下げ、動向に先んじ、見ないふりをするのではなく積極的に関与して、あなた自身やあなたの子ども、パートナーや配偶者、将来の家族、会社や、そのほかいろいろなことのために、効果的な決断を下す方法を学ぶ必要がある。誰もがその影響を受けることになるのだ。

* * *

 役に立つのは、新たな時代へと向かう変化を、ゆっくりと進行するプロセスだと捉えることだ。一つひとつの小さな変化が私たちをパラダイムシフトへと近づけ、ある日とつぜん、何もかもを大きく変えてしまう。つい忘れがちだが、小さな変化は積み重なる。変化を、ゆっくりと容器を満たしていく一滴の水だと考えよう。ぽた、ぽた、ぽたと落ちるしずくの音が、チクタクと時を刻む時計の音を想起させ、時間の経過を伝える。容器の水がとつぜん溢れ出す時、私たちは驚き、警報が鳴り響く。

 2030年になる頃には、南アジアとサハラ以南のアフリカが世界的な人口密集地域の首位を争っているだろう。20世紀末とは大きく様変わりし、中国、韓国、日本などが構成する東アジアは、もはや世界で最も人口が多い地域ではなくなる。ケニアやナイジェリアのようなサハラ以南の国でも、やがて生まれる子どもの数が減ることは間違いないが、それでも、ほとんどの国と比べて出生率ははるかに高いままだろう。そのうえ、それらの地域では平均寿命の著しい延びが見られる。

 人口規模自体はたいした問題ではない、と思うかもしれない。だがもしそう思うのなら、増加する人口に、彼らのポケットのなかに今後入っていると思われる金額を掛けてみればいい。2030年になる頃のアジア市場は──日本を除外したとしても──非常に大きく、世界の消費の重心は東へと移動する。企業はアジア地域の市場動向に追随するほかなく、新商品やサービスの開発にあたっては、その地域の消費者の好みを反映させるほかない。
 いったん、その点について考えてほしい。

 そしてそのあと、関連する動向をいくつかつけ加えて、改めてその意味を考えてみよう。

 ほとんどの地域で見られる出生率の低下は、世界が急速な高齢化の道を着実に歩んでいる証拠だ。その人口動態の変化のカギを握るのが女性だ。ますます多くの女性が学校教育を受け、家庭の外に活躍の場(仕事に限らない)を求める。そして産む子どもの数が減る。いつの間にか、男性より女性の富豪の数が上まわる。富はますます都市に集中する。都市人口は毎週150万人規模で増加中だ。世界の陸地面積のうち、たった一パーセントを占めるだけの都市に、世界人口の55パーセントが住み、エネルギー消費量全体の80パーセントを消費する(二酸化炭素排出量についても全体の80パーセントを排出する)。気候変動に取り組む最前線が都市であるのも、そういう理由からだ。

 そのいっぽう、様々な世代が多様な願望や憧れを明らかにしている。大きな注目を集めるミレニアル世代――1980~2000年生まれ――だが、(モノを所有しない)共有経済の先頭に立つ彼らは不相応な注目を浴びている。10年もしないうちに最も大きな世代となるのは60歳以上だ。今日、その世代がアメリカの富の80パーセントを所有し、「高齢者(グレー)市場」が生まれつつある。彼らこそ最大の消費者層だ。改めて高齢者にも焦点を合わせておかなければ、大企業も中小企業も時代に取り残されてしまう。

 図1は、連鎖状につながる小さな変化の流れを描いたものだ。それぞれ単独では、本当に世界的な規模の変化をもたらすことはない。一つひとつを切り離した問題にしておけるのなら、変化にも完璧に対処できるかもしれない。人間は頭のなかで、ものごとを“コンパートメント化”して、それぞれを別個のものとして見なすのがうまい。防衛機制と呼ばれる無意識の心の働きだ。その心理的メカニズムを用いて、私たちは認知的不協和を――すなわち相矛盾する動向や出来事、知覚、感情から生じる不快感や不安を――追い払おうとする。頭のなかでものごとをコンパートメント化して区分する時のポイントは、一つひとつの要素を切り離しておき、相互作用に引きずられないようにすることだ。

