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名著『反逆の神話』の続編として構想された本作の読みどころとは? ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0〔新版〕』訳者あとがき
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名著『反逆の神話』の続編として構想された本作の読みどころとは? ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0〔新版〕』訳者あとがき

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ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0〔新版〕 政治・経済・生活を正気に戻すために』がハヤカワ・ノンフィクション文庫より本日発売。栗原百代さんによる訳者あとがきを公開します。

啓蒙思想2.0 早川書房
ジョセフ・ヒース『啓蒙思想2.0〔新版〕』


本書『啓蒙思想2.0〔新版〕』はカナダの哲学者ジョセフ・ヒース(Joseph Heath)著、Enlightenment 2.0: Restoring Sanity to Our Politics, Our Economy, and Our Lives(HarperCollins, 2014)の全訳である。

アンドルー・ポター(Andrew Potter)との共著『反逆の神話』や単著の『資本主義が嫌いな人のための経済学』など、国際的ベストセラーを発表しつづけているヒース。本書もまた、本国カナダで刊行と同時に注目の書として主要メディアに取り上げられたこともあって、広く好評を博している。

本書のテーマ、啓蒙思想2.0には、ヒースの切実な現代世界への批判と希望がこめられている。

もともとは『反逆の神話』の続編として構想されたという本書は、1960年代~70年代のカウンターカルチャーの分析・批判を通じて21世紀のあるべき世界をあぶりだした前著に対し、さらにスケール大きく時間軸をとって、過去1世紀の知の蓄積に照らした世界の現状の分析から始まった。

「正気を取り戻す」必要が叫ばれている現代の西洋世界の根底には、爛熟した消費社会の問答無用の商業主義的論理から、悪しきポピュリズムに傾いた政治手法や、情報過多のグローバル環境に生きる個人の短絡化しがちな意思決定まで、「理性(reason)」を無視して「直感(intuition)」に訴える、あるいは手っとり早く「勘(gut)」や「感情(feeling)」につけ入ろうとするアプローチが存在する。

このため、合理的思考のうえに成り立つ民主主義や市場経済といった近代社会の礎が揺らいでいる。

こんな現状を打破するには、まさしくこの近代社会の土台を築いた「啓蒙思想」の再起動が必要だ。そしてこの18世紀の思想の根幹をなす理性の問い直しこそが、「啓蒙思想2.0」の構想につながる。

本書の第1部では、過去1世紀の哲学、心理学、社会学、言語学の成果に鑑み、保守主義の再評価や最新の認知科学、行動経済学などの参照も交えて、現代に求められる新たな理性観を構築している。

第2部では、そうした理性と直感のコンセプトを手がかりに、現代にはびこる非合理、反合理主義がどのように出来したかを、いわゆる「常識保守主義」の台頭についてを解き明かす。

これを受けた第3部では、理性と直感、知と情を束ねて、精神的環境を整え、政治・経済・生活に正気を取り戻す方途を探っていく。特に政治のありかたとして「スロー・ポリティクス」を宣言しているのは、個人主義ゆえに行き詰まった啓蒙思想1.0の反省から、集団行動として2.0を起動させるために政治の復権が求められ、集団として最良の結果をもたらす合理的な意思決定を可能にする熟議のプロセスが要請されるからである。

ヒースは啓蒙思想のバージョンアップの鍵として、「理性/直感」の統合とともに「個人/社会」「自/他」「公/私」の対立の克服にも重きを置く。本書では特に名前は出していないが、師であるユルゲン・ハーバーマスと、日本で長く広く受容されている政治哲学者ハンナ・アーレントの伝統につらなる立ち位置だ。

20世紀の偉大な先人たちが提示した概念──「公共圏」、理性の公共的使用、政治と「公的領域」、「人間の条件」の改善など──に依拠しつつ、人間が生物学的な限界を超えて協力しあえる世界、文明の衰退に歯止めをかけ、自分たちの世代だけではなく未来の子孫の時代にも生きとし生けるものが豊かさを享受できる、そんな世界の構築に資する哲学をめざしている。

この新たな世界観は、閉塞した政治、新型コロナウイルスの蔓延をはじめ、想定外の事態に襲われつづけカオス化した社会に倦み疲れた日本の読者にも、きっとイタ気持ちよい刺激となり、議論の材料となり、確固とした力となるだろう。

改めて、著者について。

ジョセフ・ヒース( http://homes.chass.utoronto.ca/~jheath/ )は1967年、カナダ生まれ。トロント大学の教授(哲学・公共政策・ガバナンス)を務めている。学術書から一般書まで幅広い著作で知られ、学術書の主著として『ルールに従う 社会科学の規範理論序説』(瀧澤弘和訳、NTT出版)がある。

一般書では、カウンターカルチャーの総括から人々の協力できる制度・ルールの設計を求めていく『反逆の神話 カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』(前出、共著)と右派の保守、リバタリアンから、左派の革新、リベラルまでを批判した経済学の入門書『資本主義が嫌いな人のための経済学』(ともに栗原百代訳、NTT出版)がある。前者は『反逆の神話〔新版〕 「反体制」はカネになる』として2021年10月に早川書房より文庫化された。ぜひ本書とあわせてお読みいただきたい。

紹介した書籍の詳細は▶︎こちら


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