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ヴァージニア・ウルフ「病気になるということ」新訳公開予定

(※編集部後注 4月27日に本文と訳者解説を公開しました)

早川書房は、20世紀を代表する作家ヴァージニア・ウルフが1926年に発表したエッセイ「病気になるということ(原題:On Being Ill)」の新訳を近日中に公開予定です。

約100年前、世界各国で大流行したというインフルエンザ。1918年から20年頃にかけては「スパニッシュ・インフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)」と呼ばれるインフルエンザが流行り、第一次世界大戦下のヨーロッパとアメリカを中心にパンデミックを引き起こしたといわれています。

ヴァージニア・ウルフもスパニッシュ・インフルエンザに罹患したと推測されています。彼女はその前後の数年のあいだに繰り返しインフルエンザにかかりました。1925年にまたもやインフルエンザにかかった際に、個人的な病気との向き合い方や、病気のときに読むべき本などをエッセイに記し、パンデミックの記憶もまだ新しい当時の人々に提示しました。

本エッセイは、いわゆるパンデミックの惨状を伝えるような文章ではありません。しかし、ヴァージニア・ウルフが生きた20世紀前半と、2020年の現代で、時代は異なるものの「文学と疫病」という大きなテーマで考えた時、新型コロナウイルス感染症の影響下にある日本に生きるわたしたちも、ウルフが考えたことに共鳴する部分があるのではないかと考え、新訳を公開することにいたしました。

 考えてみよう。病気とは誰でもかかりうるものである。魂にもたされる変化はとてつもない。健康の灯火が消えたときに見えてくる未発見の国々には驚くべきものがある。インフルエンザに少しやられただけで、魂の荒野と砂漠が見えてくる。少し熱が出ただけで、鮮やかな花々の咲き乱れる崖と芝生があらわになる。病気にやられると、私たちの内部に根を張る頑丈な樫の老樹たちが根こそぎ倒れてしまう。
(「病気になるということ」冒頭より引用。本文は現在校正中の翻訳をもとにしたものです。全文公開版では変更になる可能性があります)

翻訳は、『自分ひとりの部屋』『三ギニー』『幕間』『ある協会』など、数々のヴァージニア・ウルフ作品の翻訳を手掛けられている片山亜紀さんです。訳文に加え、訳者解説も公開予定です。また本エッセイは、5月25日発売予定のミステリマガジン7月号にも収録予定です。
(早川書房編集部)

著訳者紹介

ヴァージニア・ウルフ(1882−1941)

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イギリス・ロンドン生まれ。1915年、『船出』で小説家デビュー。主な小説に『ダロウェイ夫人』『灯台へ』『オーランドー』など。また『自分ひとりの部屋』『女性にとっての職業』といったエッセイ・評論などでも知られる。

片山亜紀(かたやま あき)

獨協大学外国語学部教授。イースト・アングリア大学大学院修了、博士(英文学)。イギリス小説、ジェンダー研究専攻。訳書にヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』『三ギニー』『幕間』『ある協会』など。


関連記事・書籍紹介

ウルフの時代から100年後、わたしたちは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という危機に直面しています。本作は、イタリアのベストセラー小説家パオロ・ジョルダーノが、2月末から3月初旬のあいだに、自らの隔離状態をつづったエッセイです。イタリアで感染が拡大していく中で、ジョルダーノは、人類がすべきだったことはなにか、これからすべきことはなにか、どう生きていくべきか――などについて思索を巡らせています。緊急事態宣言下を生きる日本のわたしたちにとっても、とても重要で時局性のある文章です。