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 アメリカと西欧において、高齢化は日常の事実になりつつある。そのいっぽう、ほとんどの新興市場国では、隆盛を極めるミドルクラスを若い世代が牽引している。彼らはこれまでの世代とはまったく違うタイプの消費者だ。たとえば、消費や生活様式に対する強い憧れを抱く。ミドルクラスの拡大に伴い、ますます多くの女性がかつてないほど多くの富を蓄え、男女を問わず都会のライフスタイルを享受し、これまで以上にたくさんの移住者が世界中の都市へと流入する。そして都市は無視できない数の創案者や起業家を生み出し、イノベーションと技術によって現状を破壊しようとする。彼らにとって、技術とは古い習慣やライフスタイルを破壊するものだ。家やオフィスから車や個人の持ち物まで、あらゆるものに対する考え方を変え、それらと関わる新たな方法をつくり出すものだ。さらにはそこから、より分散型で分権的で使いやすい、まったく新しい概念の通貨が生まれる。そのような動向はすでに一部が進行中だが、2030年頃まで本格化することはないだろう。

 私たちの周囲で起きている変化をそのように「直線的に」描けば、本書でもすっきりと都合のいい章立てが組める。だが、実際の世界はそのようには動いていない。

 人類学者や社会学者が明らかにして久しいのは、複雑な世界をカテゴリー化することで、私たちがものごとを整理し、戦略を立て、意思決定を行ない、生活してきたことだ。カテゴリーは思考や判断の基準や枠組みとなり、時として不透明な周囲の状況を乗りきる役に立つ。自分はまだコントロールを失ってはいない、と安心させてくれるのだ。

 企業や組織もやはり同じ考え方をする。何もかも区分けする。顧客を「先端消費者」「初期採用者」「遅滞者」などの小さなボックスに分類し、それぞれの目立つ特徴を捉えて「衝動型」「価格重視型」「忠実型」などのレッテルを貼る。同じように製品についても、現在の市場占有率と今後見込まれる市場成長に応じて「花形」「ドル箱」「負け犬」「問題児」に分類する。従業員についても態度や行動パターン、将来性をもとに「花形」「チームプレイヤー」「出世第一主義者」「打算的」「文句ばかりの不適合者」、時にはもっとひどい呼び方をする。だが人やモノを区分けすると、新たな可能性が見えなくなってしまう。

 こんな例をあげよう。電球や電話、自動車に加えて一九世紀後半の偉大な発明のひとつは、定年退職後という概念だった。趣味に没頭でき、家族孝行ができ、来し方をじっくりと振り返ることのできる時期である。私たちが19世紀から引き継いだのは、人生を3つの明確なステージ――子ども時代、就労期、定年退職後――の連続と捉え、願わくは、それぞれのステージを楽しむという考え方だった。

 出生率が低下し、世代間の新たな力学が生まれるのに伴い、未来の社会では、伝統的な暮らし方の前提について少なからず考え直さざるを得ないだろう。高齢者も消費者だ。特有のライフスタイルを送り、ミレニアルより流行に敏感とは言わないまでも、彼らと同じくらい新技術の恩恵にあずかる「初期採用者」かもしれない。VRやAI、ロボット工学が人生最後の時期を変える革命的な方法について考えてみよう。古い習慣を捨て去る必要があるかもしれない。昔と違って、人生が終わる日まで何度も学校に入り直して、新たなスキルを学び直すこともあるだろう。2019年に《ニューヨーク・タイムズ》紙をこんな見出しが飾った。「入学児童の消えた韓国の学校、読み書きできない祖母たちを新入生に」

 ものごとを直線的に捉える、図1のような「垂直」思考はやめよう。そのかわりに私が提案するのは、問題に「水平」にアプローチする方法だ。発明家でコンサルタントのエドワード・デボノが編み出した水平思考では、「既存の発想をいじくりまわすのではなく、発想そのものを変えようとする」。基本的には問題を新たな視点で捉え直し、横方向からアプローチする。既存のパラダイムのなかで取り組むのではなく、古い前提を捨て、ルールを無視し、創造力を思う存分発揮する時、ブレークスルーが生まれる。パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックは、美術界で正しいとされていた比率や遠近法の前提やルールを逸脱することで、キュビズムの分野を切り拓いた。建築家のル・コルビュジエもそうだ。壁を取り払って広いオープンスペースをつくり出し、建物のファサードいっぱいに窓を配し、スチール、ガラス、コンクリートを余計な装飾で覆い隠さずに、材質そのものが持つ美しさを剥き出しにすることで、モダニズム建築の礎を築いた。作家のマルセル・プルーストは書いている。「真の発見の旅とは、新たな風景を探すことにではなく、新たな視点を持つことにある」

