SFM特集:コロナ禍のいま⑥ 野尻抱介「地球は静止しない。止まるのは人類だ」
新型コロナウイルスが感染を拡大している情勢を鑑み、史上初めて、刊行を延期したSFマガジン6月号。同号に掲載予定だった、SF作家によるエッセイ特集「コロナ禍のいま」をnoteにて先行公開いたします。本日は飛浩隆さん、野尻抱介さんのエッセイを公開。2名ずつ、毎日更新です。
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嬉しいねえ。気分はもうシンギュラリティだよ。シンギュラリティの定義や想定はいろいろあるけど、要するに「人間が邪魔になる時代」だ。今回のパンデミックも人間が邪魔で、とにかく家にいてくれという要請だから、やることは同じだ。
やってみたらテレワークで結構いけるじゃないか。ZoomもVRchatもタイムラグがなくて快適だし、バ美肉もいいことずくめだ。芸能界もバーチャルでいいじゃないか。私は13年前から初音ミクの大ファンなんだが、ライブで飛び跳ねるより、おうちのPCで眺めるほうが好きだ。
ベーシックインカムも大勢が望むようになったし、予算的にはできそうじゃないか。中央銀行はじゃんじゃん紙幣を刷ろう。あくせく働かなきゃいけない人なんて実はそんなにいない。農業はロボットでいけるし、配達はドローンでやれるし、これだけ道がすいていたら自動運転車も楽勝じゃないか。
大事なことだから二度言うけど、もう「人間が邪魔になる時代」なんだ。有機知性は無機知性への過渡的段階にすぎない――と豊田有恒も書いてる。人間の99%はひきこもり推奨。これで地球温暖化も解決する。ごく少数の頭のいい人は大規模汎用AIと人工生命を開発して、宇宙に適応できる、地球文明の真の担い手をクリエイトしてくれたらいい。
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野尻抱介(のじり・ほうすけ)
1961年三重県生まれ。計測制御・CADプログラマー、ゲームデザイナーを経て、1992年、ゲーム「クレギオン」の設定をもとにした『ヴェイスの盲点』(ハヤカワ文庫JA)で作家デビュー。以後、『クレギオン』『ロケットガール』の両シリーズで人気を博す。2002年に上梓した『太陽の簒奪者』(ハヤカワ文庫JA)は新時代の宇宙SFとして絶賛を浴び、短篇版に続いて星雲賞を受賞、「ベストSF2002」国内篇第1位を獲得した。