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『世界一受けたい授業』で紹介! 犬は人と話せるのか? 『世界ではじめて人と話した犬 ステラ』試し読み公開

2/25(土)放送の日本テレビ「世界一受けたい授業」にて、クリスティーナ・ハンガー『世界ではじめて人と話した犬 ステラ』(岩崎晋也訳)が紹介されました!

犬と話すことができるのか──愛犬家の永遠の願いを、著者クリスティーナはどうやって叶えたのか。本書第六章の一部分を試し読み公開します!

著者・クリスティーナは、言葉の遅い子供の支援に携わり、彼らと補助代替コミュニケーション(AAC)デバイスで会話してきた「言語聴覚士」。ある日、彼女とパートナーのジェイクは、生後8週間の子犬・ステラを引き取ることになります。

『世界ではじめて人と話した犬 ステラ』より

チョコレート色の愛らしいミックス犬ステラと暮らすうち、クリスティーナは、人間の子供と子犬とは、自分の言葉への反応がとてもよく似ていることに気づきます。
ステラを言語聴覚士として介助したなら、言葉を話すことを教えられるのでは?
こうして、クリスティーナの途方もない探求がはじまりました!
補助代替コミュニケーション(AAC)とは、このようなもの。音を録音し、ボタンを押すとそれを鳴らすことができます。

クリスティーナは「外」「遊ぶ」「水」などの重要な言葉をAACに録音し、言語聴覚士として培ってきたやり方でステラに教えます。最初の数週間はまったくボタンを意に介さず、知らんぷりをしていたステラでしたが、やがてボタンに気づき、認識し、行動するようになります。そしてある日のこと――。

第六章 最初の会話

……

「クリスティーナ、クリスティーナ、起きてくれ。ステラが最初の言葉をしゃべったんだ!」その翌日の夜、ジェイクがわたしの肩を揺すった。わたしはシーツのなかで体を丸めた。

「どうしたの?」わたしは手を伸ばしてナイトスタンドをつけた。時間は午後十一時十五分。眠ってからまだ三十分くらいしか経っていない。

 ジェイクは舞いあがっていて、わたしの顔の前に携帯電話の画面をつきだした。「ほら、残らずきみに伝えられるように、全部メモしておいたんだ。いやそれより、ぼくがきみにこれを読んで聞かせよう」ジェイクは携帯電話をわたしの手から取り戻した。

 わたしは笑みをこらえられずにベッドの上にすわり、ジェイクの話を聞いた。それは大人になってから聞いた最高のベッドタイムストーリーだった。彼はひとつ咳払いをして語りはじめた。

 

二〇一八年四月三十日午後十一時、ステラは起きていた。元気いっぱいで、キッチンのドアのほうへ駆けていった。そしてドアの隣に腰を下ろした。ぼくは立ちあがってそのまま待機し、ステラを見つめた。ステラはとても辛抱強くすわって、ドアを上から下まで見て、それからぼくを見た。たぶん三十秒くらいこうしてから(鳴いたり吠えたりはしなかった)、ぼくを見て、少しもじもじして、ボタンを見下ろした。ステラは前足を上げて、そしてボタンを押した! あまりの衝撃で、ぼくは何を言えばいいのかわからなかった。ステラはまたすぐにボタンを押し、期待するようにぼくを見上げた。ずっと褒め言葉をかけながらドアを開けると、ステラはまっすぐ外へ出ておしっこをしたんだ! 外に五分くらいいると、ステラはうんちもした。それからなかに入った。入って二分もしないうちに、またドアのところへ行って吠え、ボタンを前足で押した。そこで外へ連れていくと、ステラは裏庭を全力で駆けまわった。ステラは元気いっぱいだった。とてつもない進歩をしていて、これ以上ないくらい誇らしかったよ!

 

 わたしはジェイクを抱きしめた。その夜、わたしはステラと同じくらい彼のことが誇らしかった。手本となる経験などなかったのに、完全に適切な対応をしてくれた。まるで経験のないことだったのに。夜遅かったし、ジェイクはステラをこれまでどおりすぐに外へ出して、それから寝床に戻してもおかしくなかったのだ。ところが彼はすばらしい忍耐を発揮した。ステラに自分で話すための時間と機会を与えた。ステラの言葉に興奮し、外へ連れていき、ステラと喜びを分かちあうという完璧な反応を示した。あと三十分起きていて、これを直接見たかったという気持ちもあった。だがそれよりもジェイクが、ほかの存在が新しい能力を身につけるのを目撃するという崇高な経験をし、しかもそれに関わったことがとても嬉しかった。そんなすばらしい感覚はなかなか味わえるものではない。

 翌日の晩、仕事から帰ってきたとき、わたしはステラが「外」と言うのを自分の目で見ようと心を決めていた。ジェイクによれば、昨晩から一度も話していないという。夕食後三十分ほど、わたしは繰りかえし「外」をモデリングし、ステラを庭に連れ出して遊んだ。ステラはわたしが「外」と言うたびにわたしを見て首をかしげ、とまどったような目をしていた。これほど何度も連続で外へ出るのははじめてだった。

 職場では、親が自分の子供は話せるのだと証明するためだけに、子供に無理やりなにかを言わせようとするのを見て、いつも苦々しい思いをしていた。そんなときは優しく、「心配ありません。信じますよ。自分にとって意味のあるときにはちゃんと話せますから」と伝えて話を逸らすことにしている。ところがこのときは、わたし自身がそんな望ましくない行動をしてしまっていた。ステラは自分にとって意味のあるときに、また「外」と言うだろう。コミュニケーションはつねに選択なのだ。

 わたしはリビングルームのカウチでジェイクの隣にすわり、ドラマ「ジ・オフィス」を観て気を紛らわせた。ステラはアライグマのぬいぐるみで遊んでいたが、やがてリビングルームからキッチンに移動した。出ていったのに気づいていなかったが、ステラが気を引きたいときにするように、高音で吠えるのを聞いて気がついた。キッチンに歩いていくと、ステラはボタンの前でうろうろした。そしてわたしを見て、ブザーに視線を落とした。わたしは十秒ほど待って、ステラが自分で「外」と言うかどうかを確認した。ステラはわたしのところまで歩いてきて、またボタンに戻った。

「外?」わたしは尋ねた。

 ステラは吠えた。

 わたしはボタンのところへ歩き、軽くボタンの先端に触れてつぎにするべきことの合図を出した。視線が合うと、ステラはブザーの前まで進み、前足を上げ、それを下ろして「外」と言った。

「そうよ、外へ行きましょ」わたしはドアを開け、声を上げてジェイクに伝えてからステラと一緒に裏庭に出た。「また話したわ!」

 ステラは芝生の上ですぐにトイレをした。やはり、ステラは自分にとって意味のあるときに「外」と言った。それはステラがわたしの欲求を満たすためだけに話すよりも、はるかに有意義で嬉しいことだった。ジェイクとわたしはまたコミュニケーションの成功を祝い、裏庭のテーブルのまわりでステラを追いかけた。数周走ったあと、ステラはドアが開いていることに気づいてキッチンに駆けこんだ。わたしが追いかけていくと、振り向いたステラと目が合った。ステラは「外」と続けて二回言った。そして裏庭への階段を飛びおり、庭でジェイクと遊んだ。

 ステラは自分の持つ力に気づきはじめていた。「信じられない」とわたしは言った。
……

『世界ではじめて人と話した犬 ステラ』より

ステラとクリスティーナのさらなるコミュニケーションは、こちらの本でお読みいただけます!