 実際、水平思考の優れた効果は「周辺視野」によってさらに高まるのかもしれない。これは、ウォートン・スクールの私の同僚であるジョージ・デイとポール・シューマーカーが提唱した概念である。人間の視界と同じように、企業やいろいろなタイプの組織も効果的に機能するためには、中心視野の周辺から入ってくるかすかなシグナルを察知し、解釈し、それに基づいて行動しなければならない。コダックは1888年の創業から20世紀末まで、写真フィルムと関連商品の販売で莫大な利益を上げた。1990年代初め、コダックの技術者は、デジタル写真が持つとてつもない可能性にはっきりと気づいていたが、経営陣は近視眼的な考えに囚われ、消費者が引き続き、写真プリントを好むと信じて疑わなかった。その結果、どうなったか。コダックは2012年に破産申請。ハーパー・リー著『アラバマ物語』のなかでテイラー判事が述べたように、「人はたいてい見たいものを見て、聞きたいことを聞く」。予期しないことや見慣れないものは目に入らないのだ。

 図2を見てほしい。内容は図1と同じだが、世界で起きていることを違うかたちで図式化したものだ。

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 上の図の時計まわりの太い矢印は、連鎖状につながる動向の直線的な流れを示している。基本的には図1と同じだが、サークル状に配している。だが、周りを取り囲む直線的なつながりだけに注目していたのでは、全体像を捉えきれない。8つの円で表したどの動向も、他の7の動向と相互作用の関係にある。本書では水平思考で見た8つのつながりについて探り、関連する動向を紹介し、それらの動向が世界のあちこちで進展している状況について示そう――とりわけ、8つの相互作用がどのように収斂(しゅうれん)して2030年の世界をかたちづくっていくか、について明らかにしたい。

 現在進行中の水平思考の例をあげよう。エアビーアンドビーはホテルと競合関係にある。だが、銀行からも顧客を奪おうとしている。だが、それはどうやって? いつかの時点で多くの高齢者が、貯蓄だけでは充分に暮らしていけないことに気づく。とはいえ、彼らには非常に貴重な資産がある。持ち家である。自宅を売らずに収益化する従来の方法はふたつ。そのうちのひとつ、昔ながらの方法は正味価格部分を担保にするホーム・エクイティ・ローンである。だがその場合、銀行から借り入れているという不名誉を伴ううえ、月々の返済は重荷だ。ふたつ目の方法はリバース・モーゲージ(資産の最終処分)だが、その場合、子どもは親の家を相続できない。

 そこで、エアビーアンドビーという選択肢が浮上する。子どもが巣立ち、もはや使わなくなった部屋を、その土地を訪れる旅行者にほんの少しのあいだだけ貸し出すのならば、貸し出すほうも借りるほうも柔軟に対応できる。あるいは、子どもが巣立った中高年の夫婦が、頻繁に旅行に出かけるか子どもを訪ねるか、しょっちゅう留守にするのならば、持ち家を短いあいだ、丸ごと貸し出すことも可能だろう。どちらにせよ、収入は得られ、家は手放さずに済む。エアビーアンドビーがこれほど成功したのは、次のような動向が重なったからだ。出生率の低下。平均寿命の延び。公的年金制度は存続できるのかという疑問。スマートフォンとアプリ使用の普及。所有から共有への関心の高まり。本書ではそのような動向の相互関係を紹介する。それらがどう展開し、2030年にはどう本格化しているかを示そう。新たな世界は好機と脅威に満ちている。個人、企業、組織にはそれぞれ、その好機と脅威に向き合うための強みと弱みがあるだろう。それでも私たちはみな、新たな世界に対して、過去とは違う方法でアプローチしなければならない。本書の「結論」では、新たな現実を理解するための――そして、その現実がつくり出す好機と繁栄を手に入れるための――7つの原則を提案しよう。

 忘れないでほしい。すべては私たちの生きているあいだに展開する。そしてその時は、もうすぐそこまで迫っているのだ。